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一章 精霊の愛し子
9.狙われたアミル-2
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アミルが夜道をあてもなく歩いていると、すぐ近くでガサと物音がしたので立ち止まった。
「よぉ」
暗闇から三人……いや四人の男が姿を現す。
連絡船の商人の一人に雇われた下っ端どもだった。
「キレイな顔で女にキャーキャー言われたからって調子乗ってんじゃねーぞ」
男のうちの一人がアミルの肩に腕を回して絡んでくる。
赤らんだ顔をしており吐く息もお酒臭い。
どうやらアミルが女性たちに騒がれていたのが面白くなかったようだ。
やはり目立つもんじゃないな、とアミルは男の吐く息から顔を背ける。
男らはウトビアからアイラナまでの長い船の旅で女に飢えていた。
しかしこの島ではむやみに女に手を出すことを固く禁じられている。
かつて島の女を手ひどく扱った男がいたらしく、怒ったアイラナの長が連絡船の往来を中止したことがあった。
島で取れる特殊な染料や鉱石がウトビアでは高値で取引されていたこともあり、件の男は雇っていた商人もろとも厳重に処罰された。
それ以来、商人たちも雇った男らが無茶をしないように厳しく管理していた。
欲求不満な男どもにとって、島の人間でもなく船の中でも新参者のアミルはうさ晴らしするのに格好の的なのだろう。
アミルは自分の肩に手を回している男をトンと突き放した。
男がよろけた隙にフッと息を吐いて飛び上がり、その勢いのまま男のアゴを素早く蹴りあげた。
男はそのままグラリと地面に倒れこんだ。
「お前! 何を!!」
残りの三人の男たちがアミルに襲いかかってくる。
一人の男が殴りかかってこようとするのを、アミルはひらりとかわして回し蹴りで地面に叩きつけた。
アミルの動きは普通の人ではあり得ないほど素早く身軽なものだった。
四対一はあっという間に二対一になった。
残り二人も酔っ払っているならば倒すのはそこまで難しくないだろう、とアミルは算段する。
二人のうちの小柄な男が飛びかかってきたので避けて背中を押して地面に転がすと、暗闇から不意に飛び出してきた手に腕を切りつけられた。
「っ!!」
アミルの服の袖が裂けて血がにじんだ。
「チッ。刃物を出すなんて俺を殺す気か!」
アミルが腕を押さえながらナイフを持った男を怒鳴りつけた。
殴り合いなら最悪船員同士の喧嘩で終わるが、殺してしまっては騒ぎになることは避けられない。
そうなれば問題を起こしたとして男らは商人もろとも罰せられることになるだろう。
そんな判断もできないくらい酔っ払っているのか、とアミルはナイフを持ったガタイの良いデカブツをにらむ。
「おい! ナイフはやばい。止めろ!!」
倒れこんでいた小柄な男が急いで身を起こすと、ナイフを持ったデカブツの男を止めようとした。
するとヒュッとデカブツの男の拳が小柄な男の顔面に炸裂し、小柄な男は鼻血を吹いてガクンと地面に膝をついてそのまま倒れた。
「なにを……」
急な仲間割れにアミルが動揺すると、その隙をついてデカブツが巨体に似合わぬ素早さでアミルの目の前から消えた。
『アミル! 後ろ!!』
アミルにだけ聞こえる声が頭の中に響く。
アミルは素早く後ろをふり返り、デカブツのナイフをギリギリでかわした。
デカブツのナイフの切っ先がアミルの肌と服を切り裂く。
「クソッ。この服気に入ってんのに」
デカブツはアミルの軽口にも反応せず、隙の無い様子でアミルから目を離さないでいる。
デカブツの動きは人を殺すことにためらいが無く、訓練されたもののように見えた。
(これは、最初から俺が狙いか……?)
デカブツは酔っ払っている様子もなく、他の男どもと違ってはっきりとアミルへの殺意があった。
どうやらアミルを狙ってごろつきに紛れて襲ってきたというのが正解のようだ。
アミルは身軽さのおかげでなんとかナイフをかわし続けているが、それでも少しずつ削られて身体のあちこちから血がにじむ。
アミルはあっという間に崖っぷちまで追い込まれてしまった。
デカブツはナイフを構えて腰を沈めると、一気に距離を詰めアミルに向かって腕を伸ばしナイフを突き刺さそうとした。
ギリギリの所でナイフをかわしてから、アミルはデカブツの攻撃を避けて高く飛び上がる。
空中でくるりと一回転して、トン、と着地したその瞬間、崖の先が崩れてアミルの足場がガラガラと海に落ちた。
「うわっ!!」
あわてて手を伸ばしてなんとか指をひっかけたが、アミルの身体はダラリと崖にぶら下がった。
デカブツがチャンスを逃すものかとアミルの手を踏んづけた。
ガツンガツンと指先を踏まれて爪が割れる。
「クッソ、いってーな!」
アミルはチラリと崖下を見た。
このまま手が離れてまっすぐ崖下に落ちると、ゴツゴツと尖った岩肌に打ちつけられてしまう。
(イケる……か?)
