THE HELLISH THINGS 地獄の蓋と泣き虫姫之物語

しきもとえいき

文字の大きさ
上 下
15 / 22
第三章 蠢くもの達

立ち込める瘴気と鬼気

しおりを挟む
 億姫と月女にお辰が、三人揃って笑顔のまま話をしようとしたその時、どーんという轟音が地響きとともに鳴り、ただならぬ妖気と瘴気が溢れ出し。禍禍しい気が辺りを覆い始める。
 先程までのうるさいほどの虫の音が一切鳴りやんでいる。
 村の農夫たちもどよめき始めた。
 お辰は皆の衆に

「男衆っ、宝珠を二つ、ぶら下げてんだっ。おたおたしない」

 と一喝すると落ち着かせた。
 意味が解らずキョトンとした億姫だったが、告げるべきことをお辰に真剣な顔で告げた。

「お辰様。ここは危なくなるかと存じます。皆さまと直ぐにここよりお退り下さい。ここからは私共が生業です」

 億姫は気配の強い方角を見やり、眦をキッとすえて月女に尋ねた。

「月女。正体は分かりますか?」

 月女は不穏な方角を向き神経を集中している。

「いいえ、読み取れません。しかし並大抵のモノではありえない妖気と鬼気を発しています。直ぐに処断致しませんと。どれ程のことが起きるか」

 億姫は頷くとお辰と大歳に、

「仕事をして参りますので本日はこれにて。後日またお伺いいたします。皆さまも幾久しくお健やかに」

 と挨拶もそこそこに月女と共に歩き出した。
 大歳は店のみんなに声かけを始め、手分けして片付けと逃げ出す算段を始めている。
 お辰が大声を張って億姫と月女の背中に声をかける。

「お嬢ちゃん達。ここはこの町の裏鬼門だ。だからこそアタシらみたいなモンが、ここに店を構えているんだ。其処の御社が裏鬼門の栓みたいなもんらしいよ。壊されると何かヤバいって話を小耳に挟んだことがある。アタシらは、他の衆に声かけて尻に帆かけて逃げ出すけどさ。今の言葉覚えておいで」

 億姫と月女は踵を返し、深々とお辞儀をすると鬼気の強い方角へと走って往く。
二人ともその表情に怯えや迷いは微塵もない。

 大歳はその華奢でほっそりした二人の美女の後姿を見おくりながら、村の衆達に色々指図し、あっと言う間にその場から立ち去らせた。
 お辰が覗き込みながら言った。

「お嬢ちゃん達は行ったようだねぇ。皆も無事に下がらせたのかい」

「あぁ。色々大丈夫だよ。別嬪さん達は、悲壮感も気負う感じも無く、只真っ直ぐ向かって行った。大したもんだ」

「へぇ、朴念仁のアンタにしちゃあ珍しい物言いだねぇ。まぁいいさ。じゃあアタシ達はアタシ達で行くよ」

 大歳はお辰にくいっと顎で促され、やれやれといった顔で、億姫達が走去った方向を見て呟いた。

「怪我すんなよ。別嬪さん達」

「ほら、早くしな」

「はいよっ」

 大歳は踵を返してお辰の後に続いた。

 疾風のごとく駆け抜ける億姫と月女は強い妖気へと向かっていた。
 そんな二人に並走する複数の影がある。
 月女配下の影の者たちであった。
 皆それぞれ狐面や狸面、猿面などの動物のお面をかぶった忍び装束の者達だ。
 月女が走りながら影に目配せして、

「今宵はお祭り。何かが流れる無粋は無し。腕の見せ所ね」
 
 と一声投げた。
 その一声で影たちは物音一つ立てずに各々違う方向へ散じて消えていった。
 お互いを案じるような声や視線はない。
 案じる事は為すべきことを為すこと、唯それのみ。例えどんなことがあろうとも。
 七神流の武は魂に宿る。

 億姫と月女は瘴気の出どころまで直ぐに辿り着いた。
 妖気と鬼気が余りにも強く天に届くかと思う程の柱となって立っている。場所は迷いようも無い。
 ここまで強い妖気ならば獣どころか虫さえも近づこうとはしない。
 人間も常人ならばこの方向を見るだけで不安を覚えて視線すら背ける程のものなので、これ以上余人を巻き込むことはないだろうが、念には念を入れて辺りには影を散らしている。
 妖気の発現している場所は廃れた破れ寺あたりからで、そこからの濃い妖気と瘴気が混ざり合いもやのように漂って立ち込め、それに加えて尋常ならざる鬼気が天へと向けて巨大な柱の様に放たれている。
 その場所は最早この世のものではない良からぬものに侵されていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

処理中です...