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2.小説家ザカリー
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「ほら、新しい原稿」
「わ! 見せて!!」
ビビアンは机とベッドしかない小部屋のベッドに腰かけた。
ザカリーがビビアンの差し入れをむしゃむしゃと食べている間に、ビビアンは原稿を読み進める。
「はぁ~、今回もステキ……」
ビビアンはもらった原稿を胸に抱えて、ほぅと大きくため息をつく。
ビビアンは昔からザカリーの書く話が大好きだった。
小さい頃に読ませてもらった冒険のお話にはワクワクしたし、最近の恋愛小説では読むたびに胸がキュンとしてドキドキしている。
この日もらった原稿の中では、煌びやかな王子様が素朴で純情な町娘を相手に甘やかな台詞を囁きながら素敵に口説いていた。
「ザックがこんな甘い言葉を書いてると思うと変な感じ」
「ふん、本当にこんな事言うヤツがいたら、そいつは結婚詐欺かなんかだろ。お前は馬鹿なんだから騙されるなよ」
ビビアンのからかうような言葉に対して、ザカリーはぶ厚いメガネを片手でクイと上げながら馬鹿にしてきた。
「もうっ! すぐそういう事言うんだから! 書いてるお話はこんなステキなのに。あんたなんか大っ嫌い!!」
ビビアンが顔を思いっきりしかめてぷいと横を向くと、ザカリーも鼻の上に大きくシワを寄せて吐き捨てるようにつぶやく。
「はっ! 知ってるよ。馬鹿ビビ」
「仕事じゃなきゃ、あんたのとこになんか来ないのに」
「俺だって金さえ貯まりゃ、こんなとこさっさと出てくよ」
売り言葉に買い言葉で、ポンポンと酷い言葉が飛び交う。
「早くお金が貯まると良いね!」
「じゃあ、もっと俺の本売ってくれよな」
「どうせウチは弱小印刷所よ!」
「ほんと可愛くねーな」
「「ふんっ!」」
くだらない口喧嘩をして、最後は互いに鼻息を荒くしてそっぽを向く――そんないつも通りの展開に、ビビアンは内心で泣きそうになった。
ザカリーの原稿と空になったバスケットを持ってビビアンが小部屋から出て行こうとすると、ザカリーに呼び止められた。
「おいビビ」
引き止められたのが嬉しくてビビアンが急いでふり返ると、ザカリーはビビアンに背を向けたまま言った。
「おばさんに美味しかったって言っといて」
「わかったわよ!」
ビビアンはザカリーの部屋のドアを閉め、階段をトントン降りながらため息をついた。
「なんで、いつもこうなっちゃうんだろう……」
ビビアンは今日もまたザカリーに可愛くない事ばかり言ってケンカしてしまったと一人落ち込んだ。
「わ! 見せて!!」
ビビアンは机とベッドしかない小部屋のベッドに腰かけた。
ザカリーがビビアンの差し入れをむしゃむしゃと食べている間に、ビビアンは原稿を読み進める。
「はぁ~、今回もステキ……」
ビビアンはもらった原稿を胸に抱えて、ほぅと大きくため息をつく。
ビビアンは昔からザカリーの書く話が大好きだった。
小さい頃に読ませてもらった冒険のお話にはワクワクしたし、最近の恋愛小説では読むたびに胸がキュンとしてドキドキしている。
この日もらった原稿の中では、煌びやかな王子様が素朴で純情な町娘を相手に甘やかな台詞を囁きながら素敵に口説いていた。
「ザックがこんな甘い言葉を書いてると思うと変な感じ」
「ふん、本当にこんな事言うヤツがいたら、そいつは結婚詐欺かなんかだろ。お前は馬鹿なんだから騙されるなよ」
ビビアンのからかうような言葉に対して、ザカリーはぶ厚いメガネを片手でクイと上げながら馬鹿にしてきた。
「もうっ! すぐそういう事言うんだから! 書いてるお話はこんなステキなのに。あんたなんか大っ嫌い!!」
ビビアンが顔を思いっきりしかめてぷいと横を向くと、ザカリーも鼻の上に大きくシワを寄せて吐き捨てるようにつぶやく。
「はっ! 知ってるよ。馬鹿ビビ」
「仕事じゃなきゃ、あんたのとこになんか来ないのに」
「俺だって金さえ貯まりゃ、こんなとこさっさと出てくよ」
売り言葉に買い言葉で、ポンポンと酷い言葉が飛び交う。
「早くお金が貯まると良いね!」
「じゃあ、もっと俺の本売ってくれよな」
「どうせウチは弱小印刷所よ!」
「ほんと可愛くねーな」
「「ふんっ!」」
くだらない口喧嘩をして、最後は互いに鼻息を荒くしてそっぽを向く――そんないつも通りの展開に、ビビアンは内心で泣きそうになった。
ザカリーの原稿と空になったバスケットを持ってビビアンが小部屋から出て行こうとすると、ザカリーに呼び止められた。
「おいビビ」
引き止められたのが嬉しくてビビアンが急いでふり返ると、ザカリーはビビアンに背を向けたまま言った。
「おばさんに美味しかったって言っといて」
「わかったわよ!」
ビビアンはザカリーの部屋のドアを閉め、階段をトントン降りながらため息をついた。
「なんで、いつもこうなっちゃうんだろう……」
ビビアンは今日もまたザカリーに可愛くない事ばかり言ってケンカしてしまったと一人落ち込んだ。
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