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一章 できそこないの魔女と俺様令息
3.黄金の獅子と白銀の狼-1
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ルーパスは思い切り不愉快さを顔ににじませながらふたりをにらみつけていた。
鋭く細められた氷のような視線を向けられ、身体の芯まで凍えあがってしまいそうだ。
「こんな所でふらふらと何をしている。お前は早く自室に下がれ」
「はい。申し訳ありません」
冴え冴えと響くルーパスの声を受けてすばやく頭をさげたが、短く答えるその声が小さく震えてしまう。
相当頭にきているのが感じ取れて、一刻も早くこの場から立ち去りたかった。
しかしソフィアの腕はレオルドがまだつかんだままだ。
手を離してくれとそれとなく目で訴えるが、レオルドは腕をつかんだまま悠然とルーパスに顔を向けた。
「これはこれはルーパス殿下」
ルーパスがいらついた様子でさらに声を荒げる。
「レオルド。その手を放してもらおうか。いくら女好きだからと言って、魔女にまで手を出すのはさすがに節操がなさすぎるのではないか?」
「女好きとは心外です。彼女らは私の商会の大事なお客さまだ。仕事の話をしているだけですよ」
怒りをにじませるルーパスとは対照的に、レオルドはことさらにゆっくりと言葉を重ねる。
「ではこれとは何の話をしていた? これはお前のところの客になるような女じゃないだろう」
ルーパスはこれとソフィアにわずかに視線を向けながら吐き捨てるように言った。
「これは飾りたてる必要などないのだから」
レオルドの前でまで罵られたのが恥ずかしくて情けなくて深くうつむくと、つかまれた腕にわずがに力が込められたような気がした。
「これだなんて、ちゃんと名を呼んだらいかがですか?」
「お前に指図されるいわれはない。私が私のものをどう扱おうと私の勝手だ」
ルーパスが青い目をさらに鋭く細めてにらみつけてくるが、そんなことをまるで意に介さぬようにレオルドが口の端に笑みを浮かべる。
「ソフィアはものじゃありませんよ。それにもし仮に誰かの……というのならば、それは将来この国を背負って立つ者のはずだ」
「それが私なのだから、私のものだ!」
レオルドはそれに答えず、代わりにクッと喉を鳴らす。
「魔女の呪いが怖くて、ソフィアに触れられもしないのに?」
「貴様っ!」
あからさまなレオルドのあざけりに、ルーパスは顔を一気に赤くした。
「レオ、レオルド様……!」
これ以上ルーパスを怒らせないで欲しくて、ソフィアは思い切りレオルドの腕を引いた。
レオルドはゆったりとした動作でソフィアとルーパスに交互に目をやってから、ソフィアの手を放してわざとらしく肩をすくめる。
「おっと、もう行かないと。それでは殿下、失礼いたします。ソフィアもまた」
レオルドはソフィアをじっと見つめながら片手を取って恭しく持ち上げると、まるでルーパスに見せつけるように黒い長手袋の上から指先に口づけを落とした。
「ひゃっ」
熱い感触が薄い手袋ごしでも伝わって、驚いて変な声が出てしまう。
ソフィアがあわてて手を引っ込めると、レオルドはニヤリと笑ってから、そのままルーパスに目を向けることなく堂々と去っていった。
まるで嵐のようなレオルドの後ろ姿を見送ってから、ふとルーパスに目をやると、レオルドの背中をにらみつけている。
その姿はまだ怒って見えて、なんとか刺激しないようにしながらこの場を去ろうとおずおずと声をかけた。
「ルーパス殿下、私も失礼いたします」
「おい、待て!」
ルーパスが大きな声を上げた。
鋭く細められた氷のような視線を向けられ、身体の芯まで凍えあがってしまいそうだ。
「こんな所でふらふらと何をしている。お前は早く自室に下がれ」
「はい。申し訳ありません」
冴え冴えと響くルーパスの声を受けてすばやく頭をさげたが、短く答えるその声が小さく震えてしまう。
相当頭にきているのが感じ取れて、一刻も早くこの場から立ち去りたかった。
しかしソフィアの腕はレオルドがまだつかんだままだ。
手を離してくれとそれとなく目で訴えるが、レオルドは腕をつかんだまま悠然とルーパスに顔を向けた。
「これはこれはルーパス殿下」
ルーパスがいらついた様子でさらに声を荒げる。
「レオルド。その手を放してもらおうか。いくら女好きだからと言って、魔女にまで手を出すのはさすがに節操がなさすぎるのではないか?」
「女好きとは心外です。彼女らは私の商会の大事なお客さまだ。仕事の話をしているだけですよ」
怒りをにじませるルーパスとは対照的に、レオルドはことさらにゆっくりと言葉を重ねる。
「ではこれとは何の話をしていた? これはお前のところの客になるような女じゃないだろう」
ルーパスはこれとソフィアにわずかに視線を向けながら吐き捨てるように言った。
「これは飾りたてる必要などないのだから」
レオルドの前でまで罵られたのが恥ずかしくて情けなくて深くうつむくと、つかまれた腕にわずがに力が込められたような気がした。
「これだなんて、ちゃんと名を呼んだらいかがですか?」
「お前に指図されるいわれはない。私が私のものをどう扱おうと私の勝手だ」
ルーパスが青い目をさらに鋭く細めてにらみつけてくるが、そんなことをまるで意に介さぬようにレオルドが口の端に笑みを浮かべる。
「ソフィアはものじゃありませんよ。それにもし仮に誰かの……というのならば、それは将来この国を背負って立つ者のはずだ」
「それが私なのだから、私のものだ!」
レオルドはそれに答えず、代わりにクッと喉を鳴らす。
「魔女の呪いが怖くて、ソフィアに触れられもしないのに?」
「貴様っ!」
あからさまなレオルドのあざけりに、ルーパスは顔を一気に赤くした。
「レオ、レオルド様……!」
これ以上ルーパスを怒らせないで欲しくて、ソフィアは思い切りレオルドの腕を引いた。
レオルドはゆったりとした動作でソフィアとルーパスに交互に目をやってから、ソフィアの手を放してわざとらしく肩をすくめる。
「おっと、もう行かないと。それでは殿下、失礼いたします。ソフィアもまた」
レオルドはソフィアをじっと見つめながら片手を取って恭しく持ち上げると、まるでルーパスに見せつけるように黒い長手袋の上から指先に口づけを落とした。
「ひゃっ」
熱い感触が薄い手袋ごしでも伝わって、驚いて変な声が出てしまう。
ソフィアがあわてて手を引っ込めると、レオルドはニヤリと笑ってから、そのままルーパスに目を向けることなく堂々と去っていった。
まるで嵐のようなレオルドの後ろ姿を見送ってから、ふとルーパスに目をやると、レオルドの背中をにらみつけている。
その姿はまだ怒って見えて、なんとか刺激しないようにしながらこの場を去ろうとおずおずと声をかけた。
「ルーパス殿下、私も失礼いたします」
「おい、待て!」
ルーパスが大きな声を上げた。
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