56 / 89
四章 アミル失踪
56.小船に揺られて-1
しおりを挟む
アミルはまだ暗いうちにマラマ島から海に出た。
ある程度マラマ島を離れてもう誰にも見られることは無さそうだと確信してからバズに声をかけた。
「バズ、頼む」
姿を現したバズがニャと鳴くと、バズの身体がアミルの身体の奥に溶けていってアミルの銀髪が黒髪に変わっていく。
一体化するたびに激しい性衝動に困らされたが、それもだいぶコントロールできるようになっていた。
一体化のおかげでアミルの力は常人離れしたものとなり、船はすごい速さで波をかきわけ進んでいく。
やがて朝がやってきて夜の闇に染まっていた空が朝焼けに変わっていった。
(あぁ、ルルティアの目の色だ)
アミルを見つめる朝焼け色の美しい目を思い出す。
****
アミルと同じように精霊の加護を受けていながら、それを隠すこともなくみなに愛されているルルティア。
最初はそんな平和でのんきな姿が妬ましくて少しイラついた。
一体化の影響とはいえ、我を忘れてあんな子に自分のモノを握らせてしまったのが恥ずかしくてからかったりもした。
でもあの祭りの日、ルルティアの舞を見た時からアミルの心の中からそんな気持ちは消え失せた。
ルルティアの舞う姿はたいそう美しかった。
そこに邪心はひとかけらもなく、ルルティアがみなの幸せをただひたすらに祈っていることが伝わってきた。
鈴の音が鳴り響き、その手が宙をなめらかにただよう。
目線がアミルの上を通り過ぎていくたびに、アミルを縛り続けていた罪の意識が少しずつ溶かされていくような心地がした。
ルルティアの清らかな水のような想いがアミルの身体の中を満たしていく。
自分を赦せないでいるアミルにも幸せになって良いんだよと告げていった。
ルルティアが舞を終えると周りの人々はみな笑顔でルルティアを見上げ口々に感謝の言葉を述べていた。
周りを不幸にすることしかできない自分の力とはなんて違うんだと胸が締めつけられた。
そして舞台袖でヌイと笑い合うルルティアを見た瞬間、アミルの胸には激しい怒りにも似た感情がふつふつと湧き上がる。
(あんな俺を誘うような匂いを出して、あんなとろけたような目で俺を見つめるくせに、俺以外にそんな顔を向けないでくれ……!)
乞い願うような想いにジリジリと胸を焼かれて、アミルはやっと自分がルルティアに強く惹かれていることを自覚した。
連絡船の上でルルティアと初めて目が合った時、美しい音色と花のような甘い香りに包まれ、明るい太陽が青い海と白い砂浜を照らす光景が頭の中に映し出された。
海の中にいるはずもない可憐な少女の姿と頭の中に広がったあまりにも美しい光景に、海の魔物に魅入られたに違いないと思った。
あの時からとっくにルルティアに囚われていたというのに。
先代の魚の巫女だというパウさまに会って『ルルティアを守れ』と言われ、周りを不幸にするしかできない自分にルルティアを守れるのか? とアミルは不安になった。
俺には相応しくない、でも誰にも渡したくない、そんな感情の狭間で揺れ動いた。
ルルティアに島の案内を頼み二人で楽しい時間を過ごしていると、このままずっと一緒にいても良いような気がしてくる。
しかしすぐにそんなわけがないと心の中で打ち消す。
俺ではあんたを幸せにできないんだと告げるように、アミルは自分の罪をルルティアに話した。
バズがいない世界なんて考えられない。
バズがいてくれたおかげで今があって、それがとてつもない幸運だと思っている。
でもそのせいで周りを不幸にしてきた。
そんなグチャグチャな想いを吐き出した。
パウさまの「そこに意味なんてない」という言葉にすがるみっともない姿を見て、ルルティアは自分から離れていってしまうのだろうかとアミルは震えた。
しかしルルティアから与えられた言葉は慈愛に満ちあふれていた。
「アミルのせいじゃないよ」
アミルを優しく抱きしめるルルティアはあたたかくて柔らかくて、そして甘い匂いをさせていた。
自分を赦せないでいるアミルのことまでルルティアは赦してくれる。
一体どれだけのものを与えてくれるというのか。
(ルルティア、あんたのことが愛おしくてならない)
狂おしいほどの想いを抱えながら、アミルはこのままルルティアといくつもの朝を共に迎えたいと願った
ある程度マラマ島を離れてもう誰にも見られることは無さそうだと確信してからバズに声をかけた。
「バズ、頼む」
姿を現したバズがニャと鳴くと、バズの身体がアミルの身体の奥に溶けていってアミルの銀髪が黒髪に変わっていく。
一体化するたびに激しい性衝動に困らされたが、それもだいぶコントロールできるようになっていた。
一体化のおかげでアミルの力は常人離れしたものとなり、船はすごい速さで波をかきわけ進んでいく。
やがて朝がやってきて夜の闇に染まっていた空が朝焼けに変わっていった。
(あぁ、ルルティアの目の色だ)
アミルを見つめる朝焼け色の美しい目を思い出す。
****
アミルと同じように精霊の加護を受けていながら、それを隠すこともなくみなに愛されているルルティア。
最初はそんな平和でのんきな姿が妬ましくて少しイラついた。
一体化の影響とはいえ、我を忘れてあんな子に自分のモノを握らせてしまったのが恥ずかしくてからかったりもした。
でもあの祭りの日、ルルティアの舞を見た時からアミルの心の中からそんな気持ちは消え失せた。
ルルティアの舞う姿はたいそう美しかった。
そこに邪心はひとかけらもなく、ルルティアがみなの幸せをただひたすらに祈っていることが伝わってきた。
鈴の音が鳴り響き、その手が宙をなめらかにただよう。
目線がアミルの上を通り過ぎていくたびに、アミルを縛り続けていた罪の意識が少しずつ溶かされていくような心地がした。
ルルティアの清らかな水のような想いがアミルの身体の中を満たしていく。
自分を赦せないでいるアミルにも幸せになって良いんだよと告げていった。
ルルティアが舞を終えると周りの人々はみな笑顔でルルティアを見上げ口々に感謝の言葉を述べていた。
周りを不幸にすることしかできない自分の力とはなんて違うんだと胸が締めつけられた。
そして舞台袖でヌイと笑い合うルルティアを見た瞬間、アミルの胸には激しい怒りにも似た感情がふつふつと湧き上がる。
(あんな俺を誘うような匂いを出して、あんなとろけたような目で俺を見つめるくせに、俺以外にそんな顔を向けないでくれ……!)
