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第四条:深追いはしない。
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「助かった……」
教会を全速力で離れ、大量のガソリンを燃やしながらその巨体で街中を疾走するハマーH1の後部座席で、満身創痍のハリーは心からの安堵の声を漏らしていた。
「しかしミリィ、何故俺たちの位置が分かった?」
理由の説明を求めるハリーに対し、しかしミリィは振り向かないまま、バック・ミラー越しに彼の姿をチラリと見ただけで「説明は後だよ、ハリー」と言うだけで、それに答えようとはしない。
「和葉が連れ去られた」と、運転席のシートへよじ登りながらハリーが言う。「追ってくれ、今ならまだ間に合う!」
「駄目だ」
しかし、ミリィはそれを拒んだ。街中を怪獣じみた勢いでハマーをカッ飛ばしながら、しかしミリィは向かう先に和葉を捉えてはいない。
「ふざけるなッ!」
「ふざけてなんかいないさ」
物凄い剣幕で叫ぶハリーに、しかしミリィは淡々とした調子で言い返す。
「俺は和葉を護らなきゃならん! 今ならまだ間に合う、"スタビリティ"の手に落ちる前に――――」
「ああもう、いい加減にしなよハリー!」
と、聞き分けの悪いハリーにいい加減イラッときたのか、ミリィは一度大きくハマーの車体を左右に強く揺さぶった。「うおっ」と苦悶の声と共に運転席のシートから剥がれ、ハリーが後部座席に転がる。
「ルール第四条、深追いはしない! ――――そうじゃなかったのか、ハリー・ムラサメ!?」
「それは、そうだが……!」
「今は、君の怪我を治療する方が優先だ! 分からない君じゃないだろう、自分の状態を!」
ひとしきり怒鳴り返した後で、ステアリングを握ったままのミリィはふぅ、と小さく深呼吸をして落ち着き。それからもう一度、今度は普段通りの冷静な声音で後ろのハリーに語り掛けた。
「…………それとも、その怪我でもまだ、君は戦おうとでもいうのかい?」
「必要ならば、俺は戦う……!」
「駄目だ」と、一蹴するミリィ。「どう見たってこれ以上は無理だ、一旦体勢を立て直す必要がある。今は、君を治療する方が先なんだ。分かってくれよ、ハリー・ムラサメ」
「っ……!」
淡々とした口調で、ぐうの音も出ないほどの正論を突き付けられてしまえば。何か言い返してやりたいハリーだったが、それ以上の反論をすることが出来なかった。
事実、ハリーの身体は既にボロボロだった。きっと致命傷は負っていないと信じたいが、何分怪我の半分以上が背中側のことで、自分でもよく分からない。どちらにせよこの状態で戦い続けるのは確かに無理というもので、一度どういう形であれ応急処置は必要だった。そういう意味で、ミリィの言うことは一から十まで正しかった。
正しかったが……。それでも、ハリーは煮え切らない思いだった。そして、自分の不甲斐なさに腹が立って仕方が無かった。
「ルール第二条、仕事は正確に、完璧に遂行せよ……っ!
――――何がルールだ、守れもしない癖に……畜生ッッ!!」
ガンッ、と無意識の内にドアの内張りを殴り付けるハリー。その気持ちは痛いほど分かってしまうだけに、ミリィは敢えてそんな彼に言葉を掛けるコトはしなかった。
「…………」
二人、無言のままでハマーは走り抜けていく。失意にして満身創痍のハリー・ムラサメを連れて、寂しげな夕焼けに包まれ始めた街の中を、ただひたすらに…………。
教会を全速力で離れ、大量のガソリンを燃やしながらその巨体で街中を疾走するハマーH1の後部座席で、満身創痍のハリーは心からの安堵の声を漏らしていた。
「しかしミリィ、何故俺たちの位置が分かった?」
理由の説明を求めるハリーに対し、しかしミリィは振り向かないまま、バック・ミラー越しに彼の姿をチラリと見ただけで「説明は後だよ、ハリー」と言うだけで、それに答えようとはしない。
「和葉が連れ去られた」と、運転席のシートへよじ登りながらハリーが言う。「追ってくれ、今ならまだ間に合う!」
「駄目だ」
しかし、ミリィはそれを拒んだ。街中を怪獣じみた勢いでハマーをカッ飛ばしながら、しかしミリィは向かう先に和葉を捉えてはいない。
「ふざけるなッ!」
「ふざけてなんかいないさ」
物凄い剣幕で叫ぶハリーに、しかしミリィは淡々とした調子で言い返す。
「俺は和葉を護らなきゃならん! 今ならまだ間に合う、"スタビリティ"の手に落ちる前に――――」
「ああもう、いい加減にしなよハリー!」
と、聞き分けの悪いハリーにいい加減イラッときたのか、ミリィは一度大きくハマーの車体を左右に強く揺さぶった。「うおっ」と苦悶の声と共に運転席のシートから剥がれ、ハリーが後部座席に転がる。
「ルール第四条、深追いはしない! ――――そうじゃなかったのか、ハリー・ムラサメ!?」
「それは、そうだが……!」
「今は、君の怪我を治療する方が優先だ! 分からない君じゃないだろう、自分の状態を!」
ひとしきり怒鳴り返した後で、ステアリングを握ったままのミリィはふぅ、と小さく深呼吸をして落ち着き。それからもう一度、今度は普段通りの冷静な声音で後ろのハリーに語り掛けた。
「…………それとも、その怪我でもまだ、君は戦おうとでもいうのかい?」
「必要ならば、俺は戦う……!」
「駄目だ」と、一蹴するミリィ。「どう見たってこれ以上は無理だ、一旦体勢を立て直す必要がある。今は、君を治療する方が先なんだ。分かってくれよ、ハリー・ムラサメ」
「っ……!」
淡々とした口調で、ぐうの音も出ないほどの正論を突き付けられてしまえば。何か言い返してやりたいハリーだったが、それ以上の反論をすることが出来なかった。
事実、ハリーの身体は既にボロボロだった。きっと致命傷は負っていないと信じたいが、何分怪我の半分以上が背中側のことで、自分でもよく分からない。どちらにせよこの状態で戦い続けるのは確かに無理というもので、一度どういう形であれ応急処置は必要だった。そういう意味で、ミリィの言うことは一から十まで正しかった。
正しかったが……。それでも、ハリーは煮え切らない思いだった。そして、自分の不甲斐なさに腹が立って仕方が無かった。
「ルール第二条、仕事は正確に、完璧に遂行せよ……っ!
――――何がルールだ、守れもしない癖に……畜生ッッ!!」
ガンッ、と無意識の内にドアの内張りを殴り付けるハリー。その気持ちは痛いほど分かってしまうだけに、ミリィは敢えてそんな彼に言葉を掛けるコトはしなかった。
「…………」
二人、無言のままでハマーは走り抜けていく。失意にして満身創痍のハリー・ムラサメを連れて、寂しげな夕焼けに包まれ始めた街の中を、ただひたすらに…………。
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