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二章 ここにいる証

26.告白-2

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 アレクサンドラを見て、マリーベルはあわてて真子を抱きしめている手を放した。

「仕事中よ。そういうことは後にしなさい」

「はい! すみません」

 マリーベルはアレクサンドラに勢いよく頭を下げた。

「ごめんね、マコちゃん。答えはすぐじゃなくて良いから」

 すれ違い様に真子の耳にそう囁いてマリーベルは去っていった。
 その場に二人で残されたが、アレクサンドラは黙ったまま何も言ってくれない。
 アレクサンドラが執務室に向かって歩き出したので、真子も急いで後ろをついていく。
 執務室に入り机に向かうと、アレクサンドラはそのまま書類仕事を始めた。

 真子はいたたまれなくなって口を開いた。

「さっきの聞いていた?」

 アレクサンドラは目の前の書類から顔を上げずに応える。

「そうね。悪いけど、聞こえてしまったわ」

「……アレクサンドラさんはどう思う?」

「どうって?」

 やはりアレクサンドラは下を向いたままで真子の方を見てくれない。
 真子はだんだん悲しい気持ちになってきた。

「アレクサンドラさんは何も言ってくれないの?」

 ようやく顔を上げたアレクサンドラが真子を真っ直ぐに見つめて言った。

「マーコがどうしたいかが大事だと思っているわ」

「そんな……!」

 執務室内に沈黙が訪れ、アレクサンドラのペンを走らせる音だけが響く。

「私、借りた本を返してくる」

 図書室で借りた本を手に取って真子は執務室を飛び出した。

(アレクサンドラさん、私に、あんな、あんな恥ずかしい事いっぱいしたのに……!!)

 アレクサンドラの返事がショックで、真子は図書館に向かって早足で歩いた。
 そのうちスピードをだんだんと緩めて、真子はとうとう立ち止まってしまった。

(今までのは全部、私が落ち込んでいたからなぐさめてくれただけなの?)

 前から来たジェーンが立ち止まっている真子に気づいた。

「あら、マコ? どうしたの?」

 ジェーンの顔を見た瞬間、真子の目からポロリと涙がこぼれた。
 真子の涙を見たジェーンは急いで真子に近づき肩に手を置いた。

「マコ? 何があったの?」

「あ、何でもない」

 真子はあわて手のひらで涙を拭う。

「誰かに何かされた?」

「ううん。何でもないから大丈夫。あの、目にゴミが入ったみたい」

 ジェーンは少し考えるそぶりをしてからつぶやいた。

「団長?」

 真子は下を向いて黙り込んだ。

「マリーベル?」

 真子はジェーンの言葉に肩をピクリと反応させて、顔を赤くした。

「……なるほど」

 ジェーンが一人で何かを納得している。

「マコ。今日は私と夜遊びしない?」

「え?」

「仕事が終わったら迎えに行くわね」

 ジェーンはそう言って、真子の肩をポンポンと叩いた。


 *****


 真子は執務室に戻ってからもアレクサンドラとうまく会話できず、気まずい時間を過ごした。
 そして仕事終わりになると、先ほど言った通りにジェーンが迎えにきた。
 ジェーンは真子の手を取りさっさと帰る準備をしていく。

「さ、マコ。行くわよ!」

「えっと、どこに?」

「今夜は私とデートしましょう」

「ジェーン、どういうこと?」

「たまにはマコも夜遊びしたいかなって。今日は私が面倒見てあげる。ちゃんと明日の朝にはここに連れてくるから良いでしょ?」

 アレクサンドラがジェーンの腕を掴んでにらみつける。

「あら、心配しなくてもマコに手は出さないわよ」

「ジェーン、マーコに何もしないとふたつの月に誓ってくれる?」

 ジェーンはしばらくアレクサンドラを見つめてから、肩をすくめてクスリと笑ってアレクサンドラの腕を外した。

「えぇ、ふたつの月に誓って」

 ジェーンはアレクサンドラの肩に手を置くと顔を寄せて耳打ちした。

「そんな顔をするならさっさと自分のモノにしちゃえば良いのに」

「……アタシからは手は出せないもの」

 アレクサンドラはジェーンの耳にだけ届くくらいの大きさでつぶやきふいと横を向いた。
 ジェーンはアレクサンドラの顔をジロジロ眺めた。

「ふーん。まぁいいわ。さ、マコ。行きましょ!」

 二人の様子を心配そうに眺めていた真子は、ジェーンに手を引かれながら執務室を後にした。
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