THE NEW GATE

風波しのぎ

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16巻

16-1

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 ティエラの故郷であるエルフのその、ラナパシアを訪れたシン。
 そこでは世界の安定を担う世界樹が弱り、危機にひんしていた。
 シンは仲間たちと協力して世界樹の復活を試みるも、瘴魔デーモンに操られたティエラの亡父、クルシオの暗躍が明らかになる。さらに、世界を滅ぼす神獣リフォルジーラまでもが出現してしまう。
 激しい戦いの末、リフォルジーラを討伐したシン。
 瘴魔デーモンの支配から逃れたクルシオの魂は、ティエラに別れを告げ、天に消えていった――。


「さて、いろいろと片がついたし、残りの面倒ごとも片付けちゃいましょ!」

 クルシオとエイレーンのたましいを見送り涙を流していたティエラが、すっきりとした顔で言った。
 少し強引な印象を受けるのは、人前で大泣きしてしまったのが恥ずかしかったからだろう。耳が赤いのは、泣いていたのが原因ではないのだろうな、とシンは思った。
 ラナパシアに巣食っていた瘴魔デーモンは、クルシオを利用したことで半ば自滅。
 瘴魔デーモンによって操られていたのだろうエルフたちも、もう暴れてはいない。
 リフォルジーラも、クルシオの体が消えたのと時を同じくして消滅した。
 とりあえずではあるが、国が滅ぶような物理的な危険は去ったと見ていいだろう。
 仮に瘴魔デーモンが残っていたとしても、現状では発見のしようがない。

「世界樹は、もう大丈夫なのか?」

 ティエラの声を聞きながら、シンは世界樹を見上げる。
 エイレーンと、おそらくはクルシオの魂だろう光の玉が吸い込まれた世界樹は、今や神々しい光を放っている。
 けがれによって弱っていた姿は、もはや過去のもの。シンが聞いたのはあくまで確認のためだ。

「当面は、だけどね。シンたちと戦うのに、すごい量の穢れが消費されたみたいなの。私が感じたことだけど、たぶんリフォルジーラはただ存在するだけでも相当量の穢れを消費するんだと思うわ。でなきゃ、いくらシンと戦ったといってもあの短時間で、異様としか言えなかった穢れが目に見えて減るわけがないもの」
「たぶん、あってるんじゃないか? 洒落しゃれにならない量のエネルギーに裏打ちされた強さっていうなら、納得できるし」

 穢れをエネルギーにしているというのは知られていたが、シンを始めとしたプレイヤーたちはそれを肉体や攻撃能力の強化に使っていると考えていた。
 だが、ティエラの言い分を聞いて、そっちが正しいのだろうとシンは思う。
 リフォルジーラは穢れを消費して世界のバランスを保つための存在だと考えれば、十分あり得る話だった。

「まあ、強さの秘密が何であれもう二度と戦いたくない相手だけどな……」

 シンはリフォルジーラとの戦いで使い物にならなくなった古代エンシェント級の武器のカードを見ながらつぶやく。
 今回シンが太刀打ちできたのは、リフォルジーラが完全な状態ではなかったことと、シン自身がかつてとは比べ物にならないほど強化されていることが大きい。
 とくに、称号によるステータスの2倍化がなければ、首を落とすまでいかなかった。
 損害が数本の武器だけなのだ。
 シュニーたちが怪我を負ったりすることに比べれば、まったく問題にならない。ならない――のだが。

「もし次があったら、まずいよな……」

 巫女の家系であったクルシオが利用されていたとはいえ、瘴魔デーモンはリフォルジーラを出現させた。
 それを可能とする手段を知っているのだ。シンたちの手の及ばぬところで準備をされると、止めようもない。
 ユズハの言う、シンを世界の危機に導く力とやらを当てにするわけにもいかないだろう。
 次がないとは言い切れない。さらに言うならば、その「次」が完全体のリフォルジーラとの戦いにならない保証もなかった。
 不完全な状態ですら古代エンシェント級の武器を4本も使い捨てにしたのである。完全な状態でいったいどれほど必要なのかは予測不能だ。
 いくらシンが古代エンシェント級の武器を打てるといっても、材料は有限だ。いくら鍛冶スキルを高めようと、素材がなければ何も作れない。

