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五章 元の世界

84.執務室-1※

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 朝の気配を感じて目を開けると、部屋はもう明るくなり始めていた。
 目の前にはアレクサンドラの胸板があり、真子を抱え込むようにして眠っている。

(少し隈ができている。昨日、疲れていたのに無理させちゃったかな……)

 真子がアレクサンドラの寝顔を眺めていると、アレクサンドラが小さく身震いをしてからゆっくり目を開けた。
 金色の目が真子の姿を捉えると優しく微笑んだ。

「おはよう、マーコ」

 寝起きの少し掠れた声が色っぽくて、真子は昨晩の情事と積極的だった自分を思い出して急に恥ずかしくなった。

「昨日は、あの……」

「ふふ。約束、楽しみにしているわね」

 金色の目が嬉しそうに細められる。
 約束……? と少し考えてから、昨晩のベッドでの「次はアレクが気持ちよくなって」の約束を思い出して真子は一気に顔を赤くした。
 アレクサンドラはそんな真子を眺めて額にキスをすると、ベッドから起き上がった。

「さて、今日も頑張るわよ」

 伸びをした後に両手で赤い髪をかき上げたアレクサンドラの顔が眩しくて、真子はしばらく見惚れてしまった。
 化粧をバッチリ決めた美しいアレクサンドラの姿も、雄々しくてカッコいいアレクセイの姿も好きだけど、こうして素顔で自然体でいる姿も好きだなぁ、と真子はドキドキする胸を押さえながら見つめた。


*****


 もう時刻は夕方で真子は月の宮に帰るところだった。
 アレクサンドラの執務室のドアをノックして、返事を待ってから真子はピョコンとドアから中を覗いた。

「アーレク!」

「マーコ。どうしたの?」

「今日も月の宮に泊まるのかなって。フェリシア様がしばらくはいつでも泊まって良いって」

「そうね、今日も泊まらせてもらうわ」

「わかった! 今日も帰りは遅いの?」

「今日はもう終わるから一緒に帰りましょうか。少しだけ待っていてもらえる?」

「うん!」

 真子は執務室のソファに腰掛けると、アレクサンドラが机に向かって書類仕事をしているのを眺めていた。
 そんなに前のことではないはずなのに、魔術騎士団で手伝いをしていた頃が懐かしく思い出される。
 ふとアレクサンドラのペンを持つスラリと長い指先が目に入った。

(綺麗な指……。でも鍛えているからか、結構ゴツゴツして硬いんだよね)

 自分に触れる時のアレクサンドラの手つきを思い出してしまい、真子の頬に熱が集まった。

「ちょっと待っていてね」

 アレクサンドラが書類を持って執務室を出ていきまたすぐに戻ってきた。
 しばらくドアの前で立ち止まってから、真子の方に向き直りソファに座っている真子の手を取った。

「もう終わり?」

「ええ。マーコ、こちらにいらっしゃい」

 真子を立ち上がらせて机の方に誘って寄りかからせると、アレクサンドラは真子の前に立って囲うように机に両手をついた。
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