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王子様と洞窟の竜
しおりを挟む背中に熱が奔った。それから、これまで体験したことのない強烈な痛みが追いかけてきた。
背中を斬られたようだ。
誰に?
刺客の誰かにやられたのか?
違う。ありえない。
自分の背中は、ブレントに任せていたのだから……。
振り向くと、彼の剣から血で滴っていた。
それが自分の血だとシャノンは理解した。
「何故だ、ブレント……何故、私を斬った?」
主従で、親友で、幼馴染み。誰もが自分の敵になったとしても、彼だけは自分を裏切らない──そう信頼していた相手だ。
「貴方を手に入れるためです。シャノン様」
「なに……?」
「お妃様が、貴方を私の妻にしていいと約束してくださいました。そのためには、王子シャノンは、ここで不慮の事故で亡くなる必要があるのです」
継母の邪悪さと野心には薄々勘づいていた。
彼女が何か仕掛けてくるならば、狩りが行われる今日であろうことも予想していた。
案の定、現れたのは盗賊を装った刺客たち。
予想外だったのは、ブレントの裏切りだけ。
「妻だと? お前は私を、そんな目で見ていたのか? お前が……」
言葉に詰まる。
ブレントの発言が信じられなかった。シャノンが昔から女扱いされることを嫌っていることは、彼が一番知っているはずなのに。
「何故、そんな傷ついた顔をするのです。……オレの気持ちも知らないで、いつもオレを無邪気に誘惑していたのは貴方の方だろう」
被害者ぶるなと暗に咎められ、身に覚えのないことで責められる。
人として少しずつ積み上げられてきた大切なものを、積み上げるのを手伝ってくれた男の足で蹴り崩されていく心地がした。
「抵抗はやめてください。その美しい御体をこれ以上傷つけたくない」
「触るな!」
剣を振り上げた腕は、鎖を巻かれたように重かった。変調はそれだけではない。身体がふらつき、目の前が霞む。
「毒か……っ」
「お妃様特製の薬です。じきに動けなくなりましょう」
この者たちに捕まるわけにはいかない。
シャノンは逆賊たちの魔手を掻い潜り、森の奥へ駆けだした。身体を動かすたびに激痛に襲われたが、足を止めることはなかった。追跡者が放った矢が足に刺さり、肉を切り裂く。止まるな、進め、逃げ延びろ。
走って、走って、走りぬいて……森の最奥、洞窟の入り口で力尽きた。
※※※
甘い血のにおいの先にいた生き物に、竜人は一瞬で目を奪われた。洞窟の入り口で倒れていたのは、若い人間の雄だった。酷い有り様だ。稀有な美貌も、長い黄金の絹髪も、仕立てのよい服も、何もかもが血と泥で汚れている。
(追われ、ここまで逃げてきたか)
背中や足の痛々しい傷が、それを物語っていた。獣がつけた傷ではない。どれも致命傷ではないのを見るに、追っ手の人間は、よほど生け捕りに拘っているらしい。
「──森よ、隠せ」
竜人がそれだけ告げると、周囲の木々が根を蜘蛛の脚のようにして這いまわった。土や枝葉が青年の足跡と血を覆い隠した。
竜人は彼を丁寧に抱きあげる。血と泥のにおいに紛れていた青年自身の匂いを嗅いだとき、紅い双眸をわずかに細めた。これほど芳しいかおりを放つ生き物を、孤独な竜は知らない。
※※※
「あっ……ぉ゛……ぉあ゛ぁ……っ」
洞窟の奥から奇妙な呻き声が聞こえる。
ブレントは入り組んでいる洞窟の中を、壁に目印をつけながら慎重に進んでいた。
──あの日から3ヶ月経つ。
森で探していないのは、もうここだけだ。
洞窟の中は灯りが不要だった。紅く光る鉱石が無数に点在しているおかげである。
『あの洞窟には近づかない方がいいわ』
