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五章 元の世界
90.ヘレナの復讐-3
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アレクサンドラが部屋の中に入った瞬間、部屋中真っ暗に染まったその闇の中に真子がズブと飲み込まれていくところだった。
「マーコ!」
アレクサンドラが手を伸ばしたが、その手が真子を掴む前に真子の姿は闇の中に消えた。
『ふふ、ふふふ、あはははは』
女が狂ったように笑い出し笑い声が狭い部屋の中で響く。
そこには目隠しをした白い髪の少女ヘレナがいた。
アレクサンドラは素早くヘレナの首に剣を当てる。
「マーコをどこへやったの!?」
『私からディーを奪ったお前の一番大切なものを、私が奪ってやる』
部屋中に広がる黒い影から腕が伸びてアレクサンドラに襲いかかる。
瞬間、フェリシアが部屋中に眩い光を放ちヘレナの影をすべて打ち消した。
『おぬしの魔術は封じた。観念しろ』
『チッ』
フェリシアがヤドナの言葉を駆使してヘレナに話しかけると、ヘレナはフェリシアを苦々しげににらみつけた。
しかしすぐにアレクサンドラの方に顔を向けるとぐにゃりと顔を歪ませて笑った。
その瞬間、ヘレナは糸の切れた操り人形のように身体中の力が抜けくたりと床に倒れこんだ。
ヘレナの姿はみるみるうちに変化していった。
頬はそげ、肌は艶を失ってシワがより、目が落ち窪んでいく。
「ヤドナの秘術か!」
「回復を!」
アレクサンドラがジェーンに叫び、ジェーンがヘレナに駆け寄る。
「団長、回復を受け付けません!」
「絶対死なせないで!」
ジェーンとフェリシアがヘレナの横に座り込み、ヘレナをなんとか助けようと回復魔術を駆使する。
真子の行方の手がかりを掴むまでヘレナを死なせるわけにはいかなかった。
カイラが身体から大量の黒い煙を出し、それらが一気に王宮内を駆け巡り真子の姿を探した。
「王宮内にはいないわ」
「カイラ! アタシを隙間の世界に連れて行って!!」
アレクサンドラがカイラの肩を掴んだ。
あの黒い影がかつてアレクサンドラと真子を飲み込んだ物と同じならば行き先は隙間の世界かもしれない。
カイラが苦々しい様子で答える。
「あそこは時間も場所も関係ないから、同じところに行けるわけじゃないのよ」
「カイラ。精度を落として構わんから王都中に煙を広げて探せ。集中するのに祈りの部屋を使え。シルヴィオもつきそって行け」
「はい」
カイラとシルヴィオがフェリシアの指示を聞いて星見の塔の祈りの部屋に向かって走り去った。
二人の後ろ姿を見送りながらマリーベルがぼそりとつぶやく。
「もしかしてマコちゃん、元の世界に戻ったんじゃ……」
「バカなこと言わないで!」
アレクサンドラが唇を噛み、拳を強く握りしめながら身体を震わせた。
「アタシが必ずマーコを見つけてみせる……!!」
「バングルが有ればまだわかったんだがな」
フェリシアが床に落ちたバングルの欠片にちらと目をやった。
フェリシアは騒ぎを聞いて集まって来た人に命令してヘレナを星見の塔の医務室に運ばせた。
マリーベルが手伝い、ジェーンとフェリシアも一緒に医務室に向かう。
フェリシアがアレクサンドラの肩を叩いた。
「カイラの結果が出るまでおぬしは待機していろ」
一人小部屋に残されたアレクサンドラは、床に散らばっていたバングルの欠片を拾い集めた。
そして月の宮の真子の部屋に向かうと、テーブルの上に集めたバングルの欠片をそっと並べた。
アレクサンドラはベッドサイドに跪き、ベッドに腕を乗せて祈るようにして頭を垂れた。
「マーコ、マーコ……っ!!」
ベッドからは真子の甘い香りが漂っている。
今朝まで隣り合って一緒に寝ていたその温もりが、まだ残っているような気がする。
もう少し早く到着していれば――。
もっと早く訓練を終えていれば――。
マーコに迎えに来てもらっていなければ――。
アレクサンドラの脳裏にはいくつもの後悔が次々と浮かんでくる。
どれくらいそうしていただろうか。
気づくと真子の部屋は暗くなり、カーテンが引かれていない窓からはふたつの月の光が差し込んでいた。
カーテンを引こうと窓に近づいて月の光を浴びた瞬間、チリ、とどこか遠くでほんのわずかに真子の気配を感じた。
