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三章 呪いと祝福

3.知らない世界と様々な提案-1

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 これまでほとんど王宮の外に出てこなかったソフィアは、目に入るものすべてが新鮮だった。

「レオルド様、あれはなんですか?」

「あぁ、あれはな……」

 馬上から指をさして尋ねると、レオルドが嫌がることなくいくらでも付き合ってくれる。
 ときおり周囲では不穏な気配があったらしいが、ソフィアが気づくよりも早く白騎士のふたりが片付けていて、レオルドへの報告で初めて何かがあったのを知るくらいだった。
 浮かれてはいけないとわかっていながらも、ソフィアはこの旅路を楽しく感じていた。

 旅の合間にはオーブリーとリベルに少しずつ呪いを移していき、ソフィア自身の浄化の力と合わせて腕の黒い部分は今では肘と手首の真ん中あたりにまで減っている。
 もう少し浄化が進めばレオルドの呪いをソフィアの身に移せるだろう。
 そして呪いを移すかたわらで、ソフィアはリベルやオーブリーに様々な話を聞かせてもらった。

 リベルは元聖官なだけあって、三人の騎士の中で一番祝福に詳しかった。
 聖女と魔女が同じというだけあり、祝福と呪いも基本は同じもので、リベルが教えてくれることは呪いのことをよく知らないソフィアは驚くことばかりだ。

「祝福は想像力ですよ。ようは相手をどうしたいか」

「でも、呪いをかける想像をうまくできません」

 何度か想像してみたが、誰かを呪うことを想像するのは難しかった。

(だから私はできそこないなのかしら……)

 落ち込みうつむくソフィアを、レオルドが後ろから腰に手を回してすかさず抱きしめた。
 ソフィアは当たり前のようにレオルドの膝の上に座らされており、抵抗するのはとっくにあきらめている。

「ソフィアが他人を呪う姿なんて似合わない。そんなことできなくてもいい」

「ですが、魔女として少しでもレオルド様の力になりたいです」

 ソフィアが眉を下げながら肩を落とすと、レオルドの腕にさらに力が入り二人の身体が密着する。
 レオルドの熱い体温を背中に感じてソフィアの頬が赤く染まる。

「俺のためか? かわいいことを言う」

「レオルド様……」

 レオルドが腕の中の柔らかい水色の髪に何度も口づけを落とす。
 とろりと溶けた甘い視線と声色は、いつだってソフィアにだけ向けられるもので、腕の中でドギマギしてしまう。
 目の前ではリベルがまたわざとらしくエヘンエヘンと咳払いをしていた。

 一方、辺境イムソリア出身のオーブリーは一族から何人も優秀な魔女が出ている魔女の家系らしく、魔女の目の力が一番強かった。

「王宮に仕えるのは私が初めてです。我が一族の魔女はみなイムソリア辺境伯にお仕えしてきました」

「ではなぜオーブリーさんは王宮にいらしたんですか?」

「私の父も兄も騎士として辺境伯に仕えています。我が一族は辺境伯に代々とても良くしていただいているので、若様が王宮に仕えると知って一族の恩返しのためにお供として参りました」

「若様……?」

「その呼び名はやめろ」

 レオルドがソフィアの頭の上にアゴを乗せながら文句を言う。
 こんな獅子のような男を称して若様だなんて、なんとも似合わず不思議な気がする。

(でも私も昔は妖精みたいって思ったのよね)

 忘れてしまった記憶を探るようにレオルドの顔をこっそりとのぞき見るが、堂々としたその横顔はやはり若様も妖精もとても似合わない。

「イムソリア辺境伯はちゃんと面倒を見てくれる貴族様でうらやましいね」

 オーブリーの話を聞いていた、リベルが吐き捨てるように言った。
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