女王の忠告が脳裡によぎる。
『あそこは、厭世家気取りで、気性の荒い竜人のねぐらよ。シャノンが逃げ込んでいたとしても、出くわした瞬間に殺されているでしょうね。……彼のことは諦めなさい』
諦めきれなかった。国への忠誠を破ってまで手に入れたかった存在である。
シャノンがあのまま死んだとは思えない。彼の強さと聡明さは誰よりも自分が知っている。 きっと生きている。見つけなければ。見つけて、今度こそ自分だけの妻にするのだ……。
「お゛っぉンッ……ひ……ぉあっ、あ゛っ……」
洞窟を進むにつれ、呻き声が鮮明になっていく。気づく。これは嬌声だ。苦悩と官能が入りまじるそれは、女のものにしては低い。
──まさか。
いや、まさか。そんな。
ありえない。
嫌な予感に、剣の柄を握る手に力がこもった。
開けた空間に出た。
遂にブレントは『彼ら』を見つけた。
彼らに気づかれないように、岩陰に身をひそめる。そうして、そっと盗み見た。
「おっ、お゛っ、おほ……らえ゛……おっ、おしり……おしり゛らえ゛ぇぇ……っ!」
何枚も重ねられた柔らかそうな毛皮の上で、四つん這いの若い男が、黒鱗の竜人に肛門を犯されていた。
激しいピストンに合わせて、美しい金髪がさらさらと揺れる。汗に濡れた白い裸体が、鉱石の紅光を受けて妖しく照り輝いている。
(あ、あぁ、ああぁぁ……! シャ、シャノン様……!!)
ブレントは口もとを押さえて、溢れそうになった悲鳴を噛み殺した。
想い人が生きていた安堵、竜人への怒りと本能的恐怖に感情が掻き乱される。
今すぐ竜の首を斬り落としてやりたかった。
しかし、近衛騎士として長く仕えた男は、身のほどを弁えていた。相手は巨躯の竜人。体格差は大人と子どもほどもある。勝てる相手ではない。竜人がいなくなった隙にシャノンを連れて洞窟から脱出しよう……。
ブレントは歯を食いしばりながら機会をうかがった。シャノンのことは、妄想の中で何度も抱いた。しかし、竜人に犯されている彼は、妄想よりもはるかに美しく、下品で、扇情的だった。
「か、必ず、戻ってくるからぁ……っ。国に、いっ、一度、帰らせてくれぇっ……ぁうっ、民たちが、私を待ってるんだぁ……!」
「忘れてしまえ。お前に頼りきりの無能な民のことなど……。民はお前に見返りに何を寄越した? 俺に勝る快楽を寄越してくれたというのか?」
シャノンの喘ぎ喘ぎの懇願を一蹴し、竜人が腰をずるりと後退させる。赤黒い肉竿の凶悪な太さを見て、ブレントは戦慄した。悪魔のようなそれが、再び想い人の小尻へ深く鋭く叩きつけられる。
シャノンがおとがいを反らして高く啼いた。
「あひぃいンッ!! しょこ突いちゃらえぇえっ! きもぢくでおがじぐなっでしまう゛ぅぅっ!」
「おかしくなればいい。たとえお前の気が触れたとしても、俺はお前を手放さん」
「しょんらぁっ、あぅうう゛んっ! ぅあっ! あぉお゛っ、おほ……っ、お゛ほおぉッ!」
衝撃に堪えきれず、シャノンの上体が崩れ落ちた。尻だけを高く持ち上げられた卑猥な体勢で、竜の巨大な怒張を受けとめる。
「んぉお゛ぉっ!? 深い゛ぃっ! しゃっきよりおちんちん深いぃい゛ンッ! 激ひぃイィイ゛いんっ! んお゛っ!? お゛っ! お゛っ! お゛っ! お゛っ♡ お゛っ♡ お゛ほっ♡♡ おぉお゛ぉンッ♡♡♡」
獣じみたよがり声が洞窟内に響き渡る。
発情した雌犬のように尻を突き出して下品によがっているのが、あの清廉なシャノンだとはとても信じられなかった。しかし、皮膚のぶつかり合う音、結合部からの粘っこい水音、漂う濃厚な精臭が、目の前の淫らな光景はすべて現実だと容赦なく突きつけてくる。
(シャノン様、貴方は……!)
