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一章 精霊の愛し子

16.バズとアクアさま-3

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 アミルを癒した後ふよふよとあたりをただよっているアクアさまのヒレに、バズがチョイチョイ手を伸ばしているのが目に入った。

「あ、バズ! アクアさまを食べないで!」

「あ? なんだよそれ」

「あなたが言ってたのよ。バズと一体化してた時に『おいしそう』とか『食べる』とかって」

「あー、アレはそういう意味じゃない」

「じゃあどういう意味?」

「ふん、お子さまにはまだ早い」

「お子さまじゃないもん。もう十八だから!」

「へぇ。もっと子どもかと思った。じゃあ俺の方があんたより歳上だな。俺は二十だ」

「二つしか違わないじゃない!」

「二つでも上は上だ」

 バカにしたようなその態度にルルティアは頰をふくらませる。

「そのお子さまにキスしたり、あ、あんなことさせたのはあなたじゃない!!」

 ルルティアの反撃にアミルがグッと息を飲む。

「アレはあんたが変な匂いさせていたせいだろ!?」

「変な……って、私、そんなのさせてないし! アミルこそ変な匂いさせてるじゃない!!」

「はぁ? 俺だってさせてねぇよ!」

 アミルが焦った様子で顔を赤くしながらルルティアをにらむと、すぐさまバズがニャアと鳴いた。

「あー、はいはい。わかったよ」

 アミルは肩をすくめて両手を広げると、口を閉じてプイと横を向いた。
 ルルティアはぶすくれたまま下を向き小さな声でポソリとつぶやいた。

「それに私の名前はあんたじゃない」

「名前? えーと、ル、ルー、なんだっけ?」

 自分ばかりがアミルの名前を覚えていたのが悔しくて、ルルティアはさらに頬を膨らませる。

「ルルティア!」

「ルルティアってまどろっこしいな。あんたはルーで充分だろ」

「なにそれ!」

 顔を上げると、ハハ、とアミルが笑った。
 銀の髪がサラリとなびき月の光を浴びてキラキラと光っている。
 ルルティアはアミルのきらびやかな姿に見惚れてしまいそうになって悔しくて目を逸らした。

「それよりあんた連絡船には乗ってなかったよな? さすがにあんたみたいなのが乗っていたらわかる。あんた、バズをいつ見たんだ?」

 アミルは途中になっていた話を思い出したようだ。

「えっと、アミルさまの力を借りると水の中で色々できるようになるの。それで泳いで連絡船を見に行って船の上にいるバズとアミルを見たんだよね」

「海から見ていた?」

 コクコクとルルティアが首を縦にふる。

「あぁ、あの時か? なんか変な感じがして海の魔物にでも魅入られたのかと思ったが……ま、似たようなもんか」

「いま私のこと魔物って言った?」

「変な匂いさせていたし、あんたやっぱり魔物だろ?」

 アミルがまたハハ、と声を上げて笑う。
 整った顔でバカにするように笑われてなんだかだんだん憎らしくなってきた。
 ルルティアが頬をめいっぱいふくらませて怒っていると、アミルは真面目な顔をしてルルティアを見つめた。

「なぁ。あんた、精霊のこと詳しいんだろ? 俺に精霊について教えてくれないか」

 いつの間にか肩の上に乗っていたバズの頭をなでながら、アミルは真剣な顔をしてルルティアに目を向けた。
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