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12月31日 年越し③

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 シン君はテーブルの上に置かれたティッシュを急いで何枚も取り出して、舞衣歌にわたしてくれた。

「ありがとう。なんか疲れてたのかも。久しぶりのあったかいご飯で気が緩んじゃった」

 舞衣歌がティッシュで両目を押さえながら、シン君に笑いながらお礼を言った。
 するとシン君が小さな声でつぶやいた。

「いえ、俺の方こそありがとうございます」

 舞衣歌が顔を上げると、シン君が目の縁を赤くして涙目で舞衣歌を見ていた。

「え~、シン君まで、どうしたの?」

「いや、情けないんですけど、俺、今、行き詰まってて。成績が思うように伸びなくて」

「成績?」

「はい。あの、俺、受験生で」

「あ、そっか。高3か。それで帰省しないで留守番だったの?」

「そうです」

「ごめんね、受験生に色々させちゃって」

「いや、俺の方こそ忙しい時に迷惑かけてすみません」

「迷惑じゃないよ~。帰ったら洗濯してあってあったかい部屋とあったかいご飯なんて天国だもん。シン君はサンタさんじゃなくて神さまがつかわせてくれた天使だね」

「天使って、そんな」

 美少年のシン君が目の端をほんのり赤くして照れる姿は、それはそれは大変可愛らしかった。

(ふふ、本物の天使みたい)

「最近、なんか全然集中できなくて、俺、何のために勉強してんだろってボーッとしてたら鍵落とすし」

「うん」

「でも舞衣歌さんにありがとうって言ってもらえて、俺にもまだできることがあるって思ったら、なんか気持ちが上がったっていうか、頑張ろうって思えたっていうか」

「えー、シン君がいてくれて、すごく助かったよ?」

 シン君は舞衣歌の言葉に顔を赤くしてサッと白い肌を染めた。

「うわ、俺、ダサ……」

 シン君は両手で顔を覆いかくして照れていた。

「それより、舞衣歌さん働きすぎなんじゃないですか!? ブラックな職場なんじゃないですか?」

 シン君は両手を顔からはずすと舞衣歌につめよった。

「あ~、しょうがないんだよ。他の社員さんがみんな急に来れなくなっちゃってさ。奥さんが妊婦さんで急に入院しちゃって上の子の預け先が無い、とか、本人が事故に巻き込まれて入院した、とか。あとはおばあちゃんが危篤でって離島に飛行機と船乗り継いで帰ったとこだったり。元々はもう少し楽なはずだったんだけどね」

「でも、舞衣歌さんがそんな無理して倒れたらどうするんですか」

「ん~、でも私、薬局で働いてるんだよね。年末年始開けてるのウチくらいで、私が行かないと患者さまが困っちゃうんだもん。がんばるしかないよね」

「……そうなんですか。無理しないでくださいね」

「ありがと! とりあえず明後日は久しぶりのお休みだから、あと一日がんばるよ!」

 舞衣歌はそう言って力こぶを作る真似をした。
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