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一章 できそこないの魔女と俺様令息

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 顔を上げると、赤い目がまっすぐ薄紫の目を見つめている。
 レオルドの目がわずかに細められ、目の奥がギラリと光ったように見えて身体の奥が震えた。

 コンコンコン。

 ドアを叩くノックの音がして意識が逸れたのをいいことに、ソフィアは急いでレオルドから目を逸らし、手を引いて自分の胸の前で握りしめた。

「入れ」

 レオルドの声が不機嫌そうに聞こえるが気のせいだろう。
 ゆっくりとドアが開かれ、メモリアがお茶を運んできてソフィアの目の前にカップを置いた。

「失礼します」

「あ、お花……」

 カップの中では花が開いてふんわりと揺れていた。
 花茶の香りが部屋中に広がる。
 レオルドも自分の前に置かれたカップを手に取り口をつけた。

「ソフィアに渡した花茶はまだ残っているか?」

「あの、まだ飲んでなくて」

「なんだ、気に入らなかったか」

「いえ、あの……もったいなくて」

「無くなったらまたやる。味が落ちる前に飲め」

「はい」

 お茶菓子を置いてメモリアが部屋から出ていき、またふたりきりになってしまった。
 隣に座るレオルドがじっと見つめてくるのを感じて、カップを持つ手が震える。

「ソフィアは今日は楽しくなかったか?」

「いえ、そんなことありません」

「メモリアの言う通り、俺はソフィアの気持ちを考えられていないか?」

「……いいえ。とても楽しい時間をありがとうございました」

 レオルドに強引に連れ回され驚きの連続だったけれど、嫌な思いなんてしていない。
 むしろ言われたことをこなしただやり過ごすだけの日々を過ごしてきたソフィアにとって、疎まれず蔑まれない時間はとても心地よく楽しかった。
 王宮に来てからこれまで、こんな楽しい時間を過ごしたことはなかった。

 そう、とても楽しかった。

「では、なぜそんな悲しそうな顔をする」

 隠し事のできないソフィアは、きっとレオルドを心配させてしまっているのだろう。
 それでも嘘をつけないので、素直な想いを口にした。

「……こんな風に楽しいことを知ると、あとで辛くなってしまいそうで」

「あとで、とは?」

「私はルーパス殿下の陰嫁となって一生を奥宮で静かに過ごさねばならないのに、これでは外の世界が恋しくなってしまいます」

 ドン、とレオルドがテーブルを拳で叩いた。
 それはソフィアの言葉を遮るほどの大きな音で、驚いて身体が強張る。
 そしてレオルドの前で陰嫁と言ってはならないことを思い出し、泣きそうになりながら謝罪の言葉を口にする。

「も、申し訳ありません」

「俺の前でアイツの名を口にするな! アイツの名を口にするソフィアの声など聞きたくない。ソフィアをアイツの陰嫁になどさせるものか!」

「え?」

 レオルドはソフィアの身体を引き寄せると、そのまま強く抱きしめた。
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