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第三条:依頼内容と逸脱する仕事はしない。
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物理室の窓から旧校舎の裏手に出て、和葉とハリーが学園の裏手へと向け敷地内を慎重に進む。目的は裏の茂みに隠した和葉のバイク・NSR250R。アレを此処からの脱出手段とする為の、二人は漸く折り返し地点といった具合だった。
「……気を付けろよ、そこら中敵だらけだ」
和葉に小声でそう呼びかけるハリーは既に彼女の手を握っておらず、代わりに両手でスターム・ルガーSR9自動拳銃を二挺拳銃の格好で携えていた。予備弾倉も無く、既に旧校舎での戦いで片側二発の計四発を消費しているから残弾の方は心許ないが、無いよりは何千倍もマシだ。
「で、此処からバイクまでの距離は?」
「……まだ、もう少しあるわ」と、和葉。「一番近いのは、プールをもう少し越えた辺り」
「了解だ」
それに頷き、ハリーは隠れていた物陰から立ち上がり、和葉を連れて慎重に歩き出す。
日陰になった旧校舎の裏を抜け、学園の裏門の前を通る。一応美代学園にはこうして小振りな裏門がアリはするものの、専ら非常用で普段は閉鎖されているのだ。
そうして裏門の前を通り過ぎ、グラウンドの方へと抜けようとした時――――事態が、急変した。
「和葉、来いっ!」
一瞬見上げ、すると突然顔を青ざめたハリーに拳銃を握ったままな右手で和葉が強引に腕を引かれ。それに彼女が「えっ?」と戸惑いの声を漏らすより早く、甲高い音と共にハリーたちのすぐ足元にあるアスファルトが抉れ飛んだ。
「えっ、ちょっ、何っ!?」
「狙撃だ!」
戸惑う和葉の身体を右腕で胸元に抱き寄せつつ、怒鳴りながらでハリーが斜め上方に向けて左手のスターム・ルガーSR9拳銃を三度、発砲する。驚いた和葉が咄嗟にそちらの方に視線を向けると、丁度旧校舎の屋上でバタリ、と人影が倒れる光景が眼に飛び込んできた。
「敵のスナイパーだ、もう心配は要らないがな」
「えっ、この距離で当てたの?」
涼しい顔で言うハリーに困惑しながら和葉が訊けば、ハリーはやはりクールな顔で「ああ」と頷く。
「……うっそ、貴方ってホントに凄かったのね」
「練習の賜物だ」
ハリーはそう言うが、此処から見える敵スナイパーのシルエットは小指の先ぐらいの大きさしか無かった。それを咄嗟の反撃で撃ち倒すことが人間業じゃないぐらい、ズブの素人な和葉にだって分かる。
「だが、これで場所は割れた。すぐに敵が大挙してやって来る」
「ちょ、ならどうすんのよ」
「三十六計逃げるに如かず、だ。……行こう、時間が惜しい」
フッと左手のSR9の銃口から漂う白煙を吹き消した後で、再びハリーは和葉を連れて走り出した。
しかし、それから間も無くして敵の気配が大挙して背後から押し寄せてくる。ハリーはそれに「チッ」と舌を打ちながら、和葉を背後に回し応戦を開始する。
「ハリー!?」
「いいから、君は走り続けろ!」
両手のスターム・ルガーSR9を撃ちまくりながら、和葉を守るように走るハリー。だが幾ら撃とうが、弾は有限だ。いずれ弾が切れれば、ハリーは小さな舌打ちと共にSR9を潔く投げ捨てる。
「これ以上、構ってる暇は――――」
そして、空いた左手で最後の一個となった破片手榴弾を懐から引っ張り出し、
「――――無いんだよ!」
安全ピンとレヴァーを外したそれを、後方に向かって思い切り投げ飛ばした。
野球ボールのように緩やかな弧を描いて飛ぶ手榴弾は、トントンと何度かバウンドしてからグラウンドの砂地の上を転がり。そして、安全ピンを抜いてから五秒キッカリで爆発する。
