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12.それからの二人
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印刷工場でのビビアンとザカリーのあれこれはあっという間に町中に広まり、結局、ビビアンの家に婿入りするという形で二人はすぐに婚約した。
パトリックは何か言いたいような顔をしていたが、さすがに婚約者のいる相手にまで手を出すような事はしてこなかった。
ザカリーは印刷工場の近くに二人のための小さな家を借りた。
先日コンテストに出したお話が無事に賞を取って、ザカリーの本を色々な印刷工場でも取り扱ってもらえるようになったので、あまり贅沢はできないけれど二人で頑張れば生活できるはずだ。
ザカリーのお話は最近色気が出て艶っぽくなったと評判が高く、これからますます人気が出るに違いないとビビアンは信じている。
ビビアンに連れられてではあったが、ザカリーの家にも一緒に結婚の挨拶に行った。
ザカリーの母親はビビアンが娘になる事をとても喜んでくれたし、父親もザカリーの事を応援していると言うような事を遠回しにボソリとつぶやいていた。
素直じゃないところがザカリーとよく似ている、とビビアンは笑った。
親子のわだかまりも少しずつ解消していきそうな気配を見せている。
今日は印刷工場の二階の小部屋から、ほんの僅かしかないザカリーの私物を新しい家に運んでいる。
新しい家にはザカリーの強い希望で大きなベッドが置かれていた。
「他の家具もまだ揃ってないのにこんなに大きいベッドだけあるなんて」
ビビアンが新しいベッドに座ってほんの少しだけ頬を赤くした。
「何考えてるんだよ。ビビが寝相が悪いからだろ」
「もう、馬鹿! 嫌い!」
ビビアンがあっと思った時にはもう遅く、ザカリーのからかいに思わず『嫌い』の言葉をこぼしてしまった。
謝ろうとビビアンが顔を上げると、ザカリーが冷たく言い放った。
「俺も素直じゃないビビは嫌い」
ザカリーからの思いがけない『嫌い』の言葉に、ビビアンはショックのあまりポロリと涙をこぼした。
ザカリーはビビアンの涙を見て、気まずそうに顔をゆがめると頭をガシガシ掻いた。
「あーもうっ! 嘘だってわかってても、嫌いって言われると傷つくんだよ! わかった!?」
「……うん。ごめんなさい」
ビビアンはザカリーを見上げてグス、と鼻を鳴らした。
ザカリーはしばらくビビアンを見つめた後、ニヤリと意地悪そうに笑った。
「今度から嫌いって言ったらキス10回な」
「キス10回って……」
「だからビビは俺とキスしたくなったら嫌いって言えば良いよ」
ザカリーはビビアンの隣に座ると、片眉を上げて皮肉げに笑いながらビビアンの顎に手を添えた。
「ほら、嫌いって言えよ。キスしてやるから」
ビビアンは意地悪を言うザカリーを恨めしそうに見つめながら、小さくつぶやいた。
「……好き」
ザカリーは驚いて目を開いた後、ふ、と嬉しそうに笑ってビビアンに優しいキスを落とした。
(好きって言ってもキスするんじゃない……)
そんな憎まれ口を飲み込んで、ビビアンは徐々に深くなるザカリーとの濃厚なキスに身を任せた。
ビビアンの身体からくたりと力が抜けてしまう頃には、ビビアンは新しい大きめのベッドに押し倒されて、ザカリーによって嘘も本当も丸裸にされてしまうのだった。
パトリックは何か言いたいような顔をしていたが、さすがに婚約者のいる相手にまで手を出すような事はしてこなかった。
ザカリーは印刷工場の近くに二人のための小さな家を借りた。
先日コンテストに出したお話が無事に賞を取って、ザカリーの本を色々な印刷工場でも取り扱ってもらえるようになったので、あまり贅沢はできないけれど二人で頑張れば生活できるはずだ。
ザカリーのお話は最近色気が出て艶っぽくなったと評判が高く、これからますます人気が出るに違いないとビビアンは信じている。
ビビアンに連れられてではあったが、ザカリーの家にも一緒に結婚の挨拶に行った。
ザカリーの母親はビビアンが娘になる事をとても喜んでくれたし、父親もザカリーの事を応援していると言うような事を遠回しにボソリとつぶやいていた。
素直じゃないところがザカリーとよく似ている、とビビアンは笑った。
親子のわだかまりも少しずつ解消していきそうな気配を見せている。
今日は印刷工場の二階の小部屋から、ほんの僅かしかないザカリーの私物を新しい家に運んでいる。
新しい家にはザカリーの強い希望で大きなベッドが置かれていた。
「他の家具もまだ揃ってないのにこんなに大きいベッドだけあるなんて」
ビビアンが新しいベッドに座ってほんの少しだけ頬を赤くした。
「何考えてるんだよ。ビビが寝相が悪いからだろ」
「もう、馬鹿! 嫌い!」
ビビアンがあっと思った時にはもう遅く、ザカリーのからかいに思わず『嫌い』の言葉をこぼしてしまった。
謝ろうとビビアンが顔を上げると、ザカリーが冷たく言い放った。
「俺も素直じゃないビビは嫌い」
ザカリーからの思いがけない『嫌い』の言葉に、ビビアンはショックのあまりポロリと涙をこぼした。
ザカリーはビビアンの涙を見て、気まずそうに顔をゆがめると頭をガシガシ掻いた。
「あーもうっ! 嘘だってわかってても、嫌いって言われると傷つくんだよ! わかった!?」
「……うん。ごめんなさい」
ビビアンはザカリーを見上げてグス、と鼻を鳴らした。
ザカリーはしばらくビビアンを見つめた後、ニヤリと意地悪そうに笑った。
「今度から嫌いって言ったらキス10回な」
「キス10回って……」
「だからビビは俺とキスしたくなったら嫌いって言えば良いよ」
ザカリーはビビアンの隣に座ると、片眉を上げて皮肉げに笑いながらビビアンの顎に手を添えた。
「ほら、嫌いって言えよ。キスしてやるから」
ビビアンは意地悪を言うザカリーを恨めしそうに見つめながら、小さくつぶやいた。
「……好き」
ザカリーは驚いて目を開いた後、ふ、と嬉しそうに笑ってビビアンに優しいキスを落とした。
(好きって言ってもキスするんじゃない……)
そんな憎まれ口を飲み込んで、ビビアンは徐々に深くなるザカリーとの濃厚なキスに身を任せた。
ビビアンの身体からくたりと力が抜けてしまう頃には、ビビアンは新しい大きめのベッドに押し倒されて、ザカリーによって嘘も本当も丸裸にされてしまうのだった。
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