湧き出た感情は幻滅や嫌悪ではない。
自分以外の雄に喘ぐ彼への怒りと、痴態への欲情。
自分もあの竜人のように、シャノンの肉体を思うままに味わいたい。啼かせて許しを乞わせたい……。
今やブレントの股間は痛いほど張り詰めていた。
想い人が恐ろしい怪物に犯される姿を、息を殺し、ただ見ていることしかできない己がひどく惨めだった。
「おぉっあ゛っ♡♡ あがぁあ゛あぁぁあ゛あぁぁ~~っ♡♡♡」
ひときわ長い嬌声をあげて、シャノンの白い裸身がガクガクと痙攣した。
竜人も低く唸り、巨体をぶるりと震わせた。
「お゛……♡ あっ、ひぃ……こ、子種れてりゅっ♡ おひりの中にいっぱひ竜の子種出ひゃれてりゅ……♡ あぁ……わらひ……また……めしゅにしゃれてしまったぁ……♡」
「何故嘆く……雌になるのは気持ちいいだろう? ……ここには俺たち以外いないんだ。正直に言っても、誰も咎めん」
だから、認めろ──竜人はそう言下に命じていた。大きな手が、答えを促すようにシャノンの小作りな頭をくしゃりと撫でた。
「あぅっ……き、気持ちいい……雌になるの、気持ちいい……お前の大きいおちんちんで、尻の穴を交尾のための穴にしゃれて、気をやりゅの……しゅ、しゅごくきもひいぃ……♡♡ ぁあっ……あひっ♡ はっ、はひ……ひゃあ゛ぁぁああぁ……っ♡♡♡」
雌の快感を認めたシャノンが、ひきつった嬌声をあげながら再度裸体をぶるぶる震わせた。自分の言葉で達してしまったようだった。
「はひッ♡ はぁ……♡ はひん……♡」
「ふふふ、可愛いな、俺のシャノン。そうだ、お前は王子などではない。雌だ。俺だけの、可愛い雌だ……」
シャノンの反応に満足した様子で、竜人は艶やかな金髪を一房すくって口づけた。
それから何度かまぐわった後、ようやく竜人が洞窟の奥へ消えた。
ブレントは足音を立てないように、毛皮に横たわるシャノンにゆっくり近づいた。
シャノンは気づかない。肢体をぐったりと投げだし、目を閉じ、熱く湿った呼吸を繰り返している。あまりに無防備にセックスの余韻に浸っていた。火照った絹肌は汗と体液でしっとり濡れている。すらりと引き締まった身体の中で、腹部だけが妊婦のようにぽっこりと膨らんでいた。竜人に大量に注がれ続けた精液のせいだ。その証拠に、赤く腫れた肛門が白濁のゼリーをぶりゅぶりゅと吐き出し続けていた。
ブレントの視界が激しい嫉妬で赤く染まる。
彼の純潔を奪い、雄の味をおぼえ込ませるのは、本当は自分の役目だったのに。背中を見れば、自分がつけた傷は跡すら残っていなかった。
「……ん……? クエレブレ……?」
シャノンが身動ぎ、目蓋を持ち上げる。その惚けたような表情と声が、怒りの火に油を注いだ。
「──それが、あの怪物の名前ですか?」
「! お前はっ」
ブレントはすぐにシャノンの口を手でふさいだ。
「静かに」
驚愕に見開かれた翡翠の瞳を見つめ返す。
「竜が戻ってくる前に逃げましょう」
「ふ、う゛……ッ!」
「シャノン様……っ!?」
シャノンが暴れだす。あれほどの陵辱の後とは思えないほどの力だ。
「さすがと言うべきか……っ、忘れていましたよっ」
シャノンは王子でありながら、同時に国一番の実力を持つ騎士である。ブレントも本気になって押さえつける。
「あの怪物から逃げたくないのですかっ」
「ふぅっ! ンンぅ……ッ!」
「……っ」
抵抗し続ける想い人へ怒りが込み上げてくる。
「まだこれほど抵抗する力を残しておきながら、何故あんな化け物に股を開いたッッ!」
