【R18/完結】猫は魚を食べちゃいたい(※性的な意味で)〜愛され巫女の運命の番は美形で意地悪な吟遊詩人〜

河津ミネ

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四章 アミル失踪

58.九の月の連絡船-1

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 ウトビアの帝都フルフィウスの空はいつもどんよりとした厚い雲に覆われていた。
 この地は普段から雨が多く晴れる日の方が少ないという。
 そのせいか街のいたるところに川が流れていた。
 ルルティアが九の月の連絡船に乗って大陸に渡りフルフィウスに着いた時も空は曇っていた。
 街に流れる川が珍しくて、好きに泳げるのかとルルティアが川をのぞきこんだらヌイにグイと首根っこをつかんで引っ張られた。

「ルル、この川は舟が盛んに行き来しているから身を乗り出すと危ないよ」

「はぁい。ありがとう、ヌイ」

 ルルティアは身柄がバレないように大きめのフードで顔を隠していた。
 フードの隙間からキョロキョロとフルフィウスの街を眺めると、街中を大小様々な川がめぐっており、川を水路とした舟による移動が盛んに行われていた。

「この川は全部海に繋がっているのかな?」

「うん、そうだね」

 フルフィウスの街の地図を頭に思い描きながらヌイがうなずく。
 アクアさまの加護はより多くの水があるほど大きくなるので、海に繋がっている川に入れば十分な力が出せそうだ。

「ヌイも何かあったら川に飛び込んでね。私が助けるから」

「僕のことは良いからまずは自分の身を守るんだよ」

 ルルティアが耳打ちすると、ヌイが困った顔をしてフードの上からルルティアの頭をポンと叩いた。

「そろそろ宿に向かうぞ」

 アリイがヌイとルルティアに声をかけ、三人は連れだって宿に向かった。


 *****


 あの日、アリイの書斎でルルティアはアリイに強く願い出た。

「父さま! お願いがあります。私もウトビアに連れて行って!」

「お前は今までの話を聞いてなかったのか?」

 アリイは眉間に深く刻まれたシワを指先で揉むようにしながら、ルルティアをにらんだ。

「聞いてたけど、いま行かないと必ず後悔する。父さまが乗る九の月の連絡船に私も乗せてください」

「駄目だ」

 アリイは考える間も見せずに即答する。
 ルルティアは自分を抑えるように両手で自分の腕を抱きしめた。

「だって今だって私、このままウトビアまで泳いでアミルを探しに行きたいと思ってる。父さまが私のためを思って言ってくれてるのもわかる。でもダメ」

 ルルティアは潤んだ目をアリイに向けた。

「九の月まで父さまの言うことをなんでも聞く。何でもやります。だからお願い、父さま」

 ルルティアの目の縁に盛り上がった涙が今にもこぼれ落ちそうだった。
 アリイは口を引き結んで難しい顔をしたまま黙っている。

「ダメって言われたら泳いででも行く」

「ルルティア」

「本気の私とアクアさまを止められる人なんていない」

 まばたきと共にルルティアの頬の上をつーっと涙がすべり落ちた。
 ヌイがポンとルルティアの頭を叩いた。

「アリイさん。僕も行きます」

「ヌイ!?」

「僕がずっとルルと一緒にいるようにします。だから僕からもお願いします」

「でもヌイ、お医者さんのお仕事は?」

「九の月の連絡船が来るまでに今診ている患者さんを他の医者に診てもらえるように調整するよ」

 ヌイはルルティアを見て微笑むと、アリイの方に向かって真剣な顔をした。

「アリイさん、お願いします」

「父さま」

 二人に見つめられ、アリイは片手で額を押さえると大きく息を吐いた。

「ポルのこともある。アイラナから出たらアクアさまの加護を失うのではないか?」

「大丈夫……だと思う。アクアさまが嫌がってないから」

 ルルティアが本当に危ないことをしそうな時、アクアさまはルルティアを止めるように動く。
 しかしアミルに会いに行くことをアクアさまは反対なんかしないとルルティアには確信があった。

「アクアさま、良いよね?」

 アクアさまを呼び出して聞いてみると、アクアさまはプクプクと音を立てながらルルティアの周りをくるりくるりと回った。

「大丈夫だって」

「ルル、前にも言ったけれど、僕らにはそれを確認できないんだよ」

「うん、わかってる。私を信じて」

 アクアさまに関することでルルティアは嘘をつけない。
 巫女としてアクアさまの信頼を裏切るような事ができないのは精霊の愛し子としての本能のような物だった。
 ただそれを証明するすべがないので、ルルティアの言葉を信じてもらうしかなかった。書斎にしばし沈黙が落ちる。

「……このまま家出されるよりはましか。仕方ない。ヌイ、ルルティアを頼めるか」

「もちろんです」

「父さま! ありがとうございます」

 アリイがようやく折れて、危ないことはしない、ウトビアではアリイの言うことを必ず聞く、ヌイからは離れないなど色々と約束させられた。

 それからルルティアは九の月の連絡船が来るまで、出された課題をすべてこなし、巫女として大いに働き、さらにシャウキの栽培方法を調べて率先して指揮を取った。
 ヌイは別の医者に留守の間のレナのことを任せ、ルルティアもレナに心配かけないように詳しいことは告げず、ウトビアのお土産をたくさん持って帰って来るからと約束をした。
 こうしてルルティアは、アリイとヌイらと共に九の月の連絡船に乗って大陸に渡った。
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