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3.はじめてのかんきん-3
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コーヘイは手枷をはめられて両手が思うように使えないはずなのに、そんなことをちっとも感じさせない動きをする。
そういえばこの小屋にみんなで住んでいた頃、コーヘイはお風呂を準備する係だった。
「コーヘイ、待って! 疲れているでしょ。いいからあなたは休んでいて」
「マリエルが回復してくれたからもう平気だよ。それに水魔法も火魔法もマリエルは苦手じゃない」
「それはそうだけど……」
この世界に生まれた者は生まれた時から使える魔法が限られている。
しかし勇者はこの世界の者でないからか、ありとあらゆる魔法を使えた。
コーヘイが唯一使えないのは聖女のみが使えると言われている聖魔法で、病気や怪我を回復することができるのはマリエルだけだった。
アランやゴードンと違って戦闘なんてまったくできないマリエルが魔王討伐のパーティーに組み込まれたのも、コーヘイを回復させるためだ。
そしてマリエルは他の人が使えない聖魔法が使える代わりに、誰もが普通に使えるような初歩の魔法もすべて苦手だったのである。
「ごめんなさい、コーヘイ。私はコーヘイよりふたつも年上なのに、いつまでたっても役立たずね……」
「マリエルは役立たずなんかじゃないよ。マリエルがいなきゃ、僕は何回死んでいてもおかしくないんだから」
「コーヘイ……」
「それにごめんなさい、じゃなくて、ありがとうって言って笑ってもらえる方が僕は嬉しいな」
「……うん。ありがとう、コーヘイ」
マリエルが小さく微笑むと、コーヘイがお日さまのような笑顔を浮かべた。
(やっぱりコーヘイは優しいな……)
マリエルはコーヘイが勇者に選ばれたのは、その能力の高さだけが理由ではなく、きっとこの優しさのせいだろうと感じていた。
「さて、お風呂の準備できたよ」
バスタブにはコーヘイが水魔法と火魔法で作り出したたっぷりのお湯が張っている。
「マリエル、お先にどうぞ」
「あ、ううん。私はそこまで汚れてないからコーヘイが入って」
魔王城ではパーティーのみなにしっかりと守られていたので、コーヘイと違ってマリエルはほとんど汚れていなかった。
コーヘイがお風呂に入っている間に食事の準備でも……と出ていこうとすると、コーヘイに呼び止められた。
「待って、マリエル」
「なぁに?」
「あのさ……僕、これじゃ身体を洗えないんだけど」
コーヘイが手を持ち上げると手枷の鎖がジャラリと音を立てる。
「あ……」
確かに両手が使えないとなると、身体をうまく洗えないだろう。
オロオロと戸惑っているマリエルに、コーヘイがおそるおそる尋ねる。
「じゃあさ、マリエルも僕と一緒にお風呂に入って洗ってくれる?」
「え……! えぇっ!?」
お風呂場にマリエルの叫び声が響き渡った。
そういえばこの小屋にみんなで住んでいた頃、コーヘイはお風呂を準備する係だった。
「コーヘイ、待って! 疲れているでしょ。いいからあなたは休んでいて」
「マリエルが回復してくれたからもう平気だよ。それに水魔法も火魔法もマリエルは苦手じゃない」
「それはそうだけど……」
この世界に生まれた者は生まれた時から使える魔法が限られている。
しかし勇者はこの世界の者でないからか、ありとあらゆる魔法を使えた。
コーヘイが唯一使えないのは聖女のみが使えると言われている聖魔法で、病気や怪我を回復することができるのはマリエルだけだった。
アランやゴードンと違って戦闘なんてまったくできないマリエルが魔王討伐のパーティーに組み込まれたのも、コーヘイを回復させるためだ。
そしてマリエルは他の人が使えない聖魔法が使える代わりに、誰もが普通に使えるような初歩の魔法もすべて苦手だったのである。
「ごめんなさい、コーヘイ。私はコーヘイよりふたつも年上なのに、いつまでたっても役立たずね……」
「マリエルは役立たずなんかじゃないよ。マリエルがいなきゃ、僕は何回死んでいてもおかしくないんだから」
「コーヘイ……」
「それにごめんなさい、じゃなくて、ありがとうって言って笑ってもらえる方が僕は嬉しいな」
「……うん。ありがとう、コーヘイ」
マリエルが小さく微笑むと、コーヘイがお日さまのような笑顔を浮かべた。
(やっぱりコーヘイは優しいな……)
マリエルはコーヘイが勇者に選ばれたのは、その能力の高さだけが理由ではなく、きっとこの優しさのせいだろうと感じていた。
「さて、お風呂の準備できたよ」
バスタブにはコーヘイが水魔法と火魔法で作り出したたっぷりのお湯が張っている。
「マリエル、お先にどうぞ」
「あ、ううん。私はそこまで汚れてないからコーヘイが入って」
魔王城ではパーティーのみなにしっかりと守られていたので、コーヘイと違ってマリエルはほとんど汚れていなかった。
コーヘイがお風呂に入っている間に食事の準備でも……と出ていこうとすると、コーヘイに呼び止められた。
「待って、マリエル」
「なぁに?」
「あのさ……僕、これじゃ身体を洗えないんだけど」
コーヘイが手を持ち上げると手枷の鎖がジャラリと音を立てる。
「あ……」
確かに両手が使えないとなると、身体をうまく洗えないだろう。
オロオロと戸惑っているマリエルに、コーヘイがおそるおそる尋ねる。
「じゃあさ、マリエルも僕と一緒にお風呂に入って洗ってくれる?」
「え……! えぇっ!?」
お風呂場にマリエルの叫び声が響き渡った。
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