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4.裸の騎士団長、全部で何人?
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コロンと床の上に聖水晶が転がり落ちる。
「あ!」
すぐに聖水晶を拾おうと前かがみになると、同じく聖水晶を拾おうと屈んだキースがピタリと動きを止めた。
なんだかキースの視線を感じるような気がするが、とりあえず聖水晶を拾っておっぱいの間に突っ込んでグイグイッと位置を調節する。
するとキースの方からゴクリと喉が鳴る音がした。
「キース?」
見ればキースは中途半端な中腰の姿勢のまま、目をつぶって何かに耐えるようにしてブツブツとつぶやいている。
「裸の団長が一人、裸の団長が二人……」
(んん? 裸の団長? それ、なんのおまじない?)
キースはすぐに目を開けて姿勢を正すと、いつも通りの真面目な顔を作ってから私に向かってほんの少しだけ微笑んだ。
「そうだ。フウリ様、これを」
そう言って、キースが私の手のひらに焼き菓子の包みを渡してくれる。
「あ、お菓子! うちのお店まで行ってくれたの?」
「はい。ちょうど休みの日だったので」
それは私の両親が王都で営んでいるお菓子屋のものだった。
私は聖女になってから身内でも気軽に会えなくなってしまったのだが、それを知ったキースは暇を見つけてはうちのお店に顔を出してお互いの近況を伝えてくれるのだ。
「先の流行病でお母さまが少し寝込んでらしたようですが、今はすっかり治ってお二人ともお元気そうでした」
「ありがとう」
「本日、お休みになる前に召し上がってはいかがですか?」
「うん、そうする」
(お母さんが聖水晶が必要になるほどの病気じゃなくてよかった)
聖水晶は王族や高位貴族が主に使い、それ以外の物も高値で取引されているので庶民の病気を治すのに使われることはほぼない。
ホッと胸を撫で下ろしていると、キースがハーブティーを淹れてくれた。
実は聖水晶に癒しの力を与えるととても眠くなる。
手のひらに聖紋のある他の聖女と違って、私は聖水晶をおっぱいに挟んでおけばいいだけなので、ずっと癒しの力を与え続けている。
さすがに手をずっと使えないと困るので、他の聖女は一日に一個や二個の聖水晶しか作れない中、私は小さい聖水晶ではあるけれど五個や六個、多い時は十個以上の聖水晶を作っていた。
とはいえ十個も作ると眠気が酷く、ほとんど起きていられなくなってしまうので、多少は制限しているが。
私がいつも眠って過ごしているのは、たぶんこのせいだろう。
今日もこれからお昼寝の予定で、キースが淹れてくれたのは眠りを誘うカモミールティーだった。
「うん。おいしい!」
それにお昼寝前にオヤツを食べるも、私の大事なお仕事だ。
なんせおっぱいが小さくなって聖水晶を挟めなくなると困るので、食事もオヤツもたっぷりと取らないといけない。
だから、ほんの少し、ほんの少しだけ、私は他の人よりぽっちゃりしていた。
(たまに神殿に来る貴族のお嬢さまたちは、みんな細くてキレイだったな。キースも貴族だから、いつかあんな人たちと結婚するのかな……)
せっかくのおいしいお菓子がまずくなりそうで、頭をふってイヤな考えを追い出す。
「おかわりはいかがされますか?」
「うん、ちょうだい!」
おかわりのハーブティーとお菓子もすべて平らげて、お腹いっぱいになった私は寝台に横になった。
「フウリ様、おやすみなさい」
「おやすみ、キース」
キースが上掛けをふわりとかけてくれる。
(姫とか聖女とか言われても、私はただ食べて眠ることしかできない……)
疲れた身体とくちくなったお腹がまぶたを重くして、私はゆるゆると眠りに落ちていった。
「あ!」
すぐに聖水晶を拾おうと前かがみになると、同じく聖水晶を拾おうと屈んだキースがピタリと動きを止めた。
なんだかキースの視線を感じるような気がするが、とりあえず聖水晶を拾っておっぱいの間に突っ込んでグイグイッと位置を調節する。
するとキースの方からゴクリと喉が鳴る音がした。
「キース?」
見ればキースは中途半端な中腰の姿勢のまま、目をつぶって何かに耐えるようにしてブツブツとつぶやいている。
「裸の団長が一人、裸の団長が二人……」
(んん? 裸の団長? それ、なんのおまじない?)
キースはすぐに目を開けて姿勢を正すと、いつも通りの真面目な顔を作ってから私に向かってほんの少しだけ微笑んだ。
「そうだ。フウリ様、これを」
そう言って、キースが私の手のひらに焼き菓子の包みを渡してくれる。
「あ、お菓子! うちのお店まで行ってくれたの?」
「はい。ちょうど休みの日だったので」
それは私の両親が王都で営んでいるお菓子屋のものだった。
私は聖女になってから身内でも気軽に会えなくなってしまったのだが、それを知ったキースは暇を見つけてはうちのお店に顔を出してお互いの近況を伝えてくれるのだ。
「先の流行病でお母さまが少し寝込んでらしたようですが、今はすっかり治ってお二人ともお元気そうでした」
「ありがとう」
「本日、お休みになる前に召し上がってはいかがですか?」
「うん、そうする」
(お母さんが聖水晶が必要になるほどの病気じゃなくてよかった)
聖水晶は王族や高位貴族が主に使い、それ以外の物も高値で取引されているので庶民の病気を治すのに使われることはほぼない。
ホッと胸を撫で下ろしていると、キースがハーブティーを淹れてくれた。
実は聖水晶に癒しの力を与えるととても眠くなる。
手のひらに聖紋のある他の聖女と違って、私は聖水晶をおっぱいに挟んでおけばいいだけなので、ずっと癒しの力を与え続けている。
さすがに手をずっと使えないと困るので、他の聖女は一日に一個や二個の聖水晶しか作れない中、私は小さい聖水晶ではあるけれど五個や六個、多い時は十個以上の聖水晶を作っていた。
とはいえ十個も作ると眠気が酷く、ほとんど起きていられなくなってしまうので、多少は制限しているが。
私がいつも眠って過ごしているのは、たぶんこのせいだろう。
今日もこれからお昼寝の予定で、キースが淹れてくれたのは眠りを誘うカモミールティーだった。
「うん。おいしい!」
それにお昼寝前にオヤツを食べるも、私の大事なお仕事だ。
なんせおっぱいが小さくなって聖水晶を挟めなくなると困るので、食事もオヤツもたっぷりと取らないといけない。
だから、ほんの少し、ほんの少しだけ、私は他の人よりぽっちゃりしていた。
(たまに神殿に来る貴族のお嬢さまたちは、みんな細くてキレイだったな。キースも貴族だから、いつかあんな人たちと結婚するのかな……)
せっかくのおいしいお菓子がまずくなりそうで、頭をふってイヤな考えを追い出す。
「おかわりはいかがされますか?」
「うん、ちょうだい!」
おかわりのハーブティーとお菓子もすべて平らげて、お腹いっぱいになった私は寝台に横になった。
「フウリ様、おやすみなさい」
「おやすみ、キース」
キースが上掛けをふわりとかけてくれる。
(姫とか聖女とか言われても、私はただ食べて眠ることしかできない……)
疲れた身体とくちくなったお腹がまぶたを重くして、私はゆるゆると眠りに落ちていった。
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