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一章 白い光に包まれて

4.私の気持ち-2

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 森の中の細い道をゆっくりと進み、その日の夜は森の中の少し開けた場所で野宿することになった。
 アレクサンドラが手から赤い光の玉を出して集めた枯れ木に火をつけ、それを囲むようにして皆で座った。
 逃走を防ぐのが目的なのか、真子は座ったアレクサンドラの足の上に座らされていた。

「それにしても変わった格好しているわね」

 干した芋のような携帯食と水を分けてもらって真子がもぐもぐと口を動かしていたら、アレクサンドラが真子のパーカーのフードの部分を持って上下にパタパタと動かした。
 真子が周りを見回すと騎士団の皆は似たような恰好をしていてた。
 ハイネックで脇に大きなスリットのある膝下丈のワンピースのような上衣と、その下にズボン型の下衣を穿いていた。
 それはチャイナドレスやアオザイのような形をしていた。
 そしてその上にはフード付きのマントを羽織っている。
 着ている服はどれもカラフルな糸で複雑な模様が刺繍されているのが印象的だった。
 真子が借りた下衣にも裾や脇に幾何学模様の刺繍がしてあり、また靴下にも小さく刺繍がしてあった。

 真子が刺繍を指でなぞっているとアレクサンドラが笑って覗き込んできた。

「なぁに? それが気になるの?」

「あ、えっと、うん」

「その糸には魔力が込められていてね、模様と合わせると色々な効果があるのよ。これは魔術避けの模様ね。ま、効果は簡単なまじない程度だけど」

「魔力……。あの、さっきの光る玉みたいなのが魔力?」

「そうよ。マーコは魔力を知らないの?」

 真子が小さくうなずくと、アレクサンドラは不思議そうな顔をした。

「さっきの白い光はマーコの魔力だと思ったんだけど違ったのかしら?」

「わかんない」

「そう」

 アレクサンドラと真子の会話を聞いていたシルヴィオが口をはさんだ。

「王宮に着いたらマコさんの魔力の測定をしてみましょうか」

「そうね、それが良いわ」

 皆と少しずつ話をしてみると、真子のことをマーコと呼ぶのはアレクサンドラだけで、他の皆はマコと呼んでいた。
 シルヴィオを見ると、シルヴィオは他の四人に比べて身体のラインが出ない服を着ていて、上衣の丈も短めで腰に太いベルトを締めている。

「あの、シルヴィオさんは男の人なの? あんまり綺麗だから女の人かと思った」

 真子の言葉を受けてシルヴィオは優美に微笑んだ。
 そのあまりの美しさに真子は思わず見惚れてしまった。
 透き通るような白い肌にサラサラの銀色の髪、そして薄紫の目は物語に出てくるエルフや妖精のようで、とりあえずものすごく美形なのは確かだった。

「ちょっと、シルヴィオは駄目よ」

 真子のポーッとした様子に、カイラがシルヴィオの首に手を回しながら真子をにらみつけた。
 カイラの鋭い赤い目でにらまれるとすごく迫力があって、真子は身震いした。

(美人が本気でにらむの怖い……)

 真子はアレクサンドラの足の上で身じろぎする。

「こら、怖がらせないの」

 アレクサンドラが注意したがカイラはツンと横を向いた。


 *****


 食事が終わり明日の行程を打ち合わせして火の始末をすると、それぞれが自分の馬の元に行き眠りにつく準備をする。

「マーコ、いらっしゃい」

 アレクサンドラは真子の手を引いて赤い馬の横まで来ると、座って両手を広げた。
 真子がさっきまでのようにアレクサンドラの足の上に座ると、アレクサンドラは真子をマントに包むようにしてギュッと抱きしめた。

「ねぇ、マーコはどうしたい?」

「え?」

「このまま王宮に行くとして、そこでマーコがどうなるのかはまだわからないわ。悪いようにはされないと思うけど、それでもアタシはできるだけマーコの希望を聞いてあげたいと思っているの。だからマーコがこれからどうしたいのか、アタシに教えてくれない?」

「そう言われても……。私、なんでこんなことになっているかわからないし、言われた通りにするしか……」

「マーコ。自分のことは自分で決めないと、自分の本当の気持ちがわからなくなってしまうわよ」

「自分の本当の気持ち?」

「ええ。あらためて言うわ。マーコ、あなたはどうしたい?」

 アレクサンドラは金色の目でまっすぐに真子の目を覗き込んだ。
 そこには眉をひそめて悩む、小さな真子の姿が映っていた。

「私、私の気持ち……」

「明日には町に着いて、明後日には王都に着くから、それまでにどうしたいか教えてくれる?」

 答えられないでいる真子に、アレクサンドラは金色の目を優しく細めて尋ねた。
 真子はアレクサンドラの腕の中でこくんと小さくうなずいた。
 そのまま優しく抱きしめられ、真子はアレクサンドラの香りに包まれた。
 それはなんだかお日様なような匂いがした。
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