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134.お前は一体何処におんねん!そして、怨念はそこにおんねん!後編

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「しかし…ここ何なんだ?井戸の底だよな?」
『此処は大昔、召喚をやってた井戸らしい。多分やけど異空間やと思う。今は、それよりも離れ離れになった皆を集めるで』
「お…おう。そうだな」
「待ってくださいっす。手、手・・繋いで欲しいっすぅ・・・」


仕方なく声がする方に探るように手を出す。がしっと手首を持たれて、痛かった。

「おい、健太。怖いからって加減して掴めよ!痛てぇじゃねぇか」
「ははははは……俺、まだ掴んでないっすよ…。俺とマルクスさんの間に居るの誰でしょう…。因みに俺、しょんべんちびりそうっす」

その一言で、俺もしょんべんがちびりそうになった。慌てて、持たれた手首を振りほどこうと暴れてみる。頑として離そうとしない奴に恐々話しかけてみた。


「だ…誰だっ!」
「キマッテオロウ。ジゴクノミトドケニンダ」


片言な言い方にぞっとした。
その声は間違いなくアイザックだった。横のバカ猿が、俺を引っ張り手の平から火の球を出す。

若干その火で真っ暗な闇が薄らいだが、闇がその小さな光を覆うようにその回りだけを薄暗くしていた。墨をぼやかしたような曖昧な光が俺の先を照らす。するとホルス殿の顔が下から照らされたせいで、おどろおどろしさを醸し出す。

俺が叫ぶよりも早く健太が叫ぶ。おかげで出遅れた俺は恥をかかなくて済んだ。


「ギャァーーー!!!!」


健太はそのホルス殿と肩を並べるように立っていた。

慌てて、薄暗い中こっちに回り込む要領のいいトンビ。その間にバカ猿が俺の腕を掴んでるホルス殿の手に、その火を落とした。ジュッと肉の焼ける匂いがして、手が離れる。

すぐに距離をとる3人。もう一度バカ猿が火をつける。今度の火は結構広範囲に辺りを照らす。

『他の奴らをどうした!』
「ジルタチハ、サメヌユメヲミサセテイル。ウツツニトラワレニドトメザメヌワ。ベルナールトイウオトコハ、ドコニトバサレタカ・・・。ヒトノスムバショナラヨイガ・・ヒトノスマヌバショナラ"シ"アルノミ…。マァ、ドチラニシテモニドトアエマイ。フフフ…アハハハハハ……」
「くっそ、バカ猿何とかならねぇのか!」
『・・・。』
「ムリダナ。ソノオウノトキモ3ネンカカッタ。アノトキハ、ジュンスイナ"チ"ダカラミツケラレタ。アヤツハタダノヒト…ワタシガニクイカ?ウラムカ?」
『お前は何がしたいねん。まずホルスさんの体返せ!』
「ウルサイ。マダクロクソマラヌカ・・・ナラバコンドハ、メノマエデコロスカ」

そう言って私の横にいるマルクスと健太に攻撃してきた。慌ててマルクス達を守る。ベルさん達だけじゃなくマルクス達もって事か…。

ホルスさんの体は若くエネルギーに満ちてるのか、前回より力が強い。多分エロじじいでも今は勝てんかもしれん。アイザックをホルスさんから引き離さん限り、私も攻撃がしにくい・・・。


『むぅ・・・祓うには何や・・・。塩か?聖水か・・・・・聖水?!』


ごそごそとハンカチを入れてるポーチからあるものを取り出す。それをホルスさんに向かって振りかけた。


その途端、マルクスと健太が悶絶うつ。

「くっせぇー!!」
「鼻がもげそうっす!」

私も鼻が曲がりそうになった。何度嗅いでもなれない代物"コチバ"である・・・。

「この馬鹿野郎、何この場でコチバを撒くんだよ!」
『聖水の代わりになるかなと思って・・・』
「あほかお前は!コチバはコチバだろうがっ!肥溜めが聖水になれるか!」

そう言ったマルクスの目の前でホルスさんが苦しみだした。その途端、ホルスさんの体から黒い靄がでる。

『肥溜め、聖水になったで…侮れん。ベルさんの時もそうやったけど意識もうろうの人間も覚醒できるし、憑りつかれた人間も祓える…これってすごいぞ!温泉の次はこれをそういうキャッチで売ってみようか?どう思うマルクス、金儲けできるで』
「……興奮してるとこ申訳ねぇが、目の前のこいつとまじめに対峙してくれねぇか」

そう言って指をさされたところを見ると黒い靄があった。それは、ホルスさんからはじき出されたアイザックの精神だった。


「ウラメシイ・・・ウラメシイ・・・ナントウラメシイ・・・」


黒い靄が泣くように言う。その靄に話しかける。


『なぁ…、お前の場合、恨めしいじゃなく羨ましいやったんちゃうんか?お前の恨めしいは、自分だけ…何で自分だけって私には聞こえるで』
「ウラメシイ・・・・ウラメシイ・・」
『私は言うたよな、分岐点でお前は間違ったって。死んでしもた以上、もう分岐点も何もなくなったけど…ゼロには戻れるで。人間には輪廻転生っていう言葉がある。此処でずっと迷うんじゃなく、やり直してみんか?』


そっと黒い靄に手を伸ばす。

「バカ猿!あぶねぇぞ」
「大丈夫っすよ、マルクスさん。あの人いつもああやるっすよ・・・」
「どういうことだ?」
「桃花さん、誰もいない道路に座り込んで"なんや、血まみれやんか?立てるか?何があったか知らんけど病院連れてってやるし着いておいで。痛かったな。誰も声掛けてもらえへんで、心細かったやろ。大丈夫やで私がついてってやる"って言って一人芝居始めるっす。そんで、病院につく頃にあれ?おらんっていうっすよ~。で、次の日その道路に花束が置かれてるっす…これどういう意味かわかります?!この人無自覚で霊を昇天させるっすよ……」


それを聞いて霧が晴れたようになった。


こいつの力は"浄化"なのだ。


バカ猿は、無自覚で生きてる奴も、死んだ奴も浄化してる。

こいつの言動は心に何故か響く。響いて心が和む。

あの三上という奴も言っていた。こいつの傍は居心地がよくあたたかかったと・・・。

あれだけ性格の違った番候補が集まった理由もそうだ。混沌とした世界もこいつの…なんだっけ水戸黄門?巡業で収まった。アイザック側に付いていた兵士や神官達も、こいつの言動で憑き物が取れたみたいになりやがった……。


今も目の前で信じられない光景が始まってる。健太もあんぐりだ。


これも墓場まで持って行かないといけない秘密になった。

『アイザック……知ってるか?赤ちゃんの時は全員が無垢なんや。年を取るごとに記憶という縦糸の色がつく、そして知識という横糸の色が着く。紡がれた糸は自身を包み誰にもない色を作るんやで』

そう言って、アイザックの黒い靄を取り除いて、嬉しそうに光の球に話しかける。

『あんたの色はこんな綺麗な色してたんや…。勿体なかったな、皆に見てもらえんで。今度生まれ変わったら、一杯一杯褒めて貰い。ほんで、現世で貰えんかった幸せを来世で貰い。私が今、願掛けたる"どうか、アイザックが来世で心から笑えますように。手の届く幸せがいっぱい周りにありますように"』

そうバカ猿が言った途端、アイザックの光の球が弾けた。その時、小さい声が聞こえた気がした。



"ありがとう"



健太を見ると号泣だ。因みに俺も泣いていた。
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