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弍王頭龍鶴
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「えっ」
「僕達に──ですか?」
とある日、何故か2人揃って部長に呼ばれた理由は、奇しくも新橋先輩の言葉を予言にするものだった。来たのだ。その、「案件」が。
「ああ。弍王頭グループあるだろ?大手の」
「はい。最近は後継ぎの息子がかなり活発に動いてるって話ですよね」
「その息子の龍鶴だよ。そいつが、お前らを気に入ってな」
「「……?」」
意味不明な理由に、俺達は顔を見合わせる。ビジネス関係の情報収集には余念のない多野はともかく、俺は「におうず」なんて名前もその息子の「たつる」ってのも全く以て存じない。つまりは面識も何もないわけで、それなのに俺達のなにを「気に入る」かって話なのだ。
流石に多野も見当がつかないのか、合わせた目線にどこか不安げな色を見せている。……いや待て多野、そんな顔すんなチンポにクる。
「アダルト系やってるウチの子会社あるだろ。赤字で手放す話出てたやつ」
「は!?タクタですか!?」
「ああ、それだ、タクタ。そこを弍王頭が買収してな。その龍鶴が経営を一手に引き受けるらしい」
「えっ、本当ですか?僕らとそう年齢変わりませんよね」
「えっ。そうなのか……」
「なんでも龍鶴は元々タクタが出してたアダルトモノのファンだったらしくてな。その関係でウチが手放そうとしてたのを買収って話になったらしい。で、その龍鶴が少し前、ここまで出向いてきたんだが……」
そこで、部長が俺に視線をやる。若干参ったような呆れたような表情だ。……おいおい、分かっちゃいたが部長まで俺を問題児扱いかよ。まぁデカいプレゼンでもやらかして強制退場させられたりしてるから、仕方ないと言えば仕方ないが……ここまであからさまだといよいよ凹むな。
「……そこでお前らがフロアで言い合ってるのをたまたま見かけたんだと。なんでもそれが……『良かった』、らしい」
「は?」
先んじて多野が疑問の声を上げる。出遅れたが俺も同じ気持ちだ。『良かった』?さっぱり意味が分からない。するとますます参ったように部長は眉間を押さえて、俺達を交互に指差していく。
「いや、俺も良く分からんが、とにかくお前らのやり取りが龍鶴の好みだったみたいだ。で、お前らに名指しで仕事を頼みたいと言ってきた」
「「え」」
今度は同時に声が揃う。流石に足並みが揃うほど、驚きが最初に来たようだ。つまりは有能と無能で組んでお偉いさんからの直々の仕事依頼を請け負え──ってことか。成程、部長が参ってたのは上からの無茶振りに対応しなくちゃならないのが原因か。おまけにウチでも大事な多野をそんな命令で持ってかれるのはキツいって話なんだろう。そこでようやく、俺もこの態度に合点がいった。
「真野、お前、前やった企画コンペでそのタクタ用の企画出してたろ。取り上げるにはセンシティブ過ぎて即お蔵になったやつ」
「ああ……いや、俺が自信持って出せるの、アダルトしかないと思ったもんで……」
「その企画書を面倒なことに龍鶴が見つけ出してきてな。それを企画として実現させたいそうだ。お前ら主導で」
「えっ……」
「お、俺らが、ですか!?」
「ああ。元から無茶やるやつだったが、趣味の分野で実権握ったからか本気で好き勝手やることにしたらしい。「拒否権はない、明日から子会社に行って企画を進めろ」、だそうだ」
「「……」」
次はお互い言葉も無くして黙り込む。多野なんて顔面蒼白に青ざめてる始末だ。野心家で自信家でどんな仕事にも前向きな多野も、流石にこれは手に余る案件なんだろう。まぁ当然か、俺だって突然のことに頭が真っ白になっている。俺が多野と組んで自分の企画を一から実現させる、なんて。どう考えても、1日で童貞100人喰いレベルの無理難題だ。