怒りに任せて腕を振りあげ、頬を強く張った。汗に濡れた金髪を乱暴に鷲掴み、喉もとに剣先を突きつける。
「オレと逃げる気がないのなら、この場で殺します」
「誰を?」
その問いは、シャノンからのものではなかった。魂が底冷えするような、低い、低い声だった。
いつの間にか背後に立っていた黒い竜人が、ブレントの剣を叩き落とし、彼の喉を掴んで宙に持ち上げた。一瞬の出来事だった。
「ぅ……がっ……!」
右腕に激痛が走る。先の一撃で骨が折れたらしい。左手で鎧に仕込んでいたナイフを掴む。竜人の腕に突き刺そうとしたナイフは、しかし黒鱗に阻まれた。
「誰を殺すんだ?」
大蛇を思わせる紅の双眸に射抜かれ、全身がすくんだ。自分がちっぽけな蛙になった気分だった。魔力の漲りが肌に刺さる。目の前の存在は、生き物として何もかもが格上だと思い知らされる。息がうまくできず、苦悶の中で意識が薄れていく……。
「や……やめろ、クエレブレ!」
「この虫ケラはお前を傷つけた。生かしてはおけん」
竜人なら人間の首など簡単にへし折れるだろう。彼はわざと時間をかけている。侵入者に、己の犯した罪を噛みしめさせるように……。
「──何のつもりだ、シャノン」
シャノンが、ブレントが落とした剣を自身の首筋に当てていた。
「彼を生きたまま解放せねば、このまま自害する」
「……」
気迫が脅しでないと告げていた。
竜人が不機嫌な唸り声をあげ、手を離した。
ブレントは地面に倒れ落ちた。
咳き込む彼を冷ややかな眼で一瞥し、竜人がシャノンに真意を問う。
「この虫ケラに、お前の命を秤にかけるほどの価値があるのか?」
「私が命をかけるのは彼のためではない」
シャノンはブレントの前に膝をつき、まっすぐ見据えた。
(あ……)
ブレントは息をのむ。
そこにいたのは、竜とまぐわい甘くとろけていた雌ではいない。
幼い頃から憧れ、慕い、恋い焦がれた、凛々しく美しい主君だった。しかし、その目には以前のような信頼の輝きは失せていた。真実だけを見極めんとする冷徹な眼差しだった。
「話せ、ブレント。今、我が国は……ロスヴァイセはどうなっている」
※※※
『むかしむかし、ロスヴァイセにはとても美しい王子様がいました。王子様は民を愛し、民からも愛されていました。
ところが、彼の継母になった新しいお妃様は、とても悪い魔女でした。
お妃様は自分が女王になるために、王様を呪い殺し、王子様も家来に殺させようとしました。
傷だらけになりながら、王子様は森の奥にある洞窟に逃げ込みました。その洞窟で、一匹の黒い竜と出会いました。
心の優しい王子様は、竜とすぐに友だちになりました。
王子様の傷が癒えた頃、洞窟にたどり着いた家来により、王子様は国民が女王となった魔女の圧政に苦しんでいることを知りました。
そこで、彼は竜とともに国に戻り、悪者たちと戦いました。
悪い魔女は、竜の炎で焼け死にました。
国民や善い家来たちをいじめた悪い家来たちは処刑されました。
国民や善い家来たちは、王子様が次の王様になってくれるものだと考えていました。
しかし、王子様は、王政を廃止し、これからは市民が協力して国を守っていくように説き、竜とともに森の奥の洞窟へと去りました。
以降、ロスヴァイセは、王を持たぬ民主国となりました。
その後、王子様と黒い竜がどうなったのかは、誰も知りません。
人も、鳥も、虫も、獣も、魔物も、竜を畏れて洞窟には近づかなかったからです。
気高い竜は、王子様以外の生き物に、決して心を開かなかったのです』
※※※
誰も訪れぬ洞窟の奥で、高貴な夫婦が睦み合っている。
