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三章 呪いと祝福

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 レオルドに呪いを移した時のことを思い出しながら、オーブリーにも呪いを移そうと試みる。
 しかし反発するような手応えしかなく、うまくいかない。

「……やっぱり無理です」

 そもそも呪いを移すなんてするべきではないのでは、とオーブリーの手を離す。
 するとすぐそばでその様子をのぞき込んでいたリベルが片眉を上げた。

「ソフィア様、オーブリーは多少呪われても大丈夫ですよ」

「え?」

「どうしたリベル。何か気づいたのか?」

「あぁ、はい。オーブリーに呪いが移らないのは、ソフィア様がオーブリーに呪いが移ることを怖がってるからじゃないかなって」

「そんなこと関係があるんですか?」

「えぇ、もちろん。聖女の祝福ってけっこう本人の想いに左右されるんですよ。聖女が内心で嫌ってる相手だと祝福がかかりづらくなったりとかよく有りますよ。呪いも祝福も基本は同じもんでしょ」

 リベルが肩をすくめてへらりと笑う。

「団長に呪いが移りやすいのは、その呪いが本来王家の血筋にかけられたものだからで、オーブリーに呪いが移らないのはソフィア様がオーブリーに呪いを移したくないって思ってるからですよ。多分ね」

 オーブリーが背筋を伸ばし真面目な顔をしてソフィアに向き直る。

「ソフィア様、私は呪われても大丈夫です」

「そうそう、オーブリーなら殺しても死なないし」

「でも……」

 そう言われても、では呪いを移しましょうとすぐに気持ちを切り替えられない。
 ソフィアが迷っていると、口に人差し指を当てて考え込んでいたメモリアが何か思いついたようだ。

「ソフィア様。オーブリーさんは呪いをかけられたいんです」

「え? まさかそんな……」

 一体何を言い出すんだと皆が不審げな顔をしてメモリアを見つめる。

「オーブリーさんはこの大きな身体のせいで敵に見つかりやすい。だから少しでも目立たないようになりたいと考えています。そうですよね?」

「え? あ、あぁ、そうです。少しでも目立たなくなりたいと日頃から考えています」

 メモリアの意図を察して、オーブリーも大きくうなずく。
 そう言われれば、確かに騎士は目立たない方がいい時もあるかもしれないと思えてくる。
 オーブリーの大きな身体をながめていたら、なんだかできるような気がしてきて、ソフィアは改めてオーブリーの手を握った。

(オーブリー様が目立たなくなりますように……)

 そう願いながら呪いを移すように祈ったら、ほんの少しだけオーブリーに呪いが移る気配がした。

「あ、できた! できました!!」

「そうですね。呪いが移っています」

 オーブリーの声もわずかにはずむ。

「はは、すごい。メモリアちゃん面白いこと考えるね」

「メモリア、よくやった。それにしてもリベル、お前も案外役に立つな」

「案外ってのが気になりますが、これでも元聖官ですからね。祝福については一通り勉強してるんですよ。ってことで次はオレで。オレは女の子にモテてモテて仕方ないから目立たなくなりたいな!」

 オーブリーをどかしてリベルがソフィアの前に座って素手を差し出した。
 しかしそんな理由で……という想いがチラリと頭をよぎってしまうとうまく呪いを移せる気がしない。

「えっと……」

「いやでもホントに困ってるんだよ。白騎士だから女の子は寄ってくるけど、オレは追われるより追いたいタイプだしさ。気のない女の子に言い寄られるのも辛いよ?」

 リベルは大げさに眉を下げて、とても困っているんだという顔をする。

「そうですね。気のない方に言い寄られても迷惑なだけです」

 そんなリベルをメモリアが冷たい視線で見ている。
 ちらりとソフィアの脳裏にあの夜のルーパスの姿が浮かび、背筋が震えた。
 確かに一方的に暴力的で執着じみた想いを向けられるのは迷惑で恐ろしい。

(うん、できそう)

 リベルの手を取って祈ってみると、やはりほんの少しだけ呪いが移る気配がした。

「は……できた……!」

「よくやったソフィア。これをくり返せばソフィアの呪いの浄化も早まるだろう」

 レオルドがすぐにソフィアの黒く冷たい手を両手で包んでほほえむ。
 ソフィアは目をわずかに潤ませて、レオルドの熱い手をキュッと握りかえす。

「はい。そうすればレオルド様の呪いも浄化できるようになります」

「ソフィア……」

 ソフィアの一番の願いは、レオルドに移してしまった呪いを一日でも早く浄化することだった。
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