1 / 3
第一話 ジェノの宣告
しおりを挟む
「モニターの前のニートの皆様、只今よりあなたたちの人権は無くなりました。速やかに……死ね!!」
そう告げるのは、人に楽と同時に毒を与える世界の女の子。ツインテールの黒髪に猫の目に似た線状の細孔から、全てを見透かす鮮紅色の光を放っている。
謎の動画はネットの海に波紋を呼ぶ。
『何これ?』
『今期のアニメでこんなのあったか?』
『ニート共、ざまぁwww』
『お前もだろ?』
『ソースは?』
そんなスレが自宅警備業務者たちの間で、早くも立ち上がった――――。
三日後、ニート10万人を越える死亡が確認がされた。家族と絶縁状態や孤立しているニートの安否は、正確には確認されてない。
死亡したニートはもっといるのだろう。
突然の事態にメディアは#響動_どよ_#めいた。
『相次ぐニートの死』
『猟奇的殺人事件!?』
『集団自殺か?』
そんな見出しのニュースやら記事が、世界方々を巡り歩く。「ニートがいなくなるは良いことだ」と、唱える学者や評論家たちに賛否両論のマスメディア。
誰も答えは分からない。答えなどあるわけない。
そもそもニートたちの突然死は何故起きたのか。ニートたちは、今、何をしているのだろうか……?
◇
モニターの中のとあるコミュニティーチャットサイト。このチャットのメンバーには、ある共通点がある。
「こんばんは。あの、ちょっといいですか?」
「こんばんわー 新人くん?」
「はい。えっと……その、最近のニュースってどう思いますか? 謎のニート大量死についてです」
「あー、ジェノちゃんのやつね??」
「……ジェノちゃん?」
「ほら、三日前に『ジェノの宣告』があったろ?」
「あの謎の動画ですか? ニートの人権が無くなったていう……」
「そうそう、あの女の子の名前がジェノちゃん。そして、ニート大量虐殺の犯人だよ。……おっと、ニートの死体については公開されてなかったか」
「えっ!? あの二次元の子が犯人? 虐殺?」
「あー、混乱しないで。冷静に」
「え、でも……。あの女の子が犯人ってどういうことですか?」
「ん??、そうだな。新人くん、明日って暇だよね?」
「え? そりゃ、暇ですよ。というか、ここのチャットの人たちは……」
「うん、全員、ニートだね」
「ですよね……。そんな、僕らに暇かどうか訊ねるのは愚問なんじゃ……」
「おやおや! このチャットも新人くんだけど、ニート歴もまだ浅いんだね」
「えっ? 何で分かったんですか? 察しの通り、三月に高校卒業と同時にニートになった新参者です」
「へぇー、まぁ、ニートになった理由は聞かないよ。なにせ、僕もニートだからね」
「……あの、それで明日って何かあるんですか?」
「明日さ、このチャットのオフ会を開こうと思ってね。詳細については、入会時に登録したメアドに送るよ。このログを見ている人にもね」
「はぁ……」
「乗り気じゃないね」
「そりゃ、ニートなのに外で集まり会話をするなんて……」
「ハハッ、それが出来なくてニートになる人も多いからね。まぁ、強制はしないよ。でも、来たらジェノちゃんやニュースについての情報を教えてあげるよ」
「……それって、結局 強制なんじゃ?」
「いやいや、釣だと思って来ない人も多いし、忙しい人も結構多いと思うよ」
「ニートなのに?」
「ニートなのに!」
「…………」
「まぁ、新人くんは来てくれるかな?」
「…………」
「まぁ、いいや。来てくれたら歓迎するよ。あ、そうだ、僕の名前はアイゼン イツワ。まぁ、ネット上では『偽善愛』で通ってるよ」
「…………」
「落ちちゃった? まぁ、いいけど。明日を楽しみにしているよ」
その言葉を最後に、モニターに文字が浮かぶ事はなくなった――――。
◇
「……はぁー」
昨日と今日だけで、何回溜め息を付いたのだろうか? 溜め息を付くための呼吸がもったいないと思えるほどついている。
憎たらしい日射しを、直に浴びるのは一ヶ月ぶりの事。まだ、四月と肌寒い季節のはずが、今日は気温が高いらしい。
歩くのも疲れた。
混疑土で舗装された道路が硬くて、普段歩き慣れていない足の裏をじわじわ刺激している。
「はぁー……」
また、溜め息。
今の溜め息は、ここまでの疲労感から来るものなのか、今からの物怖じから来るものなのかは分からない。
僕、#伏見_フシミ_#ハルキは、とあるチャットサイトのオフ会へと向かっている。そもそも、そのサイトに入会したのも藁にもすがる思いだった。
謎の動画……『ジェノの宣告』があってから、僅か三日で、10万人を越える#同胞_ニート_#たちの死が確認された。確か、今朝のニュースでは12万人に増えていた。
兎に角、どうしょうもない状況に陥って、偶然見つけたのが、このチャットサイト。ニートである事が絶対の入会条件で、入会前に簡単なアンケートを受け、管理人の選別によって合否が決まる。
見事、入会し、ニュースの事を質問したら、突然のオフ会という流れになった。
「はぁ……」
本当に、オフ会があるのだろうか?
