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17巻
17-3
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「ふむ、シュニーが調べていたプレイヤーキラーだったか。それもシンと関わりのある者が多かったのではなかったか?」
「どうでしょうか。確かに関わっていたともいえますが、あのときのシンは、目に付いたPKはすべて斬るような状態でしたし。あらためて考えてみると、ホーリーさんやシャドゥさんのような密接な関わりではなく、たまたま道ですれ違った程度の些細な関係なのではないでしょうか」
シュバイドから話を振られたシュニーは、少し間を空けて言った。
シンは以前、シュニーが調べたというPKのリストを見せてもらったことがある。
なんとなく覚えている相手もいれば、こんなやついたかという相手もいた。PKはモンスターと同じ扱いで切り捨てていたので、名前など頓着していなかったのだ。
これは、元の世界の倫理観に照らし合わせれば、危険極まりない考え方だ。
しかし、警察のような治安維持組織のないゲーム内では、それ以外にやりようはなかった。
シンは今もそう思っている。ゲーム時の【THE NEW GATE】では、現実の法律に何の意味もなかった。
「そんなに気になるの?」
話を聞いていたティエラが、会話の切れ目にするりと入ってくる。
「絶対に突き止めたいってほどじゃないけど、気にならないといえば嘘になるって感じだな」
「でも、そのぷれいやぁ? っていうのは、シンが選んでいるわけじゃないんでしょ? それなら、シンが悩む必要はないんじゃないかしら」
シンがしたことは、良い悪いは別にして、あくまでゲーム内のルールにのっとっての行為。
できることと、していいことは別物だが、ゲーム内ではPKを倒したところで何のペナルティもない。無論、相手をゲームそっくりの世界に飛ばすなんてこともできない。
そういう意味では、ティエラの言うことは正しかった。シンが彼ら、彼女らをこの世界に送り込んだわけではないし、そもそもそんなこと想定もしていない。
「それは、そうなんだけどな」
「話を聞いただけだと、どっちかといえばシンが巻き込まれたって感じじゃない?」
「巻き込まれた?」
少し離れて静観していたフィルマの発言に、シンは視線を向けた。
「だって本当なら、シンはこっちに来ることはなかったんでしょ?」
「それは」
フィルマやセティといった、比較的後になって合流したメンバーにはシンがこの世界にきたときのことはまだ話していない。情報源はシュニーだろう。
実際、こちらに来ているのはわかっているかぎり、デスゲーム時に死亡したプレイヤーのみ。シンだけが例外だ。
フィルマの言うことも、あながち間違いではないのかもしれないといえた。
「どっちにしろ現状が変わるわけじゃないんだから、うだうだ考えても無駄無駄。それより、もっと建設的な話をしましょうよ」
フィルマの言うことももっとだと、シンはわからないことに頭を使うのをやめた。
巻き込んだにしろ巻き込まれたにしろ、現状を変えることはできないのだ。
「で、建設的な話っていうのは?」
せっかくなので、話を切り出したフィルマに振る。
「シンが製作中の指輪のデザインについて」
「ちょっとまて。シュニー以外、誰にも言っていないはずのそれをなぜ――」
知っていると言いかけて、シュニーに視線を向ける。シュニーは馬車の外を見ていた。耳が赤いのを見れば何があったのかは大体察せられる。
「のろけを聞いているときに、ぽろっとねー」
「うまく誘導したんじゃないのかぁ?」
「いやあ、そんなことないわよぅ」
ジト目で言うシンに、視線を逸らしながらフィルマが返す。
テヘペロ状態のフィルマを見て、それが本当のことだと思う者はいないだろう。
視線をフィルマから隣にずらすと、セティも同じ表情をしていた。どうやらタッグを組んで情報を吐かせたようだ。
「はあ、そりゃ絶対に秘密ってわけじゃないけどさ」
「シンとの生活を幸せそうに話すもんだから、ついねー」
「シュー姉、途端に饒舌になるもんねー」
まるで姉妹のようにフィルマとセティがシュニーに視線を送る。
普段は物静かなシュニーだが、無口というわけではない。気を許した相手だと意外とよく話すのはシンも知っている。相手がフィルマやセティならなおさらだろう。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか」
「シュバイド、お前もか……」
初耳だとシュバイドが会話に混ざる。顔が人とは違うのでわかりにくいが、口角の上がり具合から笑っているのは間違いない。
「もちろん、細部まで詳細に語ってあげるわ」
「助かる。女同士の話には混ざれんからな」
フィルマの返答にシュバイドは満足げにうなずく。
景色を見るシュニーのほうがプルプルと震えているのは馬車の振動のせいではない。さっきよりも耳が赤くなっているのも見間違いではない。
「シュバイドは俺でもいいんだぞ?」
