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〈椿木さんと清兄さん〉
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「──景!」
「あ……ッ。に、兄さん」
「おおっ、清ちゃん、お疲れ様~。社長は?」
「今、一場様達の対応してます。いやぁ、本当……っ。本当っ、ふたりとも素敵でした!」
挙式の後の披露宴予行演習もなんとか終わって(こっちは初夜のお披露目、という新郎新婦様の実演エッチがメインで後はお客様に合わせて細かいプランを作る形だから、挙式ほどチェックの時間は掛からなかった。だけど椿木さんからいっぱい紳士に気遣われて、ふわふわぽわぽわがとまんなかった……ッ♡)……。披露宴の会場で社長を待っていると、兄さんが駆け寄ってくる。隣には浅水さんも一緒だ。スタッフ兼参列者として今日一日俺達を見守っていた兄さんは、はち切れるような笑顔を作る。
「髪型だけは写真で見てたけど、景が本当に綺麗で、素敵で……!セクシーなドレスなのに、ちゃんと花嫁らしい清楚さや可憐さもあって……俺、本当、すっごく感激しちゃったよ!後で深山さんと藤原さんにお礼を言わなきゃなっ!!」
「そ、そんな。大げさだよ、兄さん。恥ずかしいよ……っ♡」
「恥ずかしくなんかないだろ、俺の弟をこんなに素敵にしてくれたのに!景がこんな綺麗なんだって今更気づいて、俺が恥ずかしいくらいだよ。浅水さん、後で俺にも今日の写真くださいね!」
「あはは、OK。まさか兄弟揃って同じセリフを言われるとはなぁ」
息巻いた兄さんの態度を見て可笑しげに笑う浅水さんに、なんだか気恥ずかしさでいっぱいになる。前は兄さんに褒められて嬉しくてたまらなかったけど、俺のことで兄さんがはしゃいでいるのが、今はとても居た堪れなく感じてしまう。もちろん兄さんが俺の着飾った姿でこんなに喜んでくれた嬉しさも感動もあるけど、以前とは少しだけ、心持ちが違う。どうして、だろう?
「でも本当に綺麗だよ、景くん。それに椿木さんも最高でした。ダンディで大人の色気たっぷりで──やっぱり正装すると見違えますね!」
「ちょいちょい、見違えるってなによぉ、旭日ちゃん。それじゃ普段俺がダメなおじさんみたいじゃない」
「ええ?椿木さん、現場以外は普通にダメなおじさんでしょ?」
「ちょっと~!」
「ふふっ。でも、椿木さんもいつもの何倍増しでとっても格好良かったです。惚れ惚れしちゃいましたよ。素敵でした……♡」
「ええ~?そぉ?あはぁ、清ちゃんに褒められるのうれし~♡」
「……。」
それに、こうして……。
兄さんが頬を染めて椿木さんを褒めていても、いつもの苛立ちや対抗心が産まれてこない。普段だったら、どうして椿木さんなんかにそんな態度を取るんだって目くじらを立てちゃう場面なのに……むしろ、本当にそうだよなって、兄さんの意見に同意してしまうくらいだ。
「景もそう思うだろ?素敵だったよな、椿木さん」
「え。あ……ッ♡」
そんな俺の心を見透かすように、無邪気に、まっすぐに、兄さんは俺に尋ねてくる。どう思うか。すてき、だったか。兄さんからの問い掛けが驚くほどストンと胸に落ちて、それは心の中できれいな波紋を描いてゆく。嘘も偽りも驕りも嘲りもなく。ただ素直な本心が、心から喉へと、濾過される。
「う、うん。かっこ……よかった。すごく……素敵、だった……♡」
「け、景ちゃん……」
俺の言葉に、椿木さんが目を開く。
でも兄さんも浅水さんも、俺のことも椿木さんのことも、茶化したり笑ったりしなかった。ただ穏やかに俺達を見つめて、まるで俺達を見守るように……優しく笑みを、浮かべてくれていた。