もし、本当に只の釣で、ネット上でバカにされてるなんて事はないんだろうか?
募る不安。
でも、後戻りもできやしない。
恒久不変の現状を打破するために、僕は賭けと同時に家を出たのだ――――。
どれぐらい時間が経ったのだろう? 日本列島を渡り歩いた伊能忠敬の気分だ。オフ会の会場は、一駅離れた街だった。
高校在学中は電車を利用していた。在学中は何とも思わなかった距離なのに、一ヶ月籠っていただけで、こんなにも遠くに感じるとは驚きだ。
そして、ようやく会場の前に到着した。
会場は至って普通の民家だ。6LDKか7LDKはありそうなニ階建ての住居に、ガーデニングが趣味なのか庭の至るところに花が植えられている。
あとは、白いワゴン車と黒の軽自動車が駐車されている。
「……ここだよね?」
ニートのオフ会で普通の民家。しかも、かなり綺麗で、ドラマの撮影でも使えそうな外観。
不安が更に募る。
「…………よし」
ボーッと突っ立っていてもしょうがない。
意を決して玄関に向かい、インターホンを押す。
ピーンポーンと#高音_たかね_#がする。
ドキドキしながら待つ間に、自分の服装を見直す。髪は、一ヶ月前の卒業式前に切ったきり、特に弄っていないから多少ボサついている。髭は ちゃんと剃ったから問題ない。
服装は黒いトレナーにジーパンと部屋着としては問題ないけど、外着としては どうなんだろうか? 髪は無造作ヘアーで、服装は……なんて誤魔化そう?
今更そんな事を考えても遅い。
既にガチャっと音を立てて扉は開いていた。
「いらっしゃい。キミは新人くん?」
爽やかな青年の声がした。
目の前に立つのは、四捨五入して170㎝の僕より、頭一つ分高い青年。茶髪混じりの髪をふんわりとセットし、無造作ヘアーの御手本を示された気分だ。
更に雑誌のモデルのような服を見事に着こなしてる。
『爽やかな美容師』
それが第一印象だ。もう少し、容姿に気を遣えば良かったと本当に後悔した。
「……え、えっと、アイゼンさん……ですか?」
#吃_ども_#りながらも何とか言えた。
「そうだよ、僕は#藍染_アイゼン_# イツワ。さぁ、上がって」
藍染さんに手招きされ、入ってすぐのLDKに案内される。まるでモデルルームをそのまま移して来たかのような部屋だ。
中央にある足の短い長方形のテーブルをコの字に囲むようソファーが置かれ、5人の先客が各々に着席していた。
「さて、皆さん、今日はお集まり頂きありがとうございます」
藍染さんが一礼しオフ会が始まった。
「そうだな??、簡単に自己紹介しましょうか。『おっさん』からお願いします」
「ワイか?」
そう言って、小太り、眼鏡、毛根が後退しつつある頭で、半袖のアニメのTシャツをズボンにインした男が立ち上がった。
一般的なヲタク+ニートのイメージを具現化したような人だ。
「#覚王山_カクオウザン_#トシヒコ、43歳、無職デュフ。32の時に強制脱サラにあってから、アニメだけが生き甲斐デュフ」
スゴい……。
ニートの理由まで、イメージのまんまだ。
「おっさん、ありがとう。じゃ次は……ん? 『チェリぽん』どうしたの?」
艶やかな茶髪のボブとスラッとした手足に、ほんのりピンク色のマスクをした華奢で綺麗な人が、マスクより濃いピンクのスマホを指差している。
「チャットを使っていいかって? ダメだよ、ちゃんと喋らなきゃ」
綺麗な人は酷く落ち込み、軽く涙目になった。
可哀想だから、使わせてあげなよ……って言いたかったけど――
「桜 マサキです。23歳、女装家 兼 レイヤーです……」
僕よりも低い声で そう語った。
モデルにしか見えないほど美人なのに、驚き……いや衝撃だ!! 所謂、男の娘の比なんてもんじゃない。
「皆、驚いてる……。だから、声出したくなかったのに……」
「ごめんね。でも、ちゃんと自己紹介しなきゃダメでしょ? チェリぽんは、結構有名なレイヤーだよ」