「シュニーから聞くのがよいのだ」
待ち焦がれた相手との2人きりの生活。同じサポートキャラクターとして、シュニーを知る者として、本人の視点から語られるのを聞きたいという。
「おまえらなぁ」
シュニーにとってはこの会話も羞恥プレイのようなものだろう。馬車の中では逃げ場もない。
いじられる本人はたまったものではないだろうが、内容的には平和なものだ。
ちなみに会話に加わっていないティエラは話を聞きたいような聞きたくないような、なんとも微妙な表情でフィルマたちを見ている。
ユズハのほうはシュニーの膝の上でなにやら上を向いていた。方向から見てシュニーの顔を覗き込んでいるようだ。何がしたいのかはシンにはわからなかった。
そんな穏やかな時間をすごしながらシンたちは順調に移動し、数日でキルモントの領内へと進んだ。
モンスターの存在もあって、国境が曖昧なことは珍しくない。ファルニッドとキルモントの場合、両国の中間地点から一定範囲を共同管理地帯としている。
実際は、氾濫によって発生したモンスターが流入しやすいため、大きな町や村を作れなかったのでそうなっているだけだとシュバイドがシンに教えてくれた。
モンスターが流入するのが原因なのか、モンスターの数も多いらしい。
防衛上、キルモント側に向かってくるモンスターを優先的に排除するので、ファルニッド側に流れやすいようだ。
ファルニッド側もそれは承知していて、共同管理の名目で派遣した部隊がキルモントの部隊と協力して撃退または殲滅している。
「モンスターが来なければ、本当に町くらいはできていたかもしれん。肥沃とまではいかんが、土地は肥えているのだ」
地質調査もしているらしい。防衛部隊が使う砦の近くには小さな集落もあるようだ。
国からすればそんなところに許可もなく集落を作るのはいろいろと問題があるのだが、場所が場所だけに、そして規模が小さいために目こぼししているらしい。
勝手にやっているため、もしモンスターの被害が出てもなんの補償もない。
「氾濫がなければ、二国間の中継地点として発展しそうなものなのだが」
ファルニッドとキルモントの間には一直線で向かっても馬車で1月以上かかるだけの距離がある。2国間を移動する場合、点在する集落で補給をしていくので実際にかかる時間はそれ以上だ。この場合の集落は国の認可を得ている。
「ん? あれはなんだ?」
雑談に興じながらキルモントを目指していたシンたちの視線の先に、鎧を着込んだ騎馬の集団が現れる。
総数24。そのうち1騎が掲げているのは、シンの記憶違いでなければキルモントの国旗だ。
馬車の停止を求められたのでシンたちが応じると、騎兵の中から2騎が近づいてきた。
「我らはキルモント所属の第十二騎兵隊。私は隊長のレッケルだ。貴殿らはキルモントへ向かうところか?」
「ええ、そうです。我々に何か御用ですか?」
話しかけてきたのは鈍く輝く鎧を着た赤毛の騎士だった。後ろには同じ鎧とヘルムをかぶった騎士がいる。
今のところ敵意や悪意は感じなかったので、シンたちは冒険者として対応することにした。
「ファルニッドから来たのか。ならば、また氾濫があったことは知らんだろう。大部分はすでに討ち取られたようだが、いくらか撃ちもらしがこちらに流れていると報告を受けている。我らも総力を挙げて討伐を行っているが、まだ安全だとは言い切れん。進む際には十分に注意して欲しい。話は以上だ。時間をとらせてすまなかったな」
「いえ、ご忠告感謝します」
話を終えると、騎兵たちはすぐに移動を始め、あっという間に土煙しか見えなくなった。
いざというときは全力で逃げる、近くに騎士がいれば助けを求めるなど、危機が迫ったときの対応を見かけた旅人や商人に伝えているらしい。
態度も高圧的なところはなく、とても丁寧だった。
国境の砦に常駐している部隊のひとつだろうとシュバイドが言う。
「見えてきたな」
騎士たちと別れてさらに進むと、キルモントの城壁が見てくる。城壁の周りは見晴らしの良い平原で、周囲の様子も良く見えた。
大きく開け放たれた門から、軍隊と思しき兵たちが出て行くところもだ。
「氾濫に対応するための援軍か? まだ戦いは終わってないのかね」
「騎士の方たちの話では、すでに掃討戦に入っているということでしたが……もしかすると、被害が大きかったのかもしれませんね」
シンの疑問に、シュニーは心配そうな顔で言った。
西へと向かう兵たちの中には補給部隊も見える。兵士の数も多く、シュニーの予想に説得力を持たせるには十分だ。
「あれの旗の紋章は近衛第3師団。レベル500以上の大型モンスターが出た際に出撃する精鋭部隊だ。騎士の言っていた討ちもらしは、それかもしれん」
選定者と高レベルの騎士で構成された特別な部隊だとシュバイドは言う。これまでも出撃することはあったらしい。
「緊急事態とは限らないか?」
「そうだな。我がいたときも、出撃したことは何度もある。危険であることには変わりないが、必ずしもそうというわけではないな」
そうでなければ、とうに国としての体裁を保てなくなっているとシュバイドは続けた。
「しかし、油断ならん事態でもある。王と謁見するのは時間を置かねば難しいかも知れぬな」
シュバイドのつぶやきに、シンも兵士の進むほうを見ながらそうだなと応えた。
†
門から出立する軍を見送ったシンたちは、旅人や冒険者の集団に混じってキルモントに入国した。
入国審査の際に可能ならモンスターの迎撃に参加してほしいと言われたのは、シンやシュバイドがAランク冒険者であり、巨大化したカゲロウが馬車を引いていたからだろう。
ギルドのほうで緊急依頼として張り出されているようで、シンたちのように後から入国した冒険者にも伝えるよう言われているらしい。
「入国は思ったよりスムーズだったな。住民も慌ててる様子はないし」
「氾濫の起こる頻度は、おそらく大陸一だからな。住民も慣れているのだ。戦士たちの防衛が失敗したことがないのもその一因だろう」
シンがバルメルの氾濫で活躍したことを知っているシュバイドが、それを例に出して言う。
聖地からあふれた魔力がモンスターとなって起こる『氾濫』だが、その頻度や規模は場所によって様々だ。
周囲を断崖や海に囲まれているせいで被害を出すことのない氾濫もあれば、キルモントのように頻繁に迎撃をしなければならない場所もある。
「聖地の調査はどうなってるんだ?」
「そちらはもっとも進んでいないもののひとつだろう。間に海を挟んでいることもあって、そこに行くだけでも一苦労なのだ。そのうえ、海にはあれがいる」
「あれ?」
シュバイドが額に皺を寄せるのを見て、何か厄介なものが「いる」、もしくは「ある」のだろうとシンは推測した。話の流れから、海に関係するもので間違いない。
「戦ったわけではないが、ラ・ムォーンがいることが確認されている」
「なるほど、あれか」
名前を聞いて、シンは納得する。
ラ・ムォーンとは、巨大な魚人のようなモンスターのことだ。魚を人型にしたタイプとほぼ同じ姿をしている。違うのは、そのサイズ。
ラ・ムォーンの全長、人で言うところの身長はシンの知るもので40メルほど。腕だけでも20メル以上ある。かつて戦ったリフォルジーラが可愛く見えるレベルの大きさだ。
まとめサイトでは、50メルを超えるものもいたと言われている。大きさだけで言えば、規格外のモンスターを除くと【THE NEW GATE】でもトップクラス。
顔だけでも、小船くらいならひと呑みにできる大きさで、それが光の届かない深海から現れたときなどちょっとしたトラウマになるほど恐ろしい。まさに怪物である。
「人が襲われたという記録はないが、聖地のある島に近づくものには容赦なく攻撃をしてくるのは間違いない。我もサーペントが小魚のように握られ、そのまま引き千切られるのを見たことがある。記録がないからと言っても、人なら大丈夫とは思えんな」
海に引きずりこまれてしまえば、見つかることもない。
人にとっては巨大なモンスターも、ラ・ムォーンからすれば片手でつかめる小動物。人など鼠より小さい。つぶすのは簡単だろう。
「聖地に近づくやつを攻撃するってことは、それ以外だと積極的に攻撃してくるわけじゃないのか?」
「難破してたまたま流されてしまった者を助けた、そんな記録もある。おそらく、性質はあまり変わっていないと思うが」
ゲーム時のラ・ムォーンは遠洋を回遊するボスエネミー。
といっても、プレイヤー側から攻撃しなければ何もしてこない。深海を移動するので、たまたま見かけるということもほとんどないモンスターだった。
まれに浅瀬に出てきてプレイヤーを驚かせることがあるくらいだ。そんなことをするからトラウマ製造機のひとつとしてカウントされるようになったのだが。
「今のところは近づかないのが一番か。聖地の調査は進んでないけど、わざわざラ・ムォーンが守ってるところに突撃するのもな」
聖地は他にもある。藪をつつくようなまねはしたくなかった。
「とりあえず、先に宿をとっておこう」
「それならば、いいところがある」
馬車で入国したので、それを置けるだけの場所がある宿屋でなくてはならない。
カードに戻してもいいが、大きさが大きさだけにこっそり戻すというのは難しい。そういう宿をシュバイドに聞くと、心当たりがあるようだ。
しばらくして到着したのは、冒険者用の宿のひとつ『青凪亭』。
中~上級の冒険者が使う宿で、馬車置き場や騎獣用の納屋など設備が整っているらしい。
シンは外にいた従業員の青年に声をかけ、馬車置き場に案内してもらう。
シュバイドたちには先に部屋を取るように頼んだ。シンはドラグニルの国というのは初めてだが、シュバイドなら無知ゆえのトラブルを起こすことはない。
無事宿を確保したら、今度はギルドだ。冒険者を動員する以上、氾濫が現在どういう状況なのか把握しているはずである。今は情報が欲しかった。
シュバイドにはメッセージカードを使って竜王にコンタクトを取ってもらっている。
「宿に着くまでも思ったけど、結構近代的っていうか、ゲーム時代の建物っぽいのがあるな」
「ドラグニルは長命種だからな。スキルレベルを高めた者もそれなりにいる。『栄華の落日』前から生きている者もな。他の長命種のように住む場所にこだわらん者も多いゆえ、こうなったのだろう。ロードの街もかつての首都に近いぞ」
