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三章 街角の襲撃

43.大怪我-3

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 時間の感覚も全てが曖昧になる暗闇の中で、次に浮上したらそこは王宮の門のすぐ近くだった。

「カイラ様、おかえりなさい」

 カイラがそこに現れるのがわかっていたように、門の前には人が待機していた。
 星見の塔の魔術士のローブを身にまとっている人の他に、真子が普段あまり見ない制服を身につけている人も何人かいた。

「マリーベルを早く星見の塔の医務室へ」

 カイラの指示の通りに、マリーベルは用意されていた担架に乗せられて素早く運ばれていった。

「マコも早く着替えた方が良いわ」

 真子の方に向き直ったカイラはひどい顔色をしていた。
 カイラはふらっとよろけて壁にドンと手をつくと、真っ青な顔で額にいくつもの大粒の汗を浮かべたまま苦しそうに顔を歪ませた。

「カイラさん!?」

「ハァ……大丈夫、ただの魔力切れよ……」

 そのまま壁に肩をつけて寄りかかると、目をつぶってズルズルと身体を床まで沈み込ませた。

「あ、じゃあ、私の魔力を」

 真子が慌ててカイラに触れようとしたが、カイラが険しい顔でにらみながら真子の手をふり払う。

「いらないわ」

「でも」

「私のは休めば治るから……。ふぅ……。マコ。もし、あなたが、魔力切れを起こしたら、どうなるか……ハァ……それは、誰にも、わからないの……」

 カイラが眉間に深い皺を寄せ、苦しげな呼吸の合間に少しずつ声をはき出す。
 真子はカイラの身体を支えようとして脇に手を差し入れた。

「簡単に、魔力付与をしては、いけない……。あなたを、この世界に、繋ぎ止めているのが、その魔力……なら……魔力切れを、起こしたら、この世界から……はじき出されてしまうかも……」

 カイラはそのまま意識を失うと真子の方に倒れ込んだ。

「カイラさん!!」

 真子が必死にカイラの大きな身体を支えていると、先ほどマリーベルを運んでくれた見慣れぬ制服の人たちが数人戻ってきてくれた。

「カイラ様!」

「あ、あの、魔力切れになったみたいで……」

「そうなるだろうとの報告は受けております。我々がお部屋まで運びますのでご安心ください」

 制服を着たうちの一人の男性が指示を出し、テキパキとカイラを担架に乗せて運ぶ準備をしていく。

「あなたにお怪我はありませんか?」

 男性は真子の様子を心配そうに見た。
 真子は自分の手と服にマリーベルの血が赤黒くなってベッタリとはり付いていることに気づいた。

「あ、これ、私の怪我じゃないので大丈夫です」

「そうですか」

 男性の指示でカイラが担架で運ばれていったのを見送って、真子はどこかで手を洗ったり着替えたりしようとした。
 アレクサンドラの執務室になら真子の着替えがあるはずだ。
 執務室の続き部屋にある仮眠室にはシャワーもある。
 でもアレクサンドラがいつ戻ってくるかわからず、今はまだアレクサンドラと顔を合わせたくなくて真子は執務室に向かうのをやめた。

(マリーベルちゃんを星見の塔の医務室に運ぶって言っていたし、近くまで行けば何か様子がわかるかもしれない)

 真子は星見の塔に足を向けたが、自分の血まみれの服を見て医務室に向かう格好では無いと思い直す。
 誰かに会って何かを説明するのも面倒で、こっそりと階段を昇り「祈りの部屋」に向かった。
 部屋の扉を開けると中には誰もおらず、カーテンも閉められていて薄暗かった。
 真子は祭壇の前で足を抱えて座り込み、マリーベルの無事を祈った。

 真子をかばってマリーベルが怪我をして、真子はそれをなんとか助けたくて魔力付与をしようとしたのにアレクサンドラには止められてしまった。

(私はマリーベルちゃんを助けたかっただけなのに。じゃあどうすれば良かったの……?)

 真子は祭壇の前でポロポロと涙をこぼした。

「何をしている?」

 扉の方から誰かの声がして、真子は顔を上げた。
 祈りの部屋の扉の所には見覚えのない美しい青年が立っていた。
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