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六章 愛の歌
76.十の月の連絡船-1
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無事に家に帰り着いたルルティアは出迎えた母ウラウにそれはもうものすごい剣幕で怒られた。
ウラウは心配しているであろうアリイとヌイに宛ててすぐに手紙を書いて飛ばし、それからまた長々とお説教を始めた。
「あの、俺が全部悪いので……」
「あなたもそこに座りなさい!!」
アリイからある程度の事情を聞いていたらしいウラウは、アミルにもその矛先を向けた。
ウラウの怒りを自分だけに向けようと口を挟んだアミルも、結局そのまま一緒に怒られることとなった。
「精霊の愛し子だからと言って、自分たちの力を過信するんじゃありません!」
「はぁい」
「はい、すみません」
ルルティアはややふてくされながら肩をすくめ、アミルは神妙な顔をして頭を下げ続けた。
「それに怪我をしていたなら、そのままヌイの所に戻れば良かったでしょう?」
ひとしきりルルティアとアミルにお説教をしてから、ウラウは頬に手を当ててため息混じりにこぼした。
言われてみれば確かにその方が確実にアミルを助けられたかもしれない。
でも――とルルティアは思う。
「たぶん、アイラナの地の方がアクアさまの力を使えるんだと思う。だからここに戻って来たんじゃないかな」
ルルティアはそう言ってから、そんな適当な、と怒られるかな? と恐る恐るウラウをのぞき見た。
ウラウは腕を組んで大きく息を吐いた。
「巫女の勘には逆らわない方が良いと言われているから、それならきっとそうなのでしょう」
渋々と言った風だがウラウは納得してくれた。
「だからと言って、巫女の勘と言って嘘をつくのだけはしてはなりませんよ!!」
「そんなアクアさまを裏切るようなコトできないよ」
ウラウはルルティアにしっかりと釘を刺すことを忘れず、ルルティアもまたそんなことはしないと約束したのだった。
*****
レナの部屋のベッドの側に座りながら、ルルティアはぽすんと頭をベッドの上に乗せた。
「はぁー、ヒドイ目に合った」
「姉さまもアミルもおかえりなさい。無事で良かった」
「手ぶらで帰ってきちゃったからさ、お土産は無いんだけど、シャウキの栽培方法をいっぱい調べてきたから待っていてね」
「うん。ありがと、姉さま」
レナがルルティアのオレンジの髪を優しくなでて労わる。
後ろでは少し困ったようにアミルが佇んでいた。
ウラウの勧めもあってアミルはしばらくルルティアの家に滞在することになった。
「なんだか落ち着かないな。今からでも宿に移っても良いんだけど」
「良いの良いの。お客さまが家に泊まることなんてよくあるし、アミルが一緒の方が私も嬉しい。ただ母さまが口うるさくてごめんね」
ソワソワと所在無げなアミルにルルティアが笑いかけると、アミルは耳の端を赤くさせながらはにかんだ。
「いや、今まであんな風に心配して怒ってもらえることなんてなかったからさ、ありがたいよ」
アミルのはにかむ笑顔に胸をキュンとさせながらルルティアが見惚れていると、レナがそっと耳打ちした。
「なんだかアミルの雰囲気が変わったね」
「そうかな? うん、そうかも」
自分たちとの出会いがアミルにとって良い影響になっているんだと良いな、とルルティアは笑った。
*****
ルルティアとアミルがアイラナに戻ってきてからおおよそ半月後の満月の前の日、十の月の連絡船に乗ってアリイとヌイが帰ってきた。
眉間に深くシワを刻んだアリイの前にルルティアとアミルは並ばされている。
アリイの横にはウラウとヌイが控えている。
レナはたぶん自分の部屋で耳を澄ませていることだろう。
「ウトビアはノウスが新しく皇帝になったが、かなりしっかり根回しをしてあったようだ。メトゥスの側近らは処分されたが、ほとんど混乱もなく新体制に引き継がれた」
「へー」
ルルティアの間の抜けた合いの手をアリイがジロリとにらむ。
アリイはふぅ、と大きく息を吐いてから背もたれに身体を預けた。
「大陸統一二十周年記念行事だったはずが、新皇帝お披露目の場になってしまったな」
ルルティアたちが去った後のウトビアの様子を一通り話してから、アリイがルルティアとアミルを見て口を開く。
「さて――」
ルルティアとアミルも背筋を伸ばして居住まいを正す。
しかしアリイは不機嫌な顔で口を閉ざしたままだ。
じれて口を開きかけたルルティアをアミルが止める。
「すみません、アリイさま。これを」
