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四章 アミル失踪

54.アミルの過去-2

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 そんな逃亡生活をさらに五年続けて、アミルは十歳になった。

 その頃のアミルはナビーラの真似をしてリュート弾きの見習いをしていた。
 身軽さを活かして軽業師の真似ごとをしたこともあったが、バズのことがバレると困るのですぐに辞めた。
 アミルがリュートを弾いて歌うとバズが喜ぶので、アミルはバズを喜ばせるためにたくさん練習をし、そのおかげでリュート弾きとしてどんどん上達していた。

 その年の冬、次の公演の地がラムールのすぐ近くに決まった。
 ナビーラはアミルを連れて一座を抜けるか悩んだが、その一座の居心地がかなり良かったことと、精霊についてわからない事が多すぎて少しでも何か知ることができないかと考えてナビーラは一座に残ることを選んだ。
 しかしそれが多分間違いだった。

 ナビーラとアミルがラムールの近くの地で公演の準備をしている時、その男に出会った。
 真っ直ぐの墨色の髪を腰まで伸ばし琥珀色の目をした整った顔の青年がナビーラを見て固まった。

「あなたはもしかして……」

 青年が話し終える前に、ナビーラはアミルの手を引いて逃げ出した。
 後ろから青年が引き止めようと声をかけてきていたが、ナビーラは振り向かなかった。
 そのまま身の回りの最低限の物だけ持って二人は逃げ出した。
 しかしその夜は生憎の嵐で、激しい雨と風にさらされたまま二人は真っ暗な山道をガタガタ震えながら進んだ。
 バズが安全な道を教えてくれたおかげでかろうじて遭難しないですんだ。

 そうしてなんとか小さな村に着いた時ナビーラが倒れた。
 そこは医者なんていない小さな村で、ほとんど着の身着のまままで逃げ出した二人にはお金も無く街から医者を呼ぶこともできなかった。
 村の長老に診てもらうと、ナビーラはその年に大流行していた病のせいで倒れたと言うことがわかった。
 十分な治療を受けて安静にしていれば治るはずだった。
 しかし長年の逃亡生活で弱っていたナビーラの身体は病に耐えられず、あっけなく逝ってしまった。

 ナビーラは二十歳だった。
 とても美しい人だった。
 ぜひ嫁にと乞われたこともあった。
 中にはアミルも一緒に引き取ると言ってくれた人だっていた。
 しかしナビーラはアミルの安全のためにすべて断って逃亡生活を続けた。
 幼いアミルを抱えた逃亡生活でなかったらナビーラはもっと幸せになれたはずだった。
 いつか大人になったら苦労した分も自分が幸せにしてあげるんだとアミルはずっと心に誓っていた。
 それなのに。

 アミルはナビーラの遺体にすがりついた。

「ごめん……っ。ごめんなさい姉さん……俺が……俺が……」

 俺が猫の愛し子でなければ……その言葉はバズへのひどい裏切りのようで、アミルは口にできなかった。
 自分のせいでナビーラを苦しめたのに、猫の愛し子である自分を否定することもできない。
 アミルの胸は引き裂かれるように痛み、ただ遺体に縋りついて謝り続けることしかできなかった。
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