54 / 111
二章 出会いと別れ
8.-3
しおりを挟む
咳払いをしたメモリアが、今の状況について教えてくれた。
「陛下の側近から事情を伺ったところ、コリウス陛下は一時期の危ない状態からは落ち着いて、ひとまず持ち直したそうです」
「そうか。あのあとアイツはどうなった?」
アイツ、と聞いてルーパスの恐ろしく冷たい目を思い出してしまい、ソフィアの背筋にゾクリと悪寒が走る。
微かに震える手をレオルドの熱い手が包みこんだ。
「扉の前に倒れていた護衛はルーパス殿下の親衛隊に回収させました。コリウス陛下のことでバタついていた事もあり、レオルド様のルーパス殿下への暴行は今のところ問題になっておりません」
レオルドの身が心配になってギュッと手を握りしめると、レオルドが安心させるように指の腹でとんとんとソフィアの手を叩いてなだめる。
「取り乱したルーパス殿下がソフィア様に暴行しかねなかったため、レオルド様がルーパス殿下を止めたとお伝えしてあります」
「それでいい。アイツがソフィアに何かしていたら結局のところ困るのはアイツだ。それを止めてやったんだから俺に感謝して欲しいぐらいだ。ただし、ソフィアにあれ以上の事をしていたらアイツは今頃生きていなかっただろうがな」
レオルドが目の奥でギラリと殺気を光らせる。
「……私のせいでレオルド様が罰せられるのは嫌です」
「そんなヘマはしないさ。それに俺はこれから忘却の呪いを解きに行くことをカネス殿下に認めさせている。当分、俺には手を出せまいよ」
「レオルド様は本当に忘却の呪いを解くおつもりですか?」
「もちろんだ。古の魔女の亡骸はウィザ村の近くの森の奥に封印されている。そこには古の魔女の呪いが詰まった依代がある。それを壊せば呪いが解けるはずだ」
「呪いを解く方法がわかっていて、どうしてこれまで解けなかったのですか?」
「呪いをかけられた王家の血筋の者しか、その依代を破壊できない。しかし周囲にも強い呪いが漏れ出ていて迂闊には近づけなかった。そのため今まで誰も呪いを解けなかった。だが王家の血を引いてなおかつ呪いに耐性のある俺ならば依代を壊せる」
レオルドがソフィアの手を強く握りしめて赤い目に強い意志を滲ませる。
「この時のために備えてきた。必ず呪いを解くぞ」
そして呪いを解くため、近いうちにウィザ村まで行くつもりだとソフィアに告げた。
それを聞いたソフィアはすぐにレオルドにすがりついた。
「レオルド様、私も連れて行ってください」
一緒に行って何ができるかはわからない。
けれど、なぜかそうしないといけない気がした。
「俺だってソフィアとは離れたくない。だが王家がソフィアを外に出すだろうか」
流されてあきらめるのが当たり前だった自分がこんなわがままを言うなんて、ソフィアは自分でも自分の行動に驚いてしまう。
それでもレオルドと離れたくないその一心でソフィアが頼みこむと、レオルドは難しい顔をして考え込んだ。
「レオルド様を忘れたくありません」
「俺だってそうだ」
お互い呪いに耐性はあるが、長い間離れていれば忘れてしまうかもしれない。
するとメモリアが口に人差し指をあてて思案するようなしながら、ひとつの提案をした。
「レオルド様、私にひとつ考えがあります。うまくいけばソフィア様を連れてウィザ村まで行けるかもしれません。ただし、今よりももっと状況が悪くなる可能性もあります」
「よし、話してみろ」
「はい。それは……」
メモリアの提案に耳を傾けながら、どうすればいいかを話し合う。
結局その日は夜遅くまで、レオルドの部屋での話し合いが続いたのだった。
「陛下の側近から事情を伺ったところ、コリウス陛下は一時期の危ない状態からは落ち着いて、ひとまず持ち直したそうです」
「そうか。あのあとアイツはどうなった?」
アイツ、と聞いてルーパスの恐ろしく冷たい目を思い出してしまい、ソフィアの背筋にゾクリと悪寒が走る。
微かに震える手をレオルドの熱い手が包みこんだ。
「扉の前に倒れていた護衛はルーパス殿下の親衛隊に回収させました。コリウス陛下のことでバタついていた事もあり、レオルド様のルーパス殿下への暴行は今のところ問題になっておりません」
レオルドの身が心配になってギュッと手を握りしめると、レオルドが安心させるように指の腹でとんとんとソフィアの手を叩いてなだめる。
「取り乱したルーパス殿下がソフィア様に暴行しかねなかったため、レオルド様がルーパス殿下を止めたとお伝えしてあります」
「それでいい。アイツがソフィアに何かしていたら結局のところ困るのはアイツだ。それを止めてやったんだから俺に感謝して欲しいぐらいだ。ただし、ソフィアにあれ以上の事をしていたらアイツは今頃生きていなかっただろうがな」
レオルドが目の奥でギラリと殺気を光らせる。
「……私のせいでレオルド様が罰せられるのは嫌です」
「そんなヘマはしないさ。それに俺はこれから忘却の呪いを解きに行くことをカネス殿下に認めさせている。当分、俺には手を出せまいよ」
「レオルド様は本当に忘却の呪いを解くおつもりですか?」
「もちろんだ。古の魔女の亡骸はウィザ村の近くの森の奥に封印されている。そこには古の魔女の呪いが詰まった依代がある。それを壊せば呪いが解けるはずだ」
「呪いを解く方法がわかっていて、どうしてこれまで解けなかったのですか?」
「呪いをかけられた王家の血筋の者しか、その依代を破壊できない。しかし周囲にも強い呪いが漏れ出ていて迂闊には近づけなかった。そのため今まで誰も呪いを解けなかった。だが王家の血を引いてなおかつ呪いに耐性のある俺ならば依代を壊せる」
レオルドがソフィアの手を強く握りしめて赤い目に強い意志を滲ませる。
「この時のために備えてきた。必ず呪いを解くぞ」
そして呪いを解くため、近いうちにウィザ村まで行くつもりだとソフィアに告げた。
それを聞いたソフィアはすぐにレオルドにすがりついた。
「レオルド様、私も連れて行ってください」
一緒に行って何ができるかはわからない。
けれど、なぜかそうしないといけない気がした。
「俺だってソフィアとは離れたくない。だが王家がソフィアを外に出すだろうか」
流されてあきらめるのが当たり前だった自分がこんなわがままを言うなんて、ソフィアは自分でも自分の行動に驚いてしまう。
それでもレオルドと離れたくないその一心でソフィアが頼みこむと、レオルドは難しい顔をして考え込んだ。
「レオルド様を忘れたくありません」
「俺だってそうだ」
お互い呪いに耐性はあるが、長い間離れていれば忘れてしまうかもしれない。
するとメモリアが口に人差し指をあてて思案するようなしながら、ひとつの提案をした。
「レオルド様、私にひとつ考えがあります。うまくいけばソフィア様を連れてウィザ村まで行けるかもしれません。ただし、今よりももっと状況が悪くなる可能性もあります」
「よし、話してみろ」
「はい。それは……」
メモリアの提案に耳を傾けながら、どうすればいいかを話し合う。
結局その日は夜遅くまで、レオルドの部屋での話し合いが続いたのだった。
1
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる