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〈椿木さんと結婚初夜〉

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「ふぅ……ッ。」
「お疲れ、景。疲れたっしょ」
「ドレスもヒールも男性はやっぱり慣れないもんね。お疲れさま」
「あ、いえ……っ。もう終わったので、問題ないですっ」

 場所を移動してようやく椅子に腰を下ろした俺は、式場のメイク室で藤原さんと深山さんに迎えられた。一足先にタキシードを脱いでくつろいでいる椿木さんの横でヘアメイクを深山さんに落として貰っていると、社長が部屋にやってくる。

「ふたりとも、大丈夫~?」
「あっ、はい!後はメイクを落とすだけです」
「そう、良かった!あきらくんもありがとう。最後まで付き合って貰っちゃって」
「ううん、ほのかちゃんの頼みだし。それに新しい試みで、ドレスのデザインも作るのも楽しかったよ♡」
「とか言っちゃって、ホントは自分で着るの想像してたんじゃない?あきらくん、スケベだもんねぇ♡」
「え!?♡も、もぉッ♡やめてよ、ほのかちゃん……ッ♡」
「いや~、相変わらず仲良しっすねぇ。元夫婦とは思えねぇ会話っぷり」
「今は親友だもん♡ね~、あきらくん♡」
「うん♡なんでも相談できる、いいお友達だよ♡」

 親しげに微笑み合う社長と藤原さんを見て、はあぁ、と呆れた息をつく深山さん。
 そう……この二人……実は元ご夫婦。学生時代に結婚してからあきらさんのゲイが発覚して、すぐ別れちゃったという中々すごい経歴を持っている。でも見ての通り今は公私共に親しい友人として接しているみたいだ。椿木さんも、その光景を見ながらけらけらと笑う。

「仲良きことは美しき哉♡いやぁ、でも予行演習って言っても案外気ィ張っちゃうもんねぇ」
「そうよねぇ。衣装も現場も本物だから、やっぱり緊張するわよね。チェック、ちょっと厳しかったかしら?」
「いやいや、新しい試みだし念押しするに越したことはないでしょ。エンキンさんや一場さんのほうは、大丈夫?」
「ええ。一場さん達にはご挨拶をして今日は先にお帰りいただいたわ。今度お会いする時に改めてお話やご意見を伺うつもり。エンキンさんとはこの後会社に戻って、もう少し詰めた打ち合わせをする予定よ」
「あら、そうなの?元気ねぇ……俺達も同席する?」
「ううん!二人の意見も貴重だけど……これ以上無理させたくないし、大丈夫。特に景くん、疲れちゃったでしょう?」
「えっ?あっ、いや……ッ。緊張はしていたんですけど、なんだかあっという間で……」
「そう?でも明日は午後出勤でいいからね。なんだったらお休みにもできるけど、どうする?」
「あっ、そ、そんな。今日一日予行演習をしたのは、他の皆さんも同じですし……」
「え~。別に甘えちゃってもいいんじゃない?景ちゃん、頑張ってたしさ」
「つ、椿木さん……ッ♡」
「ついでにおじちゃんも疲れちゃったしお休みにしたいな~♡どうかな社長~♡」
「もう、保くんったら。半休扱いでもいいなら、別にいいわよ?」
「おっほんと?それならせっかくお休み一緒だし、一緒にどっかいこっか、景ちゃん♡」
「へっ!?♡」
「もぉ、おっさん凝りないね~。いい加減ガチで嫌われるよ?」

 調子のいい椿木さんに、やっぱり俺の肩を持ってくれる深山さん。でも、今はどうしても椿木さんを無碍にはできなくて、俺は俯いてちいさく、満更でもない返事をしてしまう。

「ッ。つ、椿木さんが、いいなら……ッ♡」
「えっ。……えッ!?」
「──あらあら♡じゃあ明日は二人ともお休みにしておくわね♡あきらくんと三幸くんはお衣装の管理があるから、申し訳ないけど会社まで付き合ってちょうだい。ふたりはこのまま現地解散で大丈夫。お片付けが終わったら上がりでいいから。よろしくね~♡」

 ……と、そんなやり取りをして、ようやくいつもの服装に戻って。明らかに怪しむ顔をしている深山さんとニコニコしている藤原さんにお礼を言って、会社に戻る皆を見送って──椿木さんとふたり、俺は式場に残される。

「……さてと。」
「ひゃっ♡」

 すると、それを待っていたように、椿木さんからそっと、腰を引き寄せられる。でも、やっぱりいつもの悪態は出てこない。抵抗も、できない。柔らかい手付きは結婚式での椿木さんのエスコート、そしてキスを思い起こさせて、どきどきと心臓が高鳴ってしまう。
 そんな俺を、知ってか知らずか──どこかいたずらに跳ねた声で、椿木さんは俺の耳元へ、囁いた。

「それじゃ、結婚式も終わったし──おじちゃん達も初夜、しましょっか♡」

〈椿木さんと自分自身〉
「行くよ~ん♡」
「あ、ここ……」
「ここなら入りやすいでしょ~?休憩がてら、ね♡」

 その足で連れて行かれたのは、近くにある──ラブホテル。
 でもラブホテルと言っても、えっち以外のお泊りパーティーなんかでもよく使われている、今どきのおしゃれでカジュアルなホテルだ。中は夕方前なのに人でいっぱいで、友達同士、って雰囲気のグループもたくさん居る。椿木さんは俺を連れると、すぐに受付をしてルームキーを受け取った。普通のビジネスホテルとなにも変わらない……むしろいろんな目的の人が居る分、俺達の存在もなにも特別じゃなく見せてくれるように思える場所に、おとなしく椿木さんの後を追って部屋に入る。

「座って~。お腹空いてない?なんかご飯食べよっか?」
「あ……は、はい。って。そ、その。しょ、初夜……っ。す、する、ことっ……。しないん、ですか?」
「ま、それは追々ね♡何事もまずは落ち着かないと。ええっと。注文って電話するんだっけ?」
「あ。えっと。タブレットがあるから、たぶん、ここから……」
「おおっ、景ちゃんすごい、流石ぁ♡どれどれ?♡なに食べよっかな~♡」
「……。」

 ソファに座って、俺が手に取ったタブレットを楽しそうに覗き込む椿木さん。また、気遣われてるのかな。ここを選んだのもそうだし……ホテルをすぐに取ったのも、俺とえっちをするのが一番の目的なんじゃなく、俺を休ませたかったの、かも。

「ごちそうさま~。や、美味しかったねぇ♡」
「はい。こういう所の食事って、結構、美味しいんですね」
「ね~。おじちゃんあんまりこういう所来ないからビックリしちゃった」

 頼んだ食事はすぐに運ばれてきて、届くなりふたりであっという間に平らげてしまった。気が付かなかったけど、やっぱりお腹も空いていたみたいだ。満腹になったのもあって、少しだけ眠気が襲ってくるけど……一緒に手を合わせて笑う椿木さんの言葉の意外さに、その眠気も思わず醒めてしまった。椿木さんはスケベおじさんなだけあって、普通にこういう場所も慣れていると思っていたからだ。ここに来た時も、受付をした時も、すごく……堂々としていてスマート、だったし。

「あ……っ。そうなんですね。椿木さんは、ラブホテル……よく行ってるのかなって思ってました」
「え~、そぉ?♡おじちゃん確かにスケベだけど、実はあんまり遊んだりしないのよ?」
「えっ。そう、なんですか?」
「そうそう♡俺はね、こう見えても……ちゃんと好きな子としか、えっちなことしたいって思わないんだよ。」
「っ。ぁ、わッ♡」

 そこで、また腰を引き寄せられる。くっ、と縮まる距離に、椿木さんの顔が近づいてくる。その表情はチャペルで見たものと同じ。とても、とても……真剣なもの。俺が惚けるほど格好いいと思った、そんな、椿木さんの、姿。

「……だから、俺は……景くんのこと。ちゃんと、本気で。──好きなんだよ?」
「ッぁ。つ、椿木、さん……ッ♡」

 真正面の告白に、ひゅ、と息が詰まる。
 スケベも誤魔化しもなにもない素面の告白は、きっと、いま、だからこそ。えっちをするから。セックスを、するから。約束を経て、一線を、超えるから……。きっと椿木さんは、俺に誠意を見せてくれているんだろう。ちゃんと俺に気持ちを伝えてからセックスをしようっていう、そういう、椿木さんなりの覚悟を差し出してくれているんだろう。
 さっきと、同じだ。
 椿木さんは、自分の欲望に対してとても慎重だ。俺をひとりの人間として尊重して、したいことを俺にきちんと尋ねて、俺の意思を聞いてから、先に進もうとしてくれる。そうだ。ずっと椿木さんは……そうだった。
 生意気で勘違いばかりの子供の俺に、最初からずっと大人のまま、優しく根気よく、しっかりと向き合って、そして眼差しながら接してくれた。ずっとずっとそうだった。俺はずっと、椿木さんに許されて、甘やかされて、大切に──選ばれて、きた。
 全身がずくずくと熱を帯びる。少しだけ低く落ち着いた声色が、表情以上に本気で椿木さんが俺に対峙しているんだと実感させる。それが、その実感が、俺に俺を刻みつける。兄さんだけを追っていた、ただそれだけで良かった俺自身を、俺に容赦なく突きつける。どくん、どくん、と鳴る鼓動。火照りと、興奮と、戸惑いと、躊躇。いろんな感覚が綯い交ぜになって、俺の中でかき混ざる。どれが本当なのかわからない。どれが本物なのかわからない。でも。うそは。つきたく、ない。だから俺は不完全で未完成で、子供のままの俺自身を、いま。不器用に差し出すしか、なかった。

「お、俺……♡俺……ッ。俺は……っ。まだ、うまく、わかんないん、です……ッ♡」
「……ん?……わかんない?」
「は、はい……ッ。椿木さん、俺が思ってたよりずっと優しくて、大人で……っ。めちゃくちゃす、スケベ、だけど……ッ。でもこんな子供の俺を、ずっと受け入れてくれて……っ。椿木さんなら……椿木さんみたいな人なら……兄さんもきっと好きになるだろうって、俺もいつの間にか納得、しちゃって……ッ♡」
「景ちゃん……」
「だから最初に言った、俺で手を打てっていうのは、もう関係、なくて……っ。だけど俺自身は、まだ椿木さんのこと、ちゃんと好きなのか……。わから、ないんです……っ。」

 素敵な人だと、おもう。
 俺が思い込んでいた失礼な第一印象よりずっと、ずっと椿木さんはいい人で、優しい人で。「俺」を、いつも見ていてくれた人だった。ちゃんと「俺」を、掬っていてくれた人だった。はじめてだった。そんなひと。他に、居なかった。
 だから。正直。惹かれているんだと──思う。すきなんだと、おもう。だけど、本音は、まだ怖い。椿木さんを……いや、兄さん以外の人を、好きだって認めてしまうのが、こわい。今までずっと兄さんだけを追ってきて、それだけで良い人生だった。兄さんのそばに居れば、それだけで満足で、完成していた人生だった。なにも見なくていい。なにも考えないでいい。自分自身にすら、向き合わなくていい──。そんな楽さを、俺は選び続けてきた。
 だから今、椿木さんという他者を認めてしまったら、それが全部ひっくり返ってしまいそうな気がして。自分の醜さも、嫌な部分も、すべて噴き出してしまいそうな気がして。それが、たまらなく怖いんだ。

「俺、兄さんが好きでした。あこがれ、でした。ずっとずっとそうで、それだけでよかった。だって俺をちゃんと見てくれるのは、兄さんだけだって思ってたから……っ」
「うん……うん。」
「でも、椿木さんは、違くて……っ。ずっと俺のことを、好きだって、可愛いって、そう言ってくれてて……ッ。俺ももうそれをわかってるのに、嘘じゃないってわかってるのに、椿木さんを好きだって認めたら、俺は今までの俺じゃなくなるんじゃないかって思って、怖くて。俺の嫌いな俺が出てきて、めちゃくちゃになるんじゃないかって思って、怖くて……ッ。」
「景ちゃん……」

 俺を見て、椿木さんは悲しそうな、切なそうな顔をする。ああ、やっぱり、傷つけてしまっただろうか。そうだ。こんな自分勝手でワガママなことを言われたら、誰だって傷つくし、嫌になるに決まっている。でも、それを覚悟で、俺はうそを言わないって決めた。ちゃんと自分の心を伝えようって決めた。それなら、全部、伝えないと。俺がまだ、思ってることを。ちゃんと。

「……でも、だけど、椿木さんが嫌なわけじゃないんです。嫌いなわけじゃ、ないんです。椿木さんに触られることも、えっちなことをするのも、嫌じゃ、なくて……っ。むしろもっと、もっとしたくなってて……っ。俺、椿木さんと、離れたく、ないんです……っ!」

 そう。それは、ほんと。それだけは、ほんと。怖くて。怖くて。怖いけど。でも、椿木さんと、一緒に居たい。許されるなら。可能なら。椿木さんと、離れたくない。
 だから。俺。俺……っ。

「だから俺が、ちゃんと椿木さんを好きだって思えるまで……っ。その、覚悟が、できるまで……っ。俺の、そばで……っ。待っていて、貰えませんか……っ?」

 ぎゅ、と自分の手を握り締める。
 自分で言っていて、なんて都合がいいんだろうと思う。今までも好き勝手失礼に振る舞ってきたのに、こんな時になっても優柔不断で。弱いままで。情けなくて。卑怯で。恥ずかしい。恥ずかしくて、たまらない。でもこんな俺が、今のほんとうの俺だから。それを隠してまで、椿木さんと一緒に居たいと思う資格なんてないと思ったから。それを伝えなきゃ、椿木さんから本当に「選んで貰う」資格なんてないと思ったから。

「こんな返事じゃ、だめだってわかってます。ずるいって、わかってます。でも、これが今の俺の、本当の気持ちなんです。だ、だから。だから……ッ。」

 だから、俺は、まっすぐに椿木さんを見る。こんな俺を、見て貰うために。こんな俺を知って貰うために。こんな俺でいいのかを、ちゃんと、椿木さんに、見て貰って、選んで貰うために。

「もしも、それを、受け入れて、くれるなら。ゆ。ゆっくりで、いいならっ。そんな俺でも、椿木さんが、いいって、思ってくれるなら……ッ。」

 声が震える。身体が熱い。感情がせり上がって、泣きそうだ。
 でも。だけど。
 俺は。いま。ほんとうに。
 やっと。うまれて、はじめて。
 世界でたったひとりの椿木保さんに。
 向き合っているんだと……そう、思った。

「俺が、椿木さんを、好きになるまで。一緒に、待っていて、くれますか……っ?」

 振り絞るように、堪えきれずに少しだけ滲んでしまった視界で伝えると、俺をただ黙って見つめていた椿木さんは、そっと笑った。いつものように、俺を見守るように、笑った。でもいつもとは違う、深く揺らめいた瞳が、俺を見ていた。それはどこか俺と同じように、潤んでいるように、思えた。

「景ちゃん……ありがとう。自分の気持ち……ちゃんと、俺に、伝えてくれて。」
「あ……。ぁ……っ」

 椿木さんは俺の頬に触れる。そっと、俺を確かめるように、撫でる。かさついた指先が柔らかく肌に触れて、そこからぞくぞくと悪寒が走る。それはただ触れられた悦びじゃない。椿木さんが俺に歩み寄ってくれた喜び。椿木さんが俺を受け入れてくれた──歓び。
 ありがとう。
 短い感謝が、全身に染み渡って。俺の中の椿木さんの存在を、確かなものへ変えてゆく。

「ゆっくりで、いいよ。大丈夫。俺のことが、嫌いじゃないなら……。ゆっくりでいいから、景ちゃんが自分でちゃんと納得できるまで、俺は、待つよ。だっておじちゃん、適当で、おちゃらけさんだもの。だから待つのなんて、なーんにも、苦じゃないよ♡」
「あ……♡椿木さん……ッ♡椿木、しゃ……ッ♡」

 淀みなく。そしてどうしようもなく椿木さんらしく伝えられる、俺への肯定。俺への包容。
 それは俺を暖かく包み込んで、このうえない安堵へと手招く。恐れて、竦んでいた身体がほどけて、椿木さんへと、向かわせる。

「だから……それでも、いい?そんな俺でも……答えでも……いいのかな……?」
「っ……♡♡♡」

 そしてそんな俺を見て、さっきとは正反対に幽かな怖れを滲ませる姿に、きゅうんと胸が締めつけられる。ずっと大人で、優しくて、俺を許し続けてくれていた椿木さん。そんな椿木さんが、俺に、俺と同じような弱々しさを見せてくれたことに、たまらなくなってしまう。椿木さんも俺と同じ人間で。俺と同じように、弱さや恐れを抱えている。それをこの表情だけでつよく感じて、とても切なくなってしまう。ああ。俺。ほんとうに。椿木さんのこと。なにも……わかってなかったんだ。
 
「いい、ですっ。嬉しい、ですっ。ありがとう、ございますっ。ありがとう、ございます……っ!」
「うん、うん。俺も、やっと景ちゃんの気持ちが聞けて嬉しかった。景ちゃんが俺のこと考えてくれてて……すごく、嬉しかった……」
「椿木、さん……」

 俺を見て、震える声。俺と同じように少しだけ揺らめく瞳の色彩に、もう、この人に我慢をさせたくないと俺は思う。俺自身も、そうだけど。でも、それよりも……俺のために、俺を想って、ずっと俺を優先し続けてくれていた椿木さんを。もう、好きに……させてあげたかった。
 
「っ……♡じゃあ……っ。し、しましょう?しょ、初夜……っ。え、えっち……っ。いい、ですよね?」

 だから、俺は、自分から「それ」をお願いする。今まで一度も自分から誘ったことのなかった誘いで。俺なりの覚悟を、椿木さんへ、指し示す。それは俺の中で当然の選択だったけど、俺の言葉に心底驚いたように椿木さんは目を開く。今までで一番狼狽えているように見える。まさか俺がそんなことを言うなんて……思ってなかったの、かな?

「ッ。い、いい……の?疲れて、ない?俺、景ちゃんに、無理はさせたくないから……嫌なら今日じゃなくても、いいんだよ?」
「大丈夫、です。俺……っ、したい、です。ちゃんと椿木さんとえっち、したい……ッ♡だって、今日までずっとそれ想像、して……ッ♡椿木さんとのえっちも、ちんちんも想像、して……ッ♡一人でアナニー、してたから……ッ♡」

 でも、俺だって、なにもしてなかったわけじゃない。むしろ毎回椿木さんに煽られて、椿木さんが言っていた通り、家でイきっぱなしになるくらい椿木さんをオカズにしてアナニーに耽っていた。うそを言いたくない。こ、こんなことまで言う必要はなかったかもしれないけど……ッ♡だけど今更引き下がれなくて最後まで言ってしまえば、ぶわりと椿木さんの顔が耳まで赤くなった。

「ッ……!♡け、景ッ、ちゃん……ッ♡♡♡ほ、ホントに……ッ?♡ホントに、俺で、シてたの……ッ?♡」
「シ、シてましたッ……♡毎日椿木さんの指の動き思い出して、お尻ほじってました……ッ♡だ、だから♡だから……ッ♡いいんです。椿木さん……えっち……♡俺と初夜のえっち、してください……ッ♡」

 椿木さんの手をとって、きゅっと握る。その手は驚くほど熱くて、汗で湿っている。椿木さんも興奮、してる?俺で興奮、してくれてる?わからないけれど、そうだといいと思って指を絡める。好きになりたい。このひとを、ちゃんと、好きだって思いたい。そんな想いを籠めて、力を籠める。
 するとそんな俺を見て──堪えきれなくなったように、椿木さんは俺をきつく、抱き締める。

「け、景ちゃんッ!♡」
「ぁ、ひゃわッ!?♡」
「じゃあ、するからねッ!♡セックス……ッ♡初夜の、セックス……ッ!♡景ちゃんのこと、たくさん気持ちよくして……ッ♡俺……ッ。景ちゃんが、俺のことを好きだってちゃんと思って貰えるように、頑張る、から……ッ!♡」

 さっきまでの態度から一変、語気も強く発する言葉は、今までにはない迫力がある。それはきっと、これまで椿木さんが見せてこなかった別の側面。雄々しくて。生々しくて。俺に本気で欲情して、想って、くれてる。男の、オスの、椿木さん……ッ!♡♡♡

「うぁ♡ふぁッ♡ぁ♡ぁあ……ッ♡♡♡」

 そんな椿木さんから強い力で包まれて、椿木さんだけの匂いでいっぱいにされて、俺はクラクラしてしまう。今日一日だけであふれて溺れてしまうくらい色々な椿木さんを浴びたのに、トドメに、この一撃。正直、本気でやられてしまった。
 俺は腰砕けになってはふはふと呼吸を逃しながら、これから訪れる時間に、期待を隠しきれない蕩けた声の返事をするしかなかった。

「は、はひ……ッ♡椿木、しゃ♡して、くだひゃい♡してぇ……ッ♡♡♡」
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