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三章 呪いと祝福

5.呪いと祝福-1

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 慣らすためだと言いながらソフィアに深く触れたあの夜以来、レオルドはどうやら我慢するのをすっかりやめてしまったようだった。
 ソフィアとの触れ合いをより密なものに変えて、髪に落とすだけだった口づけを頬や耳や首筋にも落とすようになり、膝の上に座らせる際もより身体を密着させる。
 置かれる手の位置も徐々に際どいところになっていき、ソフィアはそのたびに顔を真っ赤にしてレオルドに抗議しなければならなかった。

「レオルド様……あの、離れてください……」

「俺の呪いが強まっているらしいからな。互いに忘れないよう、もっとしっかり触れた方がいいと考えを改めた。ソフィアも好きなだけ俺に触れていいぞ?」

「そんなの無理です……」

 休憩のため馬から降りて膝の上に乗せようとしてくるレオルドの隙をついて、ソフィアはメモリアの後ろに隠れた。
 メモリアはソフィアを背後に守りながら、レオルドに冷たい視線を投げかける。

「だから、もう少しソフィア様のお気持ちをお考えくださいと申し上げましたのに」

「考えているつもりだが?」

 三人の不毛なやり取りを、リベルとオーブリーがなんとも言えない顔をして見ている。

「いやぁ、それにしてもあれだけイチャイチャしてんのにまだヤってないって、団長って実は不能だったりして」

「おい、リベル。聞こえてるぞ」

「あ、ヤベ」

 リベルが焦って口を押さえるがもう遅い。
 明け透けなリベルの言葉で、ソフィアは顔を真っ赤にさせて縮こまり、レオルドは怒りの炎で赤い目をゆらりと揺らす。
 無表情なはずのメモリアもリベルを軽蔑するようにながめた。

「リベルさんは、元聖官とは思えないほど低俗でいらっしゃいますね」

「だから聖官に向いてなかったんだって」

「きゃー! レオルド様、おやめください!」

 悲鳴をあげたソフィアの目線の先では、レオルドがすらりと剣を鞘から抜いている。

「止めるなソフィア。こいつは一度痛い目を見た方がいい」

「レオルド様、せめて素手にしましょう。さすがにリベルが死んでしまいます」

「オーブリー! 止めるならもっとしっかり止めて!」

 逃げるリベルとにらむレオルド、それをなだめるオーブリーの姿を、ソフィアはただオロオロと見ていることしかできなかった。
 結局すぐに捕まったリベルは、レオルドに思いきり頭を叩かれていた。

「皆さまそろってずいぶんと緊張感がないようで」

 休憩を終え森の中の細い道を馬で進めながら、メモリアがため息をついた。
 レオルドは気にするそぶりも見せず、口の端を上げて笑う。

「まぁ、行きはよっぽどのことが無い限り安全だからな」

「そうなのですか?」

「あぁ。だから追手どもも遠巻きに様子を伺っているだけで、はっきりとは手を出してこないだろう?」

「え! 追手がいるんですか?」

 リベルとオーブリーがときおり何者かとやり合っているような報告は聞いていたが、それは野盗や獣なのだと思っていた。
 まさか命を狙われるほどの危険が潜んでいると思わず、さっと血の気が引く。

「安心しろソフィア。この中で狙われるとしたら俺だ」

 レオルドは安心させるように、水色の髪に口づけを落とす。

「幸いソフィアは力のない魔女だと思われている。だから反王政派にしてみれば、王家の威信を削ぐであろう力のない陰嫁は歓迎こそすれ狙う理由がない。もちろん、ソフィアの真の力に気づいているルーパス派も狙わない」

「レオルド様が狙われていると聞いて、安心なんてできません」

「俺が狙われているのは昔からだ。むしろルーパス殿下は今すぐにでも俺を殺したいだろうが、俺が呪いを解く可能性があるから手を出せないでいる。今ごろ歯がゆく思っているのではないか?」

「そんな……」

 ソフィアが不安げにキョロキョロと周りに視線をさまよわせると、レオルドが身体を揺らして笑う。

「向こうが手を出せないうちに、少しずつ向こうの戦力を削ってやってるから安心しろ」

 ふとレオルドの傷だらけの身体を思い出す。
 おそらくレオルドは、これまでもずっと命を狙われてきたのだろう。
 こんな能天気に旅路を楽しんではいけなかったと、深く反省をする。

「何も知らずに浮かれて申し訳ありません」

「気にするな。ソフィアのことは俺が必ず護る。俺はソフィアの騎士だからな」

 レオルドは今度はソフィアのこめかみに、優しく口づけを落とした。

 結局、レオルドが言う通り危ないことは起こらぬまま、一行はイムソリアの領地に入ることができたのだった。
 最初の街に着くと、そこでは淡い金髪のほっそりとした美しい女性が出迎えてくれた。
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