「チェリぽんって、あのチェリぽんデュフか!? この前、○ヴァのレイちゃんのコスで有名だった」
「そうです。それ、私です」
おっさんは興奮して立ち上がる。
藍染さんはそれを制し「次は『ロープさん』お願いします」と告げた。
キャラクターについて語り合い出そうとした二人は静かに席についた。
代わりに立ったのは、スキンヘッドでギロリとした眼光の持ち主。さらに黒金ジャージと、見るからにDQN。おまけに肌が褐色で体躯がよく、何処と無くゴリラに似てるな、と思ってしまいニヤついてしまいそうになる。
「#八草_ヤクサ_#ケンジ、30。職業はヒモだ。女に食わせてもらってる」
ドスの訊いた声でそれだけ言うと、すぐに着席した。
……座る前に、一瞬僕を睨んだ気がした。はっきり言って恐いし、出来れば関わりたくない。
「ロープさん、ありがとう。じゃ次は『ビッチ姉』よろしく」
「はぁ??い」
甲高い声で、レモン色に近い金髪に青いカラコン、谷間を強調した白く薄いブラウスの女性が立ち上がった。
「伊奈 ミサトで??す。元キャバ嬢で、今は男の子食べてま??す」
そう言って僕らの顔を順番にを見回す。
ペロリと唇を舐め、まるで狙いを定める蛇のように――
「はーい、ビッチ姉、ありがとう。じゃ次は『シマリスちゃん』お願い」
「は、はい……」
か細い声で返事をして、身長150㎝ぐらいの小柄な丸眼鏡の女の子が立ち上がる。
ボサボサと胸の辺りまで伸びた黒髪を、ソバージュパーマというやつなのか、特に縛ることもせず、灰色っぽいトレーナーにジーパンと、どこか親近感が沸く格好をしている。
「し、島氏永 リサです。え、えっと……19歳です。よ、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げて席についた。
「シマリスちゃん、お疲れさま。じゃ、最後は新人くんね」
「はい」
出来るだけ元気に返事をして席を立つ。
「えっと、伏見 ハルキです。18です。えっと……よろしくお願いします」
結局、口ごもってしまった。
でも、ちゃんと言えたから良しとしよう。
「ねぇ、新人く??ん」
伊奈さんに呼ばれる。
「な、何ですか?」
「キミって童貞?」
「……え!?」
「コラコラ、ビッチ姉、新人くん誘惑しちゃダメだよ」
伊奈さんは「ちぇ??」と言ってそっぽを向く。
助かったような、勿体無い事をしたような……。
「よーし、皆終わったね。じゃ、一応僕もしとこうかな。藍染 イツワ。年齢は……う??ん、秘密。職業は管理人とハッカーをしてます」
皆に衝撃が走る。
「オイ、ハッカーってことは犯罪者か!?」
犯罪者のような顔つきの八草さんが、荒々しい声で息巻く。
藍染さんは「チッチッチ」と言いたげに人差し指を振る。
「ハッカーと言ってもホワイトハッカーだよ。テレビとかで聞いたことないかな? 一応、国家公務員に当たるんだけど。まぁ、元だけどね」
国家公務員という事で誰もが凄いんだと感じると同時に、何故辞めたのだろうと疑問が生まれる。
しかし、「僕については、これぐらいとして……」と切り出されてしまったので誰も聞くことが出来なかった。
「本題に入ろうか」
その一言で各々に緊張感が走る。
「まず、『ジェノの宣告』についてだ。昨日のチャットのログを見て貰えばわかるように、ニート大量虐殺の犯人……いや、主犯と呼んだ方がいいかな? とにかく、今世間を賑わせてるニュースに深く関与しているのは、あの動画の女の子だ」
揚々と解説する藍染さんの言葉を、誰もが上手く掴むことが出来ない。その証拠に、八草さんはテーブルを小突きだし、覚王山さんは眉根を寄せてる。
「早い話、ジェノちゃんはAI……つまり、人工知能だ」
人工知能……。
SF作品でよく聞く、人工知能でいいのだろうか?
現実離れしているようで、どうにも実感が沸かない。
「けど、彼女は、まだ未完成だよ。そこまで知識は深くない」
薄ら笑みを浮かべ、解説を続ける藍染さん。
どことなく、オモチャを自慢する子どものような#表情_かお_#をしている。
「彼女が、どう関与しているか、具体的に言うね。まず、彼女に、サーバーのアクセス記録……まぁ、簡単に言うと履歴を調べさせた。そして、そこからニートを割り出した。ここまではOK?」
皆が静かに頷く。
平日の昼間っから、アニメやゲームばかりしている履歴を見つけニートを特定したと言うことだろう。
「次に、特定したニートにランク付け……線引きをしたって言った方がいいかな? その越えてはいけないラインを越えたのが、今回の被害者だ」
何となくジェノについて分かってきた。
けど、まだ根本的な所が分からない。
「皆が今思うのは、どうやってニートを殺したか……だよね? 結論から言ってニートに直接手を下したのは人間だ。住む次元が違う彼女には出来ないからね」
と言うことは、10万を越す人間を殺した犯人がいるってわけだ。
10万人もの人間を短期間かつ証拠を残さず抹消するなんて可能なのだろうか……?
そう告げるのは、人に楽と同時に毒を与える世界の女の子。ツインテールの黒髪に猫の目に似た線状の細孔から、全てを見透かす鮮紅色の光を放っている。
謎の動画はネットの海に波紋を呼ぶ。
『何これ?』
『今期のアニメでこんなのあったか?』
『ニート共、ざまぁwww』
『お前もだろ?』
『ソースは?』
そんなスレが自宅警備業務者たちの間で、早くも立ち上がった――――。
三日後、ニート10万人を越える死亡が確認がされた。家族と絶縁状態や孤立しているニートの安否は、正確には確認されてない。
死亡したニートはもっといるのだろう。
突然の事態にメディアは#響動_どよ_#めいた。
『相次ぐニートの死』
『猟奇的殺人事件!?』
『集団自殺か?』
そんな見出しのニュースやら記事が、世界方々を巡り歩く。「ニートがいなくなるは良いことだ」と、唱える学者や評論家たちに賛否両論のマスメディア。
誰も答えは分からない。答えなどあるわけない。
そもそもニートたちの突然死は何故起きたのか。ニートたちは、今、何をしているのだろうか……?