アミルは海までの距離を目で測る。
するとデカブツがアミルの手に向かってナイフを振りかざした。
イケる、と判断してアミルは思いきって崖から手を離した。
アミルは落ちながらクルリと向きを変えて崖下の壁を力一杯蹴とばした。
するとアミルの身体はわずかにその軌道を変えて海に向かって落ちていった。
「よぉ」
暗闇から三人……いや四人の男が姿を現す。
連絡船の商人の一人に雇われた下っ端どもだった。
「キレイな顔で女にキャーキャー言われたからって調子乗ってんじゃねーぞ」
男のうちの一人がアミルの肩に腕を回して絡んでくる。
赤らんだ顔をしており吐く息もお酒臭い。
どうやらアミルが女性たちに騒がれていたのが面白くなかったようだ。
やはり目立つもんじゃないな、とアミルは男の吐く息から顔を背ける。
男らはウトビアからアイラナまでの長い船の旅で女に飢えていた。
しかしこの島ではむやみに女に手を出すことを固く禁じられている。
かつて島の女を手ひどく扱った男がいたらしく、怒ったアイラナの長が連絡船の往来を中止したことがあった。
島で取れる特殊な染料や鉱石がウトビアでは高値で取引されていたこともあり、件の男は雇っていた商人もろとも厳重に処罰された。
それ以来、商人たちも雇った男らが無茶をしないように厳しく管理していた。
欲求不満な男どもにとって、島の人間でもなく船の中でも新参者のアミルはうさ晴らしするのに格好の的なのだろう。
アミルは自分の肩に手を回している男をトンと突き放した。
男がよろけた隙にフッと息を吐いて飛び上がり、その勢いのまま男のアゴを素早く蹴りあげた。
男はそのままグラリと地面に倒れこんだ。
「お前! 何を!!」
残りの三人の男たちがアミルに襲いかかってくる。
一人の男が殴りかかってこようとするのを、アミルはひらりとかわして回し蹴りで地面に叩きつけた。
アミルの動きは普通の人ではあり得ないほど素早く身軽なものだった。
四対一はあっという間に二対一になった。
残り二人も酔っ払っているならば倒すのはそこまで難しくないだろう、とアミルは算段する。
二人のうちの小柄な男が飛びかかってきたので避けて背中を押して地面に転がすと、暗闇から不意に飛び出してきた手に腕を切りつけられた。
「っ!!」
アミルの服の袖が裂けて血がにじんだ。
「チッ。刃物を出すなんて俺を殺す気か!」
アミルが腕を押さえながらナイフを持った男を怒鳴りつけた。
殴り合いなら最悪船員同士の喧嘩で終わるが、殺してしまっては騒ぎになることは避けられない。
そうなれば問題を起こしたとして男らは商人もろとも罰せられることになるだろう。
そんな判断もできないくらい酔っ払っているのか、とアミルはナイフを持ったガタイの良いデカブツをにらむ。
「おい! ナイフはやばい。止めろ!!」
倒れこんでいた小柄な男が急いで身を起こすと、ナイフを持ったデカブツの男を止めようとした。
するとヒュッとデカブツの男の拳が小柄な男の顔面に炸裂し、小柄な男は鼻血を吹いてガクンと地面に膝をついてそのまま倒れた。
「なにを……」
急な仲間割れにアミルが動揺すると、その隙をついてデカブツが巨体に似合わぬ素早さでアミルの目の前から消えた。
『アミル! 後ろ!!』
アミルにだけ聞こえる声が頭の中に響く。
アミルは素早く後ろをふり返り、デカブツのナイフをギリギリでかわした。
デカブツのナイフの切っ先がアミルの肌と服を切り裂く。
「クソッ。この服気に入ってんのに」
デカブツはアミルの軽口にも反応せず、隙の無い様子でアミルから目を離さないでいる。
デカブツの動きは人を殺すことにためらいが無く、訓練されたもののように見えた。
(これは、最初から俺が狙いか……?)
デカブツは酔っ払っている様子もなく、他の男どもと違ってはっきりとアミルへの殺意があった。
どうやらアミルを狙ってごろつきに紛れて襲ってきたというのが正解のようだ。
アミルは身軽さのおかげでなんとかナイフをかわし続けているが、それでも少しずつ削られて身体のあちこちから血がにじむ。
アミルはあっという間に崖っぷちまで追い込まれてしまった。
デカブツはナイフを構えて腰を沈めると、一気に距離を詰めアミルに向かって腕を伸ばしナイフを突き刺さそうとした。
ギリギリの所でナイフをかわしてから、アミルはデカブツの攻撃を避けて高く飛び上がる。
空中でくるりと一回転して、トン、と着地したその瞬間、崖の先が崩れてアミルの足場がガラガラと海に落ちた。
「うわっ!!」
あわてて手を伸ばしてなんとか指をひっかけたが、アミルの身体はダラリと崖にぶら下がった。
デカブツがチャンスを逃すものかとアミルの手を踏んづけた。
ガツンガツンと指先を踏まれて爪が割れる。
「クッソ、いってーな!」
アミルはチラリと崖下を見た。
このまま手が離れてまっすぐ崖下に落ちると、ゴツゴツと尖った岩肌に打ちつけられてしまう。
(イケる……か?)
アミルは海までの距離を目で測る。
するとデカブツがアミルの手に向かってナイフを振りかざした。
イケる、と判断してアミルは思いきって崖から手を離した。
アミルは落ちながらクルリと向きを変えて崖下の壁を力一杯蹴とばした。
するとアミルの身体はわずかにその軌道を変えて海に向かって落ちていった。
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