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第四章 神の武と魔性と
億姫と夜叉と
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億姫は夢を見ていた。長い長い時の夢。
何にもないところに偶然に偶然が重なり天地玄妙の気が生まれ、そこに神が降り立ってその力を崇める神社が立ち、沢山の人びとの神へ祈りと怖れが玄妙の気の一部に形を与えた。
やがて別の場所に新たな神がやってきて古い神は去り、神社が忘れられ廃れていくと形を与えられた玄妙の気は、夜叉となって長きにわたりその地に留まっていた。
久しく訪ねる人もおらず、古の賑わいを思い出して寂しくしていると、ある日可愛らしい女の子がそれは素晴らしい魂の芳香を漂わせてやってきた。
夜叉はその芳香が欲しかった。
その女の子を捕って喰らおうと姿を見せた時、女の子は怖がるどころか、
「こんなところに一人で寂しくないの」
と訊いてきた。
夜叉の心は震えて自分が欲しかったものを初めて理解した。
夜叉はその女の子のことがすっかり大好きになり、女の子に近付こうとする嫌な匂いのものを全て追い払っていた。勿論怖がらせない為に女の子に気付かれないように。
女の子が娘となりやがてよき夫を迎え子供が生まれ、その子供が大きくなり子供を産んで大勢の孫に囲まれるようになっても、夜叉はその女の子と友達であり続けた。何にも変わることなく。
夜叉は、姿を変えあるいは隠して女の子の傍にあり見守っていた。女の子が笑えば笑い女の子が泣けば泣いていた。
お婆さんとなった女の子が穏やかな表情でとても優しい笑顔を浮かべている。
そしてそれを満足気に見ている夜叉の姿がある。
ふっと夜叉の愉快そうな笑顔が浮かんできた。鬼が笑っているのである。
そして言った。
「満足だ。礼を言う」
ととても大きな声で。
お婆さんが光の道をゆき、月女がこちらへ駆けて来る。その様子を夜叉は示すと、赤い大きな口の大魔の前に億姫を庇い立ちはだかると、声をかけた。
「やることがあるだろう。起きよ。目を覚ますのだ」
何にもないところに偶然に偶然が重なり天地玄妙の気が生まれ、そこに神が降り立ってその力を崇める神社が立ち、沢山の人びとの神へ祈りと怖れが玄妙の気の一部に形を与えた。
やがて別の場所に新たな神がやってきて古い神は去り、神社が忘れられ廃れていくと形を与えられた玄妙の気は、夜叉となって長きにわたりその地に留まっていた。
久しく訪ねる人もおらず、古の賑わいを思い出して寂しくしていると、ある日可愛らしい女の子がそれは素晴らしい魂の芳香を漂わせてやってきた。
夜叉はその芳香が欲しかった。
その女の子を捕って喰らおうと姿を見せた時、女の子は怖がるどころか、
「こんなところに一人で寂しくないの」
と訊いてきた。
夜叉の心は震えて自分が欲しかったものを初めて理解した。
夜叉はその女の子のことがすっかり大好きになり、女の子に近付こうとする嫌な匂いのものを全て追い払っていた。勿論怖がらせない為に女の子に気付かれないように。
女の子が娘となりやがてよき夫を迎え子供が生まれ、その子供が大きくなり子供を産んで大勢の孫に囲まれるようになっても、夜叉はその女の子と友達であり続けた。何にも変わることなく。
夜叉は、姿を変えあるいは隠して女の子の傍にあり見守っていた。女の子が笑えば笑い女の子が泣けば泣いていた。
お婆さんとなった女の子が穏やかな表情でとても優しい笑顔を浮かべている。
そしてそれを満足気に見ている夜叉の姿がある。
ふっと夜叉の愉快そうな笑顔が浮かんできた。鬼が笑っているのである。
そして言った。
「満足だ。礼を言う」
ととても大きな声で。
お婆さんが光の道をゆき、月女がこちらへ駆けて来る。その様子を夜叉は示すと、赤い大きな口の大魔の前に億姫を庇い立ちはだかると、声をかけた。
「やることがあるだろう。起きよ。目を覚ますのだ」
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