【R18/完結】猫は魚を食べちゃいたい(※性的な意味で)〜愛され巫女の運命の番は美形で意地悪な吟遊詩人〜

河津ミネ

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二章 巫女の舞

24.アイラナでの生活-2

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 お姉さんたちとの話が終わり、じゃあね~、と手をふって別れる。

「ずいぶんとモテるのね」

「言っただろ。この顔だから昔から女によく迫られるって」

「ふーん」

「なんだよ、ルー。あんた嫉妬してんのか?」

 アミルがルルティアを見てニヤリと笑うのが腹立たしい。

「してません!」

「あれぐらい挨拶みたいなもんだろ。機嫌直せよ、ルー」

「だから違うってば! もう、アクアさま!!」

 ルルティアの周りをただよっていたアクアさまはプクリと音を立てて小さな水の球を出すとアミルの顔にピュッとぶつけた。

「うわ、冷た! 何するんだよ!!」

 往来で立ち止まって再び言い合いをしていると、向こうから背の高い見慣れた人影が近づいてきた。

「ヌイ! 往診中?」

「やぁ、ルル。君はこんなところでどうしたんだい?」

「アミルに町を案内してたの。あ、ねぇアミル。ヌイはお医者さんだから念のためケガを診てもらったら?」

「あ? ケガをしたのは二日も前だぞ?」

 自分に話をふられると思っていなかったアミルが頭の後ろで組んでいた手を解いた。
 ケガと聞いてヌイがアミルの腕を取る。

「ケガをしているのか? 君はこの前の宴にいた吟遊詩人だね」

「あの宴の後に崖から落ちたの」

「崖から!? それでこんな風に歩いて大丈夫なのか?」

「あ、えっと」

 バズのことは内緒だったのを思い出し、ルルティアがなんと言い訳しようか考えていると、アミルがやれやれと言った風に口を開いた。

「崖って言っても低かったし大してケガもしなかった。それにアクアさまの力で治してもらったから」

「アクアさまにそこまで癒しの力があるのか?」

「えっと、なんか、アミルにはよく効いたみたいで」

(うん、嘘は言ってない……はず、多分)

 最近ヌイを騙してばかりいるようでなんだか後ろめたい。

「そうそう、だからルーは俺の命の恩人なんだよな。色々と助けてもらったし。なぁ、ルー」

 アミルがルルティアの肩をポンと叩いて顔をのぞきこみながらウインクする。
 『色々』になんだか意味深なものを感じ取り、ルルティアは頬を染めて下を向いた。
 そんな二人の様子を見てヌイが眉をひそめる。
 ヌイはルルティアの手を取り自分のほうに引き寄せた。

「ルル、これからレナの診察だから一緒に帰ろう。今日の課題も終わって無いだろう」

「あ、うん。アミルは大丈夫?」

「あぁ。案内してくれてありがとな、ルー」

 じゃあまた、とヌイに手を引かれながらルルティアが後ろをふり返り大声で返すと、とアミルはひらひらと手をふっていた。


 *****


 二人になってからヌイがルルティアに尋ねた。

「あれがルルを騙している変な男かい?」

「そんなんじゃないってば!!」

 家に帰る道すがら、よく知らない人について行くんじゃないよ、とヌイが諭すように言う。

「うん。でもアクアさまが懐いてたから大丈夫だと思う」

 ルルティアは自分が周りの人たちに巫女として大切にしてもらっていることも、世間知らずなこともよく知っていた。
 でもアクアさまが自分に害を成す人を近づけるはずがない事もわかっていた。

「アクアさまの名前を出されたら確かめられない僕には何も言えないよ。ルルの言う事を信じるしかできないんだから」

「うん、わかってる。心配してくれてありがとう」

 ヌイが仕方ない、という風にルルティアの頭をポンポンと叩いた。

「最近レナの調子が良いんだ。ルルの話を楽しみに待っているよ」

「ほんと? ふふ、色々あったからなんの話からしようかな。あ、そうだ! 外の国の歌を教えてもらったから歌ってあげようかな」

「あの変な男にかい?」

「もう! 変な男じゃなくてアミルよ。ねぇ、アミルに外の国の話を聞かせてもらえないかな? レナが喜びそう!」

「……ルルはずいぶんあの男を信用しているんだね」

 ヌイが心配そうにルルティアを見つめて顔を曇らせる。

「うん……そうかも」

 アミルのことはバズの加護を受けているという事以外ほとんど何も知らない。
 いつもなら外の国から来たばかりの人をレナに会わせようなんて思わない。
 でも、アクアさまとバズの様子を見ているとアミルを悪い人だとは思えなかった。

「でもきっと悪い人じゃないよ」

 ヌイは少し思案した後、フーッとため息をついた。

「アリイさんに許可をもらえるか聞いてみよう」

「うん。ありがとう、ヌイ」

 見上げて笑うルルティアの頭をヌイがもう一度ポンと叩いた。
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