【R18/完結】オネエの騎士に溺愛されています〜家の階段から落ちた先は美女の騎士団の頭の上で!?〜

河津ミネ

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一章 白い光に包まれて

1.白い光に包まれて-1

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(あ、死んだ)

 階段の一番上から足を滑らせた瞬間、新城真子は自分の死を覚悟した。

 二階建ての古い家にある少し急な階段で、頭から床に向かって勢いよく落ちる。
 このまま床に叩きつけられれば助からないだろう。
 スローモーションのように流れていく景色の中で、母が階段の上から手を伸ばし悲痛な声で名前を呼んでいた。

 それを聞いた真子は絶望して目をつぶる。

 頭の中を走馬灯のように過去の記憶が駆け巡っていく。
 小学校入学、中高の学校生活、友人関係、部活動、そして冴えない浪人生活。
 大したことのない人生だったけれど、それでも喪うのは嫌だな――真子がそう思った瞬間、真子のまぶたの向こうにはまばゆい白い光が広がった。


 *****


 目を閉じていても感じるほどの強く白い光は、ゆっくりとだが次第におさまっていった。

 そのうち頬に当たる空気が冷たく鋭くなり、ピシと目の下を何かがかすめた。
 ビュウと耳を裂く風の音が聞こえる。
 着ているパーカーのフードがバタバタと上下し、ショートカットの首筋を冷たい風が勢いよく通り過ぎていく。
 ハーフパンツの裾もパタパタと太ももに当たっている。

(あれ? 地面まで遠い……?)

 不思議に思って小さく目を開けると、真子の身体は遥か空の上空に投げ出されていた。

「何これ! 何これ! なにこれー!?」

 真子は大きく目を開き、周りを見回してパニックになった。
 眼下には山が、森が、川が、大地が広がり、空を丸く切り取るように大地の向こうには地平線まで見えた。
 遥か彼方に見える茶色い陸地には砂漠が広がっているようだった。

(どういうこと? ここはどこ?)

 さっきまでは自分の家の、それも都会の街中にある家の中だったはずだ。
 家の周りにだって、こんなに自然のあふれるところは無かった。
 目に入る山も川も、平地にかすかに見える町の様子も、真子が知っているものとはまるで様子が違っていて、それはどこか外国の物のように見えた。

(なんで? 何が起きているの?)

 わかるのは真子が上空からものすごい速さで地面に向かって落ちていることだけだった。
 真子が瞬きをするたび、景色はぐんぐんと大きくなって近づいてくる。
 黒いフード付きのパーカーも灰色のハーフパンツも風に激しくたなびき、真子は全身で周りの空気を切り裂いていた。
 真子の身体が大きな山の崖の谷底に向かって落ちていくると、崖に挟まれた谷底の道から赤や黒、金、銀、茶色のカラフルな馬が駆けてくるのが見えた。

(あ、ぶつかる!!)

 目の前に近づいてくる地面にグシャと叩きつけられるのを覚悟して、真子は再びギュッと目をつぶった。
 地面に叩きつけられそうになったその瞬間、目をつぶっていてもわかるくらい周りが真っ白に光り輝いた。
 ふわりと浮いた感覚がして、すぐに周りから声が聞こえてくる。

「この光は何?」

「ねぇ、ちょっと! 魔力が勝手に回復していくわよ」

「団長、あれは何でしょう? 何か落ちて来ています!」

「一度、止まりますか?」

「みんな、危ないから離れて!」

 いくつもの声を聞きながら、ふと周りの光が陰ったように感じた瞬間、真子の身体に重力が戻り勢いよく地面に落ちた。

「キャッ!」

 真子の心臓はおかしいくらいにバクバクと早鐘を打っている。

(い、生きている……?)

 真子は身体の下にあるゴツゴツとした感触から、自分が硬い地面の上に着地しているとわかった。
 無事なことが信じられなくて、真子は恐怖で全身をブルブルと震わせた。

 するとザッと地面を削る音が聞こえ、真子のすぐ横に何かが立ち止まる気配がした。

「チッ、逃げられたわね」

 頭上から声が聞こえてくる。
 真子はそろそろと手のひらで地面の感覚を確かめてから、ゆっくりと目を開けた。

 そこには太陽を背にして立つ馬に乗った大きな影があった。

「あらぁ、ずいぶんカワイコちゃんが落ちてきたじゃない」

 目を凝らすと、大きな影の正体はたてがみも尻尾も真っ赤な大きな馬と、その上に乗る燃えるように赤い髪を馬の尻尾のように一つに結いている大柄な美女だった。
 赤髪の美女はその金色の目をキラリと光らせながら真子を見つめ面白そうに笑う。

(綺麗な人……)

 赤い髪の美女に目を奪われた一瞬の隙に、気づくと真子は囲まれていた。

 黒に金、銀、茶色の大きな馬が真子と大柄な美女を取り囲むように並び立ち、馬の上にはそれぞれ馬の色と同じ髪色を持った美女が乗っている。
 皆、一様に真子への警戒心を隠そうとしない厳しい顔をしていた。

 目の前の赤い馬から、ヒラリと赤髪の美女が地面に降り立った。

「団長、危険です!」

「平気よ」

 茶髪の美女が咎めるように声を上げるが、赤髪の美女は気にせず真子の前にしゃがんで顔を覗き込んだ。

「ねぇ、あなた。こんなところでどうしたの?」

 微笑みをたたえた赤髪の美女の金色の目はキラキラと輝いていた。

(あ、太陽みたい)

 そう思った瞬間、真子の目からは大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。

「う、うわ~ん!!」

 真子の泣き声が谷底に響きわたる。

 真子は何が起きているのかさっぱりわからないまま、見知らぬ世界で絶世の美女集団に囲まれていたのだった。
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