◇
モニターの中のとあるコミュニティーチャットサイト。このチャットのメンバーには、ある共通点がある。
「こんばんは。あの、ちょっといいですか?」
「こんばんわー 新人くん?」
「はい。えっと……その、最近のニュースってどう思いますか? 謎のニート大量死についてです」
「あー、ジェノちゃんのやつね??」
「……ジェノちゃん?」
「ほら、三日前に『ジェノの宣告』があったろ?」
「あの謎の動画ですか? ニートの人権が無くなったていう……」
「そうそう、あの女の子の名前がジェノちゃん。そして、ニート大量虐殺の犯人だよ。……おっと、ニートの死体については公開されてなかったか」
「えっ!? あの二次元の子が犯人? 虐殺?」
「あー、混乱しないで。冷静に」
「え、でも……。あの女の子が犯人ってどういうことですか?」
「ん??、そうだな。新人くん、明日って暇だよね?」
「え? そりゃ、暇ですよ。というか、ここのチャットの人たちは……」
「うん、全員、ニートだね」
「ですよね……。そんな、僕らに暇かどうか訊ねるのは愚問なんじゃ……」
「おやおや! このチャットも新人くんだけど、ニート歴もまだ浅いんだね」
「えっ? 何で分かったんですか? 察しの通り、三月に高校卒業と同時にニートになった新参者です」
「へぇー、まぁ、ニートになった理由は聞かないよ。なにせ、僕もニートだからね」
「……あの、それで明日って何かあるんですか?」
「明日さ、このチャットのオフ会を開こうと思ってね。詳細については、入会時に登録したメアドに送るよ。このログを見ている人にもね」
「はぁ……」
「乗り気じゃないね」
「そりゃ、ニートなのに外で集まり会話をするなんて……」
「ハハッ、それが出来なくてニートになる人も多いからね。まぁ、強制はしないよ。でも、来たらジェノちゃんやニュースについての情報を教えてあげるよ」
「……それって、結局 強制なんじゃ?」
「いやいや、釣だと思って来ない人も多いし、忙しい人も結構多いと思うよ」
「ニートなのに?」
「ニートなのに!」
「…………」
「まぁ、新人くんは来てくれるかな?」
「…………」
「まぁ、いいや。来てくれたら歓迎するよ。あ、そうだ、僕の名前はアイゼン イツワ。まぁ、ネット上では『偽善愛』で通ってるよ」
「…………」
「落ちちゃった? まぁ、いいけど。明日を楽しみにしているよ」
その言葉を最後に、モニターに文字が浮かぶ事はなくなった――――。
◇
「……はぁー」
昨日と今日だけで、何回溜め息を付いたのだろうか? 溜め息を付くための呼吸がもったいないと思えるほどついている。
憎たらしい日射しを、直に浴びるのは一ヶ月ぶりの事。まだ、四月と肌寒い季節のはずが、今日は気温が高いらしい。
歩くのも疲れた。
混疑土で舗装された道路が硬くて、普段歩き慣れていない足の裏をじわじわ刺激している。
「はぁー……」
また、溜め息。
今の溜め息は、ここまでの疲労感から来るものなのか、今からの物怖じから来るものなのかは分からない。
僕、#伏見_フシミ_#ハルキは、とあるチャットサイトのオフ会へと向かっている。そもそも、そのサイトに入会したのも藁にもすがる思いだった。
謎の動画……『ジェノの宣告』があってから、僅か三日で、10万人を越える#同胞_ニート_#たちの死が確認された。確か、今朝のニュースでは12万人に増えていた。
兎に角、どうしょうもない状況に陥って、偶然見つけたのが、このチャットサイト。ニートである事が絶対の入会条件で、入会前に簡単なアンケートを受け、管理人の選別によって合否が決まる。
見事、入会し、ニュースの事を質問したら、突然のオフ会という流れになった。
「はぁ……」
本当に、オフ会があるのだろうか?
もし、本当に只の釣で、ネット上でバカにされてるなんて事はないんだろうか?
募る不安。
でも、後戻りもできやしない。
恒久不変の現状を打破するために、僕は賭けと同時に家を出たのだ――――。
どれぐらい時間が経ったのだろう? 日本列島を渡り歩いた伊能忠敬の気分だ。オフ会の会場は、一駅離れた街だった。
高校在学中は電車を利用していた。在学中は何とも思わなかった距離なのに、一ヶ月籠っていただけで、こんなにも遠くに感じるとは驚きだ。
そして、ようやく会場の前に到着した。
会場は至って普通の民家だ。6LDKか7LDKはありそうなニ階建ての住居に、ガーデニングが趣味なのか庭の至るところに花が植えられている。
あとは、白いワゴン車と黒の軽自動車が駐車されている。
「……ここだよね?」
ニートのオフ会で普通の民家。しかも、かなり綺麗で、ドラマの撮影でも使えそうな外観。
不安が更に募る。
「…………よし」
ボーッと突っ立っていてもしょうがない。
意を決して玄関に向かい、インターホンを押す。
ピーンポーンと#高音_たかね_#がする。
ドキドキしながら待つ間に、自分の服装を見直す。髪は、一ヶ月前の卒業式前に切ったきり、特に弄っていないから多少ボサついている。髭は ちゃんと剃ったから問題ない。
服装は黒いトレナーにジーパンと部屋着としては問題ないけど、外着としては どうなんだろうか? 髪は無造作ヘアーで、服装は……なんて誤魔化そう?
今更そんな事を考えても遅い。
既にガチャっと音を立てて扉は開いていた。
「いらっしゃい。キミは新人くん?」
爽やかな青年の声がした。
目の前に立つのは、四捨五入して170㎝の僕より、頭一つ分高い青年。茶髪混じりの髪をふんわりとセットし、無造作ヘアーの御手本を示された気分だ。
更に雑誌のモデルのような服を見事に着こなしてる。
『爽やかな美容師』
それが第一印象だ。もう少し、容姿に気を遣えば良かったと本当に後悔した。
「……え、えっと、アイゼンさん……ですか?」
#吃_ども_#りながらも何とか言えた。
「そうだよ、僕は#藍染_アイゼン_# イツワ。さぁ、上がって」
藍染さんに手招きされ、入ってすぐのLDKに案内される。まるでモデルルームをそのまま移して来たかのような部屋だ。
中央にある足の短い長方形のテーブルをコの字に囲むようソファーが置かれ、5人の先客が各々に着席していた。
「さて、皆さん、今日はお集まり頂きありがとうございます」
藍染さんが一礼しオフ会が始まった。
「そうだな??、簡単に自己紹介しましょうか。『おっさん』からお願いします」
「ワイか?」
そう言って、小太り、眼鏡、毛根が後退しつつある頭で、半袖のアニメのTシャツをズボンにインした男が立ち上がった。
一般的なヲタク+ニートのイメージを具現化したような人だ。
「#覚王山_カクオウザン_#トシヒコ、43歳、無職デュフ。32の時に強制脱サラにあってから、アニメだけが生き甲斐デュフ」
スゴい……。
ニートの理由まで、イメージのまんまだ。
「おっさん、ありがとう。じゃ次は……ん? 『チェリぽん』どうしたの?」
艶やかな茶髪のボブとスラッとした手足に、ほんのりピンク色のマスクをした華奢で綺麗な人が、マスクより濃いピンクのスマホを指差している。
「チャットを使っていいかって? ダメだよ、ちゃんと喋らなきゃ」
綺麗な人は酷く落ち込み、軽く涙目になった。
可哀想だから、使わせてあげなよ……って言いたかったけど――
「桜 マサキです。23歳、女装家 兼 レイヤーです……」
僕よりも低い声で そう語った。
モデルにしか見えないほど美人なのに、驚き……いや衝撃だ!! 所謂、男の娘の比なんてもんじゃない。
「皆、驚いてる……。だから、声出したくなかったのに……」
「ごめんね。でも、ちゃんと自己紹介しなきゃダメでしょ? チェリぽんは、結構有名なレイヤーだよ」
「チェリぽんって、あのチェリぽんデュフか!? この前、○ヴァのレイちゃんのコスで有名だった」
「そうです。それ、私です」
おっさんは興奮して立ち上がる。
藍染さんはそれを制し「次は『ロープさん』お願いします」と告げた。
キャラクターについて語り合い出そうとした二人は静かに席についた。
代わりに立ったのは、スキンヘッドでギロリとした眼光の持ち主。さらに黒金ジャージと、見るからにDQN。おまけに肌が褐色で体躯がよく、何処と無くゴリラに似てるな、と思ってしまいニヤついてしまいそうになる。
「#八草_ヤクサ_#ケンジ、30。職業はヒモだ。女に食わせてもらってる」
ドスの訊いた声でそれだけ言うと、すぐに着席した。
……座る前に、一瞬僕を睨んだ気がした。はっきり言って恐いし、出来れば関わりたくない。
「ロープさん、ありがとう。じゃ次は『ビッチ姉』よろしく」
「はぁ??い」
甲高い声で、レモン色に近い金髪に青いカラコン、谷間を強調した白く薄いブラウスの女性が立ち上がった。
「伊奈 ミサトで??す。元キャバ嬢で、今は男の子食べてま??す」
そう言って僕らの顔を順番にを見回す。
ペロリと唇を舐め、まるで狙いを定める蛇のように――
「はーい、ビッチ姉、ありがとう。じゃ次は『シマリスちゃん』お願い」
「は、はい……」
