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三章 呪いと祝福
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ここ……は……どこ?
私……私は……。
頭の中にぼんやりともやがかかったまま目を開けると、洞窟の中でひとり横たわっている。
目を覚まそうと手のひらで顔を拭ってから、手に黒い手袋をしているのに気づいた。
……なぜ?
黒い手袋を見ると何か文字が書いてあるような気がするが掠れていてよく読めない。
黒い手袋をはずして捨てると、下から出てきたのは黒く染まった手だった。
黒い……手……変……ううん、変じゃない……?
黒く染まった手なんておかしいはずなのに、見覚えがあるような気がする。
起き上がって周りを見回すと、洞窟の天井の隙間から光が差し込みキラキラと光の粒が舞っていた。
「キレイ……」
光の粒に見惚れていると、頭の奥の方でチラチラと何かが光った。
その光の正体を知りたいのに頭の中の黒いもやが邪魔をして何も見えない。
もっと見たい。
あの美しい輝きをもっと。
頭の中のキラキラと光る物をもっとはっきり見たくて、目をつぶって集中するが黒いもやが邪魔をする。
頭の中でもやを払うようにしても、またすぐに黒いもやがかかった。
黒いもやが広がれば広がるほど、何もかもわからなくなっていって、心の中の不安な気持ちも膨らんでいく。
やめて……見たい、見たいの……。
そのうちモヤの向こうのキラキラと光る物が、少しずつその輝きを薄れさせた。
「嫌!!」
このままあの輝きを失いたくない。
「私の邪魔をしないで!!」
大きな叫び声をあげると光を遮るもやがサーっと引いていき、頭の中が一気に晴れわたる。
そしてもやの向こうで輝いていた光が、しっかりとその形を作り始めた。
それは昨夜、月の光を浴びて輝くレオルドの金の髪の光だった。
「レオルド様……っ!!」
レオルドの名を口にすると、頭の中のレオルドが甘い響きを込めてその名前を呼ぶ。
『ソフィア』
――そう、私の名はソフィア。
ソフィアが自分の名前を思い出すと同時に、頭の中に怒涛のようにレオルドの姿が浮かびあがった。
ソフィアの黒い手に口づけを落とす姿。
ソフィアを膝に乗せて笑っている姿。
熱情をたたえた赤い目でソフィアを見つめる姿。
ソフィアの頬に触れながら優しく目を細める姿。
暗い礼拝堂でソフィアを助けるために向かってくる姿。
腕の中に囲って赤い目で射抜くようにソフィアを見下ろす姿。
陽の光を浴びて鮮やかな金髪をたなびがせている姿。
そして美しい金の髪をきらめかせながら笑う、かわいらしい少年の姿もおぼろげに浮かび上がる。
ソフィアの目から涙がこぼれて頬を濡らした。
口の端を上げて笑って、強引で、自信家で、獲物を狙うような目が少しおそろしくて、大声で、でもソフィアに触れる手はいつだって優しい。
「レオルド様……レオルド様……ふっ……うっ……良かった……思い出せた……。ちゃんと思い出せた……。忘れなかった!」
心から愛しく想う人を忘れてしまいそうだったことに恐怖する。
なんて恐ろしい呪いだろうか。
でも忘れずにちゃんと思い出せた。
そのことに安堵の涙をこぼす。
(例えどんな呪いにかかろうと、私はレオルド様を決して忘れたりなんてしない)
ソフィアのことをずっと覚えていて、見つけてくれた人。
ソフィアでさえあきらめていた未来を、あきらめず願ってくれた人。
ソフィアに生きる意味を教えてくれた、誰よりも大切で特別な人。
頬を流れる涙を真っ黒に染まった手の甲でグイと拭い、ソフィアは顔をあげた。
「……レオルド様を探さないと」
落ちていた石を手に取り、それを思い切り地面に叩きつける。
そしてそのまま割れた石のかけらを拾って握りしめると、割れて尖った石の先端を黒い手のひらに向かって思いきり突き立てた。
私……私は……。
頭の中にぼんやりともやがかかったまま目を開けると、洞窟の中でひとり横たわっている。
目を覚まそうと手のひらで顔を拭ってから、手に黒い手袋をしているのに気づいた。
……なぜ?
黒い手袋を見ると何か文字が書いてあるような気がするが掠れていてよく読めない。
黒い手袋をはずして捨てると、下から出てきたのは黒く染まった手だった。
黒い……手……変……ううん、変じゃない……?
黒く染まった手なんておかしいはずなのに、見覚えがあるような気がする。
起き上がって周りを見回すと、洞窟の天井の隙間から光が差し込みキラキラと光の粒が舞っていた。
「キレイ……」
光の粒に見惚れていると、頭の奥の方でチラチラと何かが光った。
その光の正体を知りたいのに頭の中の黒いもやが邪魔をして何も見えない。
もっと見たい。
あの美しい輝きをもっと。
頭の中のキラキラと光る物をもっとはっきり見たくて、目をつぶって集中するが黒いもやが邪魔をする。
頭の中でもやを払うようにしても、またすぐに黒いもやがかかった。
黒いもやが広がれば広がるほど、何もかもわからなくなっていって、心の中の不安な気持ちも膨らんでいく。
やめて……見たい、見たいの……。
そのうちモヤの向こうのキラキラと光る物が、少しずつその輝きを薄れさせた。
「嫌!!」
このままあの輝きを失いたくない。
「私の邪魔をしないで!!」
大きな叫び声をあげると光を遮るもやがサーっと引いていき、頭の中が一気に晴れわたる。
そしてもやの向こうで輝いていた光が、しっかりとその形を作り始めた。
それは昨夜、月の光を浴びて輝くレオルドの金の髪の光だった。
「レオルド様……っ!!」
レオルドの名を口にすると、頭の中のレオルドが甘い響きを込めてその名前を呼ぶ。
『ソフィア』
――そう、私の名はソフィア。
ソフィアが自分の名前を思い出すと同時に、頭の中に怒涛のようにレオルドの姿が浮かびあがった。
ソフィアの黒い手に口づけを落とす姿。
ソフィアを膝に乗せて笑っている姿。
熱情をたたえた赤い目でソフィアを見つめる姿。
ソフィアの頬に触れながら優しく目を細める姿。
暗い礼拝堂でソフィアを助けるために向かってくる姿。
腕の中に囲って赤い目で射抜くようにソフィアを見下ろす姿。
陽の光を浴びて鮮やかな金髪をたなびがせている姿。
そして美しい金の髪をきらめかせながら笑う、かわいらしい少年の姿もおぼろげに浮かび上がる。
ソフィアの目から涙がこぼれて頬を濡らした。
口の端を上げて笑って、強引で、自信家で、獲物を狙うような目が少しおそろしくて、大声で、でもソフィアに触れる手はいつだって優しい。
「レオルド様……レオルド様……ふっ……うっ……良かった……思い出せた……。ちゃんと思い出せた……。忘れなかった!」
心から愛しく想う人を忘れてしまいそうだったことに恐怖する。
なんて恐ろしい呪いだろうか。
でも忘れずにちゃんと思い出せた。
そのことに安堵の涙をこぼす。
(例えどんな呪いにかかろうと、私はレオルド様を決して忘れたりなんてしない)
ソフィアのことをずっと覚えていて、見つけてくれた人。
ソフィアでさえあきらめていた未来を、あきらめず願ってくれた人。
ソフィアに生きる意味を教えてくれた、誰よりも大切で特別な人。
頬を流れる涙を真っ黒に染まった手の甲でグイと拭い、ソフィアは顔をあげた。
「……レオルド様を探さないと」
落ちていた石を手に取り、それを思い切り地面に叩きつける。
そしてそのまま割れた石のかけらを拾って握りしめると、割れて尖った石の先端を黒い手のひらに向かって思いきり突き立てた。
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