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7.おっとびっくり、崩れる山が
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ひとまず魔法省の前から走って離れたけれど、私の息が上がってしまったので足を止める。
「あの……私……エチ……と……話……したくて……」
息も切れ切れにそれだけ伝えると、エチルもうなずいてくれた。
「そうだな。とりあえずどこか人に話を聞かれない所で……」
さすが普段から鍛えているから、エチルは息が少しも乱れていない。
それにしても、これ以上誰かに何かを聞かれて噂をされるのは嫌なので、話を聞かれない所に行くというのは賛成だ。
ただお店で勝手に防音魔法をかけていい所なんて無いし、元々防音魔法がかけられているような所なんてお高いお店ぐらいだ。
あとはあの連れ込み宿も防音魔法はかけられているけれど、ちょっと今はそういう所に入れるような気分じゃない。
エチルも気まずいのか、頭をガリガリかいている。
「あのさ……俺の部屋でもいい? あそこなら好きに防音魔法をかけても大丈夫だから」
「うん」
近くにある騎士団寮に向かおうとして、エチルが一度足を止める。
「あの……ちょっと散らかっているけど、驚かないで欲しい」
「あ、うん。それはもちろん」
急に部屋にお邪魔することになったのだから、そんなきれいに片付いてなくても仕方ないだろう。
そうして着いた騎士団寮で、エチルの部屋のドアが開けられた瞬間、私は絶句してしまった。
「……!!」
それはちょっとをだいぶ超えるほど散らかっていて、床が見えないくらい物があふれ、何かの資料のような本やら紙の束やらが部屋中に散乱していた。
ベッドの上にも服や何かが色々乗っていて、唯一物が無さそうなのがソファの上の半分だけで、そこに毛布もかけられている。
(えっと……もしかして、いつもあそこで寝てるの?)
呆然と立ちすくむ私にエチルがあわてたように言い訳をする。
「散らかってるけど、ちゃんと毎日浄化魔法をかけてるし汚れてないから!」
「浄化魔法……」
「あ……」
その言葉を聞いて、目の前の惨状はひとまず置いておいて私は勢いよく頭を下げた。
「「ごめんなさい」」
「なんでエチルが謝るの?」
「なんでトワが謝るの?」
互いの声が重なり顔を見合わせる。
すると部屋のドアの前でのやり取りがうるさかったのか、他の部屋のドアが開いて中の人がこちらの様子を伺ってくる。
「トワ、とりあえず中に入って!」
エチルに促されるままあわてて部屋の中に入り、ドアを閉めてからエチルが防音魔法をかける。
それから気まずそうにソファを指差した。
「ごめん、トワ。あそこに座ってもらえる?」
「あ……うん」
落ちている物を踏まないようになんとか足の踏み場を探してソファの上に座る。
エチルも間をあけて隣に座るが、ソファの上にも物があって互いの身体がぴったりとくっついてしまった。
目の前には何がこんなに、と思うほどの物が広がっている。
まずは謝らないといけないし、色々と話さないといけないこともあるはずなのに、なんだかこの状況がおかしくて笑いが込み上げてきてしまう。
「ふ、ふふ……すごいね。エチルは片付けが苦手だったの?」
エチルが恥ずかしそうに頬を赤く染める。
「……うん。昔から掃除が苦手で。だから浄化魔法ばっかり上手くなっちゃって」
まさかエチルの浄化魔法の効き目が強いのに、こんな理由があるとは思わなかった。
勉強だって仕事だってなんだって完璧にこなしているのに。
「全然、知らなかった」
「トワにみっともないところを見せて嫌われたくないから隠してた」
そう言いながら狭いソファの上で大きな身体を縮こませているエチルを見ていたら、小さな頃に家の花瓶を割ってしまってバレないように必死に隠していたエチルの姿を思い出す。
(すごくカッコよくなったのに、こんな変わってないところもあったんだ)
その姿を見ているうちに、なんだか私の肩に入っていた力も自然と抜けてくる。
「なんだかエチルの完璧じゃないところを見て、少しホッとしちゃった……。あのね、私もエチルに嫌われたくなかったの」
そうして私は、ずっと浄化魔法が肌に合わなくて辛かったこと、それで体調を崩してしまったこと、だから治るまでHを控えたいこと、それらをようやくちゃんとエチルに告げることができた。
「ごめん」
私の話を黙って聞いていたエチルが顔色を青くして謝ってきたが、私は小さく首を横にふる。
「謝らないで。エチルに嫌われたくなくて勝手に我慢しておいて、それで一方的に文句を言うなんておかしいよね。私の方こそごめんなさい」
やっと私も気が楽になり、エチルに笑いかけることができた。
最近はずっと言いたいことが言えなくて、こんな風にエチルをまっすぐ見ることができなかった気がする。
そのままお互いに謝って、話し合って、誤解を解きあう。
すると、さっきのダイオウさんとのやり取りの話になって、あのさ……とエチルが尋ねてくる。
「覚えてる? 前もあんな風にトワが俺のことを守ってくれたよね」
「守った? 私がエチルを?」
鈍臭い私をエチルが守ってくれたことはあったはずだけど、その逆なんてあっただろうか。
「うん。高等教育校での最後の試験で、俺が初めてトワに勝って一番を取れたことあったでしょ」
「あぁ、あったね。そんなこと」
私はずっと勉強ぐらいしか取り柄がなかったけれど、実技や魔法の試験で常に一番だったエチルがとうとう勉強でも一番を取ってすごいと感心したものだった。
「あの時のこと覚えてる?」
