43 / 112
三章 街角の襲撃
43.大怪我-3
しおりを挟む
時間の感覚も全てが曖昧になる暗闇の中で、次に浮上したらそこは王宮の門のすぐ近くだった。
「カイラ様、おかえりなさい」
カイラがそこに現れるのがわかっていたように、門の前には人が待機していた。
星見の塔の魔術士のローブを身にまとっている人の他に、真子が普段あまり見ない制服を身につけている人も何人かいた。
「マリーベルを早く星見の塔の医務室へ」
カイラの指示の通りに、マリーベルは用意されていた担架に乗せられて素早く運ばれていった。
「マコも早く着替えた方が良いわ」
真子の方に向き直ったカイラはひどい顔色をしていた。
カイラはふらっとよろけて壁にドンと手をつくと、真っ青な顔で額にいくつもの大粒の汗を浮かべたまま苦しそうに顔を歪ませた。
「カイラさん!?」
「ハァ……大丈夫、ただの魔力切れよ……」
そのまま壁に肩をつけて寄りかかると、目をつぶってズルズルと身体を床まで沈み込ませた。
「あ、じゃあ、私の魔力を」
真子が慌ててカイラに触れようとしたが、カイラが険しい顔でにらみながら真子の手をふり払う。
「いらないわ」
「でも」
「私のは休めば治るから……。ふぅ……。マコ。もし、あなたが、魔力切れを起こしたら、どうなるか……ハァ……それは、誰にも、わからないの……」
カイラが眉間に深い皺を寄せ、苦しげな呼吸の合間に少しずつ声をはき出す。
真子はカイラの身体を支えようとして脇に手を差し入れた。
「簡単に、魔力付与をしては、いけない……。あなたを、この世界に、繋ぎ止めているのが、その魔力……なら……魔力切れを、起こしたら、この世界から……はじき出されてしまうかも……」
カイラはそのまま意識を失うと真子の方に倒れ込んだ。
「カイラさん!!」
真子が必死にカイラの大きな身体を支えていると、先ほどマリーベルを運んでくれた見慣れぬ制服の人たちが数人戻ってきてくれた。
「カイラ様!」
「あ、あの、魔力切れになったみたいで……」
「そうなるだろうとの報告は受けております。我々がお部屋まで運びますのでご安心ください」
制服を着たうちの一人の男性が指示を出し、テキパキとカイラを担架に乗せて運ぶ準備をしていく。
「あなたにお怪我はありませんか?」
男性は真子の様子を心配そうに見た。
真子は自分の手と服にマリーベルの血が赤黒くなってベッタリとはり付いていることに気づいた。
「あ、これ、私の怪我じゃないので大丈夫です」
「そうですか」
男性の指示でカイラが担架で運ばれていったのを見送って、真子はどこかで手を洗ったり着替えたりしようとした。
アレクサンドラの執務室になら真子の着替えがあるはずだ。
執務室の続き部屋にある仮眠室にはシャワーもある。
でもアレクサンドラがいつ戻ってくるかわからず、今はまだアレクサンドラと顔を合わせたくなくて真子は執務室に向かうのをやめた。
(マリーベルちゃんを星見の塔の医務室に運ぶって言っていたし、近くまで行けば何か様子がわかるかもしれない)
真子は星見の塔に足を向けたが、自分の血まみれの服を見て医務室に向かう格好では無いと思い直す。
誰かに会って何かを説明するのも面倒で、こっそりと階段を昇り「祈りの部屋」に向かった。
部屋の扉を開けると中には誰もおらず、カーテンも閉められていて薄暗かった。
真子は祭壇の前で足を抱えて座り込み、マリーベルの無事を祈った。
真子をかばってマリーベルが怪我をして、真子はそれをなんとか助けたくて魔力付与をしようとしたのにアレクサンドラには止められてしまった。
(私はマリーベルちゃんを助けたかっただけなのに。じゃあどうすれば良かったの……?)
