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第二条:仕事は正確に、完璧に遂行せよ。
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週末が通り過ぎ、訪れるのは月曜日。気怠い一週間がまた始まることへのちょっとした憂鬱さを感じつつ和葉がマンションの正面エントランスを通り抜けて外に出ると、やはり今日もハリー・ムラサメがいつもの黒いインプレッサと共にマンションの目の前で和葉を待ち構えていた。
「……そろそろ、俺の言うことを聞いてくれ」
そんなハリーに和葉が何か皮肉の一つでも言ってやろうと口を開きかけた矢先、しかし先に言葉を発したのは、珍しくハリーの方からだった。
いつにも増してシリアスな顔色で言うハリーの表情に一抹の怪訝さを感じつつ、ぽかんと立ち止まった和葉が首を傾げていると。ハリーは腕組みをしインプレッサに寄りかかったままの格好で小さな溜息をつき、そして言葉を続ける。
「真面目な話、本当に君の身が危なくなってきた」
ハリーが割と真剣な語気でそう言うのは、週末にミリィ・レイスから聞かされた一件――――防衛事務次官・園崎雄一の拉致に国際的な巨大犯罪シンジケート"スタビリティ"が関わっているかもしれないという話があったからに他ならなかった。
"スタビリティ"は、相手にするにはあまりに強大すぎる敵だ。それでも嘗て西海岸で短期間の内に伝説を築き上げた幻の殺し屋、ハリー・ムラサメなら何とか出来る自信はあったが、しかし今までのように和葉に好き勝手動かれていては、護るモノも護れなくなってしまう。
そんな危機感があったからこその進言だったが、しかし和葉は案の定というべきか、真剣な眼差しでのハリーの言葉をまるで意に返さず。ただ一言「そう」と素っ気ない態度で返すのみで、そのままスタスタと駐車場の方に歩いて行ってしまう。
「俺は君を護らなくちゃいけない。頼むから俺の指示に従ってくれ、園崎和葉」
「従え、って言われてもねえ……」
「分かってくれ。君に好き放題動かれては、幾ら俺でも対処のしようが無いことだってある」
しかし、和葉はそれを無視し。カヴァーを外したNSR250Rに跨がると、キック・スターターを蹴り飛ばしエンジンを掛けてしまう。
「余計なお世話よ」
と、やはり素っ気ない態度で和葉が言う。言いながら、暖気を待ちつついつものフルフェイス・ヘルメットを蒼い髪を掻き分けながら和葉が被る。
「いい加減、諦めたらどうかしら?」
突き放すみたいに棘のある語気でハリーに向かい最後に和葉はそう言うと、片手でヘルメットのバイザーを雑に下ろし。そしていつものように物凄い勢いでNSRを発進させ、何もかもを振り払うみたいな恐ろしい加速に身を任せて、跨がるNSRと共に和葉はハリーの前からあっという間に走り去っていってしまった。
(もし本当に、あの"スタビリティ"が関わっているとしたら)
遠ざかっていくNSRの軽快なエグゾースト・ノートを聞きながら、漂う250cc二ストローク・エンジンの不完全燃焼が生む二ストローク特有の焦げたようなガソリン臭の残り香に鼻腔をくすぐられながら。独り立ち尽くすハリーは、胸の奥を焦がすような僅かな焦燥感に駆られていた。
(もし本当に、"スタビリティ"が園崎和葉の身を狙っているのだとしたら)
――――彼女の身が、危ない。
「……そろそろ、俺の言うことを聞いてくれ」
そんなハリーに和葉が何か皮肉の一つでも言ってやろうと口を開きかけた矢先、しかし先に言葉を発したのは、珍しくハリーの方からだった。
いつにも増してシリアスな顔色で言うハリーの表情に一抹の怪訝さを感じつつ、ぽかんと立ち止まった和葉が首を傾げていると。ハリーは腕組みをしインプレッサに寄りかかったままの格好で小さな溜息をつき、そして言葉を続ける。
「真面目な話、本当に君の身が危なくなってきた」
ハリーが割と真剣な語気でそう言うのは、週末にミリィ・レイスから聞かされた一件――――防衛事務次官・園崎雄一の拉致に国際的な巨大犯罪シンジケート"スタビリティ"が関わっているかもしれないという話があったからに他ならなかった。
"スタビリティ"は、相手にするにはあまりに強大すぎる敵だ。それでも嘗て西海岸で短期間の内に伝説を築き上げた幻の殺し屋、ハリー・ムラサメなら何とか出来る自信はあったが、しかし今までのように和葉に好き勝手動かれていては、護るモノも護れなくなってしまう。
そんな危機感があったからこその進言だったが、しかし和葉は案の定というべきか、真剣な眼差しでのハリーの言葉をまるで意に返さず。ただ一言「そう」と素っ気ない態度で返すのみで、そのままスタスタと駐車場の方に歩いて行ってしまう。
「俺は君を護らなくちゃいけない。頼むから俺の指示に従ってくれ、園崎和葉」
「従え、って言われてもねえ……」
「分かってくれ。君に好き放題動かれては、幾ら俺でも対処のしようが無いことだってある」
しかし、和葉はそれを無視し。カヴァーを外したNSR250Rに跨がると、キック・スターターを蹴り飛ばしエンジンを掛けてしまう。
「余計なお世話よ」
と、やはり素っ気ない態度で和葉が言う。言いながら、暖気を待ちつついつものフルフェイス・ヘルメットを蒼い髪を掻き分けながら和葉が被る。
「いい加減、諦めたらどうかしら?」
突き放すみたいに棘のある語気でハリーに向かい最後に和葉はそう言うと、片手でヘルメットのバイザーを雑に下ろし。そしていつものように物凄い勢いでNSRを発進させ、何もかもを振り払うみたいな恐ろしい加速に身を任せて、跨がるNSRと共に和葉はハリーの前からあっという間に走り去っていってしまった。
(もし本当に、あの"スタビリティ"が関わっているとしたら)
遠ざかっていくNSRの軽快なエグゾースト・ノートを聞きながら、漂う250cc二ストローク・エンジンの不完全燃焼が生む二ストローク特有の焦げたようなガソリン臭の残り香に鼻腔をくすぐられながら。独り立ち尽くすハリーは、胸の奥を焦がすような僅かな焦燥感に駆られていた。
(もし本当に、"スタビリティ"が園崎和葉の身を狙っているのだとしたら)
――――彼女の身が、危ない。
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