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三章 呪いと祝福
1.ふたりの白騎士と陰嫁婚姻の儀式-1
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ある日の早朝、まだ暗さの残る空の下、王宮の門の前にレオルドが二人の白騎士と共に立っていた。
立派な馬の背には旅の荷物がくくりつけてある。
メモリアに借りたズボンとシャツを着た旅装姿のソフィアと、ソフィアの準備を手伝っていたメモリアがレオルドらに合流した。
「レオルド様、お待たせしました」
「そういう格好も新鮮だな。よく似合っている」
「レオルド様こそいつもと格好が違いますね」
褒められたソフィアが頬を染めながらレオルドを見上げる。
レオルドが身につけているのはいつもの白騎士の騎士服によく似た形だが、色が黒い騎士服姿だった。
「俺はソフィアを護る黒騎士だからな。新しく作らせた」
白騎士の真っ白な騎士服もレオルドの金の髪によく似合っていたが、黒い騎士服はレオルドの厚い身体をさらに引き締めて立派に見せた。
また金の髪が黒い服に重なってそのきらびやかさを強調している。
ソフィアがレオルドの黒騎士姿に見惚れていると、白騎士の一人がレオルドの後ろからひょいと顔を出してその薄茶色の髪を揺らした。
「団長は自分で勝手に騎士服を作っといて、それを制服として認めさせちゃうんだから、ちゃっかりしてますよね。しかも金にあかせて白騎士よりいいもん作っちゃってまぁ」
レオルドより細身の騎士は垂れ目気味の緑の目の縁をさらに下げて、ニコニコとソフィアに笑いかける。
レオルドやメモリアのおかげで見られることにはだいぶ慣れてきたとはいえ、男の人にまっすぐ笑いかけられた経験などほとんどないので驚いて一歩身を引いてしまう。
「えっと、あの」
後ろから伸びてきた手が細身の騎士の襟元をつかんで、グイと後ろに引き戻した。
「リベル、ソフィア様を驚かせるな」
「グエッ。オーブリーやめろよ。首が締まる」
リベルの身を引いたもう一人の白騎士は、浅黒い肌に濃茶の髪、それに肩幅のしっかりした筋肉質の騎士だった。
レオルドと変わらない上背で、灰色の目は鋭い目つきをしていて少し怖い印象を与える。
「あ、あの、えっと」
「ソフィア、リベルとオーブリーだ。元々白騎士団では俺の下にいたが、このふたりが護衛としてついてきてくれる」
「よろしく~」
「よろしくお願いします」
大柄なオーブリーに半ば首を絞められながら、リベルがヒラヒラと手を振った。
言われてみれば確かに、よくレオルドと一緒にいるのを見かけた気がする。
「二人とも『魔女の目』の持ち主だ。呪いに耐性があるので今回の同行を頼んだ」
「魔女の目……」
魔女の目の持ち主はそれを隠すと聞いていたけれど、聞いてしまってもいいのだろうか。
困った顔でレオルドを見上げるとリベルが笑いながら答えた。
「オレは最初、聖官をしてたんだけど、こっちの方が向いてるってんで白騎士になった変わり種なんだ。オレが魔女の目持ちってことはみんな知ってるよ」
「私の目のことはこちらの騎士団では話しておりません。できれば内密にお願いします」
リベルとオーブリーが口々に説明する。
「オーブリーはイムソリアの出身で土地勘もある。腕が確かなので、エストーク侯爵家で身柄を預かっている。今は白騎士団で修行中の身だが、いずれイムソリアに戻って辺境の騎士団を引っ張っていくだろう」
「えっと、リベル様が元聖官で、オーブリー様は魔女の目のことは秘密でイムソリアの出身で……」
急に頭の中に入ってきた情報を整理しようとつぶやいていると、レオルドがソフィアの肩をポンと叩く。
肩にずしりと感じる手は相変わらず熱くて心地よい。
「これから旅の間にゆっくり覚えればいい」
「は、はい」
「そうそう。ソフィア様もメモリアちゃんもよろしくね」
ソフィアのそばに控えていたメモリアがいつもの無表情のまま冷たい視線でリベルをにらむと、リベルはそれに気づいているのかいないのかヘラヘラと笑っていた。
「リベル様、オーブリー様、ソフィアです。これからしばらくよろしくお願いします」
「では、この三人でソフィアの護衛をしつつウィザ村に向かうぞ」
