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三章 呪いと祝福
2.-3
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ふたりで手を繋ぎながら見つめ合っていると、リベルのエヘンエヘンと咳払いをする音が聞こえてきてあわててレオルドの手を離す。
「あ……すみません。あの、リベル様もオーブリー様もお身体に異変はありませんか?」
リベルは肩をすくめて、オーブリーは仰々しく首を縦に振って何も問題がないと示した。
「このくらいなら飯食って寝てりゃ治りますよ」
「そうですね。それからソフィア様。我々のことは呼び捨てで構いません」
「え、そんな……だって私はただの平民です。白騎士の皆さまを呼び捨てになんてできません」
「いいえ。ソフィア様は魔女でいらっしゃいます」
「聖女も魔女も、本来ならオレたちが仕える高貴なお方ですからね。そもそもソフィア様を呼び捨てにしてる団長がおかしいんですよ」
「そう……なんですか?」
「そうそう。だから俺のことはリベルって呼んでくださいな」
「え、あの」
するとすぐにソフィアの頭のすぐ上のあたりから、怒りを含んだ低い威圧感のある声が聞こえてくる。
「おい、リベル。調子に乗るなよ」
「おーこわ。でもオレが聖官のままだったら、団長は白騎士なんですからオレのことをリベル様って呼ばなきゃならなかったんですよ」
「ふん、誰がお前を様付けで呼ぶか」
レオルドが心底嫌そうな声を出し、そのあともソフィアの頭越しにポンポン会話が飛び交っていく。
早すぎる会話のテンポについていけなくて目を白黒させていたらレオルドが頭を優しくなでた。
「うるさくしてすまない」
「あ、いいえ、こんなにぎやかなの初めてで少し戸惑っただけです。あの、とても楽しいです」
「うわ、か~わい~」
「おい、リベル」
リベルの軽口に反応するレオルドの声に、なんだか殺気を感じるのは気のせいだろうか。
「だって聖女たちってチヤホヤされるのに慣れてて鼻持ちならないのばっかりだし、こういうの新鮮」
「いい加減にしろ、リベル。レオルド様がそろそろ本当に剣を抜くぞ」
「は~い」
オーブリーに止められてそそくさと離れていくリベルを見ながら、レオルドがいつの間にか剣に添えていた手を離した。
レオルドが口を歪めてソフィアを後ろから抱きしめる。
「ソフィア、俺のことも呼び捨てで構わないぞ?」
「そんな! 恐れ多くて無理です」
そんなこと想像しただけで恐れ多いし恥ずかしい。
ソフィアは顔は真っ赤にさせながらうつむいた。
そんな様子をながめながら、レオルドが膝を動かして催促するようにソフィアの身体を揺らす。
「俺がいいって言ってるんだから呼んでみろ。ほら」
「きゃ、レオルド様、やめてください」
すぐにメモリアの冷たい声が響いた、
「レオルド様、ソフィア様に嫌われても知りませんよ」
隙あらばソフィアにちょっかいをかけていちゃつこうとするレオルドを、三人が生あたたかい目で見てくるのが恥ずかしい。
「あ、あの、すみません」
「悪いのはレオルド様ですから」
「そうそう」
「おい、リベル。その口を塞いでやろうか」
「なんで俺だけ!?」
「日頃の行いだろう。大人しくレオルド様に切られていろ」
「そんなぁ~」
忘却の呪いのことも陰嫁のこともまだ何も解決していないし、この旅の先にはおそらく危険が待っているだろう。
それでもこうしたにぎやかな時間はソフィアにとって初めてのことで、なんだか心が浮き立つのを止められなかった。
「あ……すみません。あの、リベル様もオーブリー様もお身体に異変はありませんか?」
リベルは肩をすくめて、オーブリーは仰々しく首を縦に振って何も問題がないと示した。
「このくらいなら飯食って寝てりゃ治りますよ」
「そうですね。それからソフィア様。我々のことは呼び捨てで構いません」
「え、そんな……だって私はただの平民です。白騎士の皆さまを呼び捨てになんてできません」
「いいえ。ソフィア様は魔女でいらっしゃいます」
「聖女も魔女も、本来ならオレたちが仕える高貴なお方ですからね。そもそもソフィア様を呼び捨てにしてる団長がおかしいんですよ」
「そう……なんですか?」
「そうそう。だから俺のことはリベルって呼んでくださいな」
「え、あの」
するとすぐにソフィアの頭のすぐ上のあたりから、怒りを含んだ低い威圧感のある声が聞こえてくる。
「おい、リベル。調子に乗るなよ」
「おーこわ。でもオレが聖官のままだったら、団長は白騎士なんですからオレのことをリベル様って呼ばなきゃならなかったんですよ」
「ふん、誰がお前を様付けで呼ぶか」
レオルドが心底嫌そうな声を出し、そのあともソフィアの頭越しにポンポン会話が飛び交っていく。
早すぎる会話のテンポについていけなくて目を白黒させていたらレオルドが頭を優しくなでた。
「うるさくしてすまない」
「あ、いいえ、こんなにぎやかなの初めてで少し戸惑っただけです。あの、とても楽しいです」
「うわ、か~わい~」
「おい、リベル」
リベルの軽口に反応するレオルドの声に、なんだか殺気を感じるのは気のせいだろうか。
「だって聖女たちってチヤホヤされるのに慣れてて鼻持ちならないのばっかりだし、こういうの新鮮」
「いい加減にしろ、リベル。レオルド様がそろそろ本当に剣を抜くぞ」
「は~い」
オーブリーに止められてそそくさと離れていくリベルを見ながら、レオルドがいつの間にか剣に添えていた手を離した。
レオルドが口を歪めてソフィアを後ろから抱きしめる。
「ソフィア、俺のことも呼び捨てで構わないぞ?」
「そんな! 恐れ多くて無理です」
そんなこと想像しただけで恐れ多いし恥ずかしい。
ソフィアは顔は真っ赤にさせながらうつむいた。
そんな様子をながめながら、レオルドが膝を動かして催促するようにソフィアの身体を揺らす。
「俺がいいって言ってるんだから呼んでみろ。ほら」
「きゃ、レオルド様、やめてください」
すぐにメモリアの冷たい声が響いた、
「レオルド様、ソフィア様に嫌われても知りませんよ」
隙あらばソフィアにちょっかいをかけていちゃつこうとするレオルドを、三人が生あたたかい目で見てくるのが恥ずかしい。
「あ、あの、すみません」
「悪いのはレオルド様ですから」
「そうそう」
「おい、リベル。その口を塞いでやろうか」
「なんで俺だけ!?」
「日頃の行いだろう。大人しくレオルド様に切られていろ」
「そんなぁ~」
忘却の呪いのことも陰嫁のこともまだ何も解決していないし、この旅の先にはおそらく危険が待っているだろう。
それでもこうしたにぎやかな時間はソフィアにとって初めてのことで、なんだか心が浮き立つのを止められなかった。
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