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四章 青空と太陽

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 目が覚めるとソフィアはベッドにひとりだった。
 隣にあったはずの熱はとうに消えており、シーツは冷たくなっている。
 外はすっかり明るく、あれからずいぶんと寝てしまったようだ。

「う……身体が重い……」

 起きあがろうとして、ボスンとベッドに身体を沈める。
 身体が思うように動かせないのは慣れないことをしたせいだけではなく、魔女の力を使い過ぎたせいだろう。
 しかしその魔女の力ももうなく、いつも感じていた呪いや祝福の気配がいっさい感じられない。
 それは身体のどこかが欠けてしまったような喪失感があり少し寂しかったが、それでも胸に広がる幸福がソフィアを満たしてくれていた。

(レオルド様はまだ戻っていないのね……)

 寝転んだまま冷たくなったシーツをなでていると、目が覚めたことに気づいたメモリアが部屋を訪れた。

「ソフィア様、お目覚めですか?」

「メモリアさん。あの、ごめんなさい、いま、ちょっと動けなくて」

「まぁ。レオルド様は初めての方にずいぶんと無体を働きましたね」

「いえ、違うの。これは魔女の力を使い過ぎたせいで……!」

 レオルドに非難の目が向かないように、真っ赤になりながら必死に否定する。

(それにしても、メモリアさんも昨夜のことを知っているのね……)

 許されるならばレオルドにこの身を捧げたいと願ってから、そのための知識をメモリアに教えてもらってきた。
 それでも、昨晩ふたりが身体を重ねたことを知られてると思うと恥ずかしかった。
 しかしメモリアは特に気にするそぶりも見せず、侍女らに指示しながらソフィアの湯浴みや着替えを手伝い食事も運んできてくれた。

「レオルド様は急用があり、ただいま屋敷を留守にしております。ソフィア様にはこちらでゆっくり休んで待っていて欲しいそうです」

「そうですか……」

「ところでソフィア様。辺境伯が改めてご挨拶をしたいそうですが、こちらにお連れしても構いませんか?」

「は、はい! もちろんです」

 レオルドの祖父にあたる辺境伯とは、まだ衝立越しにしか会ったことがない。
 メモリアに案内されて部屋に入ってきた辺境伯は、年齢を感じさせないほどの立派な体躯をしていた。
 長年辺境の地を治めているだけあって、まとっている威圧感はレオルド以上かもしれない。

「ソフィアと申します。こんな所から失礼します」

 ベッドの上から深々と頭を下げる。
 昨日も魔女の力を使って動けないでいたソフィアの体調を慮って、部屋でゆっくり過ごせるように手配してくれた。
 それなのにレオルドと結ばれたことをきっと辺境伯も知っているのだと思うと、申し訳ないやら恥ずかしいやらでソフィアは顔を上げられなかった。

「いや、女性の部屋に立ち入る失礼をしているのはこちらの方だ。昔からレオルドがあなたのことばかり話していたから、ぜひ顔を見て挨拶させていただきたくわがままを言った。申し訳ない」

「いえ」

 衝立越しに聞いていた時も思ったが、低く落ち着いた声はレオルドが歳を取ったらこうなるのではと感じられて少し胸がときめいた。

「ソフィア様、顔を見せていただけますかな?」

「は、はい」

 辺境伯の声の中にソフィアに対する負の感情は感じられずホッとしながら顔を上げると、辺境伯は声だけでなく見た目もレオルドによく似ていた。
 白髪混じりの髭をたくわえ、きっちりと編まれた髪も、若い頃はレオルドと同じような鮮やかな金髪だったのだろう。

「あぁ、これは香水の絵によく似ている。ソフィア様はアレの作った香水をご存知ですかな?」

「はい、知っています」

「アレの記憶力もなかなかのものらしい」

 辺境伯がソフィアを見て目尻にシワを寄せて笑った。
 その愛情あふれる様子は、レオルドがソフィアに向ける視線を思い出させて、ようやくソフィアも緊張を解いて笑顔を見せた。

「残り数日ですが、気兼ねなくお過ごしください」

「はい。ありがとうございます」

 辺境伯はソフィアに礼をとって部屋から出て行った。
 残されたソフィアは、動かない身体で必死に頭を働かせる。
 残り数日――そう、ソフィアが王宮に戻らなければならない日はもう近い。
 いつまでも寝ているわけにはいかない、とソフィアはメモリアを呼んだ。
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