アミルが机の上に一つの金の指輪を置いた。
細かい模様が彫られた太い金の指輪は、アミルの目に似た暗い夜空のような色の石が嵌め込まれていた。
ウラウは心配しているであろうアリイとヌイに宛ててすぐに手紙を書いて飛ばし、それからまた長々とお説教を始めた。
「あの、俺が全部悪いので……」
「あなたもそこに座りなさい!!」
アリイからある程度の事情を聞いていたらしいウラウは、アミルにもその矛先を向けた。
ウラウの怒りを自分だけに向けようと口を挟んだアミルも、結局そのまま一緒に怒られることとなった。
「精霊の愛し子だからと言って、自分たちの力を過信するんじゃありません!」
「はぁい」
「はい、すみません」
ルルティアはややふてくされながら肩をすくめ、アミルは神妙な顔をして頭を下げ続けた。
「それに怪我をしていたなら、そのままヌイの所に戻れば良かったでしょう?」
ひとしきりルルティアとアミルにお説教をしてから、ウラウは頬に手を当ててため息混じりにこぼした。
言われてみれば確かにその方が確実にアミルを助けられたかもしれない。
でも――とルルティアは思う。
「たぶん、アイラナの地の方がアクアさまの力を使えるんだと思う。だからここに戻って来たんじゃないかな」
ルルティアはそう言ってから、そんな適当な、と怒られるかな? と恐る恐るウラウをのぞき見た。
ウラウは腕を組んで大きく息を吐いた。
「巫女の勘には逆らわない方が良いと言われているから、それならきっとそうなのでしょう」
渋々と言った風だがウラウは納得してくれた。
「だからと言って、巫女の勘と言って嘘をつくのだけはしてはなりませんよ!!」
「そんなアクアさまを裏切るようなコトできないよ」
ウラウはルルティアにしっかりと釘を刺すことを忘れず、ルルティアもまたそんなことはしないと約束したのだった。
*****
レナの部屋のベッドの側に座りながら、ルルティアはぽすんと頭をベッドの上に乗せた。
「はぁー、ヒドイ目に合った」
「姉さまもアミルもおかえりなさい。無事で良かった」
「手ぶらで帰ってきちゃったからさ、お土産は無いんだけど、シャウキの栽培方法をいっぱい調べてきたから待っていてね」
「うん。ありがと、姉さま」
レナがルルティアのオレンジの髪を優しくなでて労わる。
後ろでは少し困ったようにアミルが佇んでいた。
ウラウの勧めもあってアミルはしばらくルルティアの家に滞在することになった。
「なんだか落ち着かないな。今からでも宿に移っても良いんだけど」
「良いの良いの。お客さまが家に泊まることなんてよくあるし、アミルが一緒の方が私も嬉しい。ただ母さまが口うるさくてごめんね」
ソワソワと所在無げなアミルにルルティアが笑いかけると、アミルは耳の端を赤くさせながらはにかんだ。
「いや、今まであんな風に心配して怒ってもらえることなんてなかったからさ、ありがたいよ」
アミルのはにかむ笑顔に胸をキュンとさせながらルルティアが見惚れていると、レナがそっと耳打ちした。
「なんだかアミルの雰囲気が変わったね」
「そうかな? うん、そうかも」
自分たちとの出会いがアミルにとって良い影響になっているんだと良いな、とルルティアは笑った。
*****
ルルティアとアミルがアイラナに戻ってきてからおおよそ半月後の満月の前の日、十の月の連絡船に乗ってアリイとヌイが帰ってきた。
眉間に深くシワを刻んだアリイの前にルルティアとアミルは並ばされている。
アリイの横にはウラウとヌイが控えている。
レナはたぶん自分の部屋で耳を澄ませていることだろう。
「ウトビアはノウスが新しく皇帝になったが、かなりしっかり根回しをしてあったようだ。メトゥスの側近らは処分されたが、ほとんど混乱もなく新体制に引き継がれた」
「へー」
ルルティアの間の抜けた合いの手をアリイがジロリとにらむ。
アリイはふぅ、と大きく息を吐いてから背もたれに身体を預けた。
「大陸統一二十周年記念行事だったはずが、新皇帝お披露目の場になってしまったな」
ルルティアたちが去った後のウトビアの様子を一通り話してから、アリイがルルティアとアミルを見て口を開く。
「さて――」
ルルティアとアミルも背筋を伸ばして居住まいを正す。
しかしアリイは不機嫌な顔で口を閉ざしたままだ。
じれて口を開きかけたルルティアをアミルが止める。
「すみません、アリイさま。これを」
アミルが机の上に一つの金の指輪を置いた。
細かい模様が彫られた太い金の指輪は、アミルの目に似た暗い夜空のような色の石が嵌め込まれていた。
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