か細い声で返事をして、身長150㎝ぐらいの小柄な丸眼鏡の女の子が立ち上がる。
ボサボサと胸の辺りまで伸びた黒髪を、ソバージュパーマというやつなのか、特に縛ることもせず、灰色っぽいトレーナーにジーパンと、どこか親近感が沸く格好をしている。
「し、島氏永 リサです。え、えっと……19歳です。よ、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げて席についた。
「シマリスちゃん、お疲れさま。じゃ、最後は新人くんね」
「はい」
出来るだけ元気に返事をして席を立つ。
「えっと、伏見 ハルキです。18です。えっと……よろしくお願いします」
結局、口ごもってしまった。
でも、ちゃんと言えたから良しとしよう。
「ねぇ、新人く??ん」
伊奈さんに呼ばれる。
「な、何ですか?」
「キミって童貞?」
「……え!?」
「コラコラ、ビッチ姉、新人くん誘惑しちゃダメだよ」
伊奈さんは「ちぇ??」と言ってそっぽを向く。
助かったような、勿体無い事をしたような……。
「よーし、皆終わったね。じゃ、一応僕もしとこうかな。藍染 イツワ。年齢は……う??ん、秘密。職業は管理人とハッカーをしてます」
皆に衝撃が走る。
「オイ、ハッカーってことは犯罪者か!?」
犯罪者のような顔つきの八草さんが、荒々しい声で息巻く。
藍染さんは「チッチッチ」と言いたげに人差し指を振る。
「ハッカーと言ってもホワイトハッカーだよ。テレビとかで聞いたことないかな? 一応、国家公務員に当たるんだけど。まぁ、元だけどね」
国家公務員という事で誰もが凄いんだと感じると同時に、何故辞めたのだろうと疑問が生まれる。
しかし、「僕については、これぐらいとして……」と切り出されてしまったので誰も聞くことが出来なかった。
「本題に入ろうか」
その一言で各々に緊張感が走る。
「まず、『ジェノの宣告』についてだ。昨日のチャットのログを見て貰えばわかるように、ニート大量虐殺の犯人……いや、主犯と呼んだ方がいいかな? とにかく、今世間を賑わせてるニュースに深く関与しているのは、あの動画の女の子だ」
揚々と解説する藍染さんの言葉を、誰もが上手く掴むことが出来ない。その証拠に、八草さんはテーブルを小突きだし、覚王山さんは眉根を寄せてる。
「早い話、ジェノちゃんはAI……つまり、人工知能だ」
人工知能……。
SF作品でよく聞く、人工知能でいいのだろうか?
現実離れしているようで、どうにも実感が沸かない。
「けど、彼女は、まだ未完成だよ。そこまで知識は深くない」
薄ら笑みを浮かべ、解説を続ける藍染さん。
どことなく、オモチャを自慢する子どものような#表情_かお_#をしている。
「彼女が、どう関与しているか、具体的に言うね。まず、彼女に、サーバーのアクセス記録……まぁ、簡単に言うと履歴を調べさせた。そして、そこからニートを割り出した。ここまではOK?」
皆が静かに頷く。
平日の昼間っから、アニメやゲームばかりしている履歴を見つけニートを特定したと言うことだろう。
「次に、特定したニートにランク付け……線引きをしたって言った方がいいかな? その越えてはいけないラインを越えたのが、今回の被害者だ」
何となくジェノについて分かってきた。
けど、まだ根本的な所が分からない。
「皆が今思うのは、どうやってニートを殺したか……だよね? 結論から言ってニートに直接手を下したのは人間だ。住む次元が違う彼女には出来ないからね」
と言うことは、10万を越す人間を殺した犯人がいるってわけだ。
10万人もの人間を短期間かつ証拠を残さず抹消するなんて可能なのだろうか……?
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる