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二章 出会いと別れ
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急に倒れてしまった少女を、レオルドがあわてて抱き上げる。
「おい! しっかりしろ!! 誰か! 誰か!!」
大声をあげて助けを求めたが、周りには誰もいない。
先ほどまでレオルドをあたためてくれていた少女の身体が、腕の中でどんどん冷たくなっていく。
服からのぞく少女の手や足は、いまや真っ黒に染まっていた。
レオルドの魔女の目は、それが呪いのせいだとはっきりと教えてくれた。
(どうしよう。俺のせいだ。早く助けないと)
まだ死の呪いの残るしびれた身体でなんとか少女を背負おうと、助けを求めて森の外に向かって歩き出した。
重い身体を一歩一歩進めながら、レオルドの背中では少女の身体が氷のように冷たくなっていく。
背負っているのが少女とはいえ、まだ幼く呪いの残ったレオルドの身体では落とさずにいるだけでも大変だった。
しかし額に汗を浮かべながら、必死に森の中の道を進む。
するとガサリと森の木が揺れたのがわかり、警戒するように目を向けると、そこに現れたのはレオルドを探しにきた護衛の姿だった。
「レオルド様! ご無事でしたか」
「はっ……お願い、この子を助けて……」
「レオルド様!」
レオルドはなんとか護衛に少女をわたしたが、そのまま意識を失ってしまった。
次にレオルドが目を覚ました時、そこは辺境伯の屋敷のベッドの上で、そこに少女の姿はなかった。
ベッドの横では憔悴した様子のマリアがレオルドの看病をしている。
「レオルド様、ご無事で良かったです」
「マリア……あの子は……?」
「あの少女なら、彼女の親戚だという方にお渡ししました」
「それは……怖いおじさんじゃないのか……?」
怖い男と暮らしていると言って泣いていた少女の顔を思い出して、胸が苦しくなる。
「そこまではわかりませんが」
「マリア……頼む……あの子をここに……約束……したんだ……」
(俺が……俺が助けてやると……そして……たくさん笑って欲し……)
レオルドは死の呪いの影響で、目を覚ましてもまたすぐ意識を失い、そのまま何日間も寝込んでしまった。
しっかりと意識を取り戻してからすぐにマリアに事情を説明し、助けてくれた少女を探してもらったのだが、すでに少女は王宮へと連れ去られたあとだった。
どうやら少女の遠縁にあたる男が、少女を魔女として王宮に渡したらしい。
もっと早く回復していればイムソリア辺境伯の元で手厚く保護もしてあげたのだろうが、一足遅かったようだ。
体調が回復したあとも、レオルドは少女のことが忘れられなかった。
せめて怖いおじさんから離れて、王宮では心安らかに笑っていられるといいと願うことしかできなかった。
イムソリア辺境伯の屋敷で隠されたまま育てられている幼い身は、ただひたすらに無力だった。
「あの子にもう一度会いたい」
その日からレオルドはただそれだけを願い続け、思い出の中で薄れていく少女の面影を必死につなぎ止めていた。
「おい! しっかりしろ!! 誰か! 誰か!!」
大声をあげて助けを求めたが、周りには誰もいない。
先ほどまでレオルドをあたためてくれていた少女の身体が、腕の中でどんどん冷たくなっていく。
服からのぞく少女の手や足は、いまや真っ黒に染まっていた。
レオルドの魔女の目は、それが呪いのせいだとはっきりと教えてくれた。
(どうしよう。俺のせいだ。早く助けないと)
まだ死の呪いの残るしびれた身体でなんとか少女を背負おうと、助けを求めて森の外に向かって歩き出した。
重い身体を一歩一歩進めながら、レオルドの背中では少女の身体が氷のように冷たくなっていく。
背負っているのが少女とはいえ、まだ幼く呪いの残ったレオルドの身体では落とさずにいるだけでも大変だった。
しかし額に汗を浮かべながら、必死に森の中の道を進む。
するとガサリと森の木が揺れたのがわかり、警戒するように目を向けると、そこに現れたのはレオルドを探しにきた護衛の姿だった。
「レオルド様! ご無事でしたか」
「はっ……お願い、この子を助けて……」
「レオルド様!」
レオルドはなんとか護衛に少女をわたしたが、そのまま意識を失ってしまった。
次にレオルドが目を覚ました時、そこは辺境伯の屋敷のベッドの上で、そこに少女の姿はなかった。
ベッドの横では憔悴した様子のマリアがレオルドの看病をしている。
「レオルド様、ご無事で良かったです」
「マリア……あの子は……?」
「あの少女なら、彼女の親戚だという方にお渡ししました」
「それは……怖いおじさんじゃないのか……?」
怖い男と暮らしていると言って泣いていた少女の顔を思い出して、胸が苦しくなる。
「そこまではわかりませんが」
「マリア……頼む……あの子をここに……約束……したんだ……」
(俺が……俺が助けてやると……そして……たくさん笑って欲し……)
レオルドは死の呪いの影響で、目を覚ましてもまたすぐ意識を失い、そのまま何日間も寝込んでしまった。
しっかりと意識を取り戻してからすぐにマリアに事情を説明し、助けてくれた少女を探してもらったのだが、すでに少女は王宮へと連れ去られたあとだった。
どうやら少女の遠縁にあたる男が、少女を魔女として王宮に渡したらしい。
もっと早く回復していればイムソリア辺境伯の元で手厚く保護もしてあげたのだろうが、一足遅かったようだ。
体調が回復したあとも、レオルドは少女のことが忘れられなかった。
せめて怖いおじさんから離れて、王宮では心安らかに笑っていられるといいと願うことしかできなかった。
イムソリア辺境伯の屋敷で隠されたまま育てられている幼い身は、ただひたすらに無力だった。
「あの子にもう一度会いたい」
その日からレオルドはただそれだけを願い続け、思い出の中で薄れていく少女の面影を必死につなぎ止めていた。
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