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二章 出会いと別れ

4.出会いと別れ-1

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 ――十二年前。

 それはレオルドが九歳の時のことだった。

 母はすでに亡く、その出自から存在を周囲に秘されていた少年は、祖父であるイムソリア辺境伯の屋敷にひっそりと隠れ住んでいた。

 イムソリア地方は魔女と関係が深く、領地内のヴィザ村は魔女の村と呼ばれているほどだ。
 イムソリア辺境伯は魔女に手厚いことで有名で、例え魔女の力があるものでも本人が希望しない限りは王宮に引き渡すことをせず、またそれを王宮から特別に許されている。
 そのため辺境伯の周りでは、王宮の手から守る意味もあって魔女やかつて魔女であった者、魔女の目を持つ者など魔女の血筋の者が多く仕えていた。
 王家の血を引くレオルドはわずかながらも忘却の呪いをその身に受けていたため、身の回りには呪いに耐性のある魔女の血筋の者が選んで置かれていた。

「レオルド様、今日は魔女と聖女について学びましょう」

「マリア!」

 レオルドが淡い金髪の美しい女性に駆け寄る。
 マリアと呼ばれた女性はレオルドの家庭教師で、かつて魔女であり、魔女の力を失った人であった。
 愛する人と様々な事情があって結婚はできなかったらしいが、子どものレオルドには詳しい話は教えてもらえていない。
 厳しくも優しい女性で、レオルドはマリアを母のように慕っていた。

「魔女や聖女は国に届け出る義務がありますが、世の貴族の中には極秘で魔女や聖女を囲う者がおります」

「ここにも魔女はたくさんいるが、それとは違うのか?」

「イムソリア辺境伯は、領地内の魔女の引き渡しを拒否することが特別に許されております。それに魔女の婚姻を推奨されていますし、お金に困った親が謝礼金目当てで娘を王宮に売り渡すことがないようにと援助体制もしっかり整えています。魔女や聖女を囲う貴族の中には彼女らに自由を与えず半ば監禁する者もいるようです」

 マリアが痛ましいことです、と眉をひそめた。

「魔女であることや魔女の目を持つことを、領地外では口にしないようにという教えもそのためか?」

「そうです。特に魔女や聖女はその力を狙って拐われることもあるので、基本的にその力のことは他人に話さない方が良いでしょう。レオルド様の魔女の目についても同じですよ」

 このように、マリアはレオルドに辺境伯領地外でのふるまい方についても丁寧に教えてくれた。
 マリアから聞く外の世界はいつもレオルドの好奇心をおおいに刺激した。
 辺境伯の屋敷から自由に外に出られないレオルドにとって、外の世界は危なくもとても魅力的に見えた。

 ある時、イムソリア辺境伯が領地内の見廻りのため数日屋敷を留守にすることになる。
 そしてちょうどその頃、レオルドはウィザ村の長老と呼ばれる魔女に呪いを診てもらうため屋敷を離れる必要があった。
 マリアと護衛を連れてウィザ村に向かうレオルドは、護衛の隙をついて脱け出してしまう。
 レオルドは年齢の割に賢い子であったが、同時に冒険心にあふれる好奇心旺盛な子でもあったのだ。

「俺だって一人で外出ぐらいできるさ!」

 ウィザ村近くの森に入ったレオルドは、学んだ知識を駆使して森の奥へ奥へと進んでいく。
 書物でしか知らなかったあれやこれやが興味深くて楽しくて、レオルドはどんどん歩みを進めていった。
 すると突然、目の前の森が開けて一面にスミレの花畑が広がる。

「わぁ、すごいキレイだな」

 よく晴れて澄んだ青空と地面に広がる緑と紫の絨毯は、陽の光をたっぷり浴びてきらめいていてとても美しかった。

「マリアに摘んでいってやろう」

 特別に綺麗なスミレはどれかと選んでいると、ふと身体に違和感があった。
 目を凝らすと身体の周りに黒いもやがまとわりついてきて、それらが蛇のように手足に絡みつく。

「っ!! なんだ、これは!」

 蛇のような黒いもやは、すぐにレオルドの全身をおおった。
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