SIX RULES

黒陽 光

文字の大きさ
上 下
9 / 108
第一条:時間厳守。

/8

しおりを挟む
 そして半日が過ぎ、夕暮れ時。放課後が訪れれば、和葉は当然のように帰り路を急ごうとする。部活の類に所属していない和葉にとって、放課後の訪れは即ち帰宅の合図に等しかった。
「でさー、この間なんだけど……」
「朱音、それホントなの?」
「ホントにホント。信じられないでしょ?」
「悪い冗談にしか聞こえないわ、そんなの」
 同じく部活なんかやっていない朱音と横並びに他愛のない話を交わしながら、和葉が校門の外へ向かって歩いて行く。朝とは逆に、学園を出て行く和葉の心持ちは実に晴れやかだった。
「……やっと出てきたか」
 そんな、外に向かって歩いて来る二人を遠巻きに眺める人影がひとつ。校門のすぐ傍に停められた黒いインプレッサに寄りかかりながら、ハリーが腕組みをして彼女の到着を待っていた。
「げっ……」
 と、そうした時に和葉も、校門の外で待ち構える黒いインプレッサとハリーの姿に気づき。そうすれば、和葉は思わず露骨に嫌そうな声を上げてしまう。
 そんな和葉と眼が合えば、ハリーはスッと手を挙げて無言のままに彼女へ軽く挨拶をしてみせた。
「あー、何よぉ和葉ぁ。アレ、もしかして和葉の彼氏さんだったりぃー?」
 余計なコトを、と和葉がハリーを視線だけで威嚇する傍ら、この好機逃さずといわんばかりに朱音が物凄くニヤニヤとした顔を浮かべながら、疑念の視線を和葉の横顔に突き刺してくる。
「違うわよ、ンなワケないでしょうが」
 そんな朱音に物凄くぶっきらぼうな態度で断言し返しながら、和葉は朱音を置いてスタスタと早足で校門を潜り、そのままハリーの横を素通りして行ってしまう。
「ありゃー……?」
 独り残された朱音は、ぽかんとした様子で立ち尽くしていて。そしてハリーは「困ったもんだ……」と辟易したような独り言を呟きながら、そんな朱音に軽く手振りで挨拶をしつつ、さっさと歩いて行ってしまった和葉の後を追い掛ける。
 早足で歩いて行く和葉と、それを後から追い掛けるハリー。そのまま和葉に付き従う形で学園の裏手の方まで回ってしまい、ともすれば和葉が唐突に茂みの中に飛び込んだものだから、ハリーが怪訝そうな顔でそちらへと視線を向けた。
「バイトの次はバイク通学か、校則違反が尽きないな」
 ともすれば、そこには朝に見たNSR250Rが巧妙に隠されていたものだから、ハリーは呆れた顔で皮肉っぽく和葉に言ってやった。
「貴方には関係ないでしょ、ハリー・ムラサメ」
 和葉はそれに素っ気ない態度で返しながら、跨がったNSRのキック・スターターを蹴り飛ばしエンジンを始動させ。そうして、疲れた顔をハリーと突き合わせながらでエンジンが暖まる暫しのときを待つ。
「大体、私はつまらない校則なんかよりも、私自身のルールに従いたいの。まあ、貴方みたいなクソ真面目な男には、分かりっこないでしょうけれど」
「いや、それに関しては俺も同意見だ」
「あら、意外ね?」
「俺にとっては俺自身の法が最優先で遵守すべきモノだからな、他人の決めた法に道徳はどうでもいい」
「それって、例の第何条って奴?」
「そうだ」と、首を傾げる和葉にハリーが頷いてやる。
「案外、私と貴方って気が合うのかもね」
 皮肉っぽく肩を竦めながら和葉は言うと、そろそろエンジンが暖まってきたことに気付いた。
「何にせよ、私は貴方の保護を受ける気は無いわ。ハリー・ムラサメ、悪いけど帰って頂戴」
 言いながら、和葉はフルフェイス・ヘルメットを被る。
「出来ない相談だ。君のパパさんが未だ行方知れずな以上、君にも危害が及ぶ可能性は十分に高い」
「考えすぎよ。きっと、そこいらで溺れてるんじゃない?」
「普通の人間ならそうかもだが、君のパパさんは仮にも現職の防衛事務次官だ。唐突に連絡を絶ったともなれば、よからぬ連中に何かされたと思って当然だ」
「とにかく、余計なお世話よ」
 そう言いながら、和葉はヘルメットのバイザーを下ろしてしまう。
「無駄足ご苦労様ね、でも私の気は変わらないから。それじゃあさようなら」
 和葉は茂みからNSRを引っ張り出し、そして公道へと乗り出す。軽くスロットルを吹かしそのまま飛び乗れば、和葉は物凄い勢いでNSRを走らせ始めてしまう。
「あっ、おい!」
 慌ててハリーが呼び止めようとするが、しかし弾丸のような物凄い加速でスッ飛んでいく和葉のNSRを止められるワケも無く。数秒後にその背中が完全に視界の中から消え失せれば、ハリーは朝と同じように肩を竦め、大きすぎる溜息をついた。
「予想以上に骨が折れそうだ、あのじゃじゃ馬娘の相手は」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...