上 下
18 / 111
一章 できそこないの魔女と俺様令息

6.-2

しおりを挟む
 ――古来、魔女と聖女は同じもので、人々は魔女も聖女も等しく『魔女』と呼んでいた。

 メモリアは淡々と話し始める。


 *****


 かつてこの国には魔女の住む地があった。

 そこでは人々の安寧のため、魔女が日々祈りを捧げていた。
 その祈りは多岐に渡り、赤子の健やかな成長であったり、病や怪我からの回復、または獲物や作物の安定した収穫を願うものだったりした。

『魔女様ありがとうございます』

 人々は魔女に感謝を捧げ、敬い奉った。

 しかしそのうち魔女の力を巡って醜い争いが起こるようになる。
 魔女は自らを守るため、人々を呪う力を得ていく。
 力のある魔女が呪いの祈りを捧げれば、相手の身体を朽ち果てさせることができたという。

 そして次第に祝福を与える者は白い魔女、呪いを与える者は黒い魔女と呼ばれるようになる。

 魔女の住む地を含む周辺を統べるアロガンシア王家は、魔女の力を巡って争いが起こることを良しとしなかった。
 そして魔女の力を味方にすべく、王宮に礼拝堂を建てて魔女を身の内に引き込んだ。

『魔女の力を我々に貸せ。代わりにその身を護ってやろう』

 魔女はその力をアロガンシア王家のために使うことを約束し、王家は魔女の身の安全を護ることを約束する。
 こうして魔女と王家は協力するようになった。

 しばらくたったある時、アロガンシア王国が他国に攻め込まれ、当時の王は黒の魔女に協力を求めた。
 偉大な黒の魔女の呪いの力で、アロガンシア王国は戦に勝利する。
 しかし黒の魔女の力はあまりにすさまじく、その力を恐れた王は黒の魔女を幽閉してしまう。

『魔女の力は危険だ。このような力を自由にしてはならない』

 感謝されこそすれ幽閉されるなど許せぬ黒の魔女は、王に呪いをかけ怨嗟の声をあげながら死んでいった。

『すべてを忘れて無かったことに』

 黒の魔女は王に忘却の呪いをかけ、呪いを受けた王は人々から忘れ去られその身が朽ち果てるまで誰にも気づかれることはなかったという。
 王が死んでもなお呪いは次の王に引き継がれ、ようやく王の一族は王家の血が呪われたことを知る。
 次代の王は黒の魔女の亡骸を封印し、あらゆる手段で呪いを解こうとしたがそれは叶わなかった。
 その次に王位を継いだ王も、そのまた次に継いだ王も呪いを解けないままだった。

『呪いが消えぬ。呪われた王が死に、その子らがすべて死んでもなお呪いが消えぬ』

 王家は呪いを解けぬ黒い魔女を迫害するようになる。
 そしてその一方で、祝福を与える白い魔女を聖女と呼び敬い始める。
 呪いを与える黒い魔女は迫害を恐れ身を隠すようになり、今では祝福を与える白い魔女だけが聖女として王家に仕えるようになったのだった。


 *****


「ここにはそう記されています」

 メモリアは机の上の本の表紙の上に手を置きながら、ふ、と息を吐いて長い話を終えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身

青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。 レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。 13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。 その理由は奇妙なものだった。 幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥ レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。 せめて、旦那様に人間としてみてほしい! レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。 ☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。

女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。 けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。 それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。 本編4話、結婚式編10話です。

処理中です...