ピクシーなら苑を作ってその中で暮らす。
エルフなら森で暮らす。
ビーストも種族によって、多少住む場所の好みがある。
ドワーフは鉱山や森林地帯の近くに居を構えることが多かったが、これは単純にものづくりの材料が近くにあるからだ。
対して、ヒューマン、ドラグニル、ロードは、種族特有のどこで暮らすというようなものはない。多少ドラグニルが暑い場所を好む程度だ。
ヒューマン以外は長命種なので、シュバイドの言うとおり技術を窮めるという点では短命種より優位。特殊な技能を有する者も多いようだ。
ただ、種族の意地とでも言うべきか、ものづくりに関してはやはりドワーフに分があるらしい。魔術的な技術以外はドワーフが監修しているという。
「組合ってやつか。できれば一度資料を見てみたいな」
エルクントのドワーフ、ヴァルガンは組合から対悪魔武器の資料を提供されていた。
今では御伽噺扱いのものもしっかりと残しているあたり、組合の集める情報は馬鹿にできない。
「2人とも、そろそろギルドに着くわよ」
話に夢中になっていたシンとシュバイドに、フィルマの声がかかる。
シンがギルドに視線を向けると、武装した人々が出入りするのが見えた。反乱が起きているからか、出入りする様子も少し慌ただしい。
「ねぇ、なんだか私たち、注目されてない?」
「それはいつものことだから気にしなくていいぞ」
セティの周囲を見ながらの発言に、シンは冷静に返す。注目を浴びるのはベイルリヒトからずっとなので、さすがに慣れた。
シュニーとティエラの2人と歩いているだけでも羨望から嫉妬まで入り混じった視線を向けられるのである。
そこに、タイプは違えども美しくスタイルのいいフィルマと、愛らしさのあるセティが加わるのだ。もはやこっちを見ろと、周囲に宣伝しているようなものである。
シンとシュバイドに加えて体が大きいままのカゲロウもいるので、視線は向けても声をかけてくる者はいない。
「思ったより人がいるな」
ドラグニル用なのだろう。縦横ともにヒューマンの街のものより大きな扉を開いてギルドに入ると、ごった返すほどではないが多くの人でにぎわっていた。
依頼の張り出されたボードを見る者から、併設された食事処で料理に舌鼓を打つ者まで様々だ。
「予備戦力として待機している者や、そもそも迎撃に参加しない者たちもいる。大規模の反乱でなければこんなものだ。消費する素材を採取に行く者もいるな」
「なんか、それはそれで大変だな」
話を聞くほど、キルモントがなかったら大陸内が混沌としそうだと思うシンである。
「そこまで危機感を抱いてるわけじゃなさそうだけど、このままだと少しまずそうか」
人の少なくなったタイミングを見計らって、受付で何が起こっているのかを確認したシンたち。
氾濫によるモンスターの攻勢はすでに4度。数は多いが、モンスターのレベルは高くないようで、砦が陥落するような事態は起こっていないようだ。
ただ、低レベルモンスターが多い反面、桁違いにレベルの高い個体も何体か出現しており、シンたちが入国する際に見たのも、それを倒すために派遣された部隊だという。
「少し迎撃に協力したほうがいいか?」
「緊急事態と判断すれば、Bランク以上の冒険者には連絡がくる。受付嬢の話からすると、まだその域までは達していないようだが」
本当に危険な状況ならば、砦にいる兵士から王城へ連絡が行く。ギルドにもすぐに連絡が行くので、情報伝達については大きなタイムラグはないという。
シンとシュバイドの冒険者ランクはA。
もし混乱を避けるために情報統制されていたとしても、このランクならば別室で話をすることになるはずだ、とシュバイドは話す。
ただ、シンとしては時折聞こえてくる迎撃が間に合っていないんじゃないか、という主旨の発言が気になった。
人が多いせいで誰がしゃべっているのかわからないが、同じような話が繰り返されているように感じられたのだ。まるで、そういう噂を意図的に流しているように。
「……竜王のほうはどうだ?」
「迎えをやると連絡が来ている――――あれだな」
シュバイドと竜王は冒険者カードを使った新世代バージョンの心話が使えるようで、移動中に事情は説明し終わっていた。
ギルドは宿よりも城に近いので、馬車はこちらに回してもらったようだ。
シンたちがギルドを出て、出入りに邪魔にならない程度に離れて待っていると、数分と経たないうちに、明らかに周囲のものとは装飾の異なる馬車が近づいてきた。
馬車を引いているのは、騎乗用の馬より二回りは大きな馬型モンスター『ブルホース』だ。
「めちゃくちゃ目立ってるな」
「あまり時間をかけていられんからな。今回は大目に見て欲しい。それと、相談したいこともあるようだ」
心話でもやり取りはしているが、直接会って話もしたいらしい。どうやら、まだシンたちが把握していない何かが起こっているようだ。
「俺たちが伝えようとしていたことが、もう起こっていたとかか?」
「いや、今のところそういったことはないらしい。現状では、氾濫についてだと思うが」