ハリーと和葉の後方で盛大な爆炎と砂埃が舞い上がる。それに敵が怯んだ隙に、ハリーは和葉の手を引いて全速力で走り出した。
「急げ、これがきっと最後のチャンスだ!」
「ああもう、分かってるわよ!」
虎の子のUSPコンパクト自動拳銃を右腰から抜きつつ、左手は和葉の手を引いてハリーが走る。全速力で、一目散に。
「っ……!」
そして、屋内プールの裏手に差し掛かった辺り。一歩そこに踏み込むと、ハリーは動物的な第六感で気配を感じ、唐突に背後へ振り返った。
「和葉っ!!」
手を引いていた左手で和葉を強引に抱き寄せながら、片腕だけでUSPコンパクトを撃ちまくる。
しかし、そこに敵の姿は既に無く。9mmパラベラムのジャケッテッド・ホロー・ポイント弾が空を切る中、ただ屋内プールの陰に隠れていく人影の残滓だけがハリーの視界に捉えられていた。少女のような小さな体躯をした影の、透き通るすみれ色をした短い髪を……。
「……クララ!?」
その小柄すぎる体躯に、すみれ色の髪。そして一瞬だけ見えたあのあどけなくも何処か氷鉄のような雰囲気を漂わせるクールな横顔を、ハリーは知っていた。いや……知りすぎていた。
「何、今の娘って知り合いなの!?」
すると、和葉もそれを見ていたらしく。興奮混じりながらかなり困惑した様子で、至近にあるハリーの顔を見上げながら問うてくる。
「ちょっとした、昔のな」
それにハリーはお茶を濁すような回答をとりあえずした後で、
「それより、急ぐぞ!」
そう言って、再び和葉の手を引いて走り出した。背後へ向けて、ダメ押しで何発かの牽制射撃を加えながら、急速にその場から離れていく。
「…………ハリー、ハリー・ムラサメ」
そんな後ろ姿を、少女みたいにあどけない、しかし濁り冷え切ったクールな瞳が遠く眺めているコトも知らずに。
「まさか、此処で君に逢えるとはね」
遠ざかっていく園崎和葉、そして彼女を連れるハリー・ムラサメの姿を、屋内プールの陰から遠くに眺めながら――――クララは独り、こっそりと微笑んでいた。
「……気を付けろよ、そこら中敵だらけだ」
和葉に小声でそう呼びかけるハリーは既に彼女の手を握っておらず、代わりに両手でスターム・ルガーSR9自動拳銃を二挺拳銃の格好で携えていた。予備弾倉も無く、既に旧校舎での戦いで片側二発の計四発を消費しているから残弾の方は心許ないが、無いよりは何千倍もマシだ。
「で、此処からバイクまでの距離は?」
「……まだ、もう少しあるわ」と、和葉。「一番近いのは、プールをもう少し越えた辺り」
「了解だ」
それに頷き、ハリーは隠れていた物陰から立ち上がり、和葉を連れて慎重に歩き出す。
日陰になった旧校舎の裏を抜け、学園の裏門の前を通る。一応美代学園にはこうして小振りな裏門がアリはするものの、専ら非常用で普段は閉鎖されているのだ。
そうして裏門の前を通り過ぎ、グラウンドの方へと抜けようとした時――――事態が、急変した。
「和葉、来いっ!」
一瞬見上げ、すると突然顔を青ざめたハリーに拳銃を握ったままな右手で和葉が強引に腕を引かれ。それに彼女が「えっ?」と戸惑いの声を漏らすより早く、甲高い音と共にハリーたちのすぐ足元にあるアスファルトが抉れ飛んだ。
「えっ、ちょっ、何っ!?」
「狙撃だ!」
戸惑う和葉の身体を右腕で胸元に抱き寄せつつ、怒鳴りながらでハリーが斜め上方に向けて左手のスターム・ルガーSR9拳銃を三度、発砲する。驚いた和葉が咄嗟にそちらの方に視線を向けると、丁度旧校舎の屋上でバタリ、と人影が倒れる光景が眼に飛び込んできた。
「敵のスナイパーだ、もう心配は要らないがな」
「えっ、この距離で当てたの?」