「『真月』は、確か――」
「まだ折れたままだ。セティに力を込めてもらえば、たぶん次の段階に進めると思うんだけど」

 シュニーの記憶喪失の解決を優先したので、まだセティには、『真月』に力を込めてもらっていない。
 力を込めてもらってどうなるのかはまだわからないが、何か、シンの知る既存の武器とは違うものができる確信があった。

「とりあえず、今はこの騒動の後始末か。さすがに国が動くよな? というか、こっちに来てからほとんどそれっぽいものを見ていないような……」
「おそらくですが、瘴魔デーモンが国への連絡を止めていたか、連絡役を操るかしていたのでしょう。そうでなければ、この状況で軍が動いていないのはおかしいですし」

 エルフたちの一部が暴れ出してから、それなりに時間が経っている。
 少なくとも、リフォルジーラの出現には国も気づいているだろう。
 世界樹の管理者である一族の戦士団とは別に軍隊がいるという話なので、突然の事態だということを差し引いてもそろそろ動きだしてもいいはずだ。

「リフォルジーラとシンが戦ってるところとか、見られちゃったかしら」

 ティエラは不安そうな顔で言う。
 リフォルジーラのことを知らずとも、その巨体と熱線の威力は離れていても十分わかる。それと正面から戦っていたシンを見て、危険人物扱いされないか心配しているようだ。

「派手にやったからなぁ」

 古代エンシェント級の武器やら上級クラスのスキルやらを加減なしで使用したのだ。選定者でも近づこうとはしないだろう規模の戦いだった。

「こっちの国の人たちがどういう人なのかわからんし。いざって時はシュニーの威光でどうにか」

 悲しきかな、現状もっとも頼りになるのはシュニーであった。物理的な戦闘力で言うことを聞かせられなくもないが、それは最後の手段だ。

「シュニーがともに行動する者だ。意味もなく暴れるような人物であるとは思うまい。上級選定者の中で選りすぐりの精鋭だと言えば、敬意こそあれ、妙なことは考えぬだろう」

 一般人や多少ステータスが高い程度の選定者からすれば、上級選定者、とくにシュニーたちに近い者たちの強さはまさに異次元の領域だ。
 強さのけたが違いすぎて、比べることなどできないだろうとシュバイドは言った。

「ただ、あれだけの戦いの後だ。強者に国に留まってほしいと考える者はいるだろうがな」

 そう付け加えて、シュバイドはオルドスたちへと目を向けた。
 すべてを見ていたわけではないが、それでもシンの異常な強さを目の当たりにしている。
 とくに守護役の隊長であるオルドスから話が出れば、たとえば国王などはシンを引きとめようとするかもしれない。
 そして、それはリムリスたち巫女にも言えること。
 再び瘴魔デーモンがやってこないとも限らないのだから、専属の護衛に、さらには夫になどという話が出てもおかしくはない。

「そうですな。我々はシン殿やシュニー様の強さを肌で感じております。もし残ってくださるのならば、これほど心強いことはありませぬ。そして、あのモンスターと戦っていない国の重鎮じゅうちんたちの中には、シュバイド殿が心配されているような手段を用いる者もいるやも知れませぬ」

 長く生きているだけあって、シュバイドが言葉にしなかったことも正確に読み取っているようだ。
 世界樹を守るエルフの国の民といえども、全員が清廉潔白せいれんけっぱくといかないのは今回の騒動ではっきりしている。

「しかし、シュニー殿はひとつ所に長く留まらぬお方。シン殿たち冒険者もまた様々な地にて依頼をこなす方々。お引き止めするのは難しいでしょう。それに、出遅れた国軍ではすべての戦いを見たとは思えませぬ。モンスターの上を取って戦っていたのはシュニー殿ですし、そのあたりはシン殿ではなくシュニー殿の活躍ということにすればお上も何も言えますまい。それに、現状ではシン殿たちを止められる者などおりませぬ」

 オルドスは単純に否定するのではなく、他の戦士たちに言い聞かせるような話し方をした。
 戦士たちは、程度の差こそあれうなずいている。
 結局のところ、オルドスの言うとおり、シンたちが出て行くといえば止められる者はいないのだ。戦士たちはすでにそれを実体験で理解していた。

「何はともあれ、まずは民たちの混乱をしずめることが先決でありましょう」
「なら、屋敷まで一緒に行きましょう。瘴魔デーモンがいなくなっても、その影響がすぐに消えるとは限りませんし」
「そこまでしていただくわけには……いや、そうですな。もしあのときのままだとすれば、リムリス様たちにも危険が及ぶ。申し訳ありませぬが、今しばらく、力をお貸しくだされ」

 頭を下げるオルドスに続いて、他の戦士たちも膝をついて頭を垂れた。戦士と巫女がそろって街を歩けば、もう戦いは終わったと誰もが信じる。

「では、行きましょう」

 シンたちを中心に、戦士たちがそれを囲むような形で歩き出した。リムリスとリナは話こそできるが、肉体的にはかなり消耗していたのでカゲロウが背に乗せている。
 念のため、シンはマップと探知系スキルで、街で暴れているような反応がないか確認した。
 その場を見られるわけではないので確実ではないが、現状ではそれが限界だ。結果、それらしき反応はない。
 街へ近づくにつれ、戦士階級ではないエルフたちの姿が増えてきた。
 誰もが不安げな表情だ。パニック状態になっていないのは、リフォルジーラが倒れるところを見ていたからだろうか。
 リフォルジーラの巨体ならば、街からでも十分視認できたはずだからだ。

「戦士長様、いったい何が起こっているのでしょうか?」

 シンたちを遠巻きに見るだけだったエルフたちだったが、その中の1人が意を決したように話しかけてきた。

「お主は、我らが来た方角に何か見えたか?」
「はい。山のような巨体のモンスター、であっていますでしょうか?」
「うむ。瘴魔デーモンによってモンスターが呼び出されたのだ。しかし、それもかのシュニー・ライザー殿と我らが巫女様のお力によってすでに討伐されている。安心するがよい」

 戦士長が重々しくうなずいてみせると、話しかけてきたエルフは安堵した様子を見せた。

「皆も聞け! 森の中から姿を見せたモンスターを見た者は多いだろう。しかし案ずるな。名高きハイエルフ、シュニー・ライザー殿の助力と我らが巫女様の力によって、かのモンスターはすでに討伐されている! この場にいない者たちにも、事態は収束したと伝えるがよい!」

 シンのことを気にしていたティエラたちに配慮したのだろう。シンの話は出さずに、シュニーや巫女の力によるものだと、オルドスは声高に叫んだ。
 発言したのが戦士長の1人だというだけあって、それを聞いたエルフたちは皆安堵した様子を見せている。
 これがシンならば、得体の知れないヒューマンが何か言っているくらいにしか思われないだろう。
 実際のところ、シンとシュバイドにはかなり視線が集まっている。
 エルフの集団の中にヒューマンとドラグニルがいれば、当然だろう。ただ、戦士たちが何も言わないので危険だとは思われていないようだ。
 少なくとも、シンは向けられる視線に悪意や敵意を感じない。

「やっとついたか」

 事態収束を周知するためにオルドスが叫び、シンたちが注目を浴びるのを繰り返すこと七度。ようやくルーデリアの屋敷が見えてくる。
 シンの口からため息交じりの声が漏れたのは、エルフたちから視線を浴び続けるのがあまり気分のいいものではなかったからだ。悪意や敵意はなくとも、精神的に疲れる。
 視線の先では、戦士たちの姿を見た門番らしきエルフの1人が屋敷に駆け込んでいくのが見えた。

「ティエラ!!」
「リナ!!」

 シンがほっと息を吐いていると、ティエラとリナの名を叫びながら2人のエルフが屋敷から飛び出してきた。
 オルレアとヘラードだ。2人も屋敷に来ていたらしい。履物も履いていないあたり、相当慌てているのがわかる。
 名を告げた2人が無事なのを確認したからか、それともシンたちと目が合ったからか、駆け寄ろうとしたところをぐっとこらえ、2人はシュニーに頭を下げた。

「話は聞いております。我らの不始末による災禍を退けていただき、感謝いたします」

 オルドスが部下の1人を先に向かわせていたようで、すでにリフォルジーラ討伐や世界樹の復活について把握しているようだ。
 オルレアの後ろで、ヘラードはシンにも頭を下げている。

「お疲れでしょうが、詳しいお話を聞くことは可能でしょうか?」
「ええ、そのつもりで来ました。あなたが代表ということでよろしいのですか?」
「はい。当主があのようなことになってしまったので、臨時ではありますが」

 忸怩じくじたる思いがあるのだろう。シュニーの問いに答えるオルレアの表情は厳しい。
 門の前に留まっていては注目の的になるだけなので、いったん屋敷の中に入る。
 当主が使っていた部屋には、すでに調査のための人員が回されているらしい。もちろん、瘴魔デーモンに影響を受けていない信頼できる者たちだ。

「俺たちも見られないか? ブルクのときはトラップが仕掛けられてたし、危険かもしれない」
「そうですね――私たちの中からも、人を向かわせてもよろしいですか? 瘴魔デーモンが操っていたとしても、なんの備えもしないままとは思えません」

 シンが小声で言った内容にシュニーもうなずき、オルレアに提案する。かつて教会で暗躍していた神父の部屋には、トラップが存在したとシュバイドから報告されていた。
 シュニーが話を進めるのは、パーティリーダーがシンだとオルレアが知らないからだ。シンのことを知らなければ、たいていの人はシュニーがリーダーだと判断する。

「そうですね。わかりました。我らには見つけられぬものもあるかもしれませんし、ぜひ協力していただきたい」
「なら、俺が行く。瘴気のこともあるから、ティエラも来てもらえるか?」
「ええ、わかったわ」

 残りの説明をシュニーに任せ、シンはティエラとともに当主の使っていた部屋へと向かった。オルレアは少し困惑した様子だったが、シュニーが任せてよいと言えば拒否はしない。
 先に調査を始めていたエルフたちには、部屋まで案内をしてくれたエルフが事情を説明した。

「今のところ、それらしいものは見つかっておりません」

 シュニー・ライザーの連れてきた人物ということで、シンはとくに邪険にされることもなく判明していることを聞けた。
 ティエラは顔が知られているらしく、こちらは困惑と畏怖、畏敬が混ざったような状態だ。
 エルフの寿命の長さを考えれば、おそらくティエラが追放されたときのことを知っているか、覚えているのだろう。当時どのような態度をとったかで、ティエラに向ける感情に差が出ているのだ。

「確かに、それらしいものは見当たらないな」

 パルミラックのときはわかりやすすぎるほどだったが、こちらはそうでもないらしい。
 罠の仕掛けられた箱もあったというので、シンは罠を探知するスキルを発動する。すると、本棚の後ろに反応があった。

「なんとも古典的な」

 秘密の隠し場所としてはありきたりだ。ただ、本棚をどけてもただの壁にしか見えないあたりなかなか手が込んでいる。
 シンが調べてみると、何もせずに開けると、レベルⅩクラスの状態異常が複数かかる仕掛けが施されていた。
 精神系が多いのを見ると、仕掛けに気づいた者を操るためのものなのだろう。
 ただし、仮に発動してもシンには影響はない。ハイヒューマンの抵抗力を突破できるほどではなかった。
 シンが罠を解除すると、壁の一部が開く。中には、一冊の本と金色の水晶が入っていた。

「それ、お父さんの日記……」

 シンが取り出した本の表紙を見て、ティエラが思わずといった様子で口を開いた。
 重要なことが書かれている可能性もあるので、シュニーたちと合流してから中を確認することにして結晶のほうへ眼を向ける。
 水晶は成人の握り拳程度の大きさで、中から外にかけて色が薄くなっていく。中心部が黄金色で、表面まで来ると白に近い。
 鉱物ならば、シンの【鑑定】で正体がわかりそうなものだが、表示されたのは意味不明な表示の羅列。俗に言う、バグッた状態だ。

「分析は後、かな」

 他にはトラップの反応はない。隠し金庫や倉庫もなさそうだ。
 ティエラにも確認するが、瘴気は感じられないという。

「回収して、いったん戻ろう」

 アイテムカードにするつもりで、シンは水晶に触れる。そして、それは来た。

「ぐっ!?」


 視界がぶれる。ノイズが走る。
 ぶれた視界の中に映ったのは、摩天楼まてんろうのようなビル群、車と人の行き交う交差点、講義を受ける学生と教室、そして――目をつむったままの自分。
 ――見える。
 友人の顔。恩師の顔。自分のいない家。少し痩せた両親。少し大きくなった弟妹たち。
 自分のいない間の時間の変化。
 ――聞こえる。
 街の喧騒けんそう。車の走る音。自分を呼ぶ父の声。母の声。弟の声。妹の声。友人たちの声。
 今は聞こえない、懐かしい音。
 ――感じる。
 現実世界あちら異世界こちらの境界。見えない壁。
 世界を分かつ、断崖。


「――ン! シン! シンってば!!」
「っ!?」


 意識が引きもどされる。肩の温かさに振り向けば、すぐ近くにティエラの顔があった。

「ちょっと、どうしちゃったの? 急に動かなくなっちゃって」
「ああ、いや……水晶の反応が変だったから、少し考え込んでたんだ」

 心配をかけまいと、シンは曖昧に笑う。
 見えたこと、聞こえたこと、感じたこと。それらはまるで、目覚めると消えてしまう夢のように思い出せなくなった。
 ただ、シンの胸にわずかな痛みだけが残る。

(これに触れたとき、何かがあった……あった、はずだ)

 思い出せるのは、何かがあったという確信だけ。
 もどかしい思いがあったが、今はそれを表に出すべきではないと、水晶と日記をカードに代えてアイテムボックスにしまった。
 エルフたちに声をかけてシュニーたちのところに戻る。すでに情報交換は終わっていた。話は今後のことに進んでいるようだ。

「何かありましたか?」
「ああ、分析はしてないけど、隠してあったものは回収したよ」
「その話、私も聞いても構いませんか?」

 シュニーとの会話に、オルレアも混ざってくる。ことがことだけに、黙っていられなかったようだ。

「わかったことは話しますよ。ただ、どこまで解析できるかは、やってみないことにはなんとも言えませんね」

 こればかりは本当だ。今回手に入れた水晶はシンの知るものとは何かが違う。普通の鍛冶のようにはいかない予感があった。

「こっちは一緒に見たほうがいいと思うので、話が終わったら見ましょう」

 日記を取り出してみせる。それに、全員の視線が集まった。

「それは?」
「クルシオさんの日記です。ティエラに確認しましたが、間違いないと言ってます」

 シンの言葉に、ティエラもうなずく。

「なら、話が終わったら皆で読みましょう。何があったのかわかるかもしれません」
「承知しました」

 シンがいったん日記をしまい、話を再開する。

「リフォルジーラとの戦闘と、世界樹の状態については話してあります。被害状況についても、市街の損壊や人的被害はほとんどないようです」
「それは何よりだ」

 戦った場所もよかった。街を狙わないように誘導もしたので、結果を聞いてシンはほっと息を吐く。

「あとは森王がどう動くか、ですね」
「はい。我々が事態を収拾できなかったことは、調べればすぐにわかるでしょう。ハイエルフであるシュニー様の活躍があったとはいえ、干渉を受けるのは間違いありません」

 巫女という特別な存在と、それを守る専属の戦士。ラナパシアの建国の起源が世界樹の守護にある関係で、管理者と国の上層部は対等の位置づけだった。
 しかし今回の騒動で力の天秤てんびんは崩れる。それほどの失態だ。
 国がどう出てくるのか、オルレアやヘラードといった面々にも予想はできないという。


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