「え、あの、今の仕事は……?」
「新橋に一旦預からせて他に割り振って貰う。とりあえずデスクや荷物はそのままにしとくから、明日からは子会社のほう行ってくれ。なにかあったら浜松を使え。あいつも了承したからな」
呆然としつつも、辛うじてという雰囲気で尋ねる質問への返答は、納得の行くものだ。確かに浜松なら俺が関係してなくても二つ返事で首を縦に振るだろう。
「じゃあ、明日からよろしくな」
「「は、はい……」」
とにかくこっちに決定権は皆無だということだけを確認して、頭を下げて会議室を後にする。多野は部屋の前で立ち尽くしてまだ現実に戻ってこれていない様子だ。突然上からの指示で無茶振りされたことがショックなのか、突然の左遷じみた異動がショックなのか、その内容がアダルトなのがショックなのか、それとも全部込みで俺と組むのがショックなのか……まぁ恐らく全部だろうな。
「おい、大丈夫か?巻き込んだのは悪かったけどよ、これはもう事故みたいなもんだろ。とにかくやるしかねぇって」
「っ、わ……分かっています。上からの命令である以上断ることなんて出来ませんし。ええ。真野君とのやり取りを見られてさえいなければこんなことにはなっていなかったなんて、僕、全然思っていませんから……っ」
「いやいや、完全に俺のせいって思ってるだろ。基本ダダ漏れなんだよお前」
「う、うるさいです!だって真野君のせいでしょう!?」
「だからギャーギャー騒ぐなって。悪かったって言ってんだろ、どうどう」
「っ……」
明らかにテンパった様子の多野の肩を叩けば、そこでようやく我に返ったように大きく深呼吸をして、多野は不安そうに俺を見上げた。うっ。その顔もチンポにクるからやめろ……。
「あの。聞きたくないんですが……その。真野君が出したアダルトの企画って、一体どんな内容なんですか……?」
「……。「『どんな男もメス堕ち確実♡最強ドスケベ指導マニュアル!』の制作・販売」…………。」
「僕達に──ですか?」
とある日、何故か2人揃って部長に呼ばれた理由は、奇しくも新橋先輩の言葉を予言にするものだった。来たのだ。その、「案件」が。
「ああ。弍王頭グループあるだろ?大手の」
「はい。最近は後継ぎの息子がかなり活発に動いてるって話ですよね」
「その息子の龍鶴だよ。そいつが、お前らを気に入ってな」
「「……?」」
意味不明な理由に、俺達は顔を見合わせる。ビジネス関係の情報収集には余念のない多野はともかく、俺は「におうず」なんて名前もその息子の「たつる」ってのも全く以て存じない。つまりは面識も何もないわけで、それなのに俺達のなにを「気に入る」かって話なのだ。
流石に多野も見当がつかないのか、合わせた目線にどこか不安げな色を見せている。……いや待て多野、そんな顔すんなチンポにクる。
「アダルト系やってるウチの子会社あるだろ。赤字で手放す話出てたやつ」
「は!?タクタですか!?」
「ああ、それだ、タクタ。そこを弍王頭が買収してな。その龍鶴が経営を一手に引き受けるらしい」
「えっ、本当ですか?僕らとそう年齢変わりませんよね」
「えっ。そうなのか……」
「なんでも龍鶴は元々タクタが出してたアダルトモノのファンだったらしくてな。その関係でウチが手放そうとしてたのを買収って話になったらしい。で、その龍鶴が少し前、ここまで出向いてきたんだが……」
そこで、部長が俺に視線をやる。若干参ったような呆れたような表情だ。……おいおい、分かっちゃいたが部長まで俺を問題児扱いかよ。まぁデカいプレゼンでもやらかして強制退場させられたりしてるから、仕方ないと言えば仕方ないが……ここまであからさまだといよいよ凹むな。
「……そこでお前らがフロアで言い合ってるのをたまたま見かけたんだと。なんでもそれが……『良かった』、らしい」
「は?」
先んじて多野が疑問の声を上げる。出遅れたが俺も同じ気持ちだ。『良かった』?さっぱり意味が分からない。するとますます参ったように部長は眉間を押さえて、俺達を交互に指差していく。
「いや、俺も良く分からんが、とにかくお前らのやり取りが龍鶴の好みだったみたいだ。で、お前らに名指しで仕事を頼みたいと言ってきた」
「「え」」
今度は同時に声が揃う。流石に足並みが揃うほど、驚きが最初に来たようだ。つまりは有能と無能で組んでお偉いさんからの直々の仕事依頼を請け負え──ってことか。成程、部長が参ってたのは上からの無茶振りに対応しなくちゃならないのが原因か。おまけにウチでも大事な多野をそんな命令で持ってかれるのはキツいって話なんだろう。そこでようやく、俺もこの態度に合点がいった。
「真野、お前、前やった企画コンペでそのタクタ用の企画出してたろ。取り上げるにはセンシティブ過ぎて即お蔵になったやつ」
「ああ……いや、俺が自信持って出せるの、アダルトしかないと思ったもんで……」
「その企画書を面倒なことに龍鶴が見つけ出してきてな。それを企画として実現させたいそうだ。お前ら主導で」
「えっ……」
「お、俺らが、ですか!?」
「ああ。元から無茶やるやつだったが、趣味の分野で実権握ったからか本気で好き勝手やることにしたらしい。「拒否権はない、明日から子会社に行って企画を進めろ」、だそうだ」
「「……」」
次はお互い言葉も無くして黙り込む。多野なんて顔面蒼白に青ざめてる始末だ。野心家で自信家でどんな仕事にも前向きな多野も、流石にこれは手に余る案件なんだろう。まぁ当然か、俺だって突然のことに頭が真っ白になっている。俺が多野と組んで自分の企画を一から実現させる、なんて。どう考えても、1日で童貞100人喰いレベルの無理難題だ。
「え、あの、今の仕事は……?」
「新橋に一旦預からせて他に割り振って貰う。とりあえずデスクや荷物はそのままにしとくから、明日からは子会社のほう行ってくれ。なにかあったら浜松を使え。あいつも了承したからな」
呆然としつつも、辛うじてという雰囲気で尋ねる質問への返答は、納得の行くものだ。確かに浜松なら俺が関係してなくても二つ返事で首を縦に振るだろう。
「じゃあ、明日からよろしくな」
「「は、はい……」」
とにかくこっちに決定権は皆無だということだけを確認して、頭を下げて会議室を後にする。多野は部屋の前で立ち尽くしてまだ現実に戻ってこれていない様子だ。突然上からの指示で無茶振りされたことがショックなのか、突然の左遷じみた異動がショックなのか、その内容がアダルトなのがショックなのか、それとも全部込みで俺と組むのがショックなのか……まぁ恐らく全部だろうな。
「おい、大丈夫か?巻き込んだのは悪かったけどよ、これはもう事故みたいなもんだろ。とにかくやるしかねぇって」
「っ、わ……分かっています。上からの命令である以上断ることなんて出来ませんし。ええ。真野君とのやり取りを見られてさえいなければこんなことにはなっていなかったなんて、僕、全然思っていませんから……っ」
「いやいや、完全に俺のせいって思ってるだろ。基本ダダ漏れなんだよお前」
「う、うるさいです!だって真野君のせいでしょう!?」
「だからギャーギャー騒ぐなって。悪かったって言ってんだろ、どうどう」
「っ……」
明らかにテンパった様子の多野の肩を叩けば、そこでようやく我に返ったように大きく深呼吸をして、多野は不安そうに俺を見上げた。うっ。その顔もチンポにクるからやめろ……。
「あの。聞きたくないんですが……その。真野君が出したアダルトの企画って、一体どんな内容なんですか……?」
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