乞い願うような想いにジリジリと胸を焼かれて、アミルはやっと自分がルルティアに強く惹かれていることを自覚した。
連絡船の上でルルティアと初めて目が合った時、美しい音色と花のような甘い香りに包まれ、明るい太陽が青い海と白い砂浜を照らす光景が頭の中に映し出された。
海の中にいるはずもない可憐な少女の姿と頭の中に広がったあまりにも美しい光景に、海の魔物に魅入られたに違いないと思った。
あの時からとっくにルルティアに囚われていたというのに。
先代の魚の巫女だというパウさまに会って『ルルティアを守れ』と言われ、周りを不幸にするしかできない自分にルルティアを守れるのか? とアミルは不安になった。
俺には相応しくない、でも誰にも渡したくない、そんな感情の狭間で揺れ動いた。
ルルティアに島の案内を頼み二人で楽しい時間を過ごしていると、このままずっと一緒にいても良いような気がしてくる。
しかしすぐにそんなわけがないと心の中で打ち消す。
俺ではあんたを幸せにできないんだと告げるように、アミルは自分の罪をルルティアに話した。
バズがいない世界なんて考えられない。
バズがいてくれたおかげで今があって、それがとてつもない幸運だと思っている。
でもそのせいで周りを不幸にしてきた。
そんなグチャグチャな想いを吐き出した。
パウさまの「そこに意味なんてない」という言葉にすがるみっともない姿を見て、ルルティアは自分から離れていってしまうのだろうかとアミルは震えた。
しかしルルティアから与えられた言葉は慈愛に満ちあふれていた。
「アミルのせいじゃないよ」
アミルを優しく抱きしめるルルティアはあたたかくて柔らかくて、そして甘い匂いをさせていた。
自分を赦せないでいるアミルのことまでルルティアは赦してくれる。
一体どれだけのものを与えてくれるというのか。
(ルルティア、あんたのことが愛おしくてならない)
狂おしいほどの想いを抱えながら、アミルはこのままルルティアといくつもの朝を共に迎えたいと願った
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。
水鏡あかり
恋愛
姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。
真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。
しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。
主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。
【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。
でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
かつて私を愛した夫はもういない 偽装結婚のお飾り妻なので溺愛からは逃げ出したい
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※また後日、後日談を掲載予定。
一代で財を築き上げた青年実業家の青年レオパルト。彼は社交性に富み、女性たちの憧れの的だった。
上流階級の出身であるダイアナは、かつて、そんな彼から情熱的に求められ、身分差を乗り越えて結婚することになった。
幸せになると信じたはずの結婚だったが、新婚数日で、レオパルトの不実が発覚する。
どうして良いのか分からなくなったダイアナは、レオパルトを避けるようになり、家庭内別居のような状態が数年続いていた。
夫から求められず、苦痛な毎日を過ごしていたダイアナ。宗教にすがりたくなった彼女は、ある時、神父を呼び寄せたのだが、それを勘違いしたレオパルトが激高する。辛くなったダイアナは家を出ることにして――。
明るく社交的な夫を持った、大人しい妻。
どうして彼は二年間、妻を求めなかったのか――?
勘違いですれ違っていた夫婦の誤解が解けて仲直りをした後、苦難を乗り越え、再度愛し合うようになるまでの物語。
※本編全23話の完結済の作品。アルファポリス様では、読みやすいように1話を3〜4分割にして投稿中。
※ムーンライト様にて、11/10~12/1に本編連載していた完結作品になります。現在、ムーンライト様では本編の雰囲気とは違い明るい後日談を投稿中です。
※R18に※。作者の他作品よりも本編はおとなしめ。
※ムーンライト33作品目にして、初めて、日間総合1位、週間総合1位をとることができた作品になります。
【R18】今夜、私は義父に抱かれる
umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。
一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。
二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。
【共通】
*中世欧州風ファンタジー。
*立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。
*女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。
*一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。
*ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。
※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる