上 下
94 / 112
五章 元の世界

94.私の名前を呼んで-2

しおりを挟む
『マーコ』

 名前を呼ばれた気がして真子が目を開けた。
 そこはまだ暗闇の中だったが、それでも身体の下には地面があり肌が周りの空気をしっかりと感じるのでここが現実世界だとわかる。
 真子は手をギュッと握って開いてをくり返し、感覚があるのを確かめる。
 次に身体のあちこちを触って動かしてみて、怪我をしていないかを確かめた。

 暗闇に目が慣れてくると、真子がいるのは洞窟のようだとわかった。
 この前の坑道のような所ではなく、ゴツゴツした壁に天井も高く、むかし修学旅行で行った鍾乳洞に似ていた。

 真子は風の吹いてくる方に向かってみることにした。
 光る苔があるのか洞窟の壁は所々ぼんやりと光っていて、真子はそれを頼りに壁に手をつきながら少しずつ進んだ。
 行き止まりの岩壁の天井の間にわずかな隙間があって、そこから風が吹いてきていた。

 真子は試しに魔力を使ってみることにした。
 すると真子の身体が白く光り出し、魔力がどんどん溢れ出していってしまう。
 体内の魔力の河が一気に乱れたのがわかった。
 このまま魔力を使うわけにはいかない。

 真子はその場に座って瞑想して集中する。

 フェリシアにもらったバングルは壊れてしまったけれど、魔力を使う感覚はちゃんと覚えている。
 深く息を吸って吐いてを繰り返し、魔力の河の流れを妨げないようにほんの少しだけ魔力を掬うのをイメージをする。

 真子は長い時間をかけて、やっと爪の先ほどの魔力の魔力玉を作り出すことができた。
 真子は少しずつ少しずつ取り出す魔力を増やしていく。
 何度も失敗を繰り返し、そしてようやくビー玉大の魔力玉を作り出せるようになって、真子はふぅと息を吐いた。
 最近では手のひら大の魔力玉までは作り出せるようになっていたのだが、バングルの助けがない今の真子ではこれが精一杯だった。
 これ以上大きい魔力玉を作るのは無理そうだ。
 真子はビー玉大の魔力玉を作って自分に回復魔術を使った。
 少しだけれど身体の疲れが楽になった。
 幸いなことに魔力は尽きないので、真子はまた魔力玉を作り今度は伝令の蝶を作る。

 暗闇の中で真っ白な蝶をふわりと飛ばす。

「アレクのところへ」

 蝶はゆらゆらと天井の岩の隙間から外に飛んで行った。

 真子は指の先に魔力をまとわせて強化すると、カリカリと岩の壁を削った。
 魔力が薄れて指先が痛くなってくると回復魔術を使いまた指先を強化する。

 そしてふわりと蝶を飛ばす。

 真子はカリカリと壁を削り続けるが、いくら魔力で強化しているとはいえ硬い岩壁を指先で削るのは途方もなかった。
 それでも真子は壁を削り、回復魔術を使い、蝶を飛ばした。
 次第に真子の指先が痛みでジンジンしてきた。回復魔術の効果より、消耗する方が大きくなってきているのかもしれない。

 真子はまた、ふわりと蝶を飛ばす。

「アレクのところへ」

 小さな蝶の飛べる距離はほんのわずかだ。
 真子が今いるこの洞窟が、一体どの辺りにあるのかはさっぱりわからない。
 小さな蝶はアレクサンドラのところまで飛べないかもしれない。
 それでも真子はふわりと小さな白い蝶を飛ばし続けた。


 *****


 時間の感覚もなくなり朦朧とする意識の中でカリカリと岩壁を削っていると、ガラ、と上の方から音がして岩が崩れ落ちてきた。

「きゃっ!」

 真子はなんとか頭を守ったが、肩と足を痛めてしまった。
 暗くてよく見えないが触るとぬるっとした感触があるので血が出ているのかもしれない。
 真子は回復魔術を使おうとするが、ズキズキと痛みが襲い集中できない。
 真子は震える手でなんとか蝶を出して飛ばすと、そのまま痛みで意識を失った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません

冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件 異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。 ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。 「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」 でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。 それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか! ―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】 そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。 ●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。 ●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。 ●11/12番外編もすべて完結しました! ●ノーチェブックス様より書籍化します!

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

【完結】後宮の秘姫は知らぬ間に、年上の義息子の手で花ひらく

愛早さくら
恋愛
小美(シャオメイ)は幼少期に後宮に入宮した。僅か2歳の時だった。 貴妃になれる四家の一つ、白家の嫡出子であった小美は、しかし幼さを理由に明妃の位に封じられている。皇帝と正后を両親代わりに、妃でありながらほとんど皇女のように育った小美は、後宮の秘姫と称されていた。 そんな小美が想いを寄せるのは皇太子であり、年上の義息子となる玉翔(ユーシァン)。 いつしか後宮に寄りつかなくなった玉翔に遠くから眺め、憧れを募らせる日々。そんな中、影武者だと名乗る玉翔そっくりの宮人(使用人)があらわれて。 涼という名の影武者は、躊躇う小美に近づいて、玉翔への恋心故に短期間で急成長した小美に愛を囁いてくる。 似ているけど違う、だけど似ているから逆らえない。こんなこと、玉翔以外からなんて、されたくないはずなのに……――。 年上の義息子への恋心と、彼にそっくりな影武者との間で揺れる主人公・小美と、小美自身の出自を取り巻く色々を描いた、中華王朝風の後宮を舞台とした物語。 ・地味に実は他の異世界話と同じ世界観。 ・魔法とかある異世界の中での中華っぽい国が舞台。 ・あくまでも中華王朝風で、彼の国の後宮制を参考にしたオリジナルです。 ・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。 ・多分ハッピーエンド。 ・R18シーンがあるので、未成年の方はお控えください。(該当の話には*を付けます。

処理中です...