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一章 できそこないの魔女と俺様令息
4.ソフィアの秘密とレオルドの秘密-1
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自室に戻ったソフィアは高く積まれている手仕事の山を見て額に手を当てた。
陽が沈むまでにこの量を終えることができるだろうか。
しかしやらないわけにはいかず、布のかたまりをひとつ手に取って椅子に座りすぐに針を動かしはじめた。
今日はルーパスの呪いを移したばかりなので、手先が冷えてあまりうまく動かせない。
それでもこうして手を動かしていれば、辛いことをなにも考えずにいられるのが救いだ。
必死に手を動かしながら、ソフィアは王宮に来る前のことをぼんやりと思い出していた。
***
ソフィアはアロガンシア王国の西の方にある辺境の地、イムソリアの出身だった、
イムソリアにあるほんの小さな村、ウィザ村で生まれたが、早くに両親を亡くし遠縁の親戚を名乗る男に引き取られた。
男に引き取られてすぐにソフィアが魔女であることがわかり、そのまま王宮に連れて来られたらしい。
らしい――というのも、両親を喪ったばかりの幼いソフィアは、自分を取り巻く環境が目まぐるしく変わっていくことにとまどうばかりで、その頃の記憶がひどくあいまいだった。
聖女や魔女は大変貴重であり、純潔を求められるため生涯独身であることが必要だ。
そのため聖女や魔女を出した家は国から多大な謝礼をもらえる事になっており、ソフィアを引き取った男もおそらく喜んでソフィアを国に差し出したのだろう。
そして気づいた時には、ソフィアは黒の礼拝堂に仕える魔女となり、ルーパスの陰嫁になることを決められていた。
***
手先が見えにくくなってきたので顔を上げると、あたりはもうすっかり暗くなっていた。
手仕事の山ももう残り少ない。
なんとか終わりそうでほっと息をついてから、食堂の開いている時間が終わりそうなことに気がついた。
急いで食堂に向かうと、みなはもう食事を終えたようで食堂内は人がまばらだった。
「すみません」
食事を用意してもらおうとソフィアが厨房に声をかけるが、後片付けをしているのか誰にも気づいてもらえない。
「あの、すみません」
やはり誰もソフィアの声に気づかない。
影の薄いソフィアは、このように誰にも気づいてもらえないことがたびたびあった。
何度か声をかけたがやはり気づいてもらえず、仕方ないので夕食をあきらめて自室に戻ろうと向きを変えた。
するとすぐ後ろに立っていた人にぶつかってしまう。
「あ、ごめんなさ……」
「おい! 二人分の食事を用意できるか?」
ソフィアの言葉をさえぎるように、目の前の男が厨房に向かって叫んだ。
「はいはい! あ、レオルド様。ただいまご用意いたします!!」
厨房の奥から出てきた料理人が一礼してからすぐにまた奥へと戻っていった。
「レオルド様……」
「俺もちょうどこれから食事だ。一緒にしてもいいだろう?」
いつの間にかレオルドは、黒い長手袋の上からしっかりとソフィアの腕をつかんでいる。
まるで狙った獲物を捕まえたかのように、黄金の獅子は口の端を上げて満足そうに笑っていた。
陽が沈むまでにこの量を終えることができるだろうか。
しかしやらないわけにはいかず、布のかたまりをひとつ手に取って椅子に座りすぐに針を動かしはじめた。
今日はルーパスの呪いを移したばかりなので、手先が冷えてあまりうまく動かせない。
それでもこうして手を動かしていれば、辛いことをなにも考えずにいられるのが救いだ。
必死に手を動かしながら、ソフィアは王宮に来る前のことをぼんやりと思い出していた。
***
ソフィアはアロガンシア王国の西の方にある辺境の地、イムソリアの出身だった、
イムソリアにあるほんの小さな村、ウィザ村で生まれたが、早くに両親を亡くし遠縁の親戚を名乗る男に引き取られた。
男に引き取られてすぐにソフィアが魔女であることがわかり、そのまま王宮に連れて来られたらしい。
らしい――というのも、両親を喪ったばかりの幼いソフィアは、自分を取り巻く環境が目まぐるしく変わっていくことにとまどうばかりで、その頃の記憶がひどくあいまいだった。
聖女や魔女は大変貴重であり、純潔を求められるため生涯独身であることが必要だ。
そのため聖女や魔女を出した家は国から多大な謝礼をもらえる事になっており、ソフィアを引き取った男もおそらく喜んでソフィアを国に差し出したのだろう。
そして気づいた時には、ソフィアは黒の礼拝堂に仕える魔女となり、ルーパスの陰嫁になることを決められていた。
***
手先が見えにくくなってきたので顔を上げると、あたりはもうすっかり暗くなっていた。
手仕事の山ももう残り少ない。
なんとか終わりそうでほっと息をついてから、食堂の開いている時間が終わりそうなことに気がついた。
急いで食堂に向かうと、みなはもう食事を終えたようで食堂内は人がまばらだった。
「すみません」
食事を用意してもらおうとソフィアが厨房に声をかけるが、後片付けをしているのか誰にも気づいてもらえない。
「あの、すみません」
やはり誰もソフィアの声に気づかない。
影の薄いソフィアは、このように誰にも気づいてもらえないことがたびたびあった。
何度か声をかけたがやはり気づいてもらえず、仕方ないので夕食をあきらめて自室に戻ろうと向きを変えた。
するとすぐ後ろに立っていた人にぶつかってしまう。
「あ、ごめんなさ……」
「おい! 二人分の食事を用意できるか?」
ソフィアの言葉をさえぎるように、目の前の男が厨房に向かって叫んだ。
「はいはい! あ、レオルド様。ただいまご用意いたします!!」
厨房の奥から出てきた料理人が一礼してからすぐにまた奥へと戻っていった。
「レオルド様……」
「俺もちょうどこれから食事だ。一緒にしてもいいだろう?」
いつの間にかレオルドは、黒い長手袋の上からしっかりとソフィアの腕をつかんでいる。
まるで狙った獲物を捕まえたかのように、黄金の獅子は口の端を上げて満足そうに笑っていた。
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