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三章 呪いと祝福

10.交差する想いと忘却の……-1

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 ゲシリテはシワだらけの手で、ソフィアのまだらに染まった手をゆっくりとなで回した。

「ウィザ村ではゆっくり見ることができずわかりませんでしたが、ご自分に力を使ったのですね」

「あ、はい。あの、呪いを引き剥がす時に使いました」

 どうやらゲシリテは、ウィザ村の洞窟から出た後にもソフィアの呪いを見てくれていたようだ。
 自分に魔女の力を使ったかを問われ、プリムラの呪いにかかり何もかも忘れそうになった時に、無理矢理呪いを引き剥がしたことを思い出す。

「魔女は自分に力を使うと、力が暴走してしまいます。あなたが意識を失ったのは、おそらくそのせいでしょうな。さらに古の魔女の呪いをたくさん取り込んだせいか、あなた自身が依代の一部になっているようです」

「ゲシリテ、どうすればいい?」

「うぅむ、そうですねぇ」

 ゲシリテは焦点の合わない白く濁った目を宙に向けながら、そのまま考え込んだ。
 魔女の力の暴走と聞いて、ソフィアはひとつのことに思い当たる。

「……プリムラさんもそうだったのかも」

「ソフィア?」

「この石が昔のことを見せてくれたんです。プリムラさん――えっと、古の魔女も、呪いがあふれて止まらなくなっていました。あれはたぶん自分に忘却の呪いを向けてしまったせいで、魔力が暴走してしまったんじゃないかって。でも、本当は誰も呪いたくないと泣いていました」

 ソフィアは意識を失っていた間に見たもののことを話した。
 するとゲシリテが、ふぅむ、とつぶやきながらあごを撫でて考えこむ。

「古の魔女の誰も呪いたくないという願いを、かなえてあげようとなさったのですかな? おそらくあなたが依代からあふれる呪いをその身の内に抑え込んでいる限り、もうこれ以上忘却の呪いは増えないでしょう。このままなら、レオルド様の呪いも王家の呪いもそのうち消えるはずですよ」

「それは本当ですか?」

 ソフィアがレオルドの上から身を乗り出し、ゲシリテに尋ねる。

「えぇ。新しく呪いがかけられる事がなくなれば、今かけられている呪いも時間と共に薄くなり、いずれ必ず消えていきますからね」

「レオルド様、聞きましたか! 呪いが消えるって!!」

 レオルドの呪いが消えると聞いて、嬉しくて目を輝かせながらレオルドの方に向き直ると、なぜかレオルドは眉間に深くシワを寄せたひどくおそろしい顔をしていた。

「レオルド……様?」

「ソフィア」

 その声の響きは地を這うように低く、赤い目も炎をまとっているようにギラつき、とてつもない怒りをはらんでいるように見えた。
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