レオルドがソフィアを自分の馬の背に乗せ、後ろにひらりと飛び乗った。
メモリアも自分の馬に乗り、一行はウィザ村に向けて出発した。
立派な馬の背には旅の荷物がくくりつけてある。
メモリアに借りたズボンとシャツを着た旅装姿のソフィアと、ソフィアの準備を手伝っていたメモリアがレオルドらに合流した。
「レオルド様、お待たせしました」
「そういう格好も新鮮だな。よく似合っている」
「レオルド様こそいつもと格好が違いますね」
褒められたソフィアが頬を染めながらレオルドを見上げる。
レオルドが身につけているのはいつもの白騎士の騎士服によく似た形だが、色が黒い騎士服姿だった。
「俺はソフィアを護る黒騎士だからな。新しく作らせた」
白騎士の真っ白な騎士服もレオルドの金の髪によく似合っていたが、黒い騎士服はレオルドの厚い身体をさらに引き締めて立派に見せた。
また金の髪が黒い服に重なってそのきらびやかさを強調している。
ソフィアがレオルドの黒騎士姿に見惚れていると、白騎士の一人がレオルドの後ろからひょいと顔を出してその薄茶色の髪を揺らした。
「団長は自分で勝手に騎士服を作っといて、それを制服として認めさせちゃうんだから、ちゃっかりしてますよね。しかも金にあかせて白騎士よりいいもん作っちゃってまぁ」
レオルドより細身の騎士は垂れ目気味の緑の目の縁をさらに下げて、ニコニコとソフィアに笑いかける。
レオルドやメモリアのおかげで見られることにはだいぶ慣れてきたとはいえ、男の人にまっすぐ笑いかけられた経験などほとんどないので驚いて一歩身を引いてしまう。
「えっと、あの」
後ろから伸びてきた手が細身の騎士の襟元をつかんで、グイと後ろに引き戻した。
「リベル、ソフィア様を驚かせるな」
「グエッ。オーブリーやめろよ。首が締まる」
リベルの身を引いたもう一人の白騎士は、浅黒い肌に濃茶の髪、それに肩幅のしっかりした筋肉質の騎士だった。
レオルドと変わらない上背で、灰色の目は鋭い目つきをしていて少し怖い印象を与える。
「あ、あの、えっと」
「ソフィア、リベルとオーブリーだ。元々白騎士団では俺の下にいたが、このふたりが護衛としてついてきてくれる」
「よろしく~」
「よろしくお願いします」
大柄なオーブリーに半ば首を絞められながら、リベルがヒラヒラと手を振った。
言われてみれば確かに、よくレオルドと一緒にいるのを見かけた気がする。
「二人とも『魔女の目』の持ち主だ。呪いに耐性があるので今回の同行を頼んだ」
「魔女の目……」
魔女の目の持ち主はそれを隠すと聞いていたけれど、聞いてしまってもいいのだろうか。
困った顔でレオルドを見上げるとリベルが笑いながら答えた。
「オレは最初、聖官をしてたんだけど、こっちの方が向いてるってんで白騎士になった変わり種なんだ。オレが魔女の目持ちってことはみんな知ってるよ」
「私の目のことはこちらの騎士団では話しておりません。できれば内密にお願いします」
リベルとオーブリーが口々に説明する。
「オーブリーはイムソリアの出身で土地勘もある。腕が確かなので、エストーク侯爵家で身柄を預かっている。今は白騎士団で修行中の身だが、いずれイムソリアに戻って辺境の騎士団を引っ張っていくだろう」
「えっと、リベル様が元聖官で、オーブリー様は魔女の目のことは秘密でイムソリアの出身で……」
急に頭の中に入ってきた情報を整理しようとつぶやいていると、レオルドがソフィアの肩をポンと叩く。
肩にずしりと感じる手は相変わらず熱くて心地よい。
「これから旅の間にゆっくり覚えればいい」
「は、はい」
「そうそう。ソフィア様もメモリアちゃんもよろしくね」
ソフィアのそばに控えていたメモリアがいつもの無表情のまま冷たい視線でリベルをにらむと、リベルはそれに気づいているのかいないのかヘラヘラと笑っていた。
「リベル様、オーブリー様、ソフィアです。これからしばらくよろしくお願いします」
「では、この三人でソフィアの護衛をしつつウィザ村に向かうぞ」
レオルドがソフィアを自分の馬の背に乗せ、後ろにひらりと飛び乗った。
メモリアも自分の馬に乗り、一行はウィザ村に向けて出発した。
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