上 下
76 / 89
六章 愛の歌

76.十の月の連絡船-1

しおりを挟む
 無事に家に帰り着いたルルティアは出迎えた母ウラウにそれはもうものすごい剣幕で怒られた。
 ウラウは心配しているであろうアリイとヌイに宛ててすぐに手紙を書いて飛ばし、それからまた長々とお説教を始めた。

「あの、俺が全部悪いので……」

「あなたもそこに座りなさい!!」

 アリイからある程度の事情を聞いていたらしいウラウは、アミルにもその矛先を向けた。
 ウラウの怒りを自分だけに向けようと口を挟んだアミルも、結局そのまま一緒に怒られることとなった。

「精霊の愛し子だからと言って、自分たちの力を過信するんじゃありません!」

「はぁい」

「はい、すみません」

 ルルティアはややふてくされながら肩をすくめ、アミルは神妙な顔をして頭を下げ続けた。

「それに怪我をしていたなら、そのままヌイの所に戻れば良かったでしょう?」

 ひとしきりルルティアとアミルにお説教をしてから、ウラウは頬に手を当ててため息混じりにこぼした。
 言われてみれば確かにその方が確実にアミルを助けられたかもしれない。
 でも――とルルティアは思う。

「たぶん、アイラナの地の方がアクアさまの力を使えるんだと思う。だからここに戻って来たんじゃないかな」

 ルルティアはそう言ってから、そんな適当な、と怒られるかな? と恐る恐るウラウをのぞき見た。
 ウラウは腕を組んで大きく息を吐いた。

「巫女の勘には逆らわない方が良いと言われているから、それならきっとそうなのでしょう」

 渋々と言った風だがウラウは納得してくれた。

「だからと言って、巫女の勘と言って嘘をつくのだけはしてはなりませんよ!!」

「そんなアクアさまを裏切るようなコトできないよ」

 ウラウはルルティアにしっかりと釘を刺すことを忘れず、ルルティアもまたそんなことはしないと約束したのだった。


 *****


 レナの部屋のベッドの側に座りながら、ルルティアはぽすんと頭をベッドの上に乗せた。

「はぁー、ヒドイ目に合った」

「姉さまもアミルもおかえりなさい。無事で良かった」

「手ぶらで帰ってきちゃったからさ、お土産は無いんだけど、シャウキの栽培方法をいっぱい調べてきたから待っていてね」

「うん。ありがと、姉さま」

 レナがルルティアのオレンジの髪を優しくなでて労わる。
 後ろでは少し困ったようにアミルが佇んでいた。
 ウラウの勧めもあってアミルはしばらくルルティアの家に滞在することになった。

「なんだか落ち着かないな。今からでも宿に移っても良いんだけど」

「良いの良いの。お客さまが家に泊まることなんてよくあるし、アミルが一緒の方が私も嬉しい。ただ母さまが口うるさくてごめんね」

 ソワソワと所在無げなアミルにルルティアが笑いかけると、アミルは耳の端を赤くさせながらはにかんだ。

「いや、今まであんな風に心配して怒ってもらえることなんてなかったからさ、ありがたいよ」

 アミルのはにかむ笑顔に胸をキュンとさせながらルルティアが見惚れていると、レナがそっと耳打ちした。

「なんだかアミルの雰囲気が変わったね」

「そうかな? うん、そうかも」

 自分たちとの出会いがアミルにとって良い影響になっているんだと良いな、とルルティアは笑った。


 *****


 ルルティアとアミルがアイラナに戻ってきてからおおよそ半月後の満月の前の日、十の月の連絡船に乗ってアリイとヌイが帰ってきた。
 眉間に深くシワを刻んだアリイの前にルルティアとアミルは並ばされている。
 アリイの横にはウラウとヌイが控えている。
 レナはたぶん自分の部屋で耳を澄ませていることだろう。

「ウトビアはノウスが新しく皇帝になったが、かなりしっかり根回しをしてあったようだ。メトゥスの側近らは処分されたが、ほとんど混乱もなく新体制に引き継がれた」

「へー」

 ルルティアの間の抜けた合いの手をアリイがジロリとにらむ。
 アリイはふぅ、と大きく息を吐いてから背もたれに身体を預けた。

「大陸統一二十周年記念行事だったはずが、新皇帝お披露目の場になってしまったな」

 ルルティアたちが去った後のウトビアの様子を一通り話してから、アリイがルルティアとアミルを見て口を開く。

「さて――」

 ルルティアとアミルも背筋を伸ばして居住まいを正す。
 しかしアリイは不機嫌な顔で口を閉ざしたままだ。
 じれて口を開きかけたルルティアをアミルが止める。

「すみません、アリイさま。これを」

 アミルが机の上に一つの金の指輪を置いた。
 細かい模様が彫られた太い金の指輪は、アミルの目に似た暗い夜空のような色の石が嵌め込まれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。

水鏡あかり
恋愛
 姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。  真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。  しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。 主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。

【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。  でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」 「え、じゃあ結婚します!」 メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。 というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。 そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。 彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。 しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。 そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。 そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。 男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。 二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。 ◆hotランキング 10位ありがとうございます……! ―― ◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

かつて私を愛した夫はもういない 偽装結婚のお飾り妻なので溺愛からは逃げ出したい

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※また後日、後日談を掲載予定。  一代で財を築き上げた青年実業家の青年レオパルト。彼は社交性に富み、女性たちの憧れの的だった。  上流階級の出身であるダイアナは、かつて、そんな彼から情熱的に求められ、身分差を乗り越えて結婚することになった。  幸せになると信じたはずの結婚だったが、新婚数日で、レオパルトの不実が発覚する。  どうして良いのか分からなくなったダイアナは、レオパルトを避けるようになり、家庭内別居のような状態が数年続いていた。  夫から求められず、苦痛な毎日を過ごしていたダイアナ。宗教にすがりたくなった彼女は、ある時、神父を呼び寄せたのだが、それを勘違いしたレオパルトが激高する。辛くなったダイアナは家を出ることにして――。  明るく社交的な夫を持った、大人しい妻。  どうして彼は二年間、妻を求めなかったのか――?  勘違いですれ違っていた夫婦の誤解が解けて仲直りをした後、苦難を乗り越え、再度愛し合うようになるまでの物語。 ※本編全23話の完結済の作品。アルファポリス様では、読みやすいように1話を3〜4分割にして投稿中。 ※ムーンライト様にて、11/10~12/1に本編連載していた完結作品になります。現在、ムーンライト様では本編の雰囲気とは違い明るい後日談を投稿中です。 ※R18に※。作者の他作品よりも本編はおとなしめ。 ※ムーンライト33作品目にして、初めて、日間総合1位、週間総合1位をとることができた作品になります。

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

処理中です...