涼しい顔で言うハリーに困惑しながら和葉が訊けば、ハリーはやはりクールな顔で「ああ」と頷く。
「……うっそ、貴方ってホントに凄かったのね」
「練習の賜物だ」
ハリーはそう言うが、此処から見える敵スナイパーのシルエットは小指の先ぐらいの大きさしか無かった。それを咄嗟の反撃で撃ち倒すことが人間業じゃないぐらい、ズブの素人な和葉にだって分かる。
「だが、これで場所は割れた。すぐに敵が大挙してやって来る」
「ちょ、ならどうすんのよ」
「三十六計逃げるに如かず、だ。……行こう、時間が惜しい」
フッと左手のSR9の銃口から漂う白煙を吹き消した後で、再びハリーは和葉を連れて走り出した。
しかし、それから間も無くして敵の気配が大挙して背後から押し寄せてくる。ハリーはそれに「チッ」と舌を打ちながら、和葉を背後に回し応戦を開始する。
「ハリー!?」
「いいから、君は走り続けろ!」
両手のスターム・ルガーSR9を撃ちまくりながら、和葉を守るように走るハリー。だが幾ら撃とうが、弾は有限だ。いずれ弾が切れれば、ハリーは小さな舌打ちと共にSR9を潔く投げ捨てる。
「これ以上、構ってる暇は――――」
そして、空いた左手で最後の一個となった破片手榴弾を懐から引っ張り出し、
「――――無いんだよ!」
安全ピンとレヴァーを外したそれを、後方に向かって思い切り投げ飛ばした。
野球ボールのように緩やかな弧を描いて飛ぶ手榴弾は、トントンと何度かバウンドしてからグラウンドの砂地の上を転がり。そして、安全ピンを抜いてから五秒キッカリで爆発する。
ハリーと和葉の後方で盛大な爆炎と砂埃が舞い上がる。それに敵が怯んだ隙に、ハリーは和葉の手を引いて全速力で走り出した。
「急げ、これがきっと最後のチャンスだ!」
「ああもう、分かってるわよ!」
虎の子のUSPコンパクト自動拳銃を右腰から抜きつつ、左手は和葉の手を引いてハリーが走る。全速力で、一目散に。
「っ……!」
そして、屋内プールの裏手に差し掛かった辺り。一歩そこに踏み込むと、ハリーは動物的な第六感で気配を感じ、唐突に背後へ振り返った。
「和葉っ!!」
手を引いていた左手で和葉を強引に抱き寄せながら、片腕だけでUSPコンパクトを撃ちまくる。
しかし、そこに敵の姿は既に無く。9mmパラベラムのジャケッテッド・ホロー・ポイント弾が空を切る中、ただ屋内プールの陰に隠れていく人影の残滓だけがハリーの視界に捉えられていた。少女のような小さな体躯をした影の、透き通るすみれ色をした短い髪を……。
「……クララ!?」
その小柄すぎる体躯に、すみれ色の髪。そして一瞬だけ見えたあのあどけなくも何処か氷鉄のような雰囲気を漂わせるクールな横顔を、ハリーは知っていた。いや……知りすぎていた。
「何、今の娘って知り合いなの!?」
すると、和葉もそれを見ていたらしく。興奮混じりながらかなり困惑した様子で、至近にあるハリーの顔を見上げながら問うてくる。
「ちょっとした、昔のな」
それにハリーはお茶を濁すような回答をとりあえずした後で、
「それより、急ぐぞ!」
そう言って、再び和葉の手を引いて走り出した。背後へ向けて、ダメ押しで何発かの牽制射撃を加えながら、急速にその場から離れていく。
「…………ハリー、ハリー・ムラサメ」
そんな後ろ姿を、少女みたいにあどけない、しかし濁り冷え切ったクールな瞳が遠く眺めているコトも知らずに。
「まさか、此処で君に逢えるとはね」
遠ざかっていく園崎和葉、そして彼女を連れるハリー・ムラサメの姿を、屋内プールの陰から遠くに眺めながら――――クララは独り、こっそりと微笑んでいた。
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