「もちろん。エチルはなんでもできてすごいなって」
「トワらしいな」
私の答えを聞いてエチルが苦笑する。
「あの……私……エチ……と……話……したくて……」
息も切れ切れにそれだけ伝えると、エチルもうなずいてくれた。
「そうだな。とりあえずどこか人に話を聞かれない所で……」
さすが普段から鍛えているから、エチルは息が少しも乱れていない。
それにしても、これ以上誰かに何かを聞かれて噂をされるのは嫌なので、話を聞かれない所に行くというのは賛成だ。
ただお店で勝手に防音魔法をかけていい所なんて無いし、元々防音魔法がかけられているような所なんてお高いお店ぐらいだ。
あとはあの連れ込み宿も防音魔法はかけられているけれど、ちょっと今はそういう所に入れるような気分じゃない。
エチルも気まずいのか、頭をガリガリかいている。
「あのさ……俺の部屋でもいい? あそこなら好きに防音魔法をかけても大丈夫だから」
「うん」
近くにある騎士団寮に向かおうとして、エチルが一度足を止める。
「あの……ちょっと散らかっているけど、驚かないで欲しい」
「あ、うん。それはもちろん」
急に部屋にお邪魔することになったのだから、そんなきれいに片付いてなくても仕方ないだろう。
そうして着いた騎士団寮で、エチルの部屋のドアが開けられた瞬間、私は絶句してしまった。
「……!!」
それはちょっとをだいぶ超えるほど散らかっていて、床が見えないくらい物があふれ、何かの資料のような本やら紙の束やらが部屋中に散乱していた。
ベッドの上にも服や何かが色々乗っていて、唯一物が無さそうなのがソファの上の半分だけで、そこに毛布もかけられている。
(えっと……もしかして、いつもあそこで寝てるの?)
呆然と立ちすくむ私にエチルがあわてたように言い訳をする。
「散らかってるけど、ちゃんと毎日浄化魔法をかけてるし汚れてないから!」
「浄化魔法……」
「あ……」
その言葉を聞いて、目の前の惨状はひとまず置いておいて私は勢いよく頭を下げた。
「「ごめんなさい」」
「なんでエチルが謝るの?」
「なんでトワが謝るの?」
互いの声が重なり顔を見合わせる。
すると部屋のドアの前でのやり取りがうるさかったのか、他の部屋のドアが開いて中の人がこちらの様子を伺ってくる。
「トワ、とりあえず中に入って!」
エチルに促されるままあわてて部屋の中に入り、ドアを閉めてからエチルが防音魔法をかける。
それから気まずそうにソファを指差した。
「ごめん、トワ。あそこに座ってもらえる?」
「あ……うん」
落ちている物を踏まないようになんとか足の踏み場を探してソファの上に座る。
エチルも間をあけて隣に座るが、ソファの上にも物があって互いの身体がぴったりとくっついてしまった。
目の前には何がこんなに、と思うほどの物が広がっている。
まずは謝らないといけないし、色々と話さないといけないこともあるはずなのに、なんだかこの状況がおかしくて笑いが込み上げてきてしまう。
「ふ、ふふ……すごいね。エチルは片付けが苦手だったの?」
エチルが恥ずかしそうに頬を赤く染める。
「……うん。昔から掃除が苦手で。だから浄化魔法ばっかり上手くなっちゃって」
まさかエチルの浄化魔法の効き目が強いのに、こんな理由があるとは思わなかった。
勉強だって仕事だってなんだって完璧にこなしているのに。
「全然、知らなかった」
「トワにみっともないところを見せて嫌われたくないから隠してた」
そう言いながら狭いソファの上で大きな身体を縮こませているエチルを見ていたら、小さな頃に家の花瓶を割ってしまってバレないように必死に隠していたエチルの姿を思い出す。
(すごくカッコよくなったのに、こんな変わってないところもあったんだ)
その姿を見ているうちに、なんだか私の肩に入っていた力も自然と抜けてくる。
「なんだかエチルの完璧じゃないところを見て、少しホッとしちゃった……。あのね、私もエチルに嫌われたくなかったの」
そうして私は、ずっと浄化魔法が肌に合わなくて辛かったこと、それで体調を崩してしまったこと、だから治るまでHを控えたいこと、それらをようやくちゃんとエチルに告げることができた。
「ごめん」
私の話を黙って聞いていたエチルが顔色を青くして謝ってきたが、私は小さく首を横にふる。
「謝らないで。エチルに嫌われたくなくて勝手に我慢しておいて、それで一方的に文句を言うなんておかしいよね。私の方こそごめんなさい」
やっと私も気が楽になり、エチルに笑いかけることができた。
最近はずっと言いたいことが言えなくて、こんな風にエチルをまっすぐ見ることができなかった気がする。
そのままお互いに謝って、話し合って、誤解を解きあう。
すると、さっきのダイオウさんとのやり取りの話になって、あのさ……とエチルが尋ねてくる。
「覚えてる? 前もあんな風にトワが俺のことを守ってくれたよね」
「守った? 私がエチルを?」
鈍臭い私をエチルが守ってくれたことはあったはずだけど、その逆なんてあっただろうか。
「うん。高等教育校での最後の試験で、俺が初めてトワに勝って一番を取れたことあったでしょ」
「あぁ、あったね。そんなこと」
私はずっと勉強ぐらいしか取り柄がなかったけれど、実技や魔法の試験で常に一番だったエチルがとうとう勉強でも一番を取ってすごいと感心したものだった。
「あの時のこと覚えてる?」
「もちろん。エチルはなんでもできてすごいなって」
「トワらしいな」
私の答えを聞いてエチルが苦笑する。
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