「ブレスレット!!」
それはアレクサンドラがかつて真子に渡したブレスレットからの気配だった。
「マーコ!」
アレクサンドラが手を伸ばしたが、その手が真子を掴む前に真子の姿は闇の中に消えた。
『ふふ、ふふふ、あはははは』
女が狂ったように笑い出し笑い声が狭い部屋の中で響く。
そこには目隠しをした白い髪の少女ヘレナがいた。
アレクサンドラは素早くヘレナの首に剣を当てる。
「マーコをどこへやったの!?」
『私からディーを奪ったお前の一番大切なものを、私が奪ってやる』
部屋中に広がる黒い影から腕が伸びてアレクサンドラに襲いかかる。
瞬間、フェリシアが部屋中に眩い光を放ちヘレナの影をすべて打ち消した。
『おぬしの魔術は封じた。観念しろ』
『チッ』
フェリシアがヤドナの言葉を駆使してヘレナに話しかけると、ヘレナはフェリシアを苦々しげににらみつけた。
しかしすぐにアレクサンドラの方に顔を向けるとぐにゃりと顔を歪ませて笑った。
その瞬間、ヘレナは糸の切れた操り人形のように身体中の力が抜けくたりと床に倒れこんだ。
ヘレナの姿はみるみるうちに変化していった。
頬はそげ、肌は艶を失ってシワがより、目が落ち窪んでいく。
「ヤドナの秘術か!」
「回復を!」
アレクサンドラがジェーンに叫び、ジェーンがヘレナに駆け寄る。
「団長、回復を受け付けません!」
「絶対死なせないで!」
ジェーンとフェリシアがヘレナの横に座り込み、ヘレナをなんとか助けようと回復魔術を駆使する。
真子の行方の手がかりを掴むまでヘレナを死なせるわけにはいかなかった。
カイラが身体から大量の黒い煙を出し、それらが一気に王宮内を駆け巡り真子の姿を探した。
「王宮内にはいないわ」
「カイラ! アタシを隙間の世界に連れて行って!!」
アレクサンドラがカイラの肩を掴んだ。
あの黒い影がかつてアレクサンドラと真子を飲み込んだ物と同じならば行き先は隙間の世界かもしれない。
カイラが苦々しい様子で答える。
「あそこは時間も場所も関係ないから、同じところに行けるわけじゃないのよ」
「カイラ。精度を落として構わんから王都中に煙を広げて探せ。集中するのに祈りの部屋を使え。シルヴィオもつきそって行け」
「はい」
カイラとシルヴィオがフェリシアの指示を聞いて星見の塔の祈りの部屋に向かって走り去った。
二人の後ろ姿を見送りながらマリーベルがぼそりとつぶやく。
「もしかしてマコちゃん、元の世界に戻ったんじゃ……」
「バカなこと言わないで!」
アレクサンドラが唇を噛み、拳を強く握りしめながら身体を震わせた。
「アタシが必ずマーコを見つけてみせる……!!」
「バングルが有ればまだわかったんだがな」
フェリシアが床に落ちたバングルの欠片にちらと目をやった。
フェリシアは騒ぎを聞いて集まって来た人に命令してヘレナを星見の塔の医務室に運ばせた。
マリーベルが手伝い、ジェーンとフェリシアも一緒に医務室に向かう。
フェリシアがアレクサンドラの肩を叩いた。
「カイラの結果が出るまでおぬしは待機していろ」
一人小部屋に残されたアレクサンドラは、床に散らばっていたバングルの欠片を拾い集めた。
そして月の宮の真子の部屋に向かうと、テーブルの上に集めたバングルの欠片をそっと並べた。
アレクサンドラはベッドサイドに跪き、ベッドに腕を乗せて祈るようにして頭を垂れた。
「マーコ、マーコ……っ!!」
ベッドからは真子の甘い香りが漂っている。
今朝まで隣り合って一緒に寝ていたその温もりが、まだ残っているような気がする。
もう少し早く到着していれば――。
もっと早く訓練を終えていれば――。
マーコに迎えに来てもらっていなければ――。
アレクサンドラの脳裏にはいくつもの後悔が次々と浮かんでくる。
どれくらいそうしていただろうか。
気づくと真子の部屋は暗くなり、カーテンが引かれていない窓からはふたつの月の光が差し込んでいた。
カーテンを引こうと窓に近づいて月の光を浴びた瞬間、チリ、とどこか遠くでほんのわずかに真子の気配を感じた。
「ブレスレット!!」
それはアレクサンドラがかつて真子に渡したブレスレットからの気配だった。
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