シュバイドもまだ詳しい話は聞いていないようで、手を顎にやって思案顔をしている。
「どうでしょうか。確かに関わっていたともいえますが、あのときのシンは、目に付いたPKはすべて斬るような状態でしたし。あらためて考えてみると、ホーリーさんやシャドゥさんのような密接な関わりではなく、たまたま道ですれ違った程度の些細な関係なのではないでしょうか」
シュバイドから話を振られたシュニーは、少し間を空けて言った。
シンは以前、シュニーが調べたというPKのリストを見せてもらったことがある。
なんとなく覚えている相手もいれば、こんなやついたかという相手もいた。PKはモンスターと同じ扱いで切り捨てていたので、名前など頓着していなかったのだ。
これは、元の世界の倫理観に照らし合わせれば、危険極まりない考え方だ。
しかし、警察のような治安維持組織のないゲーム内では、それ以外にやりようはなかった。
シンは今もそう思っている。ゲーム時の【THE NEW GATE】では、現実の法律に何の意味もなかった。
「そんなに気になるの?」
話を聞いていたティエラが、会話の切れ目にするりと入ってくる。
「絶対に突き止めたいってほどじゃないけど、気にならないといえば嘘になるって感じだな」
「でも、そのぷれいやぁ? っていうのは、シンが選んでいるわけじゃないんでしょ? それなら、シンが悩む必要はないんじゃないかしら」
シンがしたことは、良い悪いは別にして、あくまでゲーム内のルールにのっとっての行為。
できることと、していいことは別物だが、ゲーム内ではPKを倒したところで何のペナルティもない。無論、相手をゲームそっくりの世界に飛ばすなんてこともできない。
そういう意味では、ティエラの言うことは正しかった。シンが彼ら、彼女らをこの世界に送り込んだわけではないし、そもそもそんなこと想定もしていない。
「それは、そうなんだけどな」
「話を聞いただけだと、どっちかといえばシンが巻き込まれたって感じじゃない?」
「巻き込まれた?」
少し離れて静観していたフィルマの発言に、シンは視線を向けた。
「だって本当なら、シンはこっちに来ることはなかったんでしょ?」
「それは」
フィルマやセティといった、比較的後になって合流したメンバーにはシンがこの世界にきたときのことはまだ話していない。情報源はシュニーだろう。
実際、こちらに来ているのはわかっているかぎり、デスゲーム時に死亡したプレイヤーのみ。シンだけが例外だ。
フィルマの言うことも、あながち間違いではないのかもしれないといえた。
「どっちにしろ現状が変わるわけじゃないんだから、うだうだ考えても無駄無駄。それより、もっと建設的な話をしましょうよ」
フィルマの言うことももっとだと、シンはわからないことに頭を使うのをやめた。
巻き込んだにしろ巻き込まれたにしろ、現状を変えることはできないのだ。
「で、建設的な話っていうのは?」
せっかくなので、話を切り出したフィルマに振る。
「シンが製作中の指輪のデザインについて」
「ちょっとまて。シュニー以外、誰にも言っていないはずのそれをなぜ――」
知っていると言いかけて、シュニーに視線を向ける。シュニーは馬車の外を見ていた。耳が赤いのを見れば何があったのかは大体察せられる。
「のろけを聞いているときに、ぽろっとねー」
「うまく誘導したんじゃないのかぁ?」
「いやあ、そんなことないわよぅ」
ジト目で言うシンに、視線を逸らしながらフィルマが返す。
テヘペロ状態のフィルマを見て、それが本当のことだと思う者はいないだろう。
視線をフィルマから隣にずらすと、セティも同じ表情をしていた。どうやらタッグを組んで情報を吐かせたようだ。
「はあ、そりゃ絶対に秘密ってわけじゃないけどさ」
「シンとの生活を幸せそうに話すもんだから、ついねー」
「シュー姉、途端に饒舌になるもんねー」
まるで姉妹のようにフィルマとセティがシュニーに視線を送る。
普段は物静かなシュニーだが、無口というわけではない。気を許した相手だと意外とよく話すのはシンも知っている。相手がフィルマやセティならなおさらだろう。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか」
「シュバイド、お前もか……」
初耳だとシュバイドが会話に混ざる。顔が人とは違うのでわかりにくいが、口角の上がり具合から笑っているのは間違いない。
「もちろん、細部まで詳細に語ってあげるわ」
「助かる。女同士の話には混ざれんからな」
フィルマの返答にシュバイドは満足げにうなずく。
景色を見るシュニーのほうがプルプルと震えているのは馬車の振動のせいではない。さっきよりも耳が赤くなっているのも見間違いではない。
「シュバイドは俺でもいいんだぞ?」
「シュニーから聞くのがよいのだ」
待ち焦がれた相手との2人きりの生活。同じサポートキャラクターとして、シュニーを知る者として、本人の視点から語られるのを聞きたいという。
「おまえらなぁ」