「ちゅ……♡ ンッ……れる……♡」
シャノンがしゃぶるには夫のペニスは大きすぎる。だから逞しい亀頭は舌で熱心にねぶりまわし、太く長い肉幹は両手で包んで愛撫した。手には自身の金髪を惜し気もなく巻きつけている。竜人が強制したのではない。シャノンが自ら進んでやったことだ。髪を使ったペニスへの奉仕が、夫の独占欲を満たせる行為だと本能で理解していたのだ。亡き両親にも褒められた自慢の金糸に、竜の雄臭がこびりついても一向にかまわなかった。今や自分のすべては彼のものだから。彼がよろこんでくれるならそれでよかった。
(あれほど私に注いで、まだこんなに……♡)
萎え知らずの剛直に美貌を寄せたまま、シャノンはうっとりと翡翠の目を細める。強烈な雄臭にあてられて、臨月の妊婦のように膨らんでいる腹がきゅうと切なく疼く。彼の腹をぎちぎちに満たしているのは、もちろん夫が注いでくれた精液だ。
シャノンが女性だったら──否、クエレブレに彼を孕ませるつもりがあったなら──、彼は竜の子をすでに何度も孕み、産み落としていただろう。
「ぅ、はぅ……んちゅ……んンッ……♡」
──ブビュッ、ブチュッ、ブリュブリュッ!
縦割れの肛門から下品な音を立てながらゼリー状の精液がひり出される。高貴な生まれのシャノンにとっては、何度経験しても、その度に消え入りたいほどの羞恥に襲われる瞬間だ。
しかし、排泄の恥ずかしさは、それを上回る気持ちよさを連れてきてくれる。たっぷりの熱粘液が直腸をねっとり舐めながら肛門の外へ勢いよく噴き出すたびに軽い絶頂を味わうことができたのだ。
「シャノン」
「は……ふ……?」
穏やかな声に顔をあげると、紅い瞳が柔らかく細められた。気性が荒い竜が愛妻にしか向けない優しい表情であることを、当のシャノンは知らない。
「そろそろお前の中に入りたいのだが、もう少し休憩が必要か?」
「ああ、いや……大丈夫だ。私も、お前がほしい」
了解を得たクエレブレは、背後から妻の膝裏を抱え上げると、鍵穴にはめ込むようにペニスを挿入した。
「あっ、ヒィッ、ンンぅっ……! はあんンンッ♡ しゅ、しゅごいぃ……♡ これぇ……これいいのぉ……っ♡♡」
性感帯を知り尽くした巧みなピストンにシャノンは生娘のように翻弄される。前立腺をゴリゴリ抉られれば、あっという間にペニスが勃起する。
「はひっ♡ ぉっ……♡ しょこ突いたりゃ出りゅ……♡ わたひの子種っ♡ また出ひゃうっ♡ もう出らいのにっ♡ また出ひゃうぅぅっ♡♡」
ぶるぶる弾むペニスが幾度か目の射精を迎えた。ぴゅるっぴゅるっと頼りなく撒き散ったのは、連続射精でほとんど水のような有り様となった精液だ。
「ふふふ、こんなに薄くて少ない子種では、発情期の獣人娘でも孕ませられんだろうな」
妻の睾丸をやわやわと揉み転がしながら、夫が耳もとで意地悪く囁く。シャノンも拗ねた甘え声で反論する。
「らって、らってぇ……お前がいっぱい出させるからぁ……♡ ぁんっ♡ おちんちん、もみもみしないれ……♡」
「ん……? 気持ちよくないのか?」
「きもち、いぃ……けど、もう、おちんちん、子種いっぱい出してつらいから、た、頼む……これからは、中で感じさせてくれ♡」
「いいだろう」
愛しい妻の期待に応えるべく、竜人は腰を突き上げた。
「あっあん゛ぉっぁあ゛あぁっ! おひりぃ、ズコズコッ……ひびっ、くぅうっ……♡ ぅお゛っ、おぁあっあ゛っぁあぁ……♡♡♡」
「お前の望みなら何でも叶えてやる。……俺の元から離れたいという望み以外ならな」
「わたしはっ、お前から離れたくないっ」
シャノンはクエレブレに返しきれない恩がある。傷を癒してくれた。追っ手から匿ってくれた。悪しき魔女を討つ手助けをしてくれた。国の再建のために、数百年と溜め込んでいた財産のほとんどを譲ってくれた……。
そんな竜が求めた対価は、シャノンの一生。
シャノンの持つあらゆる肩書きは竜にとってはなんの意味もない。それがシャノンにはとても嬉しかった。
彼から与えられる底なし沼のような愛情に溺れた。彼が求めるなら、喜んで『雌』にもなれるほどに。
「愛してる、シャノン。お前以外は何もいらない」
「わ、たひ、もぉ……お゛っ♡ ぉ、お゛……っ!?」
ドプドプと体内へ注がれる規格外の精液量に、シャノンは目玉を裏返しながら絶頂する。おびただしい精液が消化器官を逆流し、強烈な吐き気をもたらした。
「ぐぉ……ぇっお゛っ!」
シャノンがゴボッと口から吐き出したのは肛門から流し込まれた精液だった。胃液混じりの逆流精液が、敷布代わりの毛皮をびちゃびちゃと汚した。
「え゛ぉ゛ッ! お゛ぉっ! ぉげえ゛ぇぇっ……!」
潰れた涙声を漏らしながらゲエゲエと嘔吐を繰り返す。
普通なら苦痛しかない時間が、普通ではなくなったシャノンには一種の快感の時間であった。
「──すまない、またお前に辛い思いをさせてしまった……。お前が愛おしくて、加減を忘れてしまう」
「ぃ、いい……大丈夫だ……♡」
シャノンは夫の方へ振り向いて微笑んでみせた。涙で頬は濡れ、鼻の両穴と口から精液を垂れ流した酷い有り様だったが、竜人を安心させたかった。
「ああ、シャノン……っ」
珍しく切羽詰まった声をあげた夫に口の周りを舐められる。舌の動きには労りと愛情がありありとこもっていた。彼は胃液も精液もまるで気にしていないようだ。シャノンも舌を突き出して、彼のディープキスを受けとめた。頭を優しく撫でられ、長い指で髪をすかれるのが心地よかった。
「しあわしぇ、らぁ……♡」
故郷で王になっていたら、死ぬまで味わえなかったろう雌の幸福を、シャノンはうっとりと噛みしめた。
竜人の太腕にすがるシャノンの肌には、うっすらと金の竜鱗が浮かび上がっていた。半開きの口からは白く鋭い牙がのぞき、零れた舌先は真ん中から二股に裂けている。
人間の元・王子は、竜人クエレブレと同族になりつつあった。性行為を通して、かの竜人から魂を分け与えられているのだ。
ブレントには何もできない。
竜人の魔法によって小鳥に姿を変えられた彼は、鳥かごの中から、恋い焦がれた相手が別の生き物に変わりいく様を眺めることしかできない。
シャノンの変化にはおぞましさの欠片もない。凄まじい色香の中に神聖ささえある。ますます手の届かない存在になっていく。
──否、もう二度と、手は届かない。
いっそのこと魔女もろとも焼き殺されていればどれだけ幸せだったろう。だが、それは愛妻を傷つけられた黒い竜が許さなかった。シャノンも王子として、私欲で国を危機にさらした罪人を罰する責務があった。
ゆえに、ブレントには誰よりも重い罰が与えられたのだ。
もしも、シャノンが竜に出会わなければ。
もしも、竜がシャノンに惚れなければ。
もしも、自分が魔女の甘言に乗らなければ。
もしも、無二の親友以上の関係を望まなければ。
もしも、もしも、もしも、もしも……。
死ぬ勇気もない哀れな小鳥の悔恨は、甘い嬌声にかき消された。
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