「あ……ッ。に、兄さん」
「おおっ、清ちゃん、お疲れ様~。社長は?」
「今、一場様達の対応してます。いやぁ、本当……っ。本当っ、ふたりとも素敵でした!」
挙式の後の披露宴予行演習もなんとか終わって(こっちは初夜のお披露目、という新郎新婦様の実演エッチがメインで後はお客様に合わせて細かいプランを作る形だから、挙式ほどチェックの時間は掛からなかった。だけど椿木さんからいっぱい紳士に気遣われて、ふわふわぽわぽわがとまんなかった……ッ♡)……。披露宴の会場で社長を待っていると、兄さんが駆け寄ってくる。隣には浅水さんも一緒だ。スタッフ兼参列者として今日一日俺達を見守っていた兄さんは、はち切れるような笑顔を作る。
「髪型だけは写真で見てたけど、景が本当に綺麗で、素敵で……!セクシーなドレスなのに、ちゃんと花嫁らしい清楚さや可憐さもあって……俺、本当、すっごく感激しちゃったよ!後で深山さんと藤原さんにお礼を言わなきゃなっ!!」
「そ、そんな。大げさだよ、兄さん。恥ずかしいよ……っ♡」
「恥ずかしくなんかないだろ、俺の弟をこんなに素敵にしてくれたのに!景がこんな綺麗なんだって今更気づいて、俺が恥ずかしいくらいだよ。浅水さん、後で俺にも今日の写真くださいね!」
「あはは、OK。まさか兄弟揃って同じセリフを言われるとはなぁ」
息巻いた兄さんの態度を見て可笑しげに笑う浅水さんに、なんだか気恥ずかしさでいっぱいになる。前は兄さんに褒められて嬉しくてたまらなかったけど、俺のことで兄さんがはしゃいでいるのが、今はとても居た堪れなく感じてしまう。もちろん兄さんが俺の着飾った姿でこんなに喜んでくれた嬉しさも感動もあるけど、以前とは少しだけ、心持ちが違う。どうして、だろう?
「でも本当に綺麗だよ、景くん。それに椿木さんも最高でした。ダンディで大人の色気たっぷりで──やっぱり正装すると見違えますね!」
「ちょいちょい、見違えるってなによぉ、旭日ちゃん。それじゃ普段俺がダメなおじさんみたいじゃない」
「ええ?椿木さん、現場以外は普通にダメなおじさんでしょ?」
「ちょっと~!」
「ふふっ。でも、椿木さんもいつもの何倍増しでとっても格好良かったです。惚れ惚れしちゃいましたよ。素敵でした……♡」
「ええ~?そぉ?あはぁ、清ちゃんに褒められるのうれし~♡」
「……。」
それに、こうして……。
兄さんが頬を染めて椿木さんを褒めていても、いつもの苛立ちや対抗心が産まれてこない。普段だったら、どうして椿木さんなんかにそんな態度を取るんだって目くじらを立てちゃう場面なのに……むしろ、本当にそうだよなって、兄さんの意見に同意してしまうくらいだ。
「景もそう思うだろ?素敵だったよな、椿木さん」
「え。あ……ッ♡」
そんな俺の心を見透かすように、無邪気に、まっすぐに、兄さんは俺に尋ねてくる。どう思うか。すてき、だったか。兄さんからの問い掛けが驚くほどストンと胸に落ちて、それは心の中できれいな波紋を描いてゆく。嘘も偽りも驕りも嘲りもなく。ただ素直な本心が、心から喉へと、濾過される。
「う、うん。かっこ……よかった。すごく……素敵、だった……♡」
「け、景ちゃん……」
俺の言葉に、椿木さんが目を開く。
でも兄さんも浅水さんも、俺のことも椿木さんのことも、茶化したり笑ったりしなかった。ただ穏やかに俺達を見つめて、まるで俺達を見守るように……優しく笑みを、浮かべてくれていた。
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