シュニーにとってはこの会話も羞恥プレイのようなものだろう。馬車の中では逃げ場もない。
いじられる本人はたまったものではないだろうが、内容的には平和なものだ。
ちなみに会話に加わっていないティエラは話を聞きたいような聞きたくないような、なんとも微妙な表情でフィルマたちを見ている。
ユズハのほうはシュニーの膝の上でなにやら上を向いていた。方向から見てシュニーの顔を覗き込んでいるようだ。何がしたいのかはシンにはわからなかった。
そんな穏やかな時間をすごしながらシンたちは順調に移動し、数日でキルモントの領内へと進んだ。
モンスターの存在もあって、国境が曖昧なことは珍しくない。ファルニッドとキルモントの場合、両国の中間地点から一定範囲を共同管理地帯としている。
実際は、氾濫によって発生したモンスターが流入しやすいため、大きな町や村を作れなかったのでそうなっているだけだとシュバイドがシンに教えてくれた。
モンスターが流入するのが原因なのか、モンスターの数も多いらしい。
防衛上、キルモント側に向かってくるモンスターを優先的に排除するので、ファルニッド側に流れやすいようだ。
ファルニッド側もそれは承知していて、共同管理の名目で派遣した部隊がキルモントの部隊と協力して撃退または殲滅している。
「モンスターが来なければ、本当に町くらいはできていたかもしれん。肥沃とまではいかんが、土地は肥えているのだ」
地質調査もしているらしい。防衛部隊が使う砦の近くには小さな集落もあるようだ。
国からすればそんなところに許可もなく集落を作るのはいろいろと問題があるのだが、場所が場所だけに、そして規模が小さいために目こぼししているらしい。
勝手にやっているため、もしモンスターの被害が出てもなんの補償もない。
「氾濫がなければ、二国間の中継地点として発展しそうなものなのだが」
ファルニッドとキルモントの間には一直線で向かっても馬車で1月以上かかるだけの距離がある。2国間を移動する場合、点在する集落で補給をしていくので実際にかかる時間はそれ以上だ。この場合の集落は国の認可を得ている。
「ん? あれはなんだ?」
雑談に興じながらキルモントを目指していたシンたちの視線の先に、鎧を着込んだ騎馬の集団が現れる。
総数24。そのうち1騎が掲げているのは、シンの記憶違いでなければキルモントの国旗だ。
馬車の停止を求められたのでシンたちが応じると、騎兵の中から2騎が近づいてきた。
「我らはキルモント所属の第十二騎兵隊。私は隊長のレッケルだ。貴殿らはキルモントへ向かうところか?」
「ええ、そうです。我々に何か御用ですか?」
話しかけてきたのは鈍く輝く鎧を着た赤毛の騎士だった。後ろには同じ鎧とヘルムをかぶった騎士がいる。
今のところ敵意や悪意は感じなかったので、シンたちは冒険者として対応することにした。
「ファルニッドから来たのか。ならば、また氾濫があったことは知らんだろう。大部分はすでに討ち取られたようだが、いくらか撃ちもらしがこちらに流れていると報告を受けている。我らも総力を挙げて討伐を行っているが、まだ安全だとは言い切れん。進む際には十分に注意して欲しい。話は以上だ。時間をとらせてすまなかったな」
「いえ、ご忠告感謝します」
話を終えると、騎兵たちはすぐに移動を始め、あっという間に土煙しか見えなくなった。
いざというときは全力で逃げる、近くに騎士がいれば助けを求めるなど、危機が迫ったときの対応を見かけた旅人や商人に伝えているらしい。
態度も高圧的なところはなく、とても丁寧だった。
国境の砦に常駐している部隊のひとつだろうとシュバイドが言う。
「見えてきたな」
騎士たちと別れてさらに進むと、キルモントの城壁が見てくる。城壁の周りは見晴らしの良い平原で、周囲の様子も良く見えた。
大きく開け放たれた門から、軍隊と思しき兵たちが出て行くところもだ。
「氾濫に対応するための援軍か? まだ戦いは終わってないのかね」
「騎士の方たちの話では、すでに掃討戦に入っているということでしたが……もしかすると、被害が大きかったのかもしれませんね」
シンの疑問に、シュニーは心配そうな顔で言った。
西へと向かう兵たちの中には補給部隊も見える。兵士の数も多く、シュニーの予想に説得力を持たせるには十分だ。
「あれの旗の紋章は近衛第3師団。レベル500以上の大型モンスターが出た際に出撃する精鋭部隊だ。騎士の言っていた討ちもらしは、それかもしれん」
選定者と高レベルの騎士で構成された特別な部隊だとシュバイドは言う。これまでも出撃することはあったらしい。
「緊急事態とは限らないか?」
「そうだな。我がいたときも、出撃したことは何度もある。危険であることには変わりないが、必ずしもそうというわけではないな」
そうでなければ、とうに国としての体裁を保てなくなっているとシュバイドは続けた。
「しかし、油断ならん事態でもある。王と謁見するのは時間を置かねば難しいかも知れぬな」
シュバイドのつぶやきに、シンも兵士の進むほうを見ながらそうだなと応えた。
†
門から出立する軍を見送ったシンたちは、旅人や冒険者の集団に混じってキルモントに入国した。
入国審査の際に可能ならモンスターの迎撃に参加してほしいと言われたのは、シンやシュバイドがAランク冒険者であり、巨大化したカゲロウが馬車を引いていたからだろう。
ギルドのほうで緊急依頼として張り出されているようで、シンたちのように後から入国した冒険者にも伝えるよう言われているらしい。
「入国は思ったよりスムーズだったな。住民も慌ててる様子はないし」
「氾濫の起こる頻度は、おそらく大陸一だからな。住民も慣れているのだ。戦士たちの防衛が失敗したことがないのもその一因だろう」
シンがバルメルの氾濫で活躍したことを知っているシュバイドが、それを例に出して言う。
聖地からあふれた魔力がモンスターとなって起こる『氾濫』だが、その頻度や規模は場所によって様々だ。
周囲を断崖や海に囲まれているせいで被害を出すことのない氾濫もあれば、キルモントのように頻繁に迎撃をしなければならない場所もある。
「聖地の調査はどうなってるんだ?」
「そちらはもっとも進んでいないもののひとつだろう。間に海を挟んでいることもあって、そこに行くだけでも一苦労なのだ。そのうえ、海にはあれがいる」
「あれ?」
シュバイドが額に皺を寄せるのを見て、何か厄介なものが「いる」、もしくは「ある」のだろうとシンは推測した。話の流れから、海に関係するもので間違いない。
「戦ったわけではないが、ラ・ムォーンがいることが確認されている」
「なるほど、あれか」
名前を聞いて、シンは納得する。
ラ・ムォーンとは、巨大な魚人のようなモンスターのことだ。魚を人型にしたタイプとほぼ同じ姿をしている。違うのは、そのサイズ。
ラ・ムォーンの全長、人で言うところの身長はシンの知るもので40メルほど。腕だけでも20メル以上ある。かつて戦ったリフォルジーラが可愛く見えるレベルの大きさだ。
まとめサイトでは、50メルを超えるものもいたと言われている。大きさだけで言えば、規格外のモンスターを除くと【THE NEW GATE】でもトップクラス。
顔だけでも、小船くらいならひと呑みにできる大きさで、それが光の届かない深海から現れたときなどちょっとしたトラウマになるほど恐ろしい。まさに怪物である。
「人が襲われたという記録はないが、聖地のある島に近づくものには容赦なく攻撃をしてくるのは間違いない。我もサーペントが小魚のように握られ、そのまま引き千切られるのを見たことがある。記録がないからと言っても、人なら大丈夫とは思えんな」
海に引きずりこまれてしまえば、見つかることもない。
人にとっては巨大なモンスターも、ラ・ムォーンからすれば片手でつかめる小動物。人など鼠より小さい。つぶすのは簡単だろう。
「聖地に近づくやつを攻撃するってことは、それ以外だと積極的に攻撃してくるわけじゃないのか?」
「難破してたまたま流されてしまった者を助けた、そんな記録もある。おそらく、性質はあまり変わっていないと思うが」
ゲーム時のラ・ムォーンは遠洋を回遊するボスエネミー。
といっても、プレイヤー側から攻撃しなければ何もしてこない。深海を移動するので、たまたま見かけるということもほとんどないモンスターだった。
まれに浅瀬に出てきてプレイヤーを驚かせることがあるくらいだ。そんなことをするからトラウマ製造機のひとつとしてカウントされるようになったのだが。
「今のところは近づかないのが一番か。聖地の調査は進んでないけど、わざわざラ・ムォーンが守ってるところに突撃するのもな」
聖地は他にもある。藪をつつくようなまねはしたくなかった。
「とりあえず、先に宿をとっておこう」
「それならば、いいところがある」
馬車で入国したので、それを置けるだけの場所がある宿屋でなくてはならない。
カードに戻してもいいが、大きさが大きさだけにこっそり戻すというのは難しい。そういう宿をシュバイドに聞くと、心当たりがあるようだ。
しばらくして到着したのは、冒険者用の宿のひとつ『青凪亭』。
中~上級の冒険者が使う宿で、馬車置き場や騎獣用の納屋など設備が整っているらしい。
シンは外にいた従業員の青年に声をかけ、馬車置き場に案内してもらう。
シュバイドたちには先に部屋を取るように頼んだ。シンはドラグニルの国というのは初めてだが、シュバイドなら無知ゆえのトラブルを起こすことはない。
無事宿を確保したら、今度はギルドだ。冒険者を動員する以上、氾濫が現在どういう状況なのか把握しているはずである。今は情報が欲しかった。
シュバイドにはメッセージカードを使って竜王にコンタクトを取ってもらっている。
「宿に着くまでも思ったけど、結構近代的っていうか、ゲーム時代の建物っぽいのがあるな」
「ドラグニルは長命種だからな。スキルレベルを高めた者もそれなりにいる。『栄華の落日』前から生きている者もな。他の長命種のように住む場所にこだわらん者も多いゆえ、こうなったのだろう。ロードの街もかつての首都に近いぞ」
ピクシーなら苑を作ってその中で暮らす。
エルフなら森で暮らす。
ビーストも種族によって、多少住む場所の好みがある。
ドワーフは鉱山や森林地帯の近くに居を構えることが多かったが、これは単純にものづくりの材料が近くにあるからだ。
対して、ヒューマン、ドラグニル、ロードは、種族特有のどこで暮らすというようなものはない。多少ドラグニルが暑い場所を好む程度だ。
ヒューマン以外は長命種なので、シュバイドの言うとおり技術を窮めるという点では短命種より優位。特殊な技能を有する者も多いようだ。
ただ、種族の意地とでも言うべきか、ものづくりに関してはやはりドワーフに分があるらしい。魔術的な技術以外はドワーフが監修しているという。
「組合ってやつか。できれば一度資料を見てみたいな」
エルクントのドワーフ、ヴァルガンは組合から対悪魔武器の資料を提供されていた。
今では御伽噺扱いのものもしっかりと残しているあたり、組合の集める情報は馬鹿にできない。
「2人とも、そろそろギルドに着くわよ」
話に夢中になっていたシンとシュバイドに、フィルマの声がかかる。
シンがギルドに視線を向けると、武装した人々が出入りするのが見えた。反乱が起きているからか、出入りする様子も少し慌ただしい。
「ねぇ、なんだか私たち、注目されてない?」
「それはいつものことだから気にしなくていいぞ」
セティの周囲を見ながらの発言に、シンは冷静に返す。注目を浴びるのはベイルリヒトからずっとなので、さすがに慣れた。
シュニーとティエラの2人と歩いているだけでも羨望から嫉妬まで入り混じった視線を向けられるのである。
そこに、タイプは違えども美しくスタイルのいいフィルマと、愛らしさのあるセティが加わるのだ。もはやこっちを見ろと、周囲に宣伝しているようなものである。
シンとシュバイドに加えて体が大きいままのカゲロウもいるので、視線は向けても声をかけてくる者はいない。
「思ったより人がいるな」
ドラグニル用なのだろう。縦横ともにヒューマンの街のものより大きな扉を開いてギルドに入ると、ごった返すほどではないが多くの人でにぎわっていた。
依頼の張り出されたボードを見る者から、併設された食事処で料理に舌鼓を打つ者まで様々だ。
「予備戦力として待機している者や、そもそも迎撃に参加しない者たちもいる。大規模の反乱でなければこんなものだ。消費する素材を採取に行く者もいるな」
「なんか、それはそれで大変だな」
話を聞くほど、キルモントがなかったら大陸内が混沌としそうだと思うシンである。
「そこまで危機感を抱いてるわけじゃなさそうだけど、このままだと少しまずそうか」
人の少なくなったタイミングを見計らって、受付で何が起こっているのかを確認したシンたち。
氾濫によるモンスターの攻勢はすでに4度。数は多いが、モンスターのレベルは高くないようで、砦が陥落するような事態は起こっていないようだ。
ただ、低レベルモンスターが多い反面、桁違いにレベルの高い個体も何体か出現しており、シンたちが入国する際に見たのも、それを倒すために派遣された部隊だという。
「少し迎撃に協力したほうがいいか?」
「緊急事態と判断すれば、Bランク以上の冒険者には連絡がくる。受付嬢の話からすると、まだその域までは達していないようだが」
本当に危険な状況ならば、砦にいる兵士から王城へ連絡が行く。ギルドにもすぐに連絡が行くので、情報伝達については大きなタイムラグはないという。
シンとシュバイドの冒険者ランクはA。
もし混乱を避けるために情報統制されていたとしても、このランクならば別室で話をすることになるはずだ、とシュバイドは話す。
ただ、シンとしては時折聞こえてくる迎撃が間に合っていないんじゃないか、という主旨の発言が気になった。
人が多いせいで誰がしゃべっているのかわからないが、同じような話が繰り返されているように感じられたのだ。まるで、そういう噂を意図的に流しているように。
「……竜王のほうはどうだ?」
「迎えをやると連絡が来ている――――あれだな」
シュバイドと竜王は冒険者カードを使った新世代バージョンの心話が使えるようで、移動中に事情は説明し終わっていた。
ギルドは宿よりも城に近いので、馬車はこちらに回してもらったようだ。
シンたちがギルドを出て、出入りに邪魔にならない程度に離れて待っていると、数分と経たないうちに、明らかに周囲のものとは装飾の異なる馬車が近づいてきた。
馬車を引いているのは、騎乗用の馬より二回りは大きな馬型モンスター『ブルホース』だ。
「めちゃくちゃ目立ってるな」
「あまり時間をかけていられんからな。今回は大目に見て欲しい。それと、相談したいこともあるようだ」
心話でもやり取りはしているが、直接会って話もしたいらしい。どうやら、まだシンたちが把握していない何かが起こっているようだ。
「俺たちが伝えようとしていたことが、もう起こっていたとかか?」
「いや、今のところそういったことはないらしい。現状では、氾濫についてだと思うが」
シュバイドもまだ詳しい話は聞いていないようで、手を顎にやって思案顔をしている。
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