真子は祭壇の前でポロポロと涙をこぼした。
「何をしている?」
扉の方から誰かの声がして、真子は顔を上げた。
祈りの部屋の扉の所には見覚えのない美しい青年が立っていた。
「カイラ様、おかえりなさい」
カイラがそこに現れるのがわかっていたように、門の前には人が待機していた。
星見の塔の魔術士のローブを身にまとっている人の他に、真子が普段あまり見ない制服を身につけている人も何人かいた。
「マリーベルを早く星見の塔の医務室へ」
カイラの指示の通りに、マリーベルは用意されていた担架に乗せられて素早く運ばれていった。
「マコも早く着替えた方が良いわ」
真子の方に向き直ったカイラはひどい顔色をしていた。
カイラはふらっとよろけて壁にドンと手をつくと、真っ青な顔で額にいくつもの大粒の汗を浮かべたまま苦しそうに顔を歪ませた。
「カイラさん!?」
「ハァ……大丈夫、ただの魔力切れよ……」
そのまま壁に肩をつけて寄りかかると、目をつぶってズルズルと身体を床まで沈み込ませた。
「あ、じゃあ、私の魔力を」
真子が慌ててカイラに触れようとしたが、カイラが険しい顔でにらみながら真子の手をふり払う。
「いらないわ」
「でも」
「私のは休めば治るから……。ふぅ……。マコ。もし、あなたが、魔力切れを起こしたら、どうなるか……ハァ……それは、誰にも、わからないの……」
カイラが眉間に深い皺を寄せ、苦しげな呼吸の合間に少しずつ声をはき出す。
真子はカイラの身体を支えようとして脇に手を差し入れた。
「簡単に、魔力付与をしては、いけない……。あなたを、この世界に、繋ぎ止めているのが、その魔力……なら……魔力切れを、起こしたら、この世界から……はじき出されてしまうかも……」
カイラはそのまま意識を失うと真子の方に倒れ込んだ。
「カイラさん!!」
真子が必死にカイラの大きな身体を支えていると、先ほどマリーベルを運んでくれた見慣れぬ制服の人たちが数人戻ってきてくれた。
「カイラ様!」
「あ、あの、魔力切れになったみたいで……」
「そうなるだろうとの報告は受けております。我々がお部屋まで運びますのでご安心ください」
制服を着たうちの一人の男性が指示を出し、テキパキとカイラを担架に乗せて運ぶ準備をしていく。
「あなたにお怪我はありませんか?」
男性は真子の様子を心配そうに見た。
真子は自分の手と服にマリーベルの血が赤黒くなってベッタリとはり付いていることに気づいた。
「あ、これ、私の怪我じゃないので大丈夫です」
「そうですか」
男性の指示でカイラが担架で運ばれていったのを見送って、真子はどこかで手を洗ったり着替えたりしようとした。
アレクサンドラの執務室になら真子の着替えがあるはずだ。
執務室の続き部屋にある仮眠室にはシャワーもある。
でもアレクサンドラがいつ戻ってくるかわからず、今はまだアレクサンドラと顔を合わせたくなくて真子は執務室に向かうのをやめた。
(マリーベルちゃんを星見の塔の医務室に運ぶって言っていたし、近くまで行けば何か様子がわかるかもしれない)
真子は星見の塔に足を向けたが、自分の血まみれの服を見て医務室に向かう格好では無いと思い直す。
誰かに会って何かを説明するのも面倒で、こっそりと階段を昇り「祈りの部屋」に向かった。
部屋の扉を開けると中には誰もおらず、カーテンも閉められていて薄暗かった。
真子は祭壇の前で足を抱えて座り込み、マリーベルの無事を祈った。
真子をかばってマリーベルが怪我をして、真子はそれをなんとか助けたくて魔力付与をしようとしたのにアレクサンドラには止められてしまった。
(私はマリーベルちゃんを助けたかっただけなのに。じゃあどうすれば良かったの……?)
真子は祭壇の前でポロポロと涙をこぼした。
「何をしている?」
扉の方から誰かの声がして、真子は顔を上げた。
祈りの部屋の扉の所には見覚えのない美しい青年が立っていた。
0
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません
冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件
異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。
ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。
「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」
でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。
それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか!
―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】
そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。
●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。
●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。
●11/12番外編もすべて完結しました!
●ノーチェブックス様より書籍化します!
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~
一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。
だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。
そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
黒豹の騎士団長様に美味しく食べられました
Adria
恋愛
子供の時に傷を負った獣人であるリグニスを助けてから、彼は事あるごとにクリスティアーナに会いにきた。だが、人の姿の時は会ってくれない。
そのことに不満を感じ、ついにクリスティアーナは別れを切り出した。すると、豹のままの彼に押し倒されて――
イラスト:日室千種様(@ChiguHimu)
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
【R18】騎士団長は××な胸がお好き 〜胸が小さいからと失恋したら、おっぱいを××されることになりました!~
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
「胸が小さいから」と浮気されてフラれた堅物眼鏡文官令嬢(騎士団長補佐・秘書)キティが、真面目で不真面目な騎士団長ブライアンから、胸と心を優しく解きほぐされて、そのまま美味しくいただかれてしまう話。
※R18には※
※ふわふわマシュマロおっぱい
※もみもみ
※ムーンライトノベルズの完結作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる