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四章 青空と太陽
4.謁見と褒美-1
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レオルドに準備しろと言われたけれど、王太子殿下の前に出られるような服など修道服しか持っていない。
とりあえず荷物に入れていた黒の修道服を取り出して、久しぶりに袖を通した。
あんなにずっとこの服を着て過ごしていたのに、今着るとなんだか少し窮屈に感じる。
着替えを終えたソフィアは、身を整えたレオルドと共に急いで応接間に向かった。
中に入ると辺境伯がカネスの相手をしていたが、レオルドとソフィアに気づくとすぐにその場を譲ってくれる。
ソフィアはカネスの顔を直接見るのはこれが初めてだったが、艶やかな銀の髪と鋭い目の雰囲気はルーパスによく似ていた。
気後れして足が震えそうになるところを、レオルドが手を引いてゆっくりとイスに座らせてくれる。
「ずいぶんと汚れていたようだな」
カネスの言葉は先ほどのレオルドの格好を見ての事だろう。
「少々大きな埃がこの身に降りかかってきたので払っておりました。カネス殿下には見苦しい格好をお見せして失礼しました」
レオルドが淀みなく答えると、応接間にピリと緊張した空気が走る。
「埃はすべて払えたのか?」
「えぇ。ひとつ残らず」
レオルドがきっぱりと言い切ると、カネスがわずかに眉をひそめて口を閉じた。
ここにきてようやく、これが父子の対面で、さらに王太子殿下の息子がもう一人の息子を殺そうとした話をしていると気づき、ソフィアの背筋に冷や汗が流れる。
(ルーパス殿下や反王政派の人たちが、レオルド様に刺客を送っていたことを、王太子殿下はご存知なのかしら?)
痛いほどの沈黙を破ったのはカネスの方だった。
「怪我がなくて何よりだ」
「ありがとうございます」
「さて、先ほどイムソリア辺境伯からお前を養子に迎えて後継ぎに据えたいとの話があった」
「はい。私もこの地とは何かと縁が深く、できればこのイムソリアの地からアロガンシア王国を支えたいと願っております」
「ふむ、せめて目の前から消えて安心できるようになるといいのだがな」
誰が安心するのかを考えると、それはずいぶん際どい会話に思えて、ソフィアはハラハラしながら二人の会話を見守った。
レオルドは口の端を上げて不敵な笑みを浮かべる。
「王宮で何かあれば、この私がいつでも剣を取って駆けつけましょう」
取りようによっては反乱の意志ありと取られかねないレオルドの発言に、ソフィアは息をのむ。
カネスが鋭い目つきでレオルドをにらみ、レオルドも負けじと強い眼差しでカネスを見返す。
この親子がこれまで一体どのような関係を築いていたのか、あらかじめ聞いておけば良かったとソフィアは身を細くしながら後悔していた。
王太子殿下がふっと緊張を解いた。
「頼りにしようではないか。では、そろそろ本題に入ろう」
カネスが後ろに控えていた人物にチラリと目をやった。
それはソフィアも王宮で何度か見たことのある聖官のひとりだった。
聖官の目にはソフィアが魔女の力を失っているのが見えているようで、すごい目でソフィアをにらんでくる。
萎縮するソフィアをレオルドが促した。
「ソフィア、アレを」
「は、はい」
ソフィアは、プリムラの呪いの依代になっていたネックレスを取り出して机の上にことりと置いた。
とりあえず荷物に入れていた黒の修道服を取り出して、久しぶりに袖を通した。
あんなにずっとこの服を着て過ごしていたのに、今着るとなんだか少し窮屈に感じる。
着替えを終えたソフィアは、身を整えたレオルドと共に急いで応接間に向かった。
中に入ると辺境伯がカネスの相手をしていたが、レオルドとソフィアに気づくとすぐにその場を譲ってくれる。
ソフィアはカネスの顔を直接見るのはこれが初めてだったが、艶やかな銀の髪と鋭い目の雰囲気はルーパスによく似ていた。
気後れして足が震えそうになるところを、レオルドが手を引いてゆっくりとイスに座らせてくれる。
「ずいぶんと汚れていたようだな」
カネスの言葉は先ほどのレオルドの格好を見ての事だろう。
「少々大きな埃がこの身に降りかかってきたので払っておりました。カネス殿下には見苦しい格好をお見せして失礼しました」
レオルドが淀みなく答えると、応接間にピリと緊張した空気が走る。
「埃はすべて払えたのか?」
「えぇ。ひとつ残らず」
レオルドがきっぱりと言い切ると、カネスがわずかに眉をひそめて口を閉じた。
ここにきてようやく、これが父子の対面で、さらに王太子殿下の息子がもう一人の息子を殺そうとした話をしていると気づき、ソフィアの背筋に冷や汗が流れる。
(ルーパス殿下や反王政派の人たちが、レオルド様に刺客を送っていたことを、王太子殿下はご存知なのかしら?)
痛いほどの沈黙を破ったのはカネスの方だった。
「怪我がなくて何よりだ」
「ありがとうございます」
「さて、先ほどイムソリア辺境伯からお前を養子に迎えて後継ぎに据えたいとの話があった」
「はい。私もこの地とは何かと縁が深く、できればこのイムソリアの地からアロガンシア王国を支えたいと願っております」
「ふむ、せめて目の前から消えて安心できるようになるといいのだがな」
誰が安心するのかを考えると、それはずいぶん際どい会話に思えて、ソフィアはハラハラしながら二人の会話を見守った。
レオルドは口の端を上げて不敵な笑みを浮かべる。
「王宮で何かあれば、この私がいつでも剣を取って駆けつけましょう」
取りようによっては反乱の意志ありと取られかねないレオルドの発言に、ソフィアは息をのむ。
カネスが鋭い目つきでレオルドをにらみ、レオルドも負けじと強い眼差しでカネスを見返す。
この親子がこれまで一体どのような関係を築いていたのか、あらかじめ聞いておけば良かったとソフィアは身を細くしながら後悔していた。
王太子殿下がふっと緊張を解いた。
「頼りにしようではないか。では、そろそろ本題に入ろう」
カネスが後ろに控えていた人物にチラリと目をやった。
それはソフィアも王宮で何度か見たことのある聖官のひとりだった。
聖官の目にはソフィアが魔女の力を失っているのが見えているようで、すごい目でソフィアをにらんでくる。
萎縮するソフィアをレオルドが促した。
「ソフィア、アレを」
「は、はい」
ソフィアは、プリムラの呪いの依代になっていたネックレスを